鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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甘味を求めてⅠ

 ウッス、後藤田広樹です。今、市民センターに来ています。狩猟免許の講習会があるんです。

 

「……分かってはいたが、この年齢層の差よ」

 

 どうやら20代は俺だけのようだ。あとは40~50代のおじさん方で埋め尽くされている。ぶっちゃけ、居辛いです。

 

(これも店のため。事業拡大のためじゃ)

 

 この前みたいに、自分の手に負えない存在にも今後は可能な限り対処出来るようになるため、俺は狩猟免許の取得に踏み切った。

 と言っても、俺が取ろうとしているのは猟銃や空気銃の方ではなく、わな猟の免許だ。さすがに鎮守府の敷地内とは言え銃をぶっ放すのは宜しくないだろうと考え、労力も経費も少なくする方法を模索した結果だった。いずれは親父にも取って貰う予定だ。

 

「兄ちゃん若いねぇ、幾つだい」

 

 おじさんに急に話し掛けられた。何ですかいきなり。

 

「四捨五入したら30ですね」

 

「随分と範囲が広いね。そしたらおじさんは四捨五入したら70だな」

 

 取りとめもない世間話をしているとアナウンスが鳴った。それぞれ受ける講習の種類が違うので、教室も必然的に別々となる。おじさんと別れ、その日の講習を終えた俺は家に帰った。

 

 

後日

 

 午前中の外回りを終え、家に帰って昼飯を済ませ問題集を捲っている時、誰かが俺を訪ねて来た。

 

「えーと……次の写真の内、使用可能猟具と禁止猟具を振り分けよ。1、くくり罠。2、トラバサミ」

 

「おーい広樹。お客さんだぞ」

 

「午後交替まであと1時間ありますが」

 

「お前にお客さんだ」

 

「……え?」

 

 誰ですか一体。取りあえず立ち上がり、店の方へ出る。すると、入り口に女性が立っているではないですか。可愛いと綺麗がいい感じに混ざっていて美しいです。しかし、そのスカートはちょっと短すぎるんじゃないですかね……

 

「……どのようなご用件で」

 

「姉が大変なご迷惑をお掛けしたと聞き及び、そのお礼に参りました。誠にありがとうございます」

 

 姉? どちらの?

 

「……失礼ですがお名前は」

 

「あ、申し遅れました。阿賀野型軽巡洋艦2番艦、能代と申します」

 

 能代? あぁ、例の妹か。容姿は何となく似てるけど性格が全く違うのね。

 

「あーあー、その後は問題ありませんか?」

 

「はい。その場に居なかったもので、どんな状況だったのかは解りかねますが、現在は特に問題ありません」

 

 まぁ、知らない方がいい事もあるでしょう。俺の口からは何も言えません。

 

「もし何かあればご連絡下さい。可能な限り速やかに対応しますんで」

 

「ありがとうございます。こちら、もしかしたら食べ慣れてらっしゃるかも知れませんが、宜しければどうぞ」

 

 両手で提げていた紙袋を差し出された。これはアーケード街の方にあるデパートの独自ブランドで、そこそこいい値段のする和菓子だ。

 

「ご丁寧にありがとうございます。頂きます」

 

 有難く頂戴した。大事に食べます。

 

「ではこれでお暇させて頂きます。お仕事中、失礼致しました」

 

「いえいえ。寮の皆さんに宜しくお伝え下さい」

 

 互いに会釈し、彼女は立ち去った。俺も菓子折りを抱えて店に戻る。

 

「お、美味そうだな」

 

「まず俺が貰うからな」

 

 取りあえず冷蔵庫に仕舞った。

 

「いやぁそれにしても可愛い娘だった。どんな関係だ?」

 

「鎮守府絡み」

 

「また鎮守府か。あんなに可愛い娘がゴロゴロしてるなら、お前もちょっとは一歩踏み出して関係を進めてみろ。この甲斐性なしめ」

 

「喧しいわ」

 

 よくよく考えてみれば、機密の塊そのものと言える艦娘と交際なんて出来るのだろうか。分からんとです。

 

(……そう言えば間宮さんって人間? 艦娘?)

