広樹です。ある日、不思議なものに遭遇しました。
某月某日
【平素より当店をご利用頂き誠にありがとうございます。今後ともスタッフ一同、よろしくお願い申し上げます】
3人しか居ない家族経営で何がスタッフだよ畜生。と、親父が書いた横断幕用の原稿を見ながら思いました。近々アーケードでイベントがあるので、そこに設置する横断幕(商店街も1店舗につき1枚設置)に印字する文章を出せと町内会からのお達しがあったのです。
「捻りのない文章ですこと」
「じゃあお前が書け」
「お断り致します。外回り行って来ます」
店に親父を残して車に乗り込んだ。今日は4軒ほど回った後、鎮守府に行かなければならない。間宮さんのお店の裏手にあるゴミ置き場を荒らした犯人を特定するために仕掛けたカメラの映像チェックをする日なのだ。
『それでは最新のニュースをお伝えします。今月半ばに岐阜県白河村で目撃情報のあったツチノコですが、村では捕獲した場合に賞金として500万円を贈呈するとの発表を昨日に行いました。これによって今朝からツチノコを捕まえようとする人たちが村を訪れ、大きな盛り上がりを見せています』
カーラジオから流れるニュースに耳を傾ける。ツチノコとか子供の頃から騒がれてる割に正体は分からないし実物も未だ捕獲された事がないUMAだ。本当に居るんですかね。
「まぁ、既にUMAを上回る存在が海を荒らしてるから、こういうニュースが流れるだけ平和になったって事か……」
客先を回った後に車を鎮守府に向けた。毎度のやり取りを終えて来客用の駐車場に車を停めて必要な物を持って降りる。
「さてさて、正体は映ってるのかどうか」
間宮さんのお店を目指して歩き出す。その途中、倉庫と路地を仕切る草木が急にガサガサ揺れたのが気になった。
「……鳩かな?」
路地の脇にあった砂利から小さい目の石を拾って投げて見た。しかしそこからは何も飛び出して来ない。
「…………猫とかかな?」
試しに「ニャー」とか呼びかけるも反応はない。違和感は拭い去れないが間宮さんのお店に向けて足を進めようとした次の瞬間、何かが飛び出して来た。
「お?」
それは丸々と太った蛇のようだが、尺取虫のように何度も体を折り曲げて、その動きを続けたまま這って進み始めた。脳が何を見ているのか理解を拒んでいる内に、路地を横断して入った事のない施設同士の隙間に消えて行った。
「………つ、つ、つ」
ツチノコォ!?
「……500万、家の建て替えは無理でも補強ぐらいなら出来るか? いや、いい加減にボロくなって来たハイエースを買い替えるか? それか店舗部分の改装だけでも、いやいや、投資という使い方も」
小声で色々呟くも考えは纏まらない。取りあえず今のヤツを追いかけて隙間に取り付いた。胸ポケットに刺しているペンライトで中を照らす。
「どっか行ったか……まぁ仕方ない」
既に姿は見えなかった。もしかすると何かと見間違えた可能性もある。
「……はい、仕事しましょう」
スイッチを切り替えて間宮さんのお店に直行する。店先の腰掛けでは、ショートカットの艦娘……艦娘? とリボンでツインテールを作っている艦娘が寛いでいた。こっちには気付いていないので足早にお店へ入る。
「御免下さい」
「はい、ご注文は……あぁ、後藤田さんでしたか」
伊良湖ちゃんが居ました。
「御無沙汰しております。裏手に仕掛けたカメラの確認に来ましたが、その後は何か起きましたか?」
「やっぱり週に何度か、鍵を壊そうとした形跡が残っています。爪で引っ搔いたような傷もありますね。一応、触る前には消毒をして、鍵の開け閉めには軍手も使うようにしてます」
本格的にアライグマか何かである可能性が高いようだ。早く映像を確認して正体を突き止めてやろう。
「分かりました。ではちょっと裏の方へ失礼します」
「はい。お願いしますね」
