この素晴らしいオラリオに祝福を!   作:金木桂

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4話 この新米冒険者に知識を!

 

 やっとの思いで恩恵を刻んだ俺は一頻りアクアとジャンケンで雌雄を決し終えると、早速ダンジョンに潜るべくギルドへ向かっていた。

 

「あの時チョキを出していれば……!何で私はグーを出したのかしら……!」

 

 何故かアクアも着いてきた。

 曰く、厩舎は臭いから寝るとき以外はいたくないらしい。じゃあ何で住んでんだよって話なんだが。

 

「あのな、今から俺はダンジョン潜るの。だから着いてくんな」

「えー。でも暇だし良いでしょ」

「言っておくが着いてきても暇だからな」

 

 相変わらず読めないギルドの看板をスルーして中へと中へと入る。

 まだ朝だからか、ギルドはかなりの賑わいを見せていた。全員冒険者だろう、どの冒険者を見ても変な石みたいのを受付で取引している。

 

「またお会いしましたね?」

「あ、昨日の受付嬢さん」

 

 俺は思わず背筋が伸びる。

 と言うのもその受付嬢はミルクを幾分か混ぜた珈琲みたいな長い茶色の髪をヘアゴムかなんかで一つに縛って、キリッとした向けられるだけで体温が一度は下がってしまいそうな視線を俺へと投げかけているのだ。

 見た目だけ言えばキレイ系の美人というか、触れたら毒がありそうな薔薇みたいな受付嬢だ。

 

「昨日は地図、ありがとうございます」

「いえ。その様子を見るにファミリアには入れた……ようですね」

 

 受付嬢は後ろで物珍しげに辺りを眺めるアクアを見た瞬間言葉に詰まった。

 ヒョイヒョイ、と手招きされたので微かにどぎまぎしながら近寄る。

 

「……本当にそのファミリアに入るんですか?」

「入るっていうか、もう入っちゃってるんですけど」

「……頑張ってください」

 

 ポンッ、と受付嬢は俺の肩に手を置いた。

 アクアがヤバい女神であることは知っている。けど受付嬢のこの反応、まだ俺に隠している事がありそうな気がする。よし、後で問い詰めるか。

 

「今回担当させていただきますミレー・ウルクロッドルと申します。本日はギルドへの登録と言うことでよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「ではまず、この紙に必要事項を記入して下さい」

 

 スッと一枚の紙が出される。

 当然俺には何一つ読めない。線が折り重なって図形にしか見えないくらいだ。

 

「おーいアクアー!これ代筆頼めるか?」

「は?自分でやりなさいよ。あっちから来たんだから文字くらい書けるでしょう?」

「書けたら自分でやってるから」

「転生してきたんでしょ?特典無かったの?」

「会話は出来るが読み書きは出来ないぞ」

「え。何でよ?」

「知らんがな。とにかく頼むぞアクア」

 

 全くカズマは仕方ないわねぇ、とアクアは保護者面しながらスラスラと埋めていく。

 やはり文字が分からないというのは生活において不便だ。早いとこどうにか習得しよう。

 独学か、ミラーさんに頼るか……。

 まあアクアを頼るのは無しだな。

 

「これでいいんでしょ?」

「はい、神アクアありがとうございます」

「はぁ〜、違うわ。私は寛大だから許すけど、神じゃなくて女神アクアよ?そこんとこ間違えられたら困るわ〜」

 

 心底ウザい表情でアクアは言った。

 何言ってんだコイツ。

 神も女神もこのオラリオじゃ意味そう変わんねえだろ。

 それに気付けよ。今ミレーさん、一瞬だったけど超面倒くさそうなしかめっ面になってたからな?マジでお前いい加減にしろ?

 

 フラットな表情を取り戻したミレーさんは淡々とした口調で告げた。

 

「……神アクアありがとうございます。サトウカズマさんですね、それではこれから冒険者初心者講習を行おうと思いますので着いてきてください」

「…………えっ。 子供の癖に無視!? ねえ! ねえったら!!カズマ、あんた私の眷属よね?あの厚顔無恥な受付嬢に何か言ってやってよ!」

「分かりました。何か冒険者の第一歩をからやっと踏み出せたみたいでワクワクしますね」

「ふふっ。まだ入り口にすら立ってないですよ」

「何二人でいい感じになっちゃってんのよ!?え、本当に無視する気なの?暇なんですけどー」

「神アクア、申し訳ございませんが初心者講習は時間が掛かるのでお帰り下さい」

「……私、ここにいるわ」

「え?」

 

 はあ?

 アクアはへそを曲げたように頬を膨らませて、その場に座り込むと、

 

「……終わるまで待つ」

「あの、時間が掛かりますので本当に」

「待つ」

「おいアクア、こんなとこにいても」

「待つ」

 

 駄目だ、待つ待つマシーンとなってしまったアクアに言葉は通じない。

 

「……では、あちらにある椅子でお待ちください」

 

 微妙に涙ぐみながら体育座りをしているアクアに、少し悪いことをした気分になる。

 つっても俺何もしてない気がする。してないよな?

