鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

26 / 86
古新聞の記憶

 広樹です。今日は定休日です。何を思い立ったか、部屋の押入れを掘り返して掃除中です。

 

「げ、自作CDか。黒歴史は処分じゃ処分」

 

 中坊の頃にレンタルショップやら友達のCDを借りて作った、好きな曲だけが詰まった最強ラインナップ(笑)のCDが出土した。今思えば恥ずかしい事をしていたもんだ。捨ててしまおう。

 

「この箱はー、あー、河原で拾った色んな物(意味深)か」

 

 そう、河原と言えば色んな物(意味深)が落ちているのだ。明らかに年数の経った物から、つい最近に捨てられたであろう物まで幅広い。これは人目に付かないよう処分しようと思う。

 

「えーとこれは……うわ、取ってあったのかこれ」

 

 古い新聞がたくさん出て来た。これは俺が住んでいる町の地方紙だ。

 

 月日は今から8年前。そう、現実には起こらないであろう事が、我々の前に姿を現した年だ。1枚捲るだけで、目に飛び込んで来る見出しの数が脳の処理速度を上回る。

 

「インド洋封鎖、喜望峰ルートの輸送船団壊滅、シーレーン防衛失敗、ハワイ諸島の島民避難作戦、昭和基地通信途絶で安否不明 経済大打撃、酷いもんだな」

 

 この世界がおかしくなったのは、専門学校の2年生になったばかりの頃だった。

 

 発端はよく知らないが、世界的に海難事故が多発したこの年。どうやらその原因は、未知の敵による仕業らしい事が判明。そいつ等は瞬く間に増え、気付けば人類は海から追い出されようとしていた。

 

 テレビや新聞で何度も見たが、魚のような形をしたのと、人に近い形をしたのが海を荒らし回る光景は、一般人が恐怖を覚えるのに十分過ぎる内容だった。お茶の間はテレビに釘付けとなり、言いようのない不安を感じる日々が続く。

 

 海に近付くなと言う政府の指示で漁業は中止を余儀なくされ、スーパーや商店街から魚が消えたのは今でも覚えている。

 

 世界中はこの事態に恐らく人類史上初めて一致団結し、大軍を組んで何度か大きな戦いが行われた。結果は殆ど惨敗。小さい集団を相手になら何回か勝ったとの報道もあったが、制海権の殆どを奪われた状態では焼け石に水だった。

 

 専門の同期生でも何人かはこの危機をどうにかしたいと学校を中退し、自衛隊へ入ろうとする者も居た。俺の場合は家の仕事が立ち行かなくなる方が困るので、言っちゃ悪いがその選択肢は眼中に無かった。まぁ、本気でやばくなったらそれも有りかぐらいには思ってた気がする。

 

 商店街は次第にシャッターを下ろす店が増え、町から人の姿が少しずつ減っていった。ウチはそれでも営業を続けていたが、当然の如く売り上げは落ち込んだ。

 

 隣県に住んでいる親戚の所へ一時的に身を寄せる事も考え始めた矢先。日本のある沿岸部が、例の化け物に襲われた。しかし、それを撃退したと言うニュースで世間は沸き上がる。それは少女の姿形をした、海の上を疾走して化け物を蹴散らす頼もしい存在だった。

 

 政府は彼女たちを「艦娘」と名付け、化け物を「深海棲艦」と呼称。これまでの状況が嘘のように改善され、各国は再び海へ繰り出し始める。漁業も再開されて町には活気が戻って来た。

 

 その後は艦娘の数も増え続け、日本の沿岸各所に彼女たちが住まう「鎮守府」が幾つも作られる。俺が出入りしているあの鎮守府も、3~4年ほど前に作られたものだ。

 

 ただ、彼女たちは深海棲艦に唯一対抗出来る存在のため、町と鎮守府の間には自然と溝が生まれていた。鎮守府の近くに居ると敵が襲って来ないだろうかと考える者も多く、互いの交流は事務的なもの以外、中々実現しなかった。

 

 そもそもこの辺では深海棲艦が確認された事もないので安全と言えば安全なのだが、そうは思わない人々も当然居た。そんな人々がこぞって想像を声高らかに叫ぶから、いくら向こうが門を開こうが、一歩踏み出すのはどうしても難しい状況が作られていった。

 

 その状況に転換期が訪れたのが約2年前だ。1人乗りの小型漁船で沖合いに出ていた高齢の漁師が急病を患い、身動き出来なくなっていたのを訓練中の艦載機妖精たちが発見。同じく近場で訓練中だった艦娘たちが急行し、漁港へ連絡を入れた上でその漁師を運び込んだ。あとは救急車で搬送され無事に一命を取り留める。これが切欠となり、町と鎮守府は少しずつ歩み寄り始めたのだった。

 

 運が良いと言えるのかどうか微妙だが、その漁師が漁業組合理事長の兄弟だった事も歩み寄りが始まった要素の1つだろう。

 

「俺が出入りするようになったのもそれぐらいの頃からだったか……月日が経つのは何とやらってね」

 

 あそこへ出入りするようになった切欠は何だっただろうか。よく思い出せないがまぁ、その内に話す事にしようと思う。

 

「……さて、続き続き」

 

 掃除を再開する。この古い新聞たちは取っておく事にした。

 

 いつか戦いが終わって、全てが過去の事として忘れ去られようとしても、鎮守府と言う一般人が覗き見る事の出来ない世界に触れて来た俺には、これを残しておく義務があると何となく思ったからだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。