また少し、日数が経った。罠の数も整い、必要な道具も揃っている。モグラ塚の再調査も終わって怪しい場所の目星も付いた。そして、今日はついにこれ等の罠を仕掛ける日なのだ。
「えーと、モグライッチバーンが10個、モグラトリマースが同じく10個、超音波発生器モグラバイバイが4個、スコップ小さいのが10個、大きいのが5個と」
それぞれを数えながら店のワゴンに積んでいく。過不足はない。準備完了である。
「では行きますかね」
久々の曇り空で涼しい中、鎮守府へ向けて車を走らせる。子供たちは夏休みだが、大人にそんな贅沢は許されない。自営業は尚更だ。
あ、因みに当店のお盆休みは暦通りとなりますのでご了承下さい。
そんな訳で大体11時頃、本日も鎮守府にやって来ました。
「今日は涼しいですね」
「低気圧が近くに居るらしいですよ。雨が降るかも知れませんのでご注意を」
リストに名前を書いて警備の人に返す。車を敷地内に入れ、来客用の駐車場に停めた。端の方では提督さんと鳳翔さんが出迎えに来ている。
「おはようございます。日差しがなくて有難いですね」
「いや全く。日差しが有ると外に出るのも一苦労ですよ」
「今日はよろしくお願いしますね」
「上手くいくか分かりませんが、出来る限りはやりたいと思います。では行きましょう」
仕事道具を抱えて3人でお店まで向かった。建物の前には既に何人かが待機している。鳳翔さんが集めてくれたメンバーのようだ。
「よぅ、久しぶりだな」
まず眼帯が特徴的な天龍が居ました。接しやすくて有難いです。
「あたしのこと覚えてるかい? 空母寮の厨房で会ったよねぇ」
あー、確か隼鷹さんでしたかね。今日も若干ですが酒気が漂っております。
「陽炎よ。ってさすがにもう覚えてくれてるわよね」
まぁ何度も顔は合わせてるから既に覚えてます。
「不知火です。本日は宜しくお願い致します」
こっちは相変わらず目付きがキツイですね……
「ポーラで~す。鳳翔さんの美味しい野菜を食べちゃうモグラ退治、お手伝いしま~す」
いや食害は出てないんですけど手伝ってくれるのはうれし……って酒くせぇ、隼鷹さんの比じゃねぇぞこれ……
「おいポーラ、また昼間っから飲んでんのか」
「今日は出番じゃないですしぃ、今は飲んでないから問題ありませんよ~」
「まぁまぁいいじゃない天龍ちゃんよぉ。今日ここに居る面子は出撃の枠に入ってないんだからさぁ」
「そうですよ~、本来はお休みなんですよ~。だからお酒飲んでてもいいんですよ~。ねぇ~提督ぅ~」
なんつー屁理屈だ……
「ポ~~ラ~~」
後方から凄まじい殺気を感じる。振り返る間もなく、1人の艦娘がポーラに飛び付いた。それはザラである。
「休日平日を問わずお酒は夜だけにしなさいって何度言えば分かるのかしらぁ?」
「う、嘘です。本当はジュースなんです。スパークリングなジュースなんです」
「じゃあ部屋に転がっていたこの瓶はなぁに? 適量にしなさいって何時も言ってるわよね」
「え~と、それはですねぇ」
明るくて元気な印象の彼女があそこまで怒りをむき出しにしている光景に思わず身震いがした。全身から何かのオーラが湧き出ている。
「ザラ、今はその辺でいいだろう。ポーラは自らこの手伝いを申し出てくれたんだ。言い方は悪いかも知れないが、酔ってウロウロしてるよりはいいじゃないか」
「でも提督!」
「人を分別のない大酒飲みのように言わないで下さいよザラ姉さま~。私だってお仕事してる時は飲んでませんよ~。それに鳳翔さんのお店の危機は、皆で救うべきじゃないですか~」
「ポーラさん、いつも美味しそうに飲んだり食べたりしてくれるので、とても嬉しいです」
「く、鳳翔さんにもそう言われると強く出られないわ……」
ザラはようやく握り締めていた拳を緩めたのだった。
「と言う訳で、頑張ってお手伝いしま~す」
「よ、よろしくお願いします」
今はそれしか言えませんでした……
「えーとそれでは、諸々の説明を行います」
ザラも加わった合計6名のメンバーが今日の手伝いとなった。畑の現状と、器具の取り扱いについて説明していく。
「まずこちら。筒状の器具ですが、モグラが中に一定の部分まで入ると返しが作動して、外に出る事が出来なくなります。これをモグラが移動するため主に使っている場所、本道と呼ばれる道に仕掛けます。一旦地面を掘り返して、設置した後にまた埋め戻しをします」
これは比較的簡単な部類だ。皆にお願いするのは主にこっちの設置作業になるだろう。
