鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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暗がりに潜む野生

 広樹です。仕事中とです。

 

「ではこちらの方にサインをお願い致します。後ほど請求書をお送りしますのでご確認下さい」

 

「ありがとうございました、経過はまたご連絡します」

 

 今日は隣の市まで来ていた。古めの雑貨店にネズミが出没するというので、侵入経路を見つけ出してそこに罠を仕掛け、毒餌や忌避剤を散布。これで少し様子見だ。

 

「さてと……どっかで昼飯にするかな」

 

 時刻は11時前。今なら人気のある店でも空いている筈だ。携帯で評価の高い店を探す。

 

「ラーメンは昨日食ったし……お、海鮮丼いいね」

 

 美味そうなのでそこに決めた。車を走らせ、店の近くにあるコインパーキングに停めて少し歩く。

 

「……あらぁ」

 

 昨今は珍しい物が落ちていた。この年になればどうって事ないが、昔はこれを拾う事に命を掛けたもんだ。思い返せば恥ずかしいが、男なら誰もが通る道だと信じたい。

 

「道端の エロ本尻目に 先急ぐ、字余り」

 

 今は昼飯が最優先だ。しょーもない事を口走りながら足を進める。人もまばらなうちに入店し、海鮮丼を堪能して車へ戻った。

 

「食った食った」

 

 午後のスケジュールを確認する。今日はこのまま地元へ戻り、定期チェックを5件ばかり回れば後はフリーだ。夕べは寝付きが悪かったから、今日は早めに店仕舞いして早寝するのもいいかなんて考えつつ、車を出した。

 

 

 そして残りの定期チェックが終わって帰る途中に大淀さんから連絡を受けたので、車を鎮守府へ向けました。正門でいつものやり取りを済ませます。

 

「お疲れ様です。今日はどうされました」

 

「はぁ、ちょっと見て欲しいと連絡がありまして」

 

 電話口で詳細を聞けなかったので、取りあえず車を停めて司令部棟へ向かう。その途中、凄い長身の美女2人と遭遇した。

 

「あら、間違ったらゴメンなさいね。後藤田さんかしら?」

 

「はい、そうですが」

 

「そうか、君が後藤田か。ウチの者たちが色々と世話になっているそうだな」

 

 この雰囲気、空母や重巡じゃないな。まさか戦艦?

 

「長門型戦艦1番艦、長門だ。以後よろしく頼む」

 

「2番艦の陸奥よ。姉ともども、よろしくね」

 

 うーん、戦艦で会った事があるのは確か伊勢・日向・榛名・霧島だけか。あっちはまだ一般人っぽい雰囲気があるけど、この2人は独特のオーラを放っていて正直少し近寄り難いです。

 

「ご丁寧にありがとうございます。提督さんには懇意にさせて頂いております」

 

「これからも皆と仲良くしてやってくれ。それでは失礼する」

 

「じゃあね~」

 

 長門さんの方はもし男だったら、俺なんかは足元にも及ばない美男子になるだろうな。陸奥さんはまぁ、あれが完成しているように思えるからそうはならない気がする。

 

「よろしくお願いします」

 

 2人を尻目に足を進める。司令部棟の前では、既に大淀さんが待ってくれていた。

 

「お疲れ様です。何時もすいません」

 

「まぁまぁ、自営業としてはこういう風にリピートして頂けるのは大変に有難い事です。それで詳細をお聴き出来ていないのですが、何がありました」

 

「上手く説明出来ないんですが、何か居るのは間違いないんです。取りあえず、着いて来て下さい」

 

 何か居る。はて、何が居るのだろうか。

 

 先導する大淀さんの後を着いて行く。途中で吹雪型一同や重巡勢とすれ違いつつ。敷地の奥へと足を勧めていった。

 

「あの倉庫です」

 

 大淀さんが指差す先には、引き戸式の大きな倉庫群があった。同じようなのが軒を連ねている中、1つだけドアがポッカリ開いているのが不思議と怖く感じる。

 

「……この中ですか」

 

「はい。それ程は広くないですけど、照明機器とかは無いので足元に注意して下さい」

 

 胸ポケットのペンライトを取り出して中に踏み込んだ。埃っぽいのに混じって、獣の臭いが漂っている。それに壁と床の接合部分には動物らしき足跡も確認出来る上、コロコロした糞もあった。強敵の予感がする。

 

「……で、何が出るんでしたっけ」

 

「ちゃんと確認出来た人は居ません。ここに出入りする者だけが目撃していて、情報ではとてもすばしっこいとか。それとこのように臭いが強くて、糞もあちこちに」

 

 積み上げられた段ボールや鉄製の箱の隙間を照らしていく。すると、何かが光りの中を横ぎるのが見えた。

 

「……うーん、もしかしたらイタチの類かも知れませんね。そうなるとちょっと面倒ですな」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、自治体への申請やら鳥獣保護法やらでかなり面倒です。自分の所で出来るのは、精々が追い払うぐらいですね」

 

