鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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血ぃ吸うたろうか

 どうも、広樹です。何か急に暑くなって来ましたね。夏と言えばやっぱ相談件数が増えるのは【蚊】です。何でか網戸を掻い潜り、レビューで☆5つの市販品が効かなく、どうにか出来ないかとの電話が増えます。

 

 業者が言うのもなんですがね、やっぱ蚊帳が最強だと思うんですよ(職務放棄)

 

 そんな事を顧客に言えばお袋にキレられるので言いませんけどね…… ああ、電話が鳴った。

 

「お電話ありがとうございます、後藤田プロテクトクリーンです」

 

『もしもし! ホームセンターで買った充電式の虫除けが効かないんだけど、何とかならないの!?』

 

 いや、知らんわ……

 

「えーとですね、商品名の方を伺いたいのですが」

 

 暫くやり取りが続く。俺はそのホームセンターのカスタマーサービスじゃねぇぞこの野郎とでも言いたいが、下手に貶めるような事をすれば全国展開チェーン店の圧力で商店街ごと消え去る可能性もあるので、商品の特性やら何らを丁寧に説明して納得頂いた。

 

「……外回り行こうかな」

 

 心にダメージを負った俺は、お袋に「ちょっと出て来る」と伝えて店を出た。車に乗り込み、定期チェックの日が近い所を適当に見繕って、順番に回る事にした。

 

「さて、次は何所へ行くか……おっと」

 

 携帯が震え出した。番号は鎮守府からである。

 

「もしもし、後藤田です」

 

 モグラの件で何かあったかとも思ったが、別件で見て欲しい事があるそうだ。ちょうどいい。ついでに間宮さんの所で甘い物を頂いて、このズタズタになった心を癒すとしよう。

 

 そんな訳で、毎度お馴染みのやり取りを終えて駐車場に車を停めました。

 

「ご無沙汰しております、後藤田さん」

 

 そこには、暫く会っていなかった大淀さんがいらっしゃいました。

 

「何か久しぶりですね」

 

「出張で少しここを空けていました。ちょっと前に戻って来たばかりなんです」

 

「そうでしたか。いいですねぇ、うちなんて精々が隣県ですよ。しかも経費は雀の涙なんで行って帰って来るだけですからね」

 

 他愛ない話をしながら目的地へ向かう。今日はお馴染み、駆逐艦寮での仕事だ。

 

「所で、何がありましたか」

 

「実は先週ぐらいから、蚊が大量に入り込んで来るようになりまして、駆逐艦の娘たちが酷い目に遭っているんです」

 

 ロビーでは、6人の艦娘が待っていた。まだ会った事がない娘たちである。

 

「睦月型1番艦、睦月です」

 

「2番艦、如月よ」

 

 む、駆逐艦詐欺の匂いがする。村雨ちゃんや荒潮ちゃんの同類か?

 

「後藤田です。蚊にお悩みだとか」

 

「妹たちが凄い刺されちゃって、大変なのです」

 

「何所からあんなに入って来るのかしら」

 

 2人の隣に居る4人は、痒そうに体を小刻みに動かしていた。しかしこの娘たち、他の駆逐艦に比べて随分と小柄である。海防艦よりは大きいがしかし……

 

「ボクは皐月、もうあちこち痒くてさぁ」

 

「6番艦、水無月だよ。足の裏まで刺されちゃってね。とっても痒いんだ」

 

「望月で~す。痒すぎてマジ面倒~」

 

「菊月だ……痒くなど、ない」

 

 いや、めっちゃ我慢してますやん。

 

「もう毎晩よ。寝不足も重なって、そろそろ精神的にも辛くなって来てるわ」

 

「何とかして頂けると助かるのですぅ」

 

「うーん。取りあえず、部屋を見せて貰えるかな。あと空調の図面とかあると助かるんだけど」

 

「図面はご用意しますね。2人とも、お部屋の方に案内してあげて」

 

「お任せにゃしぃ!」

 

 にゃしぃ? ……まぁいいか。人の語尾に文句を付けてはいけない。

 

「こっちよ」

 

 ちっこい2人に連れられて、階段を登り始めた。辿り着いたのは3階である。

 

「この一列が私たちのお部屋なのです。それで、皐月と水無月はこっち、望月と菊月はここです」

 

 1人1部屋のようだ。少し前に耳にした事があるが、希望すれば2人部屋にも出来るとかなんとか。

 

「じゃあちょっと失礼するよ」

 

 皐月の部屋から調査を始める。まず視界の中で蚊が入って来れそうなのは、メインの窓だけだった。開錠して窓を開けると、目の前でプーンと甲高い音が鳴る。

 

