鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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リアルは冬が顔を見せ始めていますが、作中は更新を休んだ関係上で真夏のままです。あの暑かった夏を思い出しながら読むと、汗が出て来るかも(?)知れません。


チャバネール戦争Ⅲ

 発生したのかどうかも分からないフラグ(?)を頭の中で否定した俺は、ビニール展開係の3人が居る所へ向かった。

 

「どんな感じでしょうか」

 

 3人は、ばつの悪そうな顔をしていた。どうしたのだろうか……

 

「あ、あの、やってしまいました」

 

「はい?」

 

 暑さとは違う汗をタラ~っと流す速吸を尻目に、ビニールで仕切られた廊下を見渡す。何所からどう見ても完璧な状態だ。しかしそこには、ある筈のものが無かった。

 

「あー……全部塞いじゃったんですね」

 

 出入りするため一箇所だけ開けておいてと伝えたのだが、全部塞いでしまったようだ。

 

「ご、ごめんなさい~」

 

「申し訳ありません」

 

「つい夢中に……」

 

「まぁまぁ、どっか切りましょう。それで大丈夫です」

 

 腰物からハサミを取り出し、適当な場所を切った。これで塞いだ場所と廊下間の出入りが可能になる。切った部分のビニールが汗でくっ付いて鬱陶しかった。

 

「これで良しと。では次の段階に移ります。人手が必要になったらまた手伝って頂きますので、取りあえず休憩して下さい」

 

 3人を引き連れてロビーへ戻る。次は部屋の中に殺虫剤を流し込む作業だ。それが終われば直ぐに燻煙剤を部屋に入れる作業を行うため、防護装備を着けて待機していた由良・コマンダンテスト・ガリバルディと共に上階へまた戻った。

 

「おー、すげぇな。ゾンビ映画とかでこういう仕切り見た事あるぞ」

 

 艦娘もゾンビ映画なんて見るのか……

 

「それじゃあ、お2人は打ち合わせの通りお願いします。ガリバルディさんはその間、作業の再確認をします」

 

「お任せクダサイ」

 

「はい、何かあれば呼びますね」

 

 2人がビニールで仕切られた空間に入っていく。俺はガリバルディさんに近付こうとして2人とすれ違った。その瞬間、言葉では言い表せない素敵な匂いがしました。

 

(……くそ、ここに長居は出来ないな)

 

 何でこんないい匂いがあちこちからするんですかねぇ。ちょっとつらいです。

 

「で、そいつを押し込めばいいんだな?」

 

 いかんいかん、説明に集中しなくては。

 

「そうです。中の線まで水を入れて、この筒状のやつを垂直に落とし込みます。1分ほどで煙が出始めるので、その前に部屋へ押し込んで下さい。加熱して容器も熱くなるので十分に注意をお願いします」

 

「分かったぜ。任せてくれ」

 

 イメージトレーニングを始めた彼女を横目に、ビニールで仕切られた空間へ足を踏み入れた。2人はドアの下にノズルを突っ込んでスプレーの噴射を繰り返している。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ハイ。スプレー缶が冷たくなって来ましたけど、問題はアリマセン」

 

「あの……さっきからカサカサと聞こえるんですけど」

 

 そう言いながらこっちを見ている由良の足元へ、下の隙間から出て来た1匹が近付くのを発見。俺は素早く接近し、軍手を嵌めている右手をチャバネールの上からそっと押し付けた。

 

「ああ、気にしないで下さい。作業に集中して貰って大丈夫です」

 

 右手を握り締め、床から離す。ヤツの姿形は無かった。この手の中に居る事は間違いない。

 

「……もしかして今」

 

「ちょっと急だったもんで、粗末なフォローになってしまいました。軍手諸共にウチで処分しますのでご安心を」

 

 そう言いつつ軍手を右手ごと黒いビニール袋に突っ込み、しっかり口を閉めた。両手は念のため除菌シートでしっかりと拭き、新しい軍手を取り出して余りの殺虫スプレーも握り締め準備完了である。

