鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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チャバネール戦争Ⅱ

 仕事道具を広げ終わった俺は、暫し考えた。誰に何を手伝って貰うかを割り振らねばならない。メインは無論、自分がやるとして彼女たちの役割分担が重要だ。4部屋の駆除を行うには自分だけじゃ荷が重過ぎる

 

(……性格も考えるとやはり)

 

 イケ木曾さんと、ボーイッシュだけど立派なのをお持ちなガリバルディさんに戦力的な手伝いを頼もうと思う。どちらかと言えば男性よりの雰囲気なので接しやすいだろう。

 

(それ以外である程度は任せられそうなのは……)

 

 と、ここで1つの考えが浮かんだ。せっかく人手を用意してくれたのに、こっちから仕事を割り振るのはどうなのだろうか。向こうの意見も尊重した上で、任せられそうな場合はそのままお願いし、難しそうなら別の仕事をお願いする方がお互いの理解を深めるのではないか。そんな考えが浮かぶ。

 

「……はて、どうしたもんか」

 

 取りあえず何の仕事が発生するか考え直す事にした。まず、全部屋を覆うためのビニールシートを展開する係が必要だ。これは他の部屋へ燻煙剤が流れないようにするためと、殺虫効果を上げるために是非ともやって置きたい仕事である。

 

「まずこれを……3人ばかりで」

 

 次に、チャバネール共を一時的にドア付近から遠ざけるため、ドアの隙間から部屋内部へ殺虫スプレーを流し込む係が1人ずつ。これは誰でも出来るし、2人でも十分だ。

 

「そしてお次は……」

 

 ドアを開け放ち、中に業務用燻煙剤を押し込む担当が必要だ。これはドアを開けるのに1人、中に入れるのに1人ずつ居ればいい。こっちも同じく、2人で1部屋ずつやっていっても問題ないだろう。

 

「最後は人海戦術だな」

 

 燻煙剤が十分に浸透した頃合を見計らって、防護装備に身を包んだ突入部隊が踏み込む。あとは見つけた個体や家具の隙間へ手当たり次第に殺虫スプレーをぶちまけていけば、粗方はいいだろう。最後に中の物を運び出し、徹底的に駆除すれば良い。だがそれは、彼女たちだけでも出来る事だ。日が暮れれば人手も増えるだろうし、自分が最後まで居る必要は無い。

 

(こんな所かな、取りあえず提案するか)

 

 考えた事を紙に箇条書きした。これを持って大淀さんの下へ向かう。

 

「ざっくりですが、これぐらいの仕事が発生します。兼用も十分に可能ですが、まず皆さんの希望を募ろうかと」

 

「分かりました。こちらで検討しますね」

 

 その一覧に全員が目を通す。名取の顔色が少しずつ悪くなり、アワアワしながら何かを指差していた。恐らくだが、ビニールを展開する係を選んだのだろう。それからまた少し、時間が流れる。

 

「お待たせしました。これが全員分の希望です」

 

 紙を受け取って内容を検める。ビニール展開係は名取・速吸・瑞穂となった。殺虫剤を部屋の中へ送り込む係は由良とコマンダンテスト。燻煙剤を押し込む係にガリバルディ。ドアの開け閉めについては由良が兼任するらしい。

 

(んで残りは……)

 

 大井・木曾・神通・アブルッツィの4人で突入部隊を編成。大淀さんは適時、人手の必要な所を手伝ってくれる。阿賀野は1階で待機と言う名の戦力外通告が出ているようだ。

 

「確認しました。自分が先頭に立ちますので、この希望通りお願いします」

 

 てな訳で、まずビニール展開係の3人を率いて上階へ辿り着いた。

 

「このビニールは害虫の逃走を阻止すると同時に、薬剤を充満させてその効果を高めるための物です。また、関係ない場所へ薬剤が流れていかないようにするのに必要となります」

 

 持ち込んだ脚立を使ってビニールを天上から床まで展開し、養生テープで止めていく。これが下準備の中で最も時間が掛かるだろう。

 

「速吸ちゃん、下は押さえてるからね」

 

「あー名取さん、上まで届かないのでもう少し緩めて下さい」

 

「養生テープが凄い勢いで減っていきますね。勿体無くはありませんか?」

 

「全部使い捨てなんで大丈夫です。再利用は経費がちょっとあれでして」

 

 終始ほんわかした雰囲気で作業が進む。展開させるのは廊下を半分に仕切った所から部屋までの空間だ。これでもし部屋からチャバネールどもが飛び出して来ても、別の部屋に入っていく事は出来ない筈である。

 

「その調子でお願いします。一箇所だけ開けといて下さいね。出入りが出来なくなりますから」

 

「はい! 速吸にお任せ下さい!」

 

 まぁ張り切ってくれるのは嬉しいんだけど、空回りしない事を祈るだけだ。

 

 この場を3人に任せ、一度ロビーまで戻る。次は下準備その2で、部屋に予め殺虫剤を流し込む係へ説明を始めた。

 

「えーと、日本語でよろしいですか?」

 

「ハイ。日常会話程度なら、問題ありマセン」

 

「伝わってなさそうでしたら、私がフォローしますね」

 

 おや? 気のせいか、2人の声が似ている気がする。まぁ世の中には声が似てる人が何人か居るよね。多分。

 

「ドアの下には、スプレーノズルが入れるだけの空間があります。そこにノズルを突っ込んで、10秒間の散布を何回か繰り返します。あまり長くやっていると、スプレー缶が冷たくなって来るので注意して下さい。ここまでは大丈夫ですか?」

 

「ハイ」

 

「では続けます。ノズルが入ると言う事は、中に居る虫たちも当然ですが出入りが出来てしまいます。もし散布している最中に出て来てしまった場合は自分が対応しますので、お2人は集中して貰って構いません」