「おっと」

 

 急いで窓を閉めた。しかし、それにも関わらず耳元で同じ音が鳴る。

 

「え、どっから入りやがった」

 

 取りあえず移動し、ポケットに入っている小型殺虫スプレーを構えた。これは試供品だが、メーカーの話しではそろそろ商品化される見通しだそうだ。そうすればここにも配る事が出来るだろう。

 

「……くそ、見失ったか」

 

 部屋中を見渡す。窓の他に蚊が入って来れそうな所を探すが、可能性があるとすればエアコンと天上にある換気孔ぐらいである。しかし、それ等も十分に侵入ルートとなり得る存在だ。

 

「全部の部屋が同じ作りだとすると……やっぱあのどっちかだよな」

 

 一度部屋を出た。大淀さんがそこへタイミング良く、空調の図面が収まったファイルを持って来てくれたので中を確認する。

 

「……読めるんですか?」

 

「記号とかは分かりませんけど、要は外から中へどう繋がっているかが読み取れればいいんです。前にビル内の保育所で、ハチが何所からか入って来ると相談があったので行って見たんですが、何所にも巣が見当たらなくてあちこち探した結果、こういう空調ダクトの中に巣が見つかったんですよ」

 

 暫し図面を眺める。エアコンの室外機は全て地下にあるようなので、そこは侵入ルートでなさそうな事が分かった。それ以外では、建物の基礎部分に幾つか通気孔が見受けられる。その内の1つは、4人の部屋がある方向に面していた。

 

「……大淀さん。因みに蚊の被害はこの4人以外で確認されていますか?」

 

「それが、不思議な事に1階から4階まで、左右に若干の幅はあれど一定範囲からの報告が多いんです。それ以外は全く報告がなくて」

 

 どうやら、その一定の範囲に蚊の誘引を引き起こす何かがあるようだ。調査を続行するべく、広樹と大淀は屋上へ出た。

 

「うぇ、何かもう真夏見たいな日差し」

 

「日陰はまだ涼しいんですけどね」

 

 屋上は特に問題なさそうだ。とても綺麗にされている。

 

「ここは違うか。じゃあ次は地下に行って見ましょう」

 

 今度は地下の機械室へ向かう。そこは電気関連の設備や室外機で満たされていた。

 

「……まぁ、違うよな」

 

「まず蚊そのものが居ないですね。こんな乾燥した空間では、数を増やせないでしょうし」

 

 どうやら原因は外にあるようだ。しかし、蚊が増えるには水辺か何かが必要な筈である。海水でも増えるらしいが、駆逐艦寮は海から一番離れた場所にある寮だ。なので、海側に近い他の寮からの報告がない所が解せない。

 

「何だ、何が原因だ」

 

「一旦戻って、次は外を調べてみましょう」

 

 寮を出て、建物の外に何かないか調査を開始する。表の方には当然何もないが、裏側に回った時、それは姿を現した。

 

「…………あのドラム缶は」

 

「ああ。あれは冬になると、駆逐艦の娘たちが雪玉を当てて遊んだり、秋は落ち葉を集めて燃やして、何か焼いて食べたりするのに使ってるんです」

 

「なるほど……因みにこっちの古い建物は何ですか?」

 

 駆逐艦寮の裏手には、古い小学校を思わせる木造の建物があった。随分と年季が入った感じである。

 

「この敷地自体、かなりの広範囲を切り開いて作られた物である事はご承知と思いますが、これはその区画の中にあった大昔の小学校だそうです。初期の頃は、駆逐艦寮として使われていたと聴いています。外見はあれですけど、内装はそれなりに新しくされているとか」

 

「旧棟って事ですか。いやぁ、雰囲気ありますね」

 

 何かこう、小学校を舞台にしたホラーな映画に出て来そうな感じだ。いやそれより、今は仕事じゃ仕事。

 

「待てよ……ドラム缶か」

 

 そのドラム缶は、4人の部屋がある場所のちょうど中間に鎮座していた。この一定の範囲で蚊の報告が多いと言う事は……

 

「……戻りましょう。もしかすると、あのドラム缶が原因かも知れません」

 

 駐車場まで走って、仕事道具を台車に乗せて駆逐艦寮へと戻った。蜂退治にも使うネット付きの帽子を被り、手袋を嵌めて肌の露出をなくす。続いて業務用殺虫剤の充填されたタンクを背負い、噴霧器を片手にドラム缶へ近付いた。

 

「おーおー、すげぇ数」

 

 近付くに連れて蚊の羽音が多くなっていく。視界にもあからさまに飛び回っているのが確認出来た。ドラム缶まで辿り着いて本体を揺らすと、中でチャプチャプと水音がする。

 

