鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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土竜って読める? その1

 後藤田です。今、山の中に居ます。罠猟の経験値を得るため、知り合いのツテを頼って専門家の所で勉強させて貰ってます。

 

 専門家のお名前は日義(ひよし)さんと仰います。60歳の大ベテランです。

 

「ここよく見てみろ。掘り返された跡があるだろ」

 

 日義さんが指差す場所をじーっと見つめる。確かに、何かしら手を加えられた形跡が確認出来た。

 

「……あー、葉っぱと土が捲られてますね」

 

「猪はこうやって、鼻先で土とか葉っぱ引っくり返して食い物を探すんだ。土がまだ乾き切ってないから、本当に最近掘り返されたばかりだろう」

 

 なるほど、こうやって猪の行動範囲を知るのか。流石に教本だけじゃここまでは学べない。

 

「ほれ、ここからそっちの木々が濃くなってる方に、何となく道が出来てるの分かるか?」

 

 言われて見ると、確かに何となくだが道と呼べなくもない物が形成されているのが分かった。地面が僅かに踏み固められているため、そこだけ他の地形よりも土の露出が多い。

 

「これが獣道ってヤツですか」

 

「そうだ。罠はこういう道の途中に仕掛けると、獲物が掛かりやすいんだ」

 

 その後、実際に罠を仕掛ける際の注意点や、どうやって仕掛けるかまでをやらせて貰い、この日は解散となった。罠に掛かった状態を見るためにその都度ここへ来るのは流石に遠いため、動画を撮ってそれを見せて貰う事にした。

 

「予定が合えば今度はクマ狩猟にでも連れてってやるぞ」

 

「ありがとうございます。また近い内にお願いします」

 

 どの県でもそうだが、狩猟の担い手は年々減少の傾向にある。そのせいか、思っていたよりも力の入った指導を受けてしまった。うーん、そこまで足を突っ込む予定はないんですがねぇ……

 

 それから暫く、月2回ぐらいのペースで日義さんの下を訪れ、罠を仕掛けさせて貰ったり狩猟の手伝いをした。残念ながら、まだ自分が仕掛けた罠には一匹も掛かっていない。山を歩き回るのは当然だが重労働で、野生動物にこちらの存在を悟られないよう行動するのは神経を使う。気付くと俺は、風が木々を揺らす音にも敏感になっていた。

 

 この状態で仕事も並行して行っている内に、鎮守府の定期チェックが終わった報告書を提督さんに提出した時、その微妙な変化に感づかれてしまった。

 

「……失礼ですが、お疲れですか?」

 

「ああ……いえ、ちょっと別件で色々と」

 

「家で言えないような事でしたら、良ければお話だけでも」

 

「いや、愚痴の類では無いんですよ。実はちょっと前に狩猟免許を取得しまして、経験値を得るためにベテランの方の所でご指導頂いてまして」

 

「狩猟免許……もしかして、イタチの件が原因ですか?」

 

 まぁ、分かっちゃいますよねー

 

「ええまぁ……その……ただこれは、事業拡大にも繋がりますから、あって損は無いかと思いまして」

 

「ちょうど良かった。実は相談だけでもと思ってた案件があるんです。まだ時間は大丈夫ですか」

 

「今日はこれで終わりの予定ですから、特には」

 

「では見て頂きたいものがあります。行きましょう」

 

 今日は大淀さんも加賀様も居ないらしく、執務室に施錠をして司令部棟の外に出た。

 

 暫く歩いて辿り着いたそこは、敷地の奥まった所にある倉庫群の一画だった。その中に、暖簾が掛かったまるで居酒屋のような佇まいの小さな建物がある。

 

「……こんな所に居酒屋が?」

 

「福利厚生の一環と言いましょうか、彼女たちだけで気兼ねなく騒げる場所も必要でしょう。それと、こういう事をしたいとの上申もありまして、敷地内なら良いかと許可を出したんです。どうぞ中へ」

 

 まだ営業はしてないようだが、提督さんは暖簾を潜って中に入った。俺もそれに続く。

 

「邪魔するよ。鳳翔さんは居るか」

 

「今は裏の畑に居ますよ」

 

「まだ営業時間じゃないわよ……あら、提督じゃない」

 

 中は完全な居酒屋で、カウンターの内側に見た事のない艦娘が2人居る。どうやら夜に向けて仕込みをしているようだ。

 

「2人はまだ面識がないな。こちらは後藤田さんだ。空母寮のネズミ退治だけじゃなく、各方面でお世話になっているのは知ってるだろう」

 

「後藤田と申します。度々お邪魔しております」

 

「軽空母の千歳です。ネズミ退治の件、ありがとうございました」

 

「飛鷹型航空母艦、飛鷹よ。ちょっと前に妹の隼鷹と会ったらしいわね」

 

 あぁ、酒臭いお方のお姉さんでらっしゃいますか。ってか妹さんの髪型ちょっと凄すぎません?

