鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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お待たせしております。前回の続きとなります。


忍び寄る前歯

 執務室を後にした我々は、空母寮を目指して歩き出した。通り慣れた道を歩いて数分。目的地に辿り着く。

 

「ここが私たちの空母寮。寮長は私なので悪しからず」

 

 心なしか偉そうに振舞う加賀さんであった。

 

「中へどうぞ。居る者だけでもご挨拶させようと思って、集めています」

 

 赤城さんに促され、ついに俺は空母寮へと足を踏み入れた。これまではGが定期的に出没する施設だけしか入った事がないので、ここは初めてである。

 

「失礼致します」

 

 1階ロビーでは何人かの艦娘が待っていた。見るからに外人さんも居る。ちょっと怖い。

 

「見た事や聞いた事があると思うけど、こちらが後藤田さんよ。これまでの経緯を含めて、正式に依頼をするに至りました」

 

 加賀さんの紹介で皆が立ち上がった。あかん、全員美人や。

 

「翔鶴と申します。この度は私たちの依頼を受け入れて頂き、ありがとうございます」

 

「妹の瑞鶴よ。大いに期待してるから、是非お願いします」

 

 こんな姉妹が近所に居たら俺の人生はもう少し変わって……ないか。

 

「アクィラでーす、イタリアから来ましたー」

 

「私はイントレピッド、アメリカから来たわ」

 

 あらー、日本語お上手ですこと。

 

「後藤田です。お世話になっております」

 

 細かいことは抜きにして、ネズミ共が好き勝手にしているらしい現場の視察を始めた。場所は共同の炊事場で、見た感じではかなり綺麗にしているようだ。しかし……

 

「……臭いますね」

 

「あら、流石は本職ね。私たちはもうこの臭いにうんざりしてるけど」

 

 臭う。そう、これは連中が撒き散らす尿の臭いだ。恐らく、動かせない器具類の裏側や重い家電製品の下を自分たちのパラダイスにしているのだろう。一筋縄でいかない相手なのは明白だ。

 

「捕獲用の罠なんかは設置していますか?」

 

「色んな隙間にこれでもかってぐらいの回数で仕掛けて来たわ。その都度に交換しても、掛かっているのは精々が一匹か二匹。毒の入った餌もあちこちに置いてあるけど、一ヶ月に数匹が引っくり返ってる程度で根本的な解決にはなってないわね」

 

「なるほど。ちょっと失礼しますよ」

 

 懐からペンライトを取り出して、隙間という隙間を調べ回った。業務用冷蔵庫の裏側を覗いた時、長い尻尾が消えていくのを目撃した。おまけに小さなお土産まで置いてある。邪魔してしまったようだ。

 

「……ふーむ」

 

 作業着の腕ポケットに入っている、もう1つのライトを取り出す。これは特注品のブラックライトだ。ネズミの尿には蛍光性のある物質が含まれている。しかも連中は用を足しながら歩き回るので、このライトを使えば足跡を見つける事が出来るのだ。

 

「加賀さん、気分を悪くする可能性があるので外に出て頂けますか。出来れば皆さんも一緒に」

 

「……そうね」

 

 ゾロゾロと空母の皆が外に出て、炊事場には自分だけが残った。そしてブラックライトを照らした瞬間、炊事場中に無数の足跡が浮かび上がった。床だけでなく壁、流し台、冷蔵庫、天井に至るまで足跡で満たされていた。

 

「…………うへぇ」

 

 これでは掃除しても掃除しても焼け石に水だろう。どう伝えるべきか悩みつつその場を後にした。腕を組んで待つ加賀さんと対峙する。

 

「どうかしら」

 

「単刀直入に申しますと、駆除が終わるまで出入りしない事をオススメします。ここはどうしても使わなければならない場所ですか?」

 

「他の寮を借りればここを使わないという手もあるわ。まぁ、私たちも使う前は念入りに掃除をしてからにしているけど」

 

「でしたら、暫くの間は使用を控えて下さい。これから店に戻って色々持って来ます。その間に皆さんは、年末レベルの大掃除準備をしていて下さい。まずここを綺麗にして、連中の行動範囲を絞り込みます」

 

 提督さんにも断りを入れ、一度店に戻った。倉庫からあれやこれやを持ち出し、店の在庫からも色々と車に積み込んだ。また鎮守府に戻ろうとする矢先、忘れ物を思い出す。

 

「おっと、赤城さんに渡すやつを持ってかないと」

 

 居間の新聞紙置き場から今月の地域情報誌を引っこ抜き、パラパラと捲って目ぼしい店に赤丸をつけた。話が纏まったら、店の方にも一言伝えておいた方がいいだろうと思いつつ、車に乗り込んで鎮守府へと舞い戻った。

 

「お待たせしま……凄い格好ですね加賀さん」

 

「あなただってスズメバチと戦う時はこんな感じでしょう?」

 

 化学消防隊のような防護服に身を包んだ彼女たちが出迎えた。これが炊事場を掃除する時のユニフォームらしい。

 

「化学防護部隊で使用されているスーツで、余り物を回して貰ったんです。空調機能までついた優れ物ですよ。何時間動き回っても汗だくにならないんです」

 

 何所となく嬉しそうに話す赤城さんに、例の地域情報誌を手渡した。目の輝きが増す。

 

「赤城さん、中を見るのは終わってからにしてね」

 

「……分かってますよそんなの」

 

 あ、ちょっといじけた。思ったより面白いなこの2人組。

 

「では、掃除の前に忌避剤を撒きます。業務用のかなり強力な薬剤ですので、吸い込むと危険ですがその格好なら大丈夫ですね」

 