「もう1つありますこちら。モグラがたまにしか使わない道、支道と呼ばれる方に仕掛けます。これは取っ手の部分を中央に押し込むと爪が開いて、その中心部にある仕掛けが作動するとモグラを捕獲出来ます。ただ扱いが難しいのでこっちは自分がやります。皆さんには筒状の方と超音波発生器の設置をお願い致します」
筒状の器具がモグライッチバーン、爪が開く方がモグラトリマースだ。前者の仕掛けは誰でも出来る。しかし後者はコツがいるので、下手に扱うと自分の手が挟まれる可能性が高い。
「それで畑の状況になりますが、恐らくメインに使っている道が7本。支道が4本と推測されます。ただ、日が経つと他にも道が出来ている可能性がありますので、調べながら進めたいと思います。では行きましょう」
全員を引き連れて畑に出た。まず他に道が出来ていないか探る。
「えーと……これは違うな。こっちは……おっと」
新しい道を見つけた。目印を置いた所ではない場所の土が盛り上がっているのが分かる。
「好き放題だな。まぁ餌のミミズが居るって事は、土が良いって証拠らしいからな」
簡素な図面に新たな道を書き込む。一度見つけた場所は全て書き込んであるので、これを見ながら罠の設置を行うのだ。
「はい。まず超音波発生器の設置から始めましょう。これを畑の四隅に置いて貰えますか」
太い釘のような形をした物を取り出した。これが超音波発生器モグラバイバイである。
「スイッチとかは無いんだな?」
「上のカバーを外すと自動的に電源が入ります。ソーラー式なので、昼間の内に充電されます。夜も月明りである程度は充電出来るそうです」
「民間さんも最近は技術の進歩が凄いねぇ。熱燗を自動で作ってくれる装置とか開発されないかな」
「いやそれは無理だろ」
苦笑いの天龍が隼鷹にそう言った。それを尻目に、不知火がモグラバイバイを手に取る。
「四隅とはこの石で仕切られた中の四隅で宜しいでしょうか」
「うん。その外に仕掛けても意味はないからね」
「お任せ下さい」
不知火は石で仕切られた畑の中に入った。一番手前、右側の隅に仕掛けようと屈むが、その瞬間に不知火の左足が土の中に没した。
「!?」
「あ、そこにも道が出来てるみたいだね」
「なるほど、上から踏むとそうなっちゃうんだ」
「し、不知火に何か落ち度でも」
「あー、いいから早く足上げなさい。タオル持って来るから」
よっぽど恥ずかしかったのか、不知火の顔は真っ赤だ。陽炎はそれに構う事なく足を上げさせて靴下に着いた土を払っている。
「面目ありません」
「中じゃなくて外側から設置しようか。その方が安全そうだ」
取りあえず、畑の四隅に外側から超音波発生器の設置を終えた。続いてモグラの本道に罠を仕掛ける。
「じゃあまずお手本となります」
事前に作成した地図を見ながらモグラの道がない部分を通りつつ、本道の1つにやって来た。全員に見えるよう小さいスコップで作業を始める。
「道の方向に合わせて土を掘っていくと……この通り、何か空間がありますね」
我ながら上手く掘れた。土の中に明らかな通り道が見て取れる。
「おぉ、すげぇ」
「モグラの道なんて見たの初めてだよあたし!」
「見ようと思っても見られるものじゃないですしね~」
「ぬいぐるみとか図鑑でしか見た事なかったわ、こんな風にトンネルを掘るのね」
「へ~、これがモグラの通り道かぁ」
すいません皆さん、ちょっと近いです。右を見ても左を見ても可愛い&美しいが揃っていて目のやり場に困ります。
「それで、どのように仕掛ければ良いのでしょう」
おっとっと、意識を戻さなくては……
「ここにモグライッチバーンを埋め込みます。この時、両方の入口の下に土を少しだけ盛って段差を少なくして下さい。因みにこれは左右のどちらからでも入る事が出来ます。それと、仕掛ける際は手袋をして下さい。他の生き物の匂いがすると警戒されて罠に掛からなくなります。仕掛け終わったら、最後に埋め戻せばお終いです。あんまり強く踏み固めずにある程度の地固めで大丈夫です」
クリアファイルに挟んでいた地図を取り出す。新たに見つけた道も書き込んで更新しておいた。人数は6人居るので2人1組、3枚を渡せばいいだろう。同時に軍手も渡していく。
「この地図に書き込まれている星印、これが本道です。2人1組で手分けして設置をお願いします。もし何所かで地面を踏み抜いた場合は、何か印を付けておいて下さい。ペンもどうぞ」
「よーしやろうぜ隼鷹」
「合点承知」
