鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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お久しぶり(?)でございます。
今回、ちょっと説教臭いと言うか、若干スランプと言うか、少し微妙かも知れません。


見た目はアレですけど悪いやつじゃないんです、信じて下さい

 本日の業務。業務ってほどのモンでもないんだけど、近所の保育園からある相談を受けていた俺は、その敷地内に立っていた。

 

「えーと、職員室……いや事務所か?」

 

 来客用の駐車場に軽自動車を停め、敷地内をウロウロする。作業服を着ているから不審者とは思われないだろうがどうにも落ち着かない。取りあえず依頼主に電話すると、60代ぐらいのおじさんが姿を現した。

 

「ああどうも。園長の渡井と申します」

 

「後藤田です。早速ですが現場を拝見致します」

 

 連れられて暫し歩く。辿り着いたのは、園舎の裏手にあるゴミ置き場だった。

 

「ここです。まぁ職業柄どうしても女性が多いものでして、人によっては動けなくなってしまう方も居るんですね」

 

 陽が当たらないから薄暗い上に地面が湿っぽい。ゴミ置き場を囲む壁も汚れている。視界に目を凝らしていると、何かが壁をウゾウゾと這っているのが見えた。

 

「あー……カマドウマですか」

 

 基本的に害は持たないが、見た目の嫌悪感から避けられている虫だ。いわゆる【不快害虫】である。

 

「湿っぽい上に生ゴミがあるんじゃあ、連中にとっては天国ですね」

 

「何とかならないもんでしょうか」

 

「忌避剤を撒くことで一時的に遠ざける事は可能ですが、ゴミ置き場を替えるかこの環境を改善しない限りまたやって来るでしょう。何所か場所を用意して、しっかりしたゴミ置き場を作った方が宜しいかと思います」

 

 取りあえず場所を移して話し合った。完全な駆除は難しいとの結論に達し、提案した通りゴミ置き場の新設と言う事で落とし所となる。今回は無料相談の範疇だったので料金は取らなかったが、次に繋げる意味も兼ねて業務用の忌避剤をサービスした。用務員が居るなら扱いには苦労しないだろう。

 

 それから数日後。営業周り中に提督さんからの連絡を受けた俺は、そのまま車を鎮守府へと向かわせた。

 

「どうも、後藤田プロテクトクリーンです」

 

「お世話になります。こちらいつもの記入を」

 

 毎度のやり取りを終えて敷地内へ車を進める。駐車場では、提督さんに間宮さん。そして暁型姉妹が待っていた。

 

「後藤田さん、お久しぶりなのです」

 

「雷よ、忘れてないでしょうね」

 

「ああ覚えてるよ。電ちゃんも久しぶり」

 

 2人の更に隣に居るのは、恐らく話で聴いていた暁と響だろう。どっちがどっちなのかは分からないが……

 

「Здравствуйте、響だ。よろしく」

 

 ず……なに?

 

「ちょっと響、それは余所の人に言わない約束でしょ」

 

「失礼。こんにちは後藤田さん。今のはロシア語だ。気にしなくていい」

 

 どうやら彼女の冗談か何からしい。雷ちゃんが窘めるのを横目に、最後の1人が前に出る。

 

「暁よ。私が一番上のお姉さんなんだから」

 

 ああ、毛虫を触って指がかぶれたのはこの子だったか。それにしても、一番上のお姉さんと言う割には一番幼く見えるのは気のせいだろうか。

 

「またお世話になります。ちょっと間宮の方で困った事がありまして」

 

「はぁ、どうされましたか」

 

 隣に立つ間宮さんの顔色は幾分か悪い。何が起きたのか分からないが、相当に参っているようだ。

 

「お恥ずかしい話なんですが、是非とも後藤田さんのお力が欲しくて」

 

 そこまで言われてはやらない訳にはいかないだろう。手前のような男が間宮さんみたいな美しい方のお役に立てるならば、火の中やら水の中やらだ。

 

「取りあえず、こちらの方へどうぞ」

 

 ゾロゾロと移動を開始。行き先は、間宮の裏手だった。近付くに連れて暁ちゃんの表情が固くなり始め、響ちゃんの後ろに隠れるような行動が目立つ。

 

「暁、怖いならお店の方に居ていいんだよ」

 

「こっ、怖くなんかないわよ。それに、1人にされてアレが出たらそれこそ怖いじゃない」

 

 アレ、とは何だろうか。まぁ取りあえず、現物を見るまでは黙っていよう。

 

「私の趣味みたいなものなんですが、たまに和菓子作り教室を開いていまして、今日はこの子たちに教えていたんです」

 

 間宮さんの和菓子作り教室だと?それって一般人は参加出来るんでしょうか。

 

「始める前のゴミ出しを暁ちゃんとしていたんですが、得体の知れない虫が無数に現れて動けなくなってしまいまして」

 

 間宮の裏手に到着。鬱蒼としている訳ではないが、それなりの自然で満ちており、何が居てもおかしくない環境ではあった。

 

「……どんな感じの形状でした?色とか大きさとか」

 