「ちょっと失礼しますよ~」

 

 木の重しが乗った蓋を開けると、中は雨水が溜まっており、蚊の天国(意味深)になっていた。これはひどい。

 

「こんな所でも増えちまうんだな。まぁ、場所が悪かったと思ってくれ」

 

 まず殺虫剤をそこら中に噴きかけ、飛んでいる蚊を撃墜していく。それが終わったらドラム缶の中にも噴きかけ、ついでに強力な薬剤を投入した。これでボウフラが羽化する事はないだろう。

 

 因みにだが、ボウフラ自体は益虫だったりする。何とですね、汚い水を綺麗にしてくれたりするんですよ。まぁ羽化すると厄介な存在になってしまうんですが……

 

「よし、撤収」

 

 次はダクト内に入り込んだ蚊を一掃せねばらならない。それと同時に、暫くは基礎部分の通気孔も塞いでおいた方が良いだろう。

 

「戻りました。飛び回っているのは粗方ですが片付けました。あと、裏にあるドラム缶の中でボウフラが発生しています。薬剤を入れましたので明日にでも中の水を全部廃棄して下さい。以後は雨水が溜まらないよう対策をお願いします。これで大分良くなる筈です」

 

「ありがとうにゃしぃ!」

 

「裏のドラム缶が原因だったのねぇ。あとで司令官に報告しておかないと」

 

「これでぐっすり眠れるよ、ありがとう!」

 

「良かったねさっちん。水無月も嬉しいな」

 

「あざ~す」

 

「礼を言う」

 

 続いて、ダクト内の蚊について説明した。これは提督さんとも話し合って、近い内に日取りを決めて一斉駆除を行う事となる。

 

 蚊なんて放っておけば餓死するんじゃと思ったそこのあなた。春先に家の中で弱々しく飛んでいる蚊を見た事があるでしょう? 連中は越冬するんですよ越冬。これも含めて排除しなければ仕事が完了とは言えませんぜ。

 

「日程については後ほどこちらから提督さんに連絡しますので、その決定に従って下さい。それと在庫処分って訳でもないんですが、余ってる忌避剤のスプレーを何本か置いていきますので、通気孔に吹きかけたりして見て下さい。これで殆ど入って来なくなるでしょう」

 

「ありがとうございました。今日は何所か回られますか?」

 

「この前に見たばかりですからね。あと半月はいいでしょう。自分は間宮さんの所にちょっと寄って小腹を埋めてから帰ります」

 

「分かりました。では、私もこれで失礼致します」

 

「お疲れ様でした。またその内に」

 

「はい」

 

 大淀は台車をゴロゴロと押して去って行く広樹を見送り、自分も踵を返して足を進めた。とその時、ある事を思い出した。

 

「…………あ、そう言えば間宮さんも」

 

 

甘味処 間宮

 

張り紙【出張のため一週間ほどお休みします よろしくお願いします】

 

広樹の心境 (´;ω...:.;::..

 

 この世には神も仏も居ないようだ。悲しみに打ちひしがれ、何だかちょっと涙も出て来た。

 

「……帰るか」

 

 すごすご帰ろうとした所、大淀さんが追い掛けて来ました。

 

「すいません、間宮さんがお休みなのをすっかり忘れてまして」

 

「ああいえ……大丈夫です」

 

「これ、出張のお土産の余り物なんですが、もし良かったら」

 

 差し出された紙袋の中には、見た事のない店名が書かれた箱が入っていた。

 

「現地では有名なお菓子屋さんで、1日数量限定の物を運良く買えたんです。中は小分けにカットされたバームクーヘンが3つほど入っています」

 

「これ高そうなヤツですね。いいんですか?」

 

「はい。とっても美味しいですよ」

 

 やばい。女性から何かを貰うのが久しぶり過ぎて変な顔になりそうだ。

 

「では有難く頂きます」

 

「気を付けてお帰りになって下さいね」

 

 紙袋を小脇に抱えて駐車場を目指した。内心は飛び上がりたい気分だが、そうもいきません。取りあえず道具を片付けて車に乗り込んだ。

 

「…………どっかに寄って食おうかな」

 

「ゴイッショニドウデスカグライキガルニイエンカネ」

 

「カタイナァニイチャン」

 

「いやぁ今日もいい天気だ」

 

「オ、ムシカコノヤロウ」

 

「エンストサセチャウゾ」

 

「さーて帰りましょうかね」

 

 無視して帰ります。お疲れさまでした。

 

 気軽に言えんか、だ? 気軽に言えるかそんなもん!




露骨に暑くなって来ましたね。水分補給等に注意してお過ごし下さい。
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