 とは言え、呼ばれた以上は無視する訳にもいかない。取りあえず実態の把握に努め、知り合いのツテを頼って資格のある専門家を呼ぶ事にしよう。

 

「まず正体を確かめましょう。その上で、知り合いから専門家を紹介して貰おうと思います。下手に追っ払えば別の所に潜り込む可能性もありますからね」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 さて、何が居るのかその正体を暴いてやろう。取りあえず、もっと奥へ進んでみるか。

 

 同時刻。見回り中で倉庫の外を歩いていた加賀は、開けっ放しになっているドアが気に掛かった。

 

「全く、用が済んだら閉めなさいと何度言えば分かるのかしら」

 

 引き戸のドアがガラガラと音を立てて動き、倉庫を閉め切った。しっかり施錠もして、加賀は見回りへと戻って行く。

 

「……今、閉められました?」

 

「そ、そうみたいですね」

 

 一気に薄暗くなり、中に居た我々は青ざめた。入り口まで戻って確認するが、ドアは施錠されていてビクともしない。ベタな展開だが、これは冷静に考えると非常に怖い。しかも中には、まだ正体の分からない【もう1匹】が存在するのだ。

 

「……内鍵とかは」

 

「無いですねぇ」

 

「何か連絡手段」

 

「すみません。すぐ済むと思って何も……」

 

「携帯……車か」

 

 まぁ落ち着け。取りあえず回りを見渡そうぜ。

 

「……この窓は」

 

 出入り口の左右には、曇りガラスの窓があった。そこから僅かな光が差し込んでいる。

 

「鉄格子が入っています。そう簡単には……」

 

 地面はコンクリートだ。掘って脱出する事も出来ない。

 

「…………どうしましょうねぇ」

 

「そうですねぇ」

 

 大淀さんも苦笑いである。密室で大淀さんと2人っきりになれるとは嬉しいが、今は仕事中なので俺は動じない。

 

「この辺は誰かよく通りますか?」

 

「用のある者以外はあんまり……誰か通り掛かってくれるといいのですが」

 

 今は静まり返っているが、ここに潜んでいるヤツを刺激しないように、下手な事はしない方がいいかもしれない。大きな音でも出してビックリされると、混乱してこっちに襲い掛かって来る可能性もある。

 

「1分おきにドアを叩きましょう。下手に大声を出すと、威嚇されていると勘違いして襲って来るかもしれません」

 

「は、はい」

 

 薄暗い中、交替でドアを叩き付けた。しかし反応は全くない。どうしたものか……

 

「しかし臭いますね。窓を開けて換気しましょう」

 

 気付けば鼻を突くような獣臭いのが充満している。これは宜しくないです。

 

 窓を開けると、立派な鉄格子が現れた。新鮮な風が入って来て獣の臭いが薄れていく。同時に俺は、鉄格子の隙間から喋りながら外を歩いている3人組を発見した。

 

「……むぅ」

 

 思わず呻る。それもそうだ。だってその3人組の内、2人は村雨ちゃんに荒潮ちゃんと言う、謎の色気を発する駆逐艦(詐欺)だからだ。そして、2人の間に居る緑色のロングヘアーでいかにもギャルっぽい感じの艦娘。恐らく、この前やった飲み会で仲間の1人が言っていた鈴谷である可能性が高い。

 

(ここはお願いするか)

 

 男の声で呼び掛けるのは警戒心を与える可能性がある。女性の声ならば、危機感へ直結して気付いてくれるかもしれない。

 

「大淀さん、誰か居ます」

 

「本当ですか?」

 

 もう片方の窓を開けた大淀さんは、3人の姿を確認すると呼び掛けを始めた。思惑通り、すぐに気付いてくれる。

 

「鈴谷さーん、ここでーす」

 

 あぁ、やっぱり鈴谷なのね……

 

 キョロキョロする3人は、鉄格子から手を振る大淀さんを見つけると駆け寄って来た。

 

「淀っちじゃん! 何してんの!」

 

「誰かが鍵を閉めてしまったようです。すいませんが、執務室からここの鍵を持って来てくれませんか」

 

「オッケ! 急いで持って来るね!」

 

 そう言うと鈴谷は駆け出した。村雨と荒潮をこの場に置いて……

 

「あらあら大変、どうしちゃったのかしら~」

 

「やだ後藤田さんったら。大淀さんを密室に連れ込んで何をする気だったの~?」

 

「牢屋に居るみたいで弁明するのも気が引けるけど仕事で来てるからね! 俺は!!」

 

「そんな格好じゃあ説得力ないわよ~」

 

「いけない後藤田さんは、このままここで服役して貰いましょうね~」

 

 嗚呼、誰でもいいから話の分かる子が来てくれ……頼む……

 

「もう何でもいいから助けてくれ」

 

「鈴谷さんが鍵を持って来るから、もう少し待ってね~」

 

 ニンマリする荒潮ちゃんであった。

 

 その時、不意に気配を感じた。後ろを振り向くと、細長くて茶色いのが舌打ちのような鳴き声を出しながら近付いて来るのが見えた。間違いない。コイツはイタチだ。あの鳴き声は威嚇だろう。

