鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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黒くて光ってる素早いアイツ

 やぁ諸君、私の名前は後藤田広樹。苗字はあまり耳にしない言葉かも知れないが名前は有触れたものだ。

 

 私が居るのは第十七鎮守府。近海の警備防衛や一般船舶の護衛、艦載機妖精の訓練等を主に担当している中規模の鎮守府である。

 

 そんな所に居る私は当然、ここの提督……ではないんですよねこれが

 

「すいませんねぇ朝早く」

 

「いえいえ、何時もお世話になってますから」

 

 俺は後藤田広樹。この鎮守府に程近い町で【害虫駆除】を生業にしている者だ。

 

 目の前を歩くこの人が提督。総勢200名近い艦娘を束ねる大将さんである。

 

 事の発端は今朝。「眠い」と唸る親父を叩き起こし、お袋の作った朝飯を食って店を開けた瞬間の電話だった。

 

「駆逐艦寮で黒いのが出ましてね。すいませんが来て頂けますか」

 

「承知しました、30分ほどで向かいます。なるべく人払いをしておいて下さい」

 

 親父は一向にトイレから出て来ないので置いて来た。正門に店のワゴンで乗りつけ、警備の人とやり取りして通して貰い、来客用の駐車場に停めた所で提督さんが出迎えに来てくれる。台車に荷物を載せてゴロゴロと駆逐艦寮に辿り着いた。寮に住んでいる娘たちで人だかりが出来ている。

 

「それで、遭遇したのはどなたで?」

 

「こっちの2人です」

 

 青いロングヘアーとビー玉のように透き通る目が綺麗な娘と、ピンク色のサイドテールをした娘が手を握り合って半べそのままカタカタ震えていた。

 

「後藤田プロテクトクリーンです。何所で何匹ぐらい見たか話して貰えますか」

 

 2人とも支離滅裂にあうあう発言するだけで要領を得ない。仕方ないので一番上のお姉さんに通訳をお願いした。

 

「1階の洗面所で黒いのが3匹ぐらい……だそうです。うぅ……気持ち悪い」

 

 確かこの娘は白露ちゃん……だったかな。仕事で来てる時はよく挨拶をしてくれる快活なイメージだ。

 

「なるほどね、了解。それじゃあ今から作業に入りますので火元責任者の方はご同行願えますか」

 

 全員の視線がある娘に集中する。こっそり逃げようとした所を5人に捕まって引きずられて来た。確か駆逐艦の吹雪とか言う娘だったと思う。

 

「ほ、ほら吹雪ちゃん、お仕事だよ」

 

「さっすがふぶ姉、火元責任者なんて私には真似出来ないなぁ」

 

「……どうぞ」

 

「ご…ごめんなさい、でもお姉ちゃんが、その、責任者だから」

 

「まっ、頑張んなさい」

 

「やだぁ~勘弁してぇ~」

 

 こっちも半べそだ。どうしたもんか…

 

「あれでしたらもう少し年長の方も一緒に」

 

 1人、手を挙げた者が居る。記憶が正しければ軽巡の娘だった筈だ。

 

「私で良ければ、一緒に行ってあげてもいいわよぉ~」

 

 何だか優しそうだがそれ以上にえげつない殺気のようなものを感じる。とても奥底が見えないのが印象的だった。

 

「だづだざんおでがいじまず」

 

 火元責任者は泣きながらその人に抱き着いた。頭を撫でられて少し落ち着いたらしい。

 

「では行きましょうか」

 

「ひゃい」「はぁ~い」

 

 3人は寮の中へと足を進める。中に入るのは初めてではないが、ここは案内をして貰う方が立場的にも良いだろう。

 

「洗面所はどっちかな」

 

「…あっちです」

 

 入り口から左の方を指差した。遠くの突き当たりらしい。初っ端から薬剤を撒くよりは冷凍スプレーの方が自分にもダメージが少ないから、仕事道具の方は温存する事にした。右手にスプレーを握ったまま洗面所の中を覗き込む。

 

「……いるいる」

 

 一番手前の水場に3匹固まっている。そういう所に集まるのは仕方のない事だ。何せ連中は髪の毛だって……いや、これは言わないでおこう。スプレーにロングノズルのアタッチメントを装着して奴らにスプレーを向けた。

