凄まじい日差しが照り付ける中、俺は定期駆除ではなくちょっと久しぶりの依頼で鎮守府へ来ていた。
「…………あじぃ」
日差しはどうしようもないが車の中は冷房が利いていて快適だ。その空間から出た瞬間、灼熱地獄が襲い掛かって何もかもが嫌になる。
「よっこいせ」
仕事道具を纏めて俺は一路、台車を押しながら司令部施設へと向かう。道順はとっくの昔に覚えていた。炎天下で走り回る駆逐艦たちと挨拶を交わしながら歩く。
「鳥海~、溶けちまうよ~」
「もう摩耶ったら。中に入ればクーラーで涼しいのに」
「なぁんか好きになれねぇんだよクーラーって~」
軒先の日陰で水の入った桶に足を突っ込んで、グッタリしている艦娘が居た。窓からはもう1人が顔を出して何か話している。
「お、何だお前。侵入者かぁ?」
急にこっちを見たと思ったら侵入者扱いされた。酷い。
「害虫駆除の後藤田プロテクトクリーンと申します。提督さんには贔屓にさせて頂いております」
「あーお前かぁ後藤田ってのは。アタシは摩耶。こっちは鳥海。高雄姉と愛宕姉から聴いてたわぁ」
「初めまして。鳥海と申します」
眼鏡に黒髪で礼儀正しい。こんな後輩が居たら好きになっていたかも知れない。いや落ち着け俺。ってか摩耶さん?足開きすぎっス。
「よろしくお願いします。何か用向きでしたら提督さんに一言お伝え下さい。そうすれば駆け付けますんで」
「おーう、その内に世話になるかもなぁ」
取りあえずその場から立ち去った。いやしかし、ショート巨乳もいいもんですね。
「……お仕事お仕事」
頭を切り替えて歩く。司令部施設に到着すると、半袖の大淀さんと一緒に見た事のない艦娘が待っていた。大淀さんと同じような黒髪のロングヘアーが特徴的である。
「お疲れ様です、後藤田さん。大荷物ですね」
「ご無沙汰しています。今回の相手はこれぐらいじゃないと対処仕切れないんですよ」
あぁ、半袖の大淀さんも乙なものですな。こんな娘と一緒に委員会の仕事とかする高校時代が欲しかった。何か結構前にも同じような事を考えた気がするけどまぁいいや。
「ほら阿賀野。事情を説明して」
大淀さんが「阿賀野」と呼ぶ艦娘は、ばつの悪い顔で恥ずかしそうに喋り出した。
「阿賀野型軽巡洋艦の阿賀野です。来てくれてありがとうございます」
「ご存知と思いますが後藤田です。相当に手強い相手なのは承知しています。何か背景みたいなものがあればご説明願えますか」
「えーと、私その、結構お菓子とか好きで。でも食べると眠くなっちゃって、ゴミとかそのままだったんですけど。最初は妹の能代が片付けてくれてたんだけど、能代が最近になって別の鎮守府への出張が多くなっちゃって、部屋がその……あの」
まぁこれ以上は聴くまい。大方、何かの拍子で入り込んだのが正しく楽園を見つけて大繁殖してしまったんだろう。
「取りあえず現場に向かいましょう。ここで話し込んでたら熱中症になりますよ」
と言う訳で移動する。日陰を選んで進むので、今まで通った事のない道筋で新鮮な気分だった。
5分ばかり歩いて目的地に到着。白い外壁の、正しく寮と呼ぶべき建物が目の前に現れる。
「私たち軽巡が寝起きしている寮です。他には、補助艦艇に分類される娘たちも居ます」
「とっても綺麗なの。艦種別の寮清潔度ランキングで、いつも1位だったんだから」
そういう阿賀野を冷たい視線で睨み付ける大淀さん。その目、素敵です。
「あ、えっと、綺麗な時もありました。今は最下位です。ごめんなさい」
「まったく。これに懲りたら少しは自立した生活をしてよね」
「善処します」
仲間にフランクな大淀さん。いいね。
「では、中に入って下さい。お手伝いの人員も確保済みです」
ここは初めてだった。ちょっとだけドキドキしながら軽巡寮へと足を踏み入れる。
「みんなー、後藤田さんがいらっしゃいました。挨拶をお願いします」
立ち上がったのは総勢10名の艦娘たち。どの娘たちも非常に容姿端麗な上に外人さんまでいらっしゃいます。
「球磨型軽巡洋艦、木曾だ。本業の手を借りられるとは有難い。頼りにしてるぜ」
「同じく球磨型軽巡洋艦、大井よ。大井川の大井だから間違えないでね」
「な、長良型軽巡洋艦、名取と言います。よ、よろしくお願いします」
「長良型軽巡洋艦、由良です。よろしくお願い致します」
「川内型軽巡洋艦、神通です。ご足労頂き、ありがとうございます」
「ルイージ・ディ……えーと、アブルッツィとお呼び下さいね」
「あ~、あたしはガリバルディでいいぞ。よろしくな」
「水上機母艦、瑞穂と申します。何かお手伝い出来る事があれば幸いです」