 

「マジか……これはヤバイぞ」

 

 可愛い見た目の割に獰猛で爪も鋭く、挙句にすばしっこい。コイツと一戦交えるのは御免だ。こっちが大怪我してしまう。

 

「ご、後藤田さん」

 

「動かないで下さい。刺激しないで」

 

 周りに何か無いか見渡す。残念だが何も無かった。ちくせう……

 

(……おっ)

 

 胸ポケットに固い物があった。定期チェックで最後に行った会社の担当者に渡しそびれた、試供品の小型殺虫スプレーが入っていたのを思い出す。万一の時はこれで何とかなるかもしれない。

 

「……来いよイタ公。虫に効くってのは、回りまわって哺乳類にも効くんだぞ」

 

 折り曲げ式のノズルを展開させる。この試供品は成分が強く、1~2秒の噴射で民生品が5秒噴射した量に相当する威力があるのだ。間違いなく撃退出来るだろう。

 

「ギャッギャッギャ!」

 

 イタチの威嚇する声が響く。小さいクセに凄まじい威圧感だ。

 

「淀っち! 今開けるね!」

 

「大丈夫ですか!」

 

 提督さんもやって来たようだ。ご迷惑をお掛けして申し訳ないです。

 

「ギャッギャ!」

 

 ジリジリと距離が詰まる。こっちが抵抗する仕草を見せないからいい気になっているようだ。

 

「なにくそ!」

 

 コンクリートの床を思いっ切り足で叩いて大きな音を出した。ビクッとなったが、あまり効果はないらしい。

 

「開けるよ!」

 

 ドアが開いた。まず大淀さんを逃がすため、イタチの前面に殺虫剤を撒く。

 

「ギィ!」

 

 倉庫の奥へと一目散に逃げていった。鋭敏な嗅覚を逆手に取れたようだ。大淀さんも俺も外に出たので一安心である。

 

「早く閉めないと!」

 

「ああ、すいませんがそれは止めて下さい。意図的に閉じ込めたりすると、法令に引っ掛かりますので」

 

「え、そうなの」

 

「雌は狩猟禁止なので意図的な閉じ込めや捕獲が出来ないんです。あれが雄なら狩猟対象になるので閉じ込めも出来ますが、残念ながらどっちか分かりません。ですので、ドアは開けておいて下さい」

 

 俺自身、危ない目に遭ったので納得は出来ないが、法令は遵守しなければ商売出来なくなるのでここは割り切る事にしよう。

 

「ご迷惑をお掛けしました」

 

「いえいえ、無事で何よりですよ」

 

 取りあえず正体は分かったので、親父の知り合いで害獣駆除の専門業者をしている人間に連絡を着けた。駆除日を仲介し、当日の立会いもする事で一旦この場を収める。

 

 

数日後……

 

「こちらが自治体への申請書です。ご確認下さい」

 

「拝見します」

 

 提督さんが専門業者の渡した書類の内容を検める。俺はその光景を見つめていたが、誰かに肩を叩かれた。

 

「チッス、この前はちゃんと自己紹介出来なかったね。最上型巡洋艦、3番艦の鈴谷だよ」

 

「ああ、後藤田です。と言ってもここの皆さんは大体ご存知ですよね」

 

「あがのんが原因で軽巡寮が戦国時代になったのを平定した有名人だもん。名前だけは轟いてるよ」

 

 あれ、ギャルっぽいと言う情報もあったが、何だか気さくで意外に話しやすい。ってか戦国時代って……

 

「確認しました、よろしくお願いします」

 

「では作業の方を始めさせて頂きます」

 

 鈴谷に断りを入れて、俺も手伝いのために加わった。まずイタ公を燻り出すため、中に煙幕を発生させる機械を設置する。それが終わると、出入り口に仕掛ける大きな罠を用意した。

 

「でっかいですねこれは」

 

「本来は猪なんかを捕獲するヤツだからな。これなら逃がさないさ」

 

 煙幕の機械を作動させ、充満する前に外へ出た。罠を出入り口に置いて準備は完了である。

 

「おーおー、暴れてやがる」

 

 中で走り回る音が聞こえた。1つしかない出口を求め、イタ公は罠の中へと真っ直ぐ飛び込んで来る。見事に捕獲成功だ。

 

「なんかあっけないね。あんなにバタバタしてたのが嘘みたい」

 

「まぁ、色々あったからね」

 

 片づけを済ませ、業者は相変わらず威嚇を繰り返すイタ公の収まる罠を携えて撤収した。俺はと言うと……

 

「ほんとーに何もなかったの~?」

 

「正直に話しちゃいなさいよ~」

 

「だから仕事であそこに居ただけだってば」

 

 小腹が空いたので間宮さんにお邪魔していたら、村雨&荒潮に見つかって根掘り葉掘り聞かれる羽目になった。ここって持ち帰りとかしてないんですかねぇ……

 

(広樹です。イタ公と威嚇しあってる時、大淀さんが作業着を摘んで来たのは墓場の下まで持っていく秘密にします)

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