「その……あ、足がたくさんあって」

 

 間宮さんの視線が何かを捉えた。顔色が悪くなると同時に、後ずさりを始めて俺の後ろに回りこんだ。

 

「ま、間宮さん?」

 

「上……上に」

 

 言われるがまま上を向いた。そこは間宮の外壁で、屋根にまで行かない所に何かワサワサしたそこそこ大きい物がへばり付いているのが見える。同時に誰かが走り去り、それを追い掛ける足音も聞こえた。

 

「暁、何所へ行くんだい」

 

「怖い怖い!やっぱり向こうで待ってる!」

 

「こら2人共、ちょっとすいません」

 

 提督さんが2人を追い掛けていった。取り残される4人である。

 

「あー……なるほど、確かにコイツは女性には怖いでしょうね」

 

 あれは俗に言う、ゲジゲジだ。正式名はゲジだったと思う。しかし困った。コイツもカマドウマと同じで、見た目の嫌悪感から避けられている【不快害虫】である。そのお陰であまり知られていないが、何とコイツはGを食ってくれる虫でもあるのだ。基本的に大人しく、こっちからちょっかいを出さなければ何も問題はない。

 

(うーん、どうしようかな)

 

「ご、後藤田さん。あっちにも」

 

 よく見ると、3匹ぐらいが居るようだ。間宮さんはすっかり閉口し、俺の背中にぴったりくっ付いて離れようとしない。これはこれで役得だが、それでは状況は進まないだろう。

 

「後藤田さん。あれも悪い虫さんなのですか?」

 

「あんな見た目してるのよ、害虫に決まってるじゃない」

 

 その認識は少し改めて欲しい所だ。取りあえず、場所を移してお話の場を設ける必要がある。

 

「一旦引き揚げましょう。少しお話があります」

 

 って訳で場所を移す。提督さんも今は時間が空いているとの事なので、執務室で話をさせて貰った。本日の秘書艦である加賀さんが発する冷たい殺気を感じつつ喋る。

 

「申し訳ありませんが、今回駆除はしません。あれはあんな見た目をしていますが、ゴキブリ等を捕食してくれる存在なんです。見つけたら距離を取って居なくなるのを待つか、長い箒か何かで追っ払えば問題ありません」

 

 暁ちゃんはこの世の終わりのような顔をしていた。あんなのが害虫でないと言う事実に打ちのめされているらしい。

 

「家の軒下には、遅かれ早かれ何かしらが住み着くものです。それと人の行動範囲が被ってしまうのは仕方ない事なんです。何回か間宮さんの厨房を色々と調べさせて貰いましたが、ゴキブリを含む他の害虫の痕跡が見つかりませんでした。間宮さんがお店を清潔にされている結果だと思いますが、あれらが住み着く前に捕食してくれている可能性もあります」

 

 加賀さんが興味深そうにこっちを見ているのに気付く。若干だが喋りづらくなった。

 

「気味が悪いからとやたらに殺せば、生態系は傷ついてしまいます。もし噛まれたり、お店の方に出るようになった場合はまたご連絡下さい。今回は勝手口周辺やお店側に忌避剤を撒く作業だけにしようと考えています」

 

 ずーんとした空気が漂った。ただまぁ妥協点として、今現在動き回っているのだけは回収しようと思う。

 

「しかし、間宮さんが精神的に参ってしまっているのも事実です。取りあえず、お店の周辺で動き回っている個体だけ捕獲して、それらは自然に返す事にしましょう」

 

 暁ちゃんは微妙に受け入れ難い表情だが、他は納得してくれたようだ。と言う訳で早速だが、捕獲作業に入る。火箸でヒョイヒョイと捕まえて黒いビニール袋に入れ、口を固く縛った。上の方に居るのは箒で叩き落とし、ピクピクしている隙に捕まえていく。

 

「そのまま殺虫剤を撒いてしまうと言う選択肢もあると思うのだけれど」

 

 急に現れた加賀さんに驚く。あれ、執務室で無言で頷いていたように見えたのは気のせいだったのだろうか。

 

「空き地の石を引っくり返して何か居たからって殺虫剤撒いてたら自然が壊れちまいますよ。俺の仕事は、異常に増えすぎてしまったのや人間の生活圏に踏み込んでしまった部分を削り取って、線引きを直す事だと思ってます。あ、その考えを人間と深海棲艦に結びつけるのはナシですよ?」

 

「そこまで無理強いはしないわ。ごめんなさい、頻繁に出入りしているせいで、あなたが一般人である事を失念してたわ。さっきの発言は忘れて頂戴」

 

「いえいえ、滅相もない」

 

「所で、全部終わったら相談があるのだけれど、いいかしら」

 

「はぁ。じゃあ後ほど」

 

「執務室で待っています。この件は提督にも了承済みですから、そのつもりで」

 

 加賀さんはそう言い残して去って行った。はて、なんの相談だろうか。提督さんが了承済みと言う事は、仕事の話である可能性が高い。取りあえずこっちを終わらせる事に専念しよう。

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