「給油艦、速吸です。頑張ってサポートしますね」
「Bonjour、水上機母艦、Commandant Teste、です。どうぞ、よろしくお願い致します」
おかしいなぁ、俺は女子校にでも迷い込んだのだろうか。ってか軽巡ってあれだね、重巡よりも少女らしい感じがするから好きな人は好きだろうね。そして明らかに「海外から来ました」感満載の美女まで居る上に、妙に着込んだ和風美人と、君は高校生ですか?と聴きたくなるそこのあなた。すまんがあまり近付かんでおくれ。ワシには刺激が(ry
「どうかされました?」
やめて大淀さん、急に視界へ入って来ないで下さい。ドギマギしてしまいます。
「あぁ、いえ。軽巡の方は殆ど大淀さんしか接点がなかったもので、こんなに居るんだと正直驚いています」
そう言えば駆逐艦寮でGを串刺しにしたあの方は不在のようだ。何か怖いのでなるべく会いたくないから居なくて安心した。
「大淀は副官業務もあるから他の軽巡と違って内勤が多いのさ。俺たちとお前がこうして初めて会うのは必然だ」
木曾さんでしたっけ?イケメンな上にイケボとか男として自信無くしそうですわ。まぁ元々無いけど……
「それでは、例の場所へ案内を願います。状況を判断した上で、何か任せられる作業があれば割り振りたいと思います」
「はい。じゃあ阿賀野、案内して」
「へ、へい」
この状況を作り出したであろう張本人は、寮の中では低姿勢に振舞っていた。寝起きする全員に迷惑を掛けているのなら仕方ない事だろう。
「こちらでごぜーます」
場所は寮の3階。他の部屋は換気のためか、ドアがちょっと開いている。しかし、それと違ってドアがしっかりと締められた部屋が4つ存在した。異様な雰囲気が感じられる。
「……あそこですね」
「最初は阿賀野の部屋。次に隣にある妹の能代の部屋。続いてその下の妹こと矢矧、最後に酒匂。4姉妹の部屋全てがやられてしまったんです」
「まっこと申し訳なく」
ゆっくりと近付く。一番手前にあるドア隙間から、小さくて茶色い何かが這い出て来た。だがこちらの気配を察知したのか、また隙間の奥へと戻って行った。
「…………やっぱりチャバネか」
正直、仕事でもあんまり相手にしたくない存在だ。繁殖力が普通のGに比べて尋常じゃないくらいに早く、ちょっと時間が経つと殺した以上の数に膨れ上がっていく厄介な敵である。しかもサイズが小さく、並のGなら入っていけない隙間でも悠々と入り込み、そこを巣にして爆発的に増える恐ろしい相手なのだ。
「どれぐらいの日数が経ちましたか?」
「阿賀野の部屋に出たのがほぼ一ヶ月前。その後は一週間毎に隣の部屋と広がっていきました」
「って事はあっちで増えてこっちで増えて、寿命になった個体の数を補完しながらも総数は上回りつつ勢力を広げたって訳か」
これは悩み所だ。ネズミと同じく1回や2回でどうとなる相手じゃない。空母寮のネズミも一旦は数を減らしたが、まだまだ油断の出来ない状態なのは変わらなかった。
「戻りましょう。どうもっていくか話し合いをしたいです」
って訳で花園とでも呼ぶべきロビーへ戻る。何所となくいい香りが漂っているけど私は気にしません。
「集合して下さい。後藤田さんからお話があります」
大淀さんの掛け声で全員が素早く集まる。阿賀野は端の方で少し小さくなっていた。
「えー、恐らく数回に分けた駆除になると思われます。どうしても1回で何とかしたいのであれば、方法はなくもありません。ですが、皆さんにかなりの協力をお願いする事になります。1度、其方でのご検討もお願いしたいです」
その言葉で、彼女たちの話し合いが始まった。混ざろうとした阿賀野は木曾に摘み出されて涙目になっている。
「……ほわぁ」
思わず漏れ出る大欠伸。何か眠くなって来た。どうして人間は暑いと眠くなるのだろうか。
「後藤田さん、お待たせしました」
話し合いが終わった。結論としては、1回で殲滅すべしとの方向で固まったそうだ。阿賀野もその方が後腐れなくていいだろうとの事でもあるらしい。
「みんなありがと~」
「全部終わったらアンタに掃除の仕方を徹底的に教え込むからね。またこんな事を引き起こしたら酸素魚雷ブチ込むわよ」
「もうしません~」
土下座する阿賀野の前で仁王立ちになる大井であった。何か借金取りに平謝りしているようにも見える。
「では、なるだけ1回で全滅させるよう努力します。アフターケアも十分に行いますので、もしまた出て来たらご連絡下さい」
「はい。重ね重ね、よろしくお願い致します」
では仕事の準備に取り掛かろう。ロビーの一画に店を広げさせて貰い、仕事道具を鎮座させていった。