店から出ようとした所、腰掛けで寛いでいた艦娘と鉢合わせた。
「後藤田さんですね。お急ぎでなければよろしいでしょうか」
「はい、何か」
「最上型重巡洋艦、三隈と申します。妹の鈴谷から伺っておりました」
「ネームシップこと姉の最上です。もしお世話になるような事があれば、協力させて下さい」
姉? 姉?? いや失礼、随分と似てないもので……
「あー、なるほど、そうでしたか。改めまして後藤田です」
「お仕事の前に失礼致しました。これで下がらせて頂きます」
「今後もよろしくお願いします」
「いえこちらこそ。では仕事がありますのでこれで」
店を出て裏手に向かう。しかしまぁ、あのギャルっぽい娘の姉とは思わなかった。それに一番の上のお姉さん、パっと見はほぼおと……いや、これは失礼だな。忘れよう。
カメラは三脚を立てて設置し、その隣に「監視中につき、触らないで下さい またカメラの前を遮らないで下さい 後藤田」と書かれた看板も置いてある。あんまり信用してないけど誰も故意に映り込んでないのを願うしかなかった。
「どれどれ」
録画を一旦ストップして記録された映像を確認した。昼夜撮りっ放しだが、夜の所だけを見れば済む。早送りしていると駆逐艦の何人かが指差しているのが映っていたが、幸いにもゴミ置き場を遮るような事はしてないので安心した。
そして時刻は深夜。自動暗視モードで撮影される映像の中に、犯人がしっかり映り込んでいた。
「……マジでアライグマだ」
見た目は可愛いけど実際は気性が荒くて鋭い爪と牙を持っており、そして知能も高い。それがアライグマの正体だ。狂犬病も媒介させる事があるらしいです。
性別は分からないが、ゴミ置き場を施錠している南京錠を両手で触っている。そして今度は噛み付いたり爪で引っ掻き回したりしていた。10分ばかりそれを繰り返したあとは諦めたらしく、画面の外へ消えて行った。
「よーしこれで本格的に対策が練れるぞ。捕獲機も大きいのを仕入れないと……ん?」
画面の端っこの方で何かがモゾモゾと移動しているのが見えた。さっき見たのと同じだろうか……
「……いや、これは忘れよう」
あれが本物かどうかは捕まえないと分からないが、それに労力を割いている暇は無い。しかし、気にならないと言えば嘘になる。だが、あれを追い掛け回して本業を疎かには……
「…………カメラをもっと遠くに置いてみるか」
映る範囲を広くして、アライグマがどの方向から来るかを探ると共に、あれの移動経路もついでに調べてみる事にした。
こうして俺は、人知れずツチノコ探しを始めたのであった。
数日後・自宅にて
『次のニュースです。岐阜県白河村のツチノコブームは久々の大賑わいとなり、500万円だった懸賞金を1000万に引き上げる等の発表が行われた事で、日本中からツチノコを探す人々が訪れています。近隣の大学等からも動物学調査チームが現地入りし、捕獲機やカメラを設置してツチノコの足取りを追っている模様です』
夕食時のテレビから例のニュースが流れている。箸が思わず止まった俺は、画面を食い入るように見つめた。
「ツチノコねぇ、蛇か何かだろ」
「トカゲだって言われてるらしいけどね」
ニュースを本気にしていない両親を尻目に、仕掛け直したカメラの映像が気になり出した。あれは本当にツチノコなのだろうか。それともお袋が言うように、トカゲの一種なのだろうか。
「どうした、そんなに固まって」
「……え、あ、いや、何でもない」
手早く食事を終えて食器を洗い、自室に引っ込んだ。明日また行って確認するとしよう。
翌日。平然を装って鎮守府にやって来ました。取りあえずお店にお邪魔します。
「おはようございます、間宮さん」
「おはようございます。先日も来られたと伺いましたけど……」