 

「実は例の件で来て頂いた。まだ分からんが、少しはマシになるかも知れない」

 

「そうね、このままにはしておけないし」

 

「鳳翔さんも困ってますから、解決出来るといいんですけど」

 

 何か勝手にハードルが上がっていくのを感じる。ちょっと待ってくらはい。俺はまだ猟については修行中の身なんですが……

 

「では行きましょう」

 

「は、はぁ」

 

 店の中を抜けて、裏側へ出た。そこには、家庭菜園と呼ぶにはかなりレベルの高い光景が広がっていた。野菜がどれもこれも立派に成長しており、素人目に見ても相当な手間暇を掛けている事が分かる。

 

「鳳翔さん、鳳翔さーん」

 

「はぁーい」

 

 優しい声の返事と共に緑を掻き分けて現れたのは、若妻のような雰囲気を纏う、小柄で落ち着いた感じの女性だった。

 

「どうされましたか?」

 

「実は例の件で、業者の方に来て貰いました。こちら、話しだけは何度か聞いているかと思いますが、害虫駆除業者の後藤田さんです」

 

「お世話になっております。後藤田です」

 

「まぁ、あなたが後藤田さんでしたか。航空母艦、鳳翔と申します。お噂はかねがね伺っております」

 

 あぁ、間宮さん的な存在かと思ったけど、しっかり空母なんですね。そう言えば間宮さんは人間……いや、だから止めておこう。考えるな俺。

 

「それでですが、何にお困りでしょうか」

 

「ええ。実はこのように、農家の方の真似事のようなものをしているのですが、ちょっと前から土竜が荒らすようになってしまいまして」

 

 漢字にするとかっこいい感じがするけど、これはモグラです。農家にとっては天敵のひとつで、農水省の発表によると年間の被害総額は一千万を超えるとか何とか。

 

「……なるほど。しかしお恥ずかしいのですが、実物を見た事も無ければ狩猟の方も最近始めたばかりでして、かなり時間が掛かるかと思われます。それでも宜しいでしょうか」

 

「それは構いません。ネズミもそうやって退治して頂きましたし、既に今日明日でどうにかなるものでない事は承知しています」

 

「人手が必要でしたら、遠慮なく仰って下さい。ここは多くの者が訪れる場所ですから、協力者を募れば全員が首を縦に振るでしょう」

 

 こうされては後に引けない。やるしかないようだ。がしかし、重要な問題がある。

 

 まだ料金の設定やら契約書類、必要な器具とかが何も用意出来てないんです。サーセン

 

「では、練習がてらと言う事でお引き受けします。ネズミより長丁場になる事は確実ですので、気長に待って頂けると幸いです。料金についても後ほど提示出来るようにします」

 

 新しい仕事が始まった。まず相手を知る事から始めなければならないだろう。

 

 モグラが掘り返した土の写真を幾つか撮り、一旦家に戻ってネズミの動向を探る時に使う小型カメラを引っ張り出し、それを畑の中に設置した。これは可能ならモグラの種類を調べるためである。

 

 更にネットや本で情報を集めつつ、自治体への申請準備やら何やらに奔走して早くも一週間が経過した。教本と睨めっこしながら法令関係についても調べ上げる。

 

「えーと……捕獲自体は許可が出れば問題ないと。殺処分等は原則としてこれを禁じ、県によってはレッドデータブックに登録されている場合もあるため……マジか」

 

 急いで調べる。モグラと一口に言っても、種類はそれなりに多いのだった。日本に生息するモグラは大雑把に4つの種類に分けられ、その中には本州に居ない物も含まれている。取りあえずカメラの映像を1度確認してみる必要があった。

 

 なので、今日も鎮守府に来ました。取りあえず食堂で腹ごしらえです。

 

「間宮さん、日替わりのB定食お願いします」

 

「はーい」

 

 最近はこの空間に居る事も慣れて来た。ちょっと露出が多い方々も、気にしなければ問題ない。

 

「その本は何ですか?」

 