 

「では改めてフォローに入ります。気にせずに引き続きお願いします」

 

 由良は何か言いたげだったが、諦めたらしく作業を続けた。その後は幸いにドアの隙間から出て来る事はなく、4部屋に1本ずつの殺虫剤を流し込む事に成功する。

 

「腰が痛くなっちゃいマシタ」

 

「同じ姿勢ですしね。私も背中がちょっと」

 

「よーし、あたしの出番だな」

 

 いよいよ、部屋に燻煙剤を押し込む所まで来た。これが終われば、部屋に出入り出来るようになるまでは少し時間が掛かるので、そこを休憩時間に出来るだろう。最後の仕上げは大仕事だろうから、そのために体力を回復させる時間は欲しかった。涼みたいと言う気持ちも強い。

 

「開ける、噴霧、押し込む、引き抜く、閉める。ゆっくりでいいので、正確にやっていきましょう。準備はいいですか?」

 

「任せてくれ」

 

「は、はい」

 

 由良がドアノブを握り、ドアの前でガリバルディが待機。コマンダンテストはその間、他の部屋から這い出て来るのが居ないか見張っている。

 

「いきます。5、4、3、2、1」

 

 ドアが開いた。殺虫剤のせいで若干煙いが、気にしている暇は無い。ドアの上や仕切り部分に張り付いたのが飛び出して来ないよう、殺虫剤を上下に勢いよく噴霧した。

 

「行くぜ!」

 

 容器には予め水が入れてあった。そこに燻煙剤の本体を落とし込み、煙が発生する前に手作りの棒で容器ごと部屋へ押し込んだ。

 

「閉めて下さい!」

 

「はい!」

 

 ドアは再び閉じられた。いい出だしである。この感じで一気にやっていきたい所だ。

 

「いい感じです。このまま行きましょう」

 

 残りの部屋は3つ。順調に同じ事を繰り返し、無事に作業を終える事が出来た。これで残るは部屋への突入のみだ。

 

「じゃあ1度、休憩にしましょう。再開は1時間後とします」

 

「ふぅ、緊張した」

 

「お見事デス」

 

「あぁ……疲れましたねぇ」

 

 1階のロビーへ戻る。いい匂いがした。今度は食べ物の方だ。

 

「お疲れ様です。こちらで休憩して下さい」

 

 テーブルには、色んな種類のサンドイッチが鎮座していた。もしかして大淀さんが作ったのだろうか。

 

「おお、ちょうど小腹が空いてたんだ。有難いぜ」

 

「綺麗な飾り付けデスネ」

 

「誰が作ったんですか?」

 

「阿賀野よ。手伝えないなら、これをその代わりにって」

 

 なるほど。罪滅ぼしとまではいかないが、別の形で貢献しようとした訳か。とてもいい事だと思います。

 

「みんなー、阿賀野特製のサンドイッチ、どんどん食べてね」

 

「凝った料理は出来ないくせにこういうのは得意なのよね~アンタ」

 

「大井さん、それ貶してます?」

 

「褒めてるつもりだけど?」

 

 何だか微笑ましい光景だ。女子校の昼休みはこんな感じなんだろうかと、勝手な妄想が駆け巡る。

 

「後藤田さん、どれがいいですか?」

 

 小皿を持った大淀さんが訊ねる。何と贅沢な事だろうか。見目麗しいあなたに取り分けて貰えるとは歓喜の極み。

 

「それじゃあ卵サンドとハムサンドを2つずつお願いします」

 

「いっぱいあるから、遠慮しないでね」

 

 いや、あんまり食うと後でキツいんですけど……

 

 って皆さん結構お食べになるんですね、こんな暑いのに……

 

1時間後

 

「ではそろそろ再開しましょう。ここからが最も大変な作業になりますが、夜には一段落すると思います。宜しいですね?」

 

