今年も手前と本作をよろしくお願い致します。
某日。俺は、溜まっていた領収書の精算やら、今度予定している駆除作業の日程調整だの、あちこち出入りしている企業向けに作った防虫対策ポスターを発注している制作会社とのやり取り等に忙殺されたまま、鎮守府で定期チェックを行っていた。
空母寮
「最近はどうですか」
「そうね、姿は見なくなったかしら。臭いもしなくなったと思うわ」
寮長であらせられる加賀様はそう仰った。確かに「ブルーライト」であちこち照らしても、連中の足跡が見つからない。
「ネズミ捕りの方は掛かっていますか?」
「例の嫌いな音を出す機械のお陰か全く掛からないわ。一度くっ付いて逃げ出した形跡もないから、本当にこっちへ出て来ていないみたいね」
しかし、まだ見えない場所に潜んでいる可能性は捨て切れない。これはもう少しばかり様子を見るべきだろう。そんな所で、携帯が鳴り出した。
「ああ、すいません。ちょっと失礼します」
寮から出て懐のメモ帳を広げる。番号は再来週に駆除を行う予定の会社からだった。
「お世話になっております、後藤田プロテクトクリーンです」
ワイヤレスのイヤホンマイクで通話しつつメモ帳へ書き込む姿を、行き交う艦娘たちが物珍しそうに見ていた。私はこれでもちゃんと働いているんですよお嬢さん方。勘違いして貰っては困ります。
「承知しました。ではその日程でお願い致します。失礼します」
通話終了。諸々を片付けて空母寮へと戻る。
「すいません、お待たせしました」
「忙しいみたいね」
「まぁ、自営業はこんなモンですよ」
その後は軽巡寮でチャバネールの残党調査や、駆逐寮で業務用ホイホイの交換も行った。気付けば時刻は15時近くになっており、ちょっとずつ陽が傾き出している。
「やばいなぁ……家に帰ると色々間に合わんぞ」
残務処理が大量にある状態で家に帰ると、不思議と仕事を妨害する力(親父のウザ絡み・急な駆除依頼とか)が強まるのだ。出来るなら鎮守府に居る間に色々と片付けてしまいたい所である。
「ちょっとお願いしてみるか……」
提督さんに電話した。雑務がしたいので、ちょっと場所を貸して欲しいとお願いしてみる。すると、司令部棟の一画に来訪者用の書き物スペースがあると案内された。俺は早速そこで店を広げ、ノートPCを立ち上げて雑務を始める。
「えーと、あっちの駆除日はこれでいいから……これはちょっと調整しないとな。げ、これ何の領収書だっけ。あー、こっちの見積もりもしないと」
ひぃ、忙しいよぉ。
「お忙しい所を失礼致します。後藤田プロテクトクリーンと申します」
日程調整よし。
「お世話になっております、後藤田です」
駆除日のブッキングが起こってないかの確認よし。
「ええ、はい。では料金の方はその額と言う事で。はい、ありがとうございます」
料金確定。
「……終わった」
作業終了。顧客関係書類に不備なし。日程調整も問題なし。経理(お袋)への提出書類も完成だ。
「あ、やべ。眠い」
安堵感からか、眠気が押し寄せて来た。今日はもう予定はないから、ここで少しだけ寝かせて貰おう。携帯のタイマーを1時間後にセットした俺は、近くにあるソファーで横になった。
「……さん、……田さん」
誰かに呼ばれている。ボーっとした意識のまま体を起こすと、右腕に「当番」の腕章を嵌めた吹雪ちゃんがこちらを見ていた。
「…………あれ、いま何時?」
「えーと……21時ですね」
やらかした。4~5時間も爆睡していたようだ。携帯には家からの着信が何件か入っている。
「……すぐに帰ります。とんだご迷惑を」
「あ、今は外に出ない方がいいかと」
「へ?」
「市内全域で停電が起きています。ここは自家発電で明るいですけど、町の方は信号も消えていて混乱が広がっているとニュースでやっていました」
外の景色を見た。敷地内は明るい所もあるが、街灯が何箇所か消えている。道路の方は送電が止まっているせいか、照明は全部消えてしまっていた。
「……マジか」
「復旧は朝になるらしいです。もし良かったら、今日はここに泊まっていきますか?」
信号まで消えているとなると、無事に家まで帰れる保障はない。警察が出張っているだろうが、何時もより危険になっているのは間違いないだろう。
「うーん、提督さんが宜しいのなら一晩お世話になるか」
って訳で、執務室までご挨拶にやって来た。
「申し訳ありません。寝過ごした挙句、ご厄介になるとは」
