鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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チャバネール戦争最終章となります。リアルはすっかり寒くなりましたがこの世界はまだ夏です。ご了承下さい。


チャバネール戦争Ⅳ

 1つ目の部屋から出た5人は、休憩コーナーで水分補給や涼をとっていた。マスクとゴーグルの下は汗だくである。

 

「あー、涼しいわー」

 

「生暖かいな……無いよりはマシか」

 

 大井と木曾は扇風機の風に当たっている。神通とアブルッツィは椅子に腰掛け、常温の水を口に運んでいた。

 

「冷たいのが飲みたいわねぇ」

 

「暑い時は常温の方が体に良いそうです。冷たい物は体を無駄に冷やして、新陳代謝を下げると言われています」

 

 そんな会話を横目に、帰ったら風呂に入ってビールでも呷りたいなぁと思いつつ、温風を送り出す扇風機の風に当たる。

 

「10分後に再開しましょう。燻煙剤が十分に広まって、効果が最も発揮されている頃合に踏み込みますから、次の部屋はもう少し楽だと思います」

 

「じゃあ、生きているのは少ないって訳だな?」

 

「その通りです」

 

「さっさと終わらせましょう。やる気が無くなる前にね」

 

 休憩後、2つ目の部屋へと我々は踏み込んだ。予想していた通り、動き回っているのはさっきよりも少なかった。これなら次もそこまで面倒ではないだろう。だが、死骸の数が多くなっているのが厄介である。

 

「ちょっと掃除機を取って来ます。1つ目の時と同じ感じで作業をお願いしますね」

 

「おぉ、任せろ」

 

 掃除機は車の中だ。少し距離はあるが、炎天下の中を駐車場まで小走りで向かう。

 

「あら、サボりかしら」

 

「何を仰いますか。しっかり仕事してますよ」

 

 道中で加賀さんに遭遇。相変わらず冷たい空気を纏っていた。ただ、表情は以前に比べて柔らかくなった気がする。

 

 駐車場へ辿り着き、車のバックドアを開けて掃除機を引っ張り出していると、正門からゾロゾロと帰って来る集団を見つける。白露型御一行だ。

 

「あー、後藤田さんみーっけ」

 

「お久しぶりっぽーい」

 

「おやまぁ勢ぞろいで。どっか行って来たの?」

 

「皆でプールに行って来ました。泳ぐのも楽しいですね」

 

 白露、夕立、時雨を筆頭の白露型たち。一見すると普通の女子中学生集団だ。しかも全員私服なので、知らなければ彼女たちが艦娘だと思われる事もないだろう。

 

「すっかり日焼けしちゃったわ。でも、大人っぽくていいでしょ?」

 

 村雨さんや、あなたは何を目指しているのでせうか?

 

「今日も何かお仕事ですか?」

 

 うん、時雨ちゃんは清涼感があっていいね。

 

「まぁ……軽巡寮の方でちょっとね」

 

 そう言った瞬間、全員の顔が「あー」と言う表情になった。どうやら完璧に知れ渡っているらしい。

 

「能代さん早く帰って来て欲しいっぽいー」

 

「長期出張だもんねー。流石に無理だったかー」

 

「あら、みんな知ってるんだ」

 

「知らない方がおかしいわよ。不動の寮清潔度ランキング1位が崩れたって皆で噂してたんだから」

 

「なぁなぁ、アタイと山風姉はこの兄ちゃん知らないんだけど誰だよ」

 

 急に口を挟んで来たのは、確か五月雨?と似たようで違う娘だった。その後ろで緑の髪をした娘が、怖い物を見るようにこちらを窺っている。

 

「民間の人だよ。害虫駆除業者の後藤田さん」

 

 時雨ちゃんが紹介してくれる。何だか白露ちゃんよりもお姉さんに思えた。落ち着いているからだろうか。

 

「後藤田です、お邪魔してます」

 

「おお、兄ちゃんが噂の後藤田か。アタイは涼風。後ろに居るのは山風姉。よろしくな」

 

 姉? 本当に? 妹さんじゃなく?