 

 ここで業務用殺虫剤を2人の前に置いた。市販よりも強力な薬剤なので、ゴーグルやマスク、グローブも必要になる。

 

「作業中はこれ等の装着をお願いします。目安としては、1部屋に1本分を流し込めば十分です」

 

 なので殺虫剤は計4本となった。これだけあれば問題ないだろう。

 

「何か疑問や質問は大丈夫ですかね」

 

「えーと……飛んで来たりとかは」

 

「飛ぶ? voler dans le ciel?」

 

 すまねぇ、フランス語はさっぱりなんだ。日本語すら怪しいのにね……

 

「これから駆除する種類のは、羽が退化しているので飛べません。大丈夫ですよ」

 

「あ~、そうなんですね。良かった……」

 

「私、頑張りマスネ」

 

 うん、笑顔が眩しいとはこの事か。しかしまぁ、こんな美人が地方都市の街中を歩いてたら目立って仕方ないだろうな。苦労してないといいけど……

 

「それでは次に、ドアの開け閉めと燻煙剤を押し込む件についてですが」

 

「お、あたしの役回りだな」

 

 視界の中に立派なのが映り込む。それ重力に逆らってません?

 

「ドアの開け閉めはその時間が短ければ短いほど、連中の逃走を防げるので好ましいです。ただ燻煙剤を押し込む関係上、かなり大きくドアを開け放つ必要があります。これは経験上の話ですが、そこそこ大きい個体がドアの隙間から逃げようとして、開けた瞬間に上から落ちて来る事もありました」

 

 それを聴いた瞬間、由良の顔が少しだけ青くなった。

 

「そういう事もありますので、自分がその際はフォローします。ドアを開けると同時に殺虫剤を上から下へ撒きますから、それでドア周辺の個体は一掃出来るでしょう。この瞬間を逃さず、燻煙剤を部屋の奥へ一気に押し込んで下さい」

 

 件の燻煙剤を取り出す。市販の物より一回り大きく、強力な材料を使っている。家具の隙間や家電の中に入り込んでいる個体にも有効だから、相当数を駆除出来る筈だ。

 

「押し込む際はこの棒を使って下さい。先端にあるU字の部分に挟めば倒したりせずに済みますし、引き抜く際もスムーズに戻せます」

 

 これは自分で作った物だ。プラスチック製の棒に、同じくプラスチック製のU字を描いたパイプをパテでくっ付けただけの、簡素な手作り道具である。

 

「へー、これって何所かで売ってるのか?」

 

「手作りですよ。ホームセンターで適当に見繕って作りました。仕事に使う物は何所かに発注するより、自分で作った方が安上がりだったりします」

 

 まぁ後は商店街の発展に貢献するため、色んな店と共同で何かしら作ったりもしている。この前は豆腐屋と一緒に、ネズミ退治用の豆腐毒団子なんてのをこさえた。意外に効果があったので、空母寮のネズミ駆除でも使おうと思う。

 

「何か質問はありませんかね」

 

 特にないようだ。最後に、突入部隊を志願した4人へ説明を行う。

 

「燻煙剤が充満する中では、マスクとゴーグル、グローブ等の防護装備が必需品となります。加えて、皮膚を守るために長袖の服も必要です。何か汚れてもいい服はありますか?」

 

 4人共、微妙な表情になった。まぁ女性に汚れていい服なんて無いだろう。予め持って来た作業着(新品)の用意があると言おうとした瞬間、大淀さんから提案があった。

 

「工廠の方で使っている作業着でしたら、すぐに用意が出来ます。持って来て貰いますね」

 

 ロビーの電話で何所かに内線をかけ始めた。その間に作業の説明を進めていると、正面入り口から1人の艦娘が入って来た。

 

「大淀ー、居るー?」

 

「こっちこっち」

 

 手に作業着を携えた、ピンク色のロングヘアーが特徴的な艦娘だ。大淀さんと同じく、そこは隠した方がいいのではと思えるスカートである。

 

「紹介しますね。鎮守府の整備や開発に携わっている、工作艦の明石です。こちら、後藤田さんよ」

 

「明石です。お初にお目にかかります。大淀や加賀さんからお話は伺っております」

 

「どうも、後藤田と申します」

 

 気のせいか、ジロジロと見られている気がする。何か珍しいのだろうか。

 

「あのー、何か?」

 

「いえいえ、中々に使い込まれてますね。私も工廠では作業着なので」

 

 ああ、そこにシンパシーを感じたのね。まぁ悪い気はしないけどさ。

 

「そのベルトって何所のメーカーですか?」

 

「これですか? これは近所の作業用品店で作って貰ったやつで、ベースは〇〇ってメーカーだったかと」

 

「へー、いいですねぇ。あ、その安全靴って××の製品ですよね。私も好きで使ってるんです」

 

「これ動きやすくていいんですよね。値段もそこそこですし」

 

「明石、仕事で来て貰ってるんだからそういう談義はまたにして」

 

「あ、ゴメンゴメン。じゃあこの作業着は使い終わったら衛生の方に回しといてね。じゃあ、後藤田さん、私はこれで戻ります。今度来られた時にでもゆっくりお話しましょう」

 

 こっちのリアクションを余所に、彼女は戻って行った。うーん? 何かフラグ発生した? いやそんなまさか。まさかね……

 

「……それでは着替えの方をお願いします。ちょっと上の様子を見て来ますね」

 

 階段を上がりながら、気持ちを整理した。いや、ない。勘違いはいけない。うん。

 

(広樹です…………よく分からんとです)




一ヶ月ばかり体調が悪かったのですが、少しずつ回復して来ました。様子を見ながら続きをやっていきます。
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