「スケジュールの都合でチェックに日が空きそうなので、先に確認する事にしたんです。バッテリーとメモリーカードも交換したいですしね」
「そうでしたか。じゃあ裏の方へどうぞ」
「失礼します」
さて、例の生物は映っているだろうか。内心、ちょっとワクワクしながら記録された映像を確認する。
「……映ってんなぁおい」
時刻は昨日の深夜だ。この前と同じように体を折り曲げながら移動している。
「向こうの方に消えて行っているのか」
ツチノコ(仮)が進んで行く方を見た。その先はよく分からない建物で、角を曲がった所までが記録されていた。
(カメラをもう1台増やして移動先を探るのもアリだな……お、アライグマも来てる)
本命(?)のアライグマも映っていた。こっちは毎度のように南京錠をガチャガチャしている。相当に執念深いようだ。
「……え、マジで?」
鍵が開かない事でアライグマは次の一手に出た。ゴミ置き場の隣にある木から屋根に上がろうとし、木を登っている光景が映っていたのだ。しかしそう簡単にいく筈もなく頑丈な屋根に阻まれてまた木を伝って地面に降り立ち、すごすごと帰って行った。
「んー、コイツの棲み処は下手すると建物の中かも知れないなぁ」
農村では屋根裏に棲み付くアライグマも居るらしい。そうすると、この敷地内の捜索範囲はえらい事になる。
「糞でも探して移動経路を探ってみるか」
この近くで人気のない場所や誰も出入りしない場所に、アライグマのトイレや休憩場所が出来ている可能性を考えて探索を始めた。そっちこっちの茂みや垣根をゆっくり搔き分け、時には頭を突っ込んで様子を探っていく。
「頭隠して尻隠さずを実践しているのかしら。殊勝な人ね」
後ろから幾度となく耳にした事のある声がした。どうせあなたでしょうねぇ……
「遊んでいる訳じゃないですよ。アライグマの痕跡を探ってるだけです」
草木から顔を引っ込ませて振り返る。いつものように涼しい顔をした加賀様と、見た事のない金髪美人&際どい恰好の不思議な髪色をした巨乳美人が佇んでいた。このお2人はどちら様でございましょうか。
「……最近来られた方ですか?」
「そうね、今この2人を案内してる最中よ。紹介するわ。Mr.後藤田、
「戦艦のサウスダコタだ、よろしくな。アメリカから来たぜ」
「私はホーネット、空母なの。よろしくね」
いかん、どっちも美人過ぎて言葉が出て来ない。何て言えばいいんですか!?
「あー、その、日本語でお話ししても大丈夫なんでしょうか?」
「難しい言葉はまだ分からんが、このぐらいの会話なら問題ないな」
「ええ、私もよ」
「そうですか。えーと、後藤田と言います。月に何回かここで害虫・害獣駆除をしていますので、加賀さんが言うように怪しい人間ではありませんから、気軽に挨拶して貰って大丈夫です。あ、それとですが、部外者ですので軍事機密になるような会話にはご注意下さい」
これは悩みのタネだった。何所まで俺が耳にして良い事なのかも分からないので、大体は聞かなかった事にしてやり過ごしている。
「おう、気を付けるぞ」
「私も注意するわね」
いやー美人だな。特にホーネットさん。元女優と言われても嘘に思えないです。
「では仕事に戻りますのでこれで」
「あ、待って。葉っぱが付いてるわ」
「え?」
頭をバサバサするが何も落ちて来なかった。何所にあるんでしょうか。
「肩の所よ。取ってあげる」
金髪美人が後ろに回り込んで、肩を優しく払ってくれた。なんだかとても幸せな気分になりました。
「OK、これでいいわ」
「あぁ……ありがとうございます」
「邪魔したな。また会おうぜ」
「じゃあ次は食堂を案内しようかしら。向こうよ」
3人は去って行った。そして、直ぐ横をホーネットさんが通り過ぎた時、とてもいい匂いがしました。
「……お仕事お仕事」
鎮守府にまた美人が増えました。嬉しい反面、やり難いなぁと思ったり思わなかったり……