 

(頼むから動くなよ~)

 

 白い煙が一直線に噴出された。2匹は仕留められたが、1匹がそこから逃走を図る。狡賢い事に床へ飛び降りてこちら目掛け疾走して来た。火元責任者の吹雪が悲鳴を挙げるが、隣の彼女は微動打にしない。俺自身も思わず退いて易々と突破を許してしまった。ヤツが彼女らの足元をすり抜けようとした瞬間、突如として槍のような物が具現化され、走り抜ける奴に目掛けてそれが突き刺さった。

 

「だづだざぁん!!」

 

「あら~、自信は無かったけど案外簡単だったわぁ~」

 

 そう良いながらヤツの突き刺さった槍を床から引っこ抜く彼女は、まるで悪魔か何かのような微笑みを浮かべていた。恐怖が俺を支配していく。

 

「…………お、お見事です」

 

 あれ、俺いらなくね? まぁいい。後処理を済ませて乙女の花園から早々に退散を決め込んだ。凍り付いた2匹も彼女らの見えない所で天に召される。

 

「それではこの辺で失礼致します。料金については後ほど請求書をお送りさせて頂きますので、よろしくお願いします」

 

「ありがとうございます、何でしたらお茶でも如何ですか?」

 

「いやぁ……普段病原菌を媒介するようなのと戦ってますからそれは」

 

「気にしないで下さい。奴らが出現しておいて言えた事じゃありませんが、これでも衛生関連には注意しているんです。どうぞどうぞ」

 

 言われるがまま、俺は敷地内の甘味処へ連れて行かれた。店の前にはちゃんと消毒薬が置いてある。なるほど食品を扱う所には常備するべき物だ。両手に消毒薬を塗してよーく洗う。

 

「間宮さん、お茶と団子のセットを2つ」

 

「はーいただいま」

 

「あ、支払いは」

 

「奢らせて下さい」

 

「いやしかし」

 

「まぁまぁ」

 

「お待たせしましたー」

 

 思わず一部分を凝視してしまいそうなのが視界に現れた。それを《なるべく》見ないようにしながら挨拶する。

 

「あら、確か業者の方でしたよね」

 

「あぁ、はい、後藤田プロテクトクリーンの者です。何度かお邪魔させて頂いてます」

 

 普段の癖か名刺を差し出してしまう。ふんわりと漂ういい匂いが色々な物を刺激した。それは決して団子のにおいではない。

 

「ありがとうございます。何かあったら頼りにさせて貰いますね」

 

「お待ちしてます。年1回の駆除剤もぜひうちを」

 

「後藤田さん、営業はその辺にして」

 

「え、あ…いや、これは失礼」

 

 見た所、指輪はしてない。そんな下種な勘繰りを振り払って席に着いた。

 

「どうぞどうぞ、間宮自慢の一品です」

 

「いただきます」

 

 団子を頬張る。上品な餡子の甘さが口に広がった。身の丈に合わない贅沢な時間を過ごしている気分になる。その後、十分にお礼を述べて鎮守府を後にした。

 

 店に戻ると親父が床を這って移動しているのが目に入る。便器から立ち上がろうとした際に腰をやったそうだ。

 

「広樹、お父さん病院に連れてくから店の方は任せたよ。捌き切れなかったら断っていいからね」

 

「了解」

 

「イデデデデ」

 

 これは暫く忙しくなりそうだ。休みも親父が復帰するまでは無いんだろうなとか思うと気が滅入る。ため息しか出ない。

 

「……美味かったなぁ」

 

 団子の味が反芻される。それを動力源に今日を頑張る事にした。取りあえず予約の入っていた訪問先に向け車を走らせる。行き先は普通の住宅街だ。平屋の一軒家でシロアリに悩まされているらしい。

 

「どうも、後藤田プロテクトクリーンです」

 

 迅速・的確・丁寧をモットー 地域に根ざした害虫駆除業者 後藤田プロテクトクリーン 見積もりの方も無料で対応しております

 

あと……嫁さんもこっそり募集中でーす なんてね…

 

(間宮さんかぁ……いやいや、俺には無理だ)

 

広樹です、ヘタレです

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