 トレイを持って来た間宮さんに訊ねられる。俺が脇に抱えているのが気になったようだ。

 

「これは狩猟や関連する法令が書かれた本です。鳳翔さんの所の畑に出るモグラを退治する事になりまして、その資料もあります」

 

「あぁ、そうなんですね。あそこは私も時々手伝いに行っていますから、何とか出来ないかと思っていた所なんです。よろしくお願いしますね」

 

「まだ始めたばっかりでして、勉強しながらになりますが、せめて追っ払えるようにはする積もりです。じゃあ、頂きます」

 

 日替わりを抱えて席に着いた。取りあえず食事を済ませ、トレイを下げてから本を捲り始める。

 

「えーと……本州以西に住むのがコウベモグラ、東日本に多いのがアズマモグラと」

 

「何をしてるのかしら。今さら大学受験?」

 

「大学なんか行ける頭してないですよ。放っといて下さい」

 

 加賀様のちょっかいを受け流して調べ物を続けます。気付けば小1時間が経過しており、この辺で切り上げて鳳翔さんの所へ向かう事にした。

 

「どれ、そろそろ行くか」

 

 本を閉じ、纏めて脇に挟んで立ち上がった。食堂から出て一路、その足を進めていく。

 

 お店の入り口は仕舞っていたが、この時間帯なら誰か居るだろうと思って中に入る。

 

「ごめんください」

 

「あぁ、見に来られたんですね」

 

 中は鳳翔さん1人だった。裏の畑へ通して貰い、カメラの映像をチェックする。

 

「……お、映ってる」

 

 モグラが土を外にかき出す映像が記録されていた。殆ど一瞬しかその姿は映っていないが、夜間に地上を歩き回るのが確認されない事を考慮に入れると、ヒミズ属と呼ばれる部類ではないのが判断出来た。この種類は夜間に地上へ出る事もあるそうなので、日不見という漢字からヒミズと名付けられたそうだ。

 

「って事は……やっぱアズマモグラかな」

 

 棲息分布が本州であっても、特定の地域や高山地帯にしか居ないモグラも存在する。それらの情報から判断するに、やはりここに居るのはアズマモグラである可能性が高かった。

 

「うーん、果てしないなぁこれ」

 

 何かこう、もっと単純なのが最初の相手だったら嬉しかったなぁと思いつつ、調査を進めて行った。また長い戦いになりそうなのを実感する。

 

「はて、ここからどうやって捕獲、もしくは追い出す道へ繋げるべきか」

 

 この畑自体、何かで敷地を区切られている訳ではない。倉庫群の裏手にあるだけで、何も遮る物は存在しなかった。

 

「取りあえず許可が出次第に捕獲器を設置して、個体数を減らした後に超音波か何かで追い出す。後はブロック塀で外周を囲って……そこまで首を突っ込む必要はないか」

 

 一応の方針は固まった。カメラのメモリーカードを交換し、新たに増えたモグラ塚がないかを調べる。そうしている内に、鳳翔さんに声を掛けられた。

 

「お疲れ様です。お茶は如何ですか?」

 

「ああすいません。頂きます」

 

 店の中に戻ってお茶を頂いた。店内の雰囲気はとてもリラックス出来るようになっていて、とても居心地がいい。

 

「夜だけの営業なんですね」

 

「はい。私も昼過ぎまでは受け持ちがありますので、朝からと言うのはちょっと」

 

「それにしても、裏の畑は随分と立派ですが、何かその辺のご経験が?」

 

「いえいえ、全て我流と言いましょうか、調べながらですね。料理に使う野菜ぐらいは、新鮮な物をと思いまして」

 

 調べながらでもあそこまでやるのは凄い事だ。儲けになればとそこまで考えずに狩猟の道へ首を突っ込んで、ヒーヒー言っている俺とは大違いである。

 

「なるほど。おっと、長居してしまいました。そろそろ失礼致します。また近い内に様子を見に来ますね」

 

「はい。宜しければ、夜のお店にも来て下さいね」

 

「タイミングが合えば是非。では、失礼します」

 

 店から出て駐車場へ向かった。車に乗り込み、鎮守府を後にする。

 

「取りあえず……ホームセンターでも行って捕獲器があるかチェックだな」

 

 無ければ何所かに発注すればいいが、近場で手に入るならそれも一考だ。車をホームセンターに向けて走らせる。

 

 




以後、土竜回は何話か挟んだ後に進行していく不定期の更新となります。ご了承願います。
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