「姉さま、頑張りましょ~」
「上手く出来るかしら。あ、ポーラ待って」
「行くわよ不知火」
「はい」
全員が散った所で、凶悪な外見をしているモグラトリマースの設置準備に入った。モグライッチバーンは何となく想像も出来るが、こっちは実際にやってみないと感触が掴めない。
「土を掘り返して……爪を開かせて」
ガキン! と金属音がした。少しだけビクッとなる。
「おーこわ。自分の腕挟まれたらと思うと恐ろしいな」
一番重要な部分の仕掛けを完了し、掘り起こした支道にセットした。土をゆっくり被せるが、地面の上には半分以上が露出しているので嫌でも目立つ。だがモグラが掛かれば地面に出ている部分も閉じるので、見た目としては凄く分かりやすい。
「きゃあ! ビックリした!」
「姉さまモグラの道を踏み抜いたんですね~、地図に印入れておきますよ~」
「ああ何だよ畜生、ここも道なのか」
「下手に動き回れないねぇ。陽炎と不知火も気を付けるんだよ」
「大丈夫でーす」
「二度と踏み抜いたりしません!」
不知火の声がちょっと面白かった。作業を続けていく。
約1時間後、無事に罠の設置が終了した。6人の作業自体は30分程度で終わるも、モグラトリマースの設置には思いのほか手こずってしまった。6人はその間に1枚の地図へ踏み抜いた場所を書き写して、最新の状態にしてくれていた。
「あぁ、すいませんね。お待たせをしました。地図もありがとうございます」
「これで無事に捕まえられるといいな」
「意外に疲れたねぇ」
畑に通ずる裏口から鳳翔さんが出て来た。
「終わったようですね。お昼の用意が出来てますから召し上がって下さい」
手を洗って道具を纏め、モグラバイバイのカバーも忘れずに取り外した。全員でお昼を頂く。
それから、少しだけ横にならせて貰った。6人は野暮用や仕事で食べ終わると共に店を後にしている。いい気分で微睡んでいると、突然「バチン!」と音がして飛び起きた。
「…………え?」
畑に出る。モグラトリマースの1つが作動しているのが分かった。まさかこんなに早く掛かるとは……
「……いや、掘り起こすのは早すぎるな」
ここで掘り起こしては意味がなくなってしまう。少なくとも2~3日はこのままの方がいいだろう。そうすれば大なり小なり結果が出る筈だ。
「取りあえず今日はお暇するか」
道具を店の外に出し、書き置きも残した。司令部棟にも立ち寄り、提督さんに帰る事を伝えて今日は帰宅する。
それから3日後。もう1度お店にお邪魔した。
「……すげぇ」
モグラトリマースが全部作動している。おまけに地面でひっくり返っているモグラが2匹。
「思ったより数が居たようですね……」
「ええ、私も驚きました……」
地図と照らし合わせながら畑を進んでいく。1つずつ回収していくが、実際には大した事なかった。モグラトリマースに掛かったのは1匹だけで、残りは作動しているものの逃げられたらしい。モグライッチバーンも2個だけに掛かっていた。
「結果としては5匹か。いやこの広さの畑で5匹は多くないか?」
モグラトリマースは手間も考えると非効率な気がしたので今回限りの使用とした。モグライッチバーンを本道と支道にもう1度仕掛けて様子を見る。
「初めてにしては多かったような気がします。また様子を見に来て、その都度に対処させて頂きます」
「ありがとうございます。今後も宜しくお願いしますね」
5匹は既に息絶えていたので、敷地の隅に埋めさせて貰った。また近い内に来て状況を確認する事にしよう。
駐車場に戻って車を出そうとする瞬間、電話が掛かって来た。相手は狩猟の勉強でお世話になっている日義さんからだった。
「もしもし、後藤田です」
日義さんは若干興奮気味だった。なんと、俺が仕掛けた罠にイノシシが掛かった事を教えてくれた。
「本当ですか! じゃあ今すぐに……」
待て待て。山までは50キロぐらいある。今すぐは難しい。
「えーと……明日か明後日にでもお伺いします。また連絡しますので、はい」
通話を終えた。ここに来て一気に経験値を得た気分に嬉しさも高まるがしかし……
「……まぁ、油断せず行きましょうねっと」
仕掛けた罠は複数あるから、どれに掛かってるかで偶然なのかどうかは判断出来る。ぬか喜びは禁物だ。
「取りあえず帰るか」
店に向けて車を走らせる。モグラ5匹とイノシシ1匹では、害獣駆除を店の仕事に出来ると胸を張って言える状況ではない。まだまだこれからだ。
(広樹です。精進するとです……)