 全員に先んじて炊事場に足を踏み入れ、隙間に忌避剤を送り込んだ。これはネズミが本能的に危険と感じる匂いがするもので、行動範囲を押さえ込む事が出来る。その効果で大人しくしている間に掃除して、こちらの領土を広げてしまう作戦だ。

 

「……おお、元気に走り回ってるな。だが、いつまで持つか勝負だ」

 

 水場や家電の裏側でバタバタと動く音が聴こえる。可哀想かも知れないが、こうしないと病気を媒介してしまうからお互いのためにならない。人間が居なくなれば、それはそれで連中の食料となる物が無くなるから餓死してしまう。自然に帰ったとしても、適応出来ない個体は淘汰されていくだけだろう。

 

「OKです。掃除は天井の方からお願いします」

 

 防護スーツに身を包んだ皆がドカドカと入って来た。脚立を立てたりモップを使ったりして、まず天井の掃除が始まる。俺は邪魔になるから一旦外に出た。

 

「さて、色々と準備をするか」

 

 掃除が終わったら仕掛ける罠の準備を始めた。廊下で店を広げていると、2人の艦娘が近付いて来た。

 

「もしかして、後藤田さんですか?」

 

 どうにも幼い声と容姿だ。彼女も空母なのだろうか…

 

「ああ、お邪魔しております。後藤田です」

 

「軽空母の瑞鳳です。ネズミ退治に来てくれたんですね」

 

 はて、軽空母とは? 加賀さんや赤城さん達とは違うと言う事か。

 

「かなり深刻な状態ですが、まだ取り返せる範囲です。長い期間の駆除になると思いますが、一つよろしくお願いします」

 

「はい。あ、こっちの娘は私と同じ軽空母の大鷹ちゃんです」

 

「かすがま……な、何でもないです。大鷹と言います。よろしくお願いします」

 

 また違う系譜の幼さを感じる娘だ、何か言いかけたようだが気にしないでおこう。

 

「取りあえず、作業が終わるまで近付かないで下さい。因みにここ以外でネズミを見た事はありますかね」

 

「多分ここから出て来たのが入り口とか共同スペースをウロチョロしているのは何回か見てます。一応、個人の部屋に出たっていうのはまだ聴いてないですね」

 

「隼鷹さんがゴミ捨て場でネズミが屯してるのを見たって、ちょっと前に聴きました」

 

 ほう、餌を求めてあちこち移動しているのか。これは本格的に長期戦の構えになりそうだ。

 

「蒼龍、動かないで」

 

「え、何ですか加賀さん」

 

「蒼龍!じっとしてて!」

 

 急に騒がしくなった。中を覗き込むと、誰かの防護スーツの上にチョコンとネズミが乗っていた。冷蔵庫の上とかから飛び移ったのだろう。

 

「どうしたの皆、顔怖いよ?」

 

「頭の上にネズミが乗ってるわ。動かないで」

 

「え!?」

 

 しかし、彼女は動いてしまった。床に落ちたネズミが出口を求めて疾走して来る。

 

「はいはい、悪いけどこっからは逃がさないぞ」

 

 忌避剤を進行方向に撒く。一瞬だけ「チュッ」と呻ると、その場に立ち尽してしまった。次第に蹲り、動かなくなった所で掴み上げる。当然、手袋をした状態でだ。

 

「ドブネズミですね。小さく見えるでしょうがこれで十分成体です」

 

 特殊加工された金網の袋に放り込んだ。ネズミが齧っても切れない金属で出来ている。

 

「……どうしました?」

 

 気付くと、何だか距離を取られていた。皆が遠巻きにこちらを見ている。

 

「…………何でもないわ」

 

「よ、よく掴めますね?」

 

「気持ち悪くないの?」

 

「齧られちゃうじゃん」

 

「この手袋は齧られても破れない繊維で出来ているから平気です。仕事の前後にはちゃんと消毒もしてますよ。あれだったらウチで発注して皆さんに配りましょうか?」

 

「「「「結構です」」」」

 

 うん。何か引かれたのは分かった。以後気をつけようと思う。

 

「そ、そろそろ交代にするわ。飛龍、五航戦と海外組を呼んで来て」

 

「了解です」

 

 人員を入れ替えて掃除は続行された。3時間ばかりが経過し、再び炊事場にブラックライトを照らしてみる。

 

「……綺麗になりましたね。ありがとうございます」

 

 ここからは俺の出番だ。まず薬剤を隙間に流し込み、連中を奥の奥まで追いやる。続いてネズミ捕りを仕掛け、奴らが出没しそうな場所に毒餌を設置。通り道になりそうな場所には忌避剤を撒いた。

 

「そしてコイツもだ」

 

 炊事場の入り口に、超音波を発生させる機械を取り付けた。この類の超音波発生器は、ネズミが慣れてしまうと効果を発揮しなくなるのだが、これは俺と商店街の電気屋で共同開発した代物で、周波数をランダムに変えて慣れさせる暇を与えないようにしてある。中のユニットを交換すれば、全く違う周波数帯の音を出す事も出来るのだ。

 

「現状で出来る事は以上になります。別のブラックライトを置いておきますので、日に1回ほど連中が動き回ってるかどうか観察をお願いします」

 

 その後、廊下や共同スペースにも忌避剤を撒いて回った。ゴミ捨て場にはネズミ捕りと毒餌を設置。後は経過を見てその都度に対応していこうと思う。

 

 こうして、長い戦いの幕は切って落とされたのだった。

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