 駄々っ子を見る親はきっとこんな気分なんだろう。

 そう、滅茶苦茶、面倒くさい。

 

「…………グスン」

 

 アクアは無言で椅子の方へと歩いていった。

 

 微妙な空気になりつつも、俺は「ではこちらです」と歩き始めたミレーさんの後を歩く。

 奥へと入り、長く伸びた廊下を進んだ途中のドアで止まると、その部屋に入った。

 

「どうぞ、お掛けください」

「あ、ありがとうございます」

 

 そこはさながら刑事ドラマに出てくる取調室みたいにこじんまりとしていた。

 座り心地の良いとは言えない、硬いイスに座る。

 いざこう、小さな部屋に美人と二人きりとなると、滅茶苦茶緊張するな。

 なるたけ顔に出さないようにしないと。

 

「早速ですがカズマさん、ダンジョンについてはどのくらいの知識がありますか?」

「この街の中心にあるってことくらいですね」

「なるほど。では最初からお話する必要がありますね」

 

 確認するように頷いて、ミレーさんは話を始めた。

 

 ───このオラリオにあるダンジョンは地下深くに広大に広がっていて、その壁からはモンスターを生み出す。

 ポップするモンスターは階層ごとに決まっていて、一階層ならばゴブリンやコボルトと言った駆け出し冒険者でも倒せるようなモンスターしか沸かない。逆に奥に行けば行くほど強いモンスターが出てくるそうだ。

 そして一番重要なのがモンスターを倒すことで得られる魔石だ。

 先程ギルド内で冒険者が受付で取り出していたのもこれで、この魔石を換金することで冒険者は基本的にお金を得ているらしい。それにプラスして希少モンスターや強いモンスターの素材も売ったりするらしいが、駆け出し冒険者は基本魔石を売って生計を立てているらしい。

 またモンスターを倒すことで冒険者は経験値を貯めてレベルアップすることが可能だ。近所の子どもをボッコボコに叩きのめして優越感を得てたRPGゲー厶を思い出すが、現実はゲームみたいに容易じゃなかった。

 そのレベルアップというのは基本的に早くても一年、普通は二年以上掛かるらしくかなり忍耐強くやっていかないと上がらないそうだ。何でもオラリオ最強の冒険者でもまだレベルは6とか、シビア過ぎる。

 

「───と、大まかにはこんな感じになります。ここから先の講義では更に階層ごとの解説になるので、一旦質問とかあればここで聞いてください」

 

 気付けば体感でニ時間ほど過ぎていた。

 それだけ過ごしていれば密室で二人きり。何も無いはずがなく、な状況でも鋼の精神で煩悩を追い出し知識のインプットのみに集中することに成功していた。

 

「じゃあ1つ。ダンジョンって最深部には何があるんですか?」

「分かりません。戦力最大規模のファミリアなどが調査していますが、予想では開拓された階層は全体からすれば全然であるという見解もギルドでは流れています」

 

 それはこの世界に来る前、エリスが俺に言っていた事と同じだった。

 

「その、最前線のファミリアの冒険者のレベルってどのくらいだったりします?」

「未開拓の階層への遠征へ参加しているメンバーは最低でもレベル3です」

 

 れ、レベル3……。

 レベルを1つ上げるのに年単位で時間が掛かるらしいのに、況してやレベル3……。

 エリスからの依頼をこなせるようになるのはいつになることやら。

 思わず言葉に詰まっていると、ミレーさんは口を開いた。

 

「"冒険者は冒険をしてはいけない"、この言葉はご存知ですか?」

「いえ、知らないです」

「冒険者というのは危険な職業です。重症で担ぎ込まれる人、行方不明になる人、亡くなる人。そういった人たちが毎日出てきます。確かに冒険者という職業上避けられないのがモンスターとの戦闘です。しかし、避けられるリスクは避けるべきです。カズマさん、覚えておいてください。無茶な冒険を繰り返す冒険者は確実に取り返しの付かない事態に見舞われます。当然のことですが、人は冒険を何回もやる内にリスクに対する感覚が鈍くなります。ゆめゆめ、忘れること無いよう」

「は、はい」

 

 死亡リスク、とか言われると俺も心構えをせざるを得ない。

 日本で創作された異世界ファンタジーの冒険者はどこまで行っても小綺麗で絢爛なイメージと結び付いて切り取れなかったけど、現実は違う。言うなれば独立傭兵のようなものだ。死んだって本人の責任だし、そのリスクはダンジョンに潜る以上日々付き纏う。

 いつ死んだり四肢損傷してもおかしくない職業、それが冒険者なのだ。

 

「それとあともう1つ。俺いつからダンジョンに潜れますか?」

「少なくとも今日は無理ですね」

 

 ……えっ。

 今日は無理なの?

 

「さて。ここまで修了したところで、ここからが本番になります。受け答えを見る限りカズマさんは知性や教養はあるにも関わらずオラリオでの一般知識が大きく欠如していようですので、そこを補完しつつ一階層の説明に移りましょう」

「え。……それ、終わるのいつになりますか」

 

 ミレーさんはとても良い笑顔で、

「夜までには終わらせましょうね?」

 

 

 

 




あんまり小説書かないので一人称難しいですね!つらい
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