「いえいえ。何かで恩返し出来ないかと思っていましたので、これぐらいどうって事はありませんよ」
取りあえず夕飯をと言われたので、提督さんと食堂へ向かった。その途中、廊下で古鷹ちゃんと出くわす。
「こんな時間から作業ですか?」
「いや、仕事は終わったよ。残務処理してて寝ちゃってさ。起きたらこの時間でしかも停電だって言うもんだから、今日は一晩お世話になる事にしたんだ」
「あぁ、そうなんですね。確かに町の方へこの状態で帰るのは危ないですからね」
食堂へ到着。点いてない照明が幾つかあるが、そこまで暗い訳ではなかった。床のルート案内通りに進み、窓口へ並ぶ。
「あら、後藤田さん。今日はどうされましたか」
間宮さんはいつ見てもお美しいです。
「いやぁ残務処理でそのまま寝てしまいまして。それで起きたらこんな状況ですので、一晩ご厄介になる事にしました」
寝る場所は司令部棟にある客室を宛がって貰った。有難い限りである。
「復旧は朝らしいですものね。交通誘導があるとは言え、信号のない町中は危険でしょうから、賢明な判断だと思います。朝食はどうされますか?」
「食べに来ますから大丈夫ですよ」
「では朝の9時までに来て下さいね。ああそうそう、ご注文をどうぞ」
「そうですね、日替わり夜定でお願いします」
ここは何を食べても基本的に美味い。だが昼間しか利用した事がないので、日替わりの夜定は初めての注文だ。
「あっれぇ、何でこんな時間に居るの?」
「こんばんぽいぽい~」
白露&夕立コンビのご登場である。
「寝過ごして起きてみりゃ停電でね。信号の消えた道を帰るのは危ないから一晩お世話になる事にしたんだ」
「あー、車だと危ないもんねー」
「間宮さーん、オススメC定食お願いっぽーい」
「はーい」
オススメC定? 何所に書いてあるんだそんなの。
「あ、そうだ。この後って食べてお風呂入って寝るだけだよね?」
「まぁそうだな。する事もないし」
「じゃあさ、日付けが変わるちょっと前ぐらいに駆逐艦寮へ来てよ。みんなで面白い事する予定なんだ」
「間宮さーん、追加でお刺身と茶碗蒸しもお願いっぽいー」
面白い事? 何だそれは。ってか見た目は女子中学生の集団に、男が1人混じってる状況ってのはあんまり宜しくないんじゃないですかね。ってか夕立ちゃん結構食うなおい。
「……お邪魔して問題ないなら行かせて貰うよ」
「はい決定ー。みんなには言っておくからね」
何だか丸め込まれたような気分になる。そして夕飯と風呂を済ませた俺は、寝巻きとして借りた浴衣を着た状態で、23時半頃に駆逐艦寮を訪れた。
「こんばんはー」
「よっす。久しぶり」
「お久しぶりです」
ほっぺがムニムニしている2人組みと遭遇。敷波と綾波だったかな。
「暫くだね。んで、今日は何があるか教えて貰えるかな」
「それはまだ秘密だね」
「秘密で~す」
ちょっと怖くなって来た。予想が出来ないから色々と考えてしまう。そこへ、お菓子が沢山入った皿を抱える吹雪と時雨がやって来た。
「あ、来ちゃったんですか……」
「姉さんが無理強いしたみたいで、すいません」
「え、何かやばい? あれだったら早々に退散するけど」
「あーいえいえ、居辛くなければゆっくりしてって下さい」
「取りあえず、ご案内しますね」
ニヤニヤする綾波と敷波を尻目に、俺は時雨ちゃんの案内で部屋に通された。そこはかなり大きい部屋で、30人近い艦娘たちが屯している。
「ようこそ後藤田さん。駆逐艦寮月1恒例、怖い話大会の会場はこちらですぜ。ひっひっひ」
不敵な笑みを浮かべた白露ちゃんが出迎える。なるほど、そういう事か。
「怖い話ねぇ。俺、別にネタとか持ってないんだけど」
「まぁ何か思い出したらでいいよ。もしくは適当に見繕ってもいいしね。じゃあみんな、そろそろ始めるよー」
電気が消される。灯りは数本の蝋燭だけだ。
「じゃあトップバッター、誰かない?」
「ん、とっておきのヤツ」
黒髪のロングヘアで眠そうな顔の艦娘が手を挙げた。確か、初雪だったかな? ちゃんと会話した事はない気がする。