 

 うん、考えてはいけない事だな。止めておこう。それよりお勉強お勉強っと。

 

 数日後。鎮守府から相談したい事があるとの連絡を受け、俺は車を走らせた。正門で毎度のやり取りを終え、駐車場に車を停めて降りる。色白で長い黒髪に、何所がとは言わないがご立派なのをお持ちの方が待っていた。

 

「扶桑型戦艦、1番艦の扶桑と申します。ご足労頂き、ありがとうございます」

 

 老舗料亭の女将かと思うような雰囲気だ。話す早さもゆっくりで、何所となく上品な気がする。

 

「初めまして、後藤田と申します。本日はどう言った案件でしょうか」

 

「私どもの寮でお話しを致しますね。こちらへどうぞ」

 

 何だろう。消え入りそうな儚いものを感じる。古い映画とかで、病床に臥せっているヒロインのようなイメージが浮かんだ。

 

 そうしている内に辿り着いたのは、戦艦寮だった。あちこちの窓が開け放たれており、布団が垂れ下がっている所も多い。掃除でもしているのだろうか。

 

「中へお入り下さい」

 

「お邪魔致します」

 

 戦艦寮には初めて足を踏み入れる。通されたのは、小さな会議室っぽい部屋だ。そこには、4人の艦娘が座って待っており、その内2人は見覚えがあった。と言うこの前会ったばかりだ。

 

「よく来てくれた。まぁ、取りあえず座ってくれ」

 

「お茶を淹れてくるから、ちょっと待っててね」

 

 長門と陸奥の事はまだ記憶に新しい。残りの2人は面識がなかった。

 

「大和型戦艦1番艦、大和と申します」

 

「2番艦の武蔵だ。武勇伝は聞いているぞ」

 

「後藤田です。武勇伝なんて滅相もない事で」

 

 椅子に座る。ほぉ、この2人が大和型か。かつて世界最大最強と謳われた戦艦。幾ら俺がアホでもそのぐらいは知ってるぞ。

 

 全員にお茶が行き渡った所で、例の相談を聴く事になった。長門が話を進める。

 

「実はだな、2日後に視察の予定があるんだ。そのための掃除をしている最中に発覚したんだが、炊事場の一角に大量のアリが入り込んでいる事が分かった。備品の殺虫剤を撒いたんだが、次から次へと姿を現すので辟易してしまってな。そこで君の知恵を借りたいんだ」

 

「アリですか。因みに色は」

 

「黒だな。外でもよく見掛ける種類だと思う」

 

 って事はまずシロアリの線は無いな。それはそれで一安心だ。

 

「ふーむ、何か餌になるような物が放置されていたりは」

 

 それを口走った瞬間、大和の顔が赤くなった。どうやら原因は彼女にあるらしい。

 

「まぁ、そうだな。大和」

 

「あ……ご説明します」

 

 長門に名指しされた大和が、恥ずかしそうに話し始める。

 

「えーとですね……お菓子を作るのがその、趣味と言いましょうか、なんですが。この前、ケーキの生地を作っていて、ボウルを誤って落としてしまいまして。それで一部が冷蔵庫とかの隙間に入り込んで、多分その掃除が不十分だったために、何所からがアリさんが入り込んで」

 

「あぁ、その辺で結構です。大体分かりました」

 

 美女がモジモジしながら話すのは可愛いですね。いい物が見れました。

 

「そうですね。恐らくそれが原因の1つと考えていいでしょう。話しを掘り下げて申し訳ありませんが、過去にも何度か同じ事をしていませんか?」

 

「……えぇと……はい」

 

 真っ赤になって俯く大和を見て、陸奥がクスッと笑った。うん。可愛いですね。

 

「では現場の方を見ても宜しいでしょうか」

 

