ようやく解放された俺は、ギルド内で何故か体育座りしてギルド内の空気を悪くしていたアクアを連れて再び昨日の宿と兼用している居酒屋に来た。
「カズマ、あのね?私、やっぱりちゃんとしたホームが欲しいわ」
「そりゃそうだな」
厩舎に住み着く主神とか正直身内として恥ずかしい。
少なくとも掘立て小屋とかの方が万倍マシだ。
でもこの世界、家ってどのくらいするんだろうか。
オラリオの通貨感覚に慣れていないからなぁ、取り敢えずそうだな……。
「100万ヴァリスくらいあれば買えるか?」
「え、ええ〜と、ほ、ほら!この街って結構発展してて大きいじゃない?だから地価も高い訳で、200万ヴァリスくらいはいるの」
「アクアちゃん何言ってんのさ〜」
唐突に会話を横入りされて、思わずそちらへ向く。
いたのはこの居酒屋兼宿屋の店主だった。
肌は浅黒く、図体はずんぐりとしていて腕は俺の2倍くらいはありそうなほど筋肉質で太い。身長なんかも容易にダンクシュートとか出来そうに見えるほどには大きい。
日本なら間違いなくヤから始まる商業の人と思われるだろうし、腕っぷしだって多分強いんだろう。
その実は結構フランクに来るから意外と接しやすいけども。昨日もこの宿で世話になった関係でちょっと話をした程度の関係ではある。
……にしてもアクアの奴、やけに冷や汗ダラダラ垂らしてるな。
「んげっ!おやっさん!?……あの、ちょっとここじゃ人が多いから二人で話さない?」
「今日はこの子に用があるから、さ。アクアちゃんはまた今度ね」
軽くアクアをあしらうと、俺の前の席に腰を掛けた。
「えっと、カズマ君だったよね?聞いたよ、アクアのファミリアに入ったんだってね」
「あ、ああ。そうだけど……アクアも知り合いだったのか」
「そりゃこの店の常連だし。ただ、それだけじゃないよ。……アクア・ファミリアに借金があるって話、聞いてる?」
「その話、詳しく」
さっきギルドのミレーさんが引いてた理由、もしかしてこれか。
「実はアクアはね、まだ来たばかりの頃「あ〜!あ〜あ〜〜〜〜〜〜ふモゴッ! ムゴゴッ!」
「あ、続けてどうぞ」
「そ、そっか。仲が良いんだね」
大声で騒ごうとするアクアを羽交い締めにして、テーブルの上に置いてあったおしぼりを口に無理矢理噛ませる。
話が聞こえないだろうがこの野郎。
「来たばかりの頃ね、アクアは豪遊してたんだ」
「豪遊?」
「ああ、それこそ色んな店で酒を飲んだり飯をカッ食らったり物を買ったりね」
へ、へぇ……。
俺は呆れた目で頭頂部でアホ毛がぴょこんと立ったアクアを見る。
このアホ女神ならなんの考えも無くやりかねない。
たった2日の付き合いながらそう思った俺を誰も責められはしないだろう。
「それで借金を作ったと」
「そう!私なら直ぐに超巨大ファミリア作ってじゃりんじゃりん儲けられるわ!、ってね」
「うわー。言いそー」
マジでそんな頭悪そうなこと言ってそう。てか現実に言ったんだろうな。うん、どうして俺はこんな奴のファミリアに入ったんだろう。もっと慎重になって選ぶべきだったんじゃないか俺。
「借金、幾ら作ったと思う?」
「う〜〜〜〜ん」
この世界の物価は大体2円=1ヴァリスくらいだ。
なら仮に、一ヶ月くらい豪遊したとして大体……あんまり多くないという期待を込めて。
「30万ヴァリスとか?」
「残念。400万ヴァリス」
「はあっ!?」
「しかも借金の名義をファミリア付けにしたと来たもんさ」
「ま、マジかよ……」
俺はおしぼりを噛みながら絶望したような表情をしたアクアを見る。
お前、なんてことしてくれたんだ!