 

「……あの……山風…です」

 

 頭しか見えないんですけど……

 

「2人は最近まで別の鎮守府で色々と手伝いをしてて、数日前に戻って来たばっかりなんです。山風ちゃん、外の人には凄く人見知りなんで、慣れるまで待ってあげて下さいね」

 

「山風姉のそれは病気だぜ。人慣れした野良猫すら怖がるんだ」

 

「だって……勝手に近付いて来るし」

 

 なんかこうやって姉妹がわちゃわちゃしてるのはほっこりするなぁ。いかん、ちょっと陽が傾いて来た。仕事に戻らねば。

 

「んじゃあ俺はこの辺で。またその内」

 

 手を振る彼女等を尻目に掃除機を抱え、軽巡寮まで戻って来た。すると、新しい顔ぶれが出迎えた。

 

「あー、後藤田さんだっけ? あたし、北上。大井っちと木曾のお姉ちゃんでーす」

 

「いつぞやは妹の龍田が世話になったそうだな。俺は天龍。1番艦の天龍だ」

 

 ああ、世話になったのはこっちの方みたいなもんだったが、そういう事にしておこう。目の前の彼女より、あの方を怒らせてはいけないと俺の本能が警告している。北上のような感じは話しやすそうで個人的に有難いです。

 

「どうも、後藤田です。お初にお目に掛かります」

 

「あの部屋を何とかしてくれるのは願ったり叶ったりだぜ。阿賀野のやつ、暫くは部屋で物食うの禁止だな」

 

「まぁ、あたしは実害無けりゃいいけどね~」

 

「俺が真向かいの部屋なの知ってんだろ。廊下で何回もあのちまいヤツ見てんだよこっちは」

 

「あ、でしたら諸々が終わるまで部屋に戻られるのはちょっと」

 

「俺も手伝うぜ。早く終われば部屋でのんびり出来るしな。外へ出る時に一々警戒しなくて済む日々を取り戻すならこれぐらい」

 

「人手が要るようになったら呼んで下さ~い、ここで待ってるよ~」

 

 北上はあまり手伝う気がないようだ。現状、人手は足りているので家具の運び出しまでは控えていて貰ってもいいだろう。

 

「それでは天龍さん、防護装備を身に付けたら上まで来て下さい」

 

「待ってろ、すぐに行くからな」

 

 掃除機を抱えて上階へ向かう。どうやら2つ目の部屋も終わったらしく、3つ目のドアが開いていた。そこから大井さんが出て来る。

 

「お待たせしました。どんな感じでしょう」

 

「ここも終わったわよ。1つ目の大変さがウソみたいね」

 

 言葉に疲労が感じられないのでスムーズに進んでいるようだ。これなら4つ目もお任せにして、死骸の掃除と家具の運び出しを始めていいかも知れない。

 

「では4つ目もお願いします。死骸の掃除をしますから、終わった部屋から家具の運び出しもしてしまいましょう」

 

「はい! 速吸が皆を呼んで来ます!」

 

 人数を指定しないまま飛び出してしまった。全員連れて来られても仕方ないので追い掛ける。

 

「クマー、力仕事は任せるクマー」

 

「だるいな~、まぁいいけどさぁ~」

 

「コンディションは最高よ! 任せといて!」

 

 また見た事のない2人が現れた。でかいアホ毛が特徴的で語尾に「クマ」がつく艦娘と、大昔のスポ根アニメから飛び出して来たようなセーラー服とハチマキの艦娘である。その2人の間を北上がやる気なく歩いていた。

 

「お、後藤田さんクマ? 球磨型1番艦の球磨だクマ。北上と大井、木曾のお姉ちゃんだクマ」

 

「長良です。名取と由良は私の妹です。よろしくお願いしますね」

 

「どうも後藤田です。えーと、すいませんがまだ死骸の掃除が終わってないので、もう少し待っていて下さい。それに家具を運び出すにはもう少し人手が」

 

「あ~大丈夫大丈夫、球磨姉と長良っちは重巡組にも負けず劣らずのかいりむごぉ」

 

 球磨が北上にアイアンクローをかけた。

 

「今度余計な事を言うと口を縫い合わすクマよ」

 

「ぐぉめんままい」(ごめんなさい)

 

「もぉ球磨ったら、その辺にしてあげなって」

 

 そう仰る長良さまも何ゆえに右手をゴキゴキ鳴らしているのでありましょうか……

 