 突入部隊の4人は完全装備だ。俺も同じような格好である。

 

「おう、いつでもいいぜ」

 

「やってやろうじゃないの」

 

「万事、お任せ下さい」

 

「nessun problema、行きましょう」

 

 再び上階へ向けて足を進める。すると、ビニール展開係の3人が待っていた。

 

「お水やお茶をご用意しました。椅子もあるので、疲れたらこちらで休んで下さいね」

 

 瑞穂さん、あなたは時代劇に出て来るお茶屋さんか何かの一人娘ですか? とでも言わんばかりの雰囲気を纏っていた。

 

「ああ、これは嬉しいですね。ありがとうございます」

 

「扇風機もありますよ。気分が悪くなったら当たって下さい」

 

 速吸と名取が廊下に扇風機を用意していた。風が生暖かくても、無いよりはマシな筈だ。

 

「感謝します。では始めましょう」

 

 1つ目の部屋に取り付いた。ドアを開けると、まだ気化仕切っていない薬剤が白い煙となってモクモクと出て来る。

 

「ゴーグルとマスクは絶対に外さないで下さい。目と喉をやられます」

 

 先導して中に踏み込んだ。当然仕事でだが、女性の部屋に入るのは何度か経験がある。ここはよく片付けられた綺麗な部屋だったのだろう。それがチャバネールの侵攻によって無残な事になっていた。床は死骸だらけで米粒のような物が沢山ある。そう、これは連中の卵だ。

 

「居たぞ!」

 

 イケ木曾さんが叫ぶ。カバー付きの衣装掛けを3匹ばかりが下に向けて這っていた。

 

「食らいなさい!」

 

「逃がしません」

 

 大井・神通ペアが素早く殺虫スプレーで排除。俺も床でまだピクピクしているのを集中的に駆除していった。

 

「オラオラ! 隠れてんじゃねぇぜ!」

 

「さぁ、出て来なさい!」

 

 木曾さん絶好調のようです。家具の隙間にノズルを突っ込んで追い立てて、逃げ出して来た所をアブルッツィが無駄なく仕留めた。

 

「なぁ、この小さくて黒い粒は何だ? 沢山あるが」

 

 しゃがんだ木曾が何かを指差す。砂か何かのようだがそれは……

 

「ああ……それ、糞です」

 

「……本当か?」

 

「はい」

 

 マスク越しに木曾の顔が青ざめた。まぁ無理もないか。

 

「お、恐ろしい連中だ」

 

「油断ならない奴らです。気を抜かないで下さい」

 

「ベッドも台無しじゃないのこれ。能代が見たら泣くわね」

 

 大井さんが死骸と糞だらけのベッドを嘆いた。ああ、綺麗好きな妹さんの部屋でしたかここ。誠に残念な事で。

 

「こちら、大方は終わりました。他に敵影ありません」

 

「いい感じですね。次へ行きますか?」

 

「全ての隙間に殺虫剤を撒いて下さい。それでもまだ安心出来ませんが、大分マシになる筈です」

 

 そこまで広くない1人部屋に5人が犇く。体を器用に入れ替えて位置を変え、隈なく殺虫剤をぶち撒けていった。何回かアブルッツィさんの胸が当たりそうになるのを全力で回避する場面に遭遇するも、事故は起こさずに済む。

 

「これぐらいですかね。では外へ出ましょう。体に引っ付いてないかよく確認して下さい」

 

 互いの体を全員で確認し合った。何所にもへばり付いてはいないので一安心である。そして我々は、ビニールで仕切られた空間へと一時的に帰還を果たした。




次回でチャバネール戦争は終わりとなります。その次は休日回と、ある事情で鎮守府に泊まる話をやる予定です。

手直しついでの追記
今さらですがお気に入り1000件突破、誠にありがとうございます。あとどれぐらいのネタを搾り出せるか分かりませんが、その時が来るまでお付き合い頂けると幸いですm(_ _)m
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