400万ヴァリス、日本円換算800万だと!?
「まあ幸いと言っていいのはアレだね、買ったものは全部差し押さえて売ったから今残ってる借金はそれよりは少ないよ」
「なんか、口ぶりを聞いてると店主が借金を肩代わりしてるみたいだな」
「鋭いね〜、その通り」
「ん?そらまたどうして?」
アクアの借金を店主が代わる理由なんて一つもないはず……。
店主は白く光る歯を見せながら言った。
「そりゃ可愛いからさ!」
「………………………………そすか」
一気に白けた俺は自分の世界に帰りたくなった。
ルンルン気分でダンジョン探索しようとしたら強制的に初心者講習受けさせられるし、入ったファミリアの拠点は野生の臭いで溢れてるし、オマケに借金まであるし、ホントもうヤダこの世界。世界というか主にファミリア。
気を取り直して話を戻す。
「それで、借金は最初より少ないって話だがどのくらい減ったんだ?」
「大体200万ヴァリスってことかな。要するに残額も200万ヴァリスだね」
「そうか。200万ヴァリス……ん?」
そういやコイツ、家を買うのに200万ヴァリスくらいいるとか宣ってたが……まさか。
「お前、俺の稼いだ金で自分の借金完済を企んでたろ」
「うぐぅむぬぬうむぐ〜!」
「忘れてた。タオルは外すから弁明を聞いてやろう」
プハーッ!、とアクアは一息ついたおっさんみたいな声を出すと、キッとこちらを睨んだ。
「突然口に入れないでよ!舌噛んだんですけど!」
「ですけど、じゃねえよ!借金とか聞いてないぞアクア」
きっと俺はジト目になっていることだろう。
アクアは明らかに誤魔化すように目を背けた。
「しゃ、借金なんて人生において微々たるものじゃない。それにアレよ、少しくらい若いうちに苦労した方が人生にコクが出るわ」
「お前は社内で新人に説教垂れる煩い部長か」
「あんたニートなのに何でそんなこと知ってるの?」
「喧しいわ」
ネットで拾ってきた知識だなんて、とても言えない。
それはそうとして、俺の視線はアクアの服装へと移った。
アクアの着てる服って無駄に高そうなんだよな。
「話は変わるがそのヒラヒラした羽衣みたいな服、凄い繊細そうだよな。幾らくらいするんだ?」
「非売品よ。神具だもの、強靭な耐久性があって更にあらゆる状態異常を跳ね返す魔法とかも掛かってる逸品よ」
「よし店主、これ売るから借金チャラにしてくれ」
「……え?ね、ねえちょっと?本気で売るつもり?これ私が女神である証なのよ?冗談よね?う、売らないわよね?」
割と本気だが。
「カズマ君、流石に可愛そうだよ」
「ん〜〜〜、はあ。しょうがない。これでも一応主神だしな。ちょこちょこと返していくしかないか」
「うん。その意気だよカズマ君!」
「私も応援するわ!フレーフレーカーズーマ!」
「お前は働けよ」
何で俺が全額負担しなきゃならないんだよ!
おかしいだろ。
「お前女神なんだろ?こう、回復魔法とかで怪我した冒険者を治すとかして稼げないのか?」
「私は女神よ?怪我を治してお金をもらう訳にはいかないわ」
何でそういうところは真面目なんだ、というか女神なら遊びで借金作るなよと声を大にして言いたい。
「まあいいじゃんカズマ君。代わりと言っては何だけど借金の返済期限とか定めてないからさ、少しずつ返してくれればそれで満足さ」
と、店主は気にしてない風に笑った。
幾らアクアが可愛いからと言って他人、じゃなくて他神の借金を背負うなんてこの店主も相当どうかしてる。おかげで助かってる事実があるから言わないけど。
思わず溜息を吐いた。
拝啓、父さん。母さん。
何だか俺の異世界生活はクソゲー過ぎるみたいです。助けてください。
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