 解放された北上の顔は凄い事になっていた。

 

「むぁえがみえめぇ」(前が見えねぇ)

 

「じゃあ準備が終わったら呼んで欲しいクマ」

 

「ウォームアップして待ってますねー」

 

 脅威は去った。いや、これは失礼だな。取りあえず、掃除を急がねば。

 

「来てやったぞ。敵は何所だ」

 

「こっちだこっち」

 

 合流した天龍を木曾が手招きする。何かこの2人、ビジュアルもキャラも似ているような気がした。

 

(急げ急げ)

 

 1つ目の部屋を掃除機で綺麗にした。2つ目に取り掛かった所で球磨と長良を呼び出し、家具の運び出しを始めて貰う。

 

「朝飯前だクマー」

 

「軽い軽い」

 

 続々と運び出される家具が廊下に鎮座していった。1階で待機している人員を召集し、中身を全て開け放っての掃除と殺虫剤噴霧が繰り返される。

 

「あら、能代ったら意外に大胆なの持ってるわね」

 

「このブラウスはクリーニングですね。ある程度綺麗にしたら間宮さんにお願いしましょう。結構高いんですよ、これ。でも能代さんがどう思うか……」

 

「ちょっとさぁ、このスカートは短すぎるんじゃない?」

 

「もう皆! 能代の服を広げてあれこれ言わないで!」

 

 廊下で大井・大淀・北上・阿賀野が何かで盛り上がっている。聴こえないフリをするのも大変だよ全く。

 

 しかし、大淀さんの言う通り連中のアレで汚れてしまった服は、クリーニングしてまで着たいだろうか。俺ならちょっと遠慮したいが、まぁ2度と手に入らないような物なら時間を置いてから着るかも、と個人的に思った。

 

「……ってこれじゃ廊下に出れねぇよ」

 

 いや、恐れるな俺。仕事で来てるんだから何も怖がる事はない。堂々と出ていいんだ。

 

「そちらどうですか」

 

 4人が居る方向を見ずに廊下へ出た。4つ目の部屋へ向かう。

 

「終わったぞ。殆ど死骸だけだったから何もしてないに近いがな」

 

「くそ、もっと早く来てりゃ良かったぜ」

 

 俺が外に出た事で、4人の顔が「あっ」となった。あからさまにバタバタし始める。

 

「では、後処理はそちらでお願い致します。掃除機掛けと諸々の回収が終わったらおいとましますね」

 

 廊下に張ったビニールを全て剥がし、部屋の中に残った燻煙剤の空容器を回収。空になった殺虫スプレーを掻き集め、死骸も黒いビニール袋に集約した。貸し出した手袋やゴーグル等の装備も纏め、部屋を水拭きして最後に忌避効果のある薬剤を部屋と廊下に噴霧する。

 

「この作業で完全に駆除出来たなら、もう姿は現さないでしょう。一応ですが、全階の廊下に同じ薬剤を撒いていきます」

 

 1階ロビーから最上階まで全ての廊下に撒いて回った。窓からは傾いた太陽が強烈な日差しを送り込んで来る。言葉は悪いがクソ暑い。

 

「うー、疲れた」

 

 後片付けも全て完了。撤収準備OKだ。外はゆっくりと暗くなり出している。

 

「ではこの辺で失礼します。何かあればご連絡下さい」

 

「寮長として、深く感謝致します。ありがとうございました」

 

 夕陽が照らす大淀さんはまるで何かのアニメのヒロインのようですな。とても美しい。

 

「ありがとうございます、これで妹たちに顔向けが出来ます」

 

「その前に私たちにも感謝してよね」

 

「あ、その件につきましては大変な協力を頂いて恐悦至極に存じます」(早口)

 

 阿賀野はもう大井に頭が上がらないようだ。謎の主従関係が出来ているらしい。

 

「請求書は後ほどお送りしますのでご確認下さい。ではこれで」

 

「はい、お気を付けて」

 

 ガラガラと荷台を押して駐車場へ向かう。車にあれやこれやを押し込み、敷地を出て帰路に着いた。今日のビールはとても美味そうな気がする。

 

(広樹です…………親父が全部飲んでやがりました。ちょっと海に沈めて来ます)

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