「ああ、行こうか」

 

 炊事場へゾロゾロと向かう。俺は4人の中心に挟まれて歩いた。

 

(……何となく分かってたけどさ、皆さん大きいですね)

 

 四人とも男性の平均身長より頭1つ抜けて大きい。そしてとても立派です。何所とは言わないが……

 

 そうている内に、炊事場へ辿り着く。一見、綺麗にはされているようだ。

 

「どの辺ですか」

 

「あの大きな冷蔵庫と食器棚の辺りだ」

 

 巨大な業務用冷蔵庫が鎮座している。戦艦の皆さんも結構な量を食べられるようですね。

 

「ちょっと失礼します」

 

 件の場所へ近付いていく。すると、目に見えて動き回っているのが確認出来た。結構な数である。

 

「これは中々の数ですね。外から入って来てるのも居るでしょうが、何所かに巣を作っている可能性もあります」

 

「巣か、それは厄介だな。視察の日までに何とか出来るだろうか」

 

「取りあえず、動かせる物を動かして何所まで侵入されてるか調べましょう」

 

「よし、力仕事は任せて貰おう」

 

 武蔵が指の骨を鳴らしながら前に出た。軽々とは言わないまでも、それなりの力を使って棚を少しずつ動かし、等間隔に空間を作っていった。

 

(棚ってあんな簡単に動くモンだったかなぁ……)

 

「どうした。これで調べられるだろう?」

 

「あぁ、すみません。ありがとうございます」

 

 ペンライトを取り出して隙間を照らす。食器棚は手前から数えて4つあるが、アリを確認出来なかったのは1つ目までだった。2つ目からはチラホラ、3つ目はそれなりに、4つ目はどう言葉にしていいものかと迷うぐらいの状態になっていた。

 

「失礼ですが大和さん、この辺でよく落としていませんか?」

 

「……そうですね、ケーキの生地を冷やすために冷蔵庫へ入れようとして、何度か落とした事も」

 

 まぁ、隙間に飛び込んだ物は掃除し難いでしょう。何回かやってるなら、尚更にこびり付いて固まってる事だろう。それを偶然にでも入り込んだアリが見つけ、一部でも持ち帰れば後は団体さんとなって押し寄せるのは当然だ。

 

「分かりました。まずは燻煙剤か何かでこれ等を除去し、一度徹底的に掃除する事をオススメします。加えてアリの棲息地を特定し、ここへ入って来れないようにする対策も必要でしょうね」

 

 さて、今回は「相談」で鎮守府に来ました。無料なのはここまでなんです。

 

「如何されますか。今回は相談ですので、申し訳ありませんが作業となると料金が発生します」

 

 因みに前回のイタチ騒動の時もお金は取っていない。あれはそもそも業務適応外の案件だし。

 

「そうだな。時間があればこちらでも出来るが、何せ2日しか時間がない。ここはお願いしようと思うが、皆はどう思う」

 

「私は賛成よ。と言うか、私たちだけじゃこれは手に負えないわ。相応の知識と技術を持った人に頼むべきね」

 

「私も同感だ。ここで51cmをぶっ放した所で、一掃出来る訳でもないだろう」

 

 うん? 51cm? 何の話しですか?

 

「是非お願いします。私もお手伝いしますので」

 

「うむ。では正式に仕事として依頼しよう。2日で何とかして貰えるだろうか」

 

「そうですね、上手くいけば中に入らせないようには出来るでしょう。取りあえず、道具を持って来ますので一旦失礼させて頂きます」

 

 お仕事決定だ。店に戻って、色々と必要な道具をピックアップする事にしよう。

 

「提督にはこちらから話しをしておこう。重ね重ね、よろしくお願いする」

 

「頼むわね」

 

「分かりました、お任せ下さい」

 

 こうして俺は戦艦寮から一旦出て、車に乗り込んで店に戻った。道具を積んでから鎮守府へとんぼ返りする。

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