「ある所に、携帯ゲームの好きな人が居ました。そのゲームは課金する事でレアなアイテムが貰えたり、レアキャラを手に入れたりする事が出来ます。ある日、その人は道端で課金用のカードを拾いました。調べた所、まぁまぁの金額がチャージされている事が分かります。誰の物か分からないなら、使ってしまおうと考えたその人は、そのカードを使ってゲームに課金します。するとどうでしょう、幾ら課金しても額が減らないのです。これに気を良くし、その人は毎日のように課金し続けました。しかし、同時にその人は体調不良や精神の乱れを感じるようになります。でもゲームを辞める気はありませんでした。具合が悪い中、今日もやるぞと思って課金すると、その人は意識を失いました。結果、そのまま死んでしまったのです。死因は一切不明で、そしてそのカードも同時に姿を消しました。そう、それは持った人の寿命を削ってゲームに課金する、呪いのカードだったんです。今は誰が持っているのか、それは分かりません」
話し終わった初雪は満足そうな顔だ。しかし、これは怖いだろうか? その手のゲームはあんまりしないからどうにも……
「漣! アンタそういうゲームしてないでしょうね!」
「は、初雪ちゃん? 最近やってるゲームってそういうのなの?」
えぇ、怖がってるよ。確か曙と白雪だったか? どう考えても作り話だろこれ。
「作り話だから心配しなくていい。課金は専らキャリア決済だし」
「プリペイドカードはお店に行かないといけないから面倒でござる。漣もキャリア決済ですぞ」
何か異様に生々しい一面を見てしまった。忘れようと思う。
「まぁまぁかなー。次は誰かない?」
お菓子をつまみながら、何人かが怖い話をし続けた。真に迫る物もあれば、幼稚すぎて怖くも何ともない物まで色々だ。
「そして、お爺さんは言いました。お前の後ろにだああああああ!」
「ひぃ!」
「ひゃあ!」
あー、うん。何か微笑ましいなぁ。
「はーい、じゃあこの辺でスペシャルゲストの後藤田さんにも何かお話して貰いましょうか」
ここでキラーパスを出すか白露嬢め。どうしてくれよう。
「……じゃあ、1つだけ」
立ち上がって、全員を前にして座り直した。視線が集まるのを感じつつ、話を始める。
「これは本当にあった出来事です。ヨーロッパのある国で深夜、森の中で撮影をする2人の男性が居ました。彼らはこんな時間に聞こえて来る不思議な音の謎を探るため、森の中を探索しています。すると、地面に白い羽のような物が落ちているのを、映像に収めました。2人はその後も、森の中へどんどん進んでいきます。映像自体からその不思議な音は聞こえませんが、2人には確かに聞こえているようです。そしてある程度まで足を進めた時、カメラを持つ男性は暗闇の中で座り込む、異形の存在を捉えました。指で音を鳴らして見た所、ソイツはこちらを振り返って画面越しに目が合います。その目は煌々と光っていますが、同時にやせ細った骸骨のような見た目をしたその存在に驚いた2人は、一目散に逃げ出しました。これが、その時の映像です」
懐から携帯を取り出し、件の映像を全画面で再生させた。全員の目が食い入るように集中する。そしてヤツが振り向いて目が光った瞬間、部屋は悲鳴で支配された。
「映像はつきは卑怯よ! トイレに行けなくなるじゃない! このクズ!」
「何て物を見せるのよバカぁ! これじゃ眠れないわよ!」
「ねぇ! 敷波が目を開けたまま気絶してる!」
「ちょと不知火! くっ付きすぎよ!」
うーん、これはやり過ぎたなぁ。
「あ~、ごめん。ちょっとこれは卑怯だったね。じゃあ俺はそろそろ」
浴衣の袖を引っ張られた。隣に居た司会者の白露ちゃんが俯いている。
「おや? どった?」
「…………立てない」
「……え?」
「腰が抜けて立てない」
えーと、どうするべきかしら。
「……今日は皆で寝ようか」
大勢が頷いた。因みにこの映像は本物かフェイクか定かではない。しかし、何人かは信じてしまったようだ。
「ほら姉さん、僕に掴まって」
「だらしないっぽーい、映像なんだからそんな怖くないよー」
「あらあら、後藤田さんに落とされちゃったの?」
「そういう発言はしないでくれますかね村雨ちゃん」
「ごめんなさーい」
ゾロゾロと、参加した全員が自室から布団を持ち込んで来る。俺も客間から布団を運び込み、隅の方で寝る事にした。
「はーい、じゃあ電気消すよー」
修学旅行の引率の先生か俺は……
「「「おやすみなさーい」」」
無事、就寝。だが、何人かにトイレの付き添いを頼まれたせいでちょっと寝不足だ。まぁ、自分で蒔いた種だから文句は言いません。
件の映像は「スペインで発見された天使の映像」で検索すると見れます(某動画サイト)