本年も【鎮守府出入り業者の俺】をどうぞ宜しくお願い申し上げます。
アライグマを探すついでにツチノコ探しも始めたが、メインのターゲットはアライグマである。
記録された映像をパソコンで再生させ、画像に切り取ったのを印刷。これを鎮守府の中にある掲示板に張り出す許可を得た上で見出しやら何やらを書き込み、指名手配犯のようなポスターを作りました。
【アライグマ出没につき、戸締りにご注意下さい】
「……まぁこんなもんか」
司令部棟の掲示板に1枚。食堂にも1枚。各艦の寮に1枚ずつ。敷地内に点在する掲示板に1枚ずつ。入口の警備所にも渡すため、20枚近くを拵えた。これと並行して小さめのチラシも作り、遠回しにツチノコに関する聞き込みもして見る。
駆逐寮
今日は珍しい組み合わせに遭遇しました。チラシを渡した相手は朝潮&霰です。
「こういう訳なんだけど、何か他に動物を見たりしてない?」
「……いえ……特に」
「お役に立てず申し訳ありませんが、見覚えはないですね」
「そっか。まぁもし見かけたらでいいから、次会った時に教えてくれると有難いな」
「はい、承知しました」
「…………そう言えばこの前」
おっと?
「……何か見た?」
「夜中にトイレへ行きたくなって、廊下を歩いてました。そしたら、外をピョンピョン跳ねてる変な物が」
おー? これはひょっとして……
「霰、それは何時ごろ?」
「……眠かったから、あんまり覚えてない。見間違いだったかも」
「因みに外って言うのは表の通りの事かな?」
「はい……多分」
間宮さんのお店からこの寮まではそれなりに距離がある。夜中にそんな広範囲を動き回っているのだろうか。
「あ、朝潮姉と霰。おはよー」
「おはようですわ~」
見た事ないけど、何となく似ている2人が現れました。
「えーと? 妹さん?」
「はい。ご紹介します。5番艦の朝雲と6番艦の山雲です。2人とも、こちらは後藤田さん。害虫駆除をされている方よ」
「山雲です~、よろしくお願い致します~」
「朝雲よ。こう見えても山雲と霞、霰のお姉ちゃんなんだから」
「……姉がご迷惑をお掛けします」
「ちょっと霰! 何言ってんのよ!」
少し噴き出しそうになった。霰ちゃんも意外と面白いですね。
「2人は最近戻って来たばかりです。もう1人、峯雲と言う妹が居るんですが、タイミングが合えばご挨拶をさせます」
「まぁそんな気にしなくていいよ。所で2人は何か変な動物を見たりしなかったかな」
チラシを渡して説明する。だが2人は首を傾げた。
「見た事はないわね」
「そうね~、私もないわ~」
「出来たら他の娘たちにも聞いて貰えると嬉しい。これはちょっと多めに渡しておくね」
チラシを10枚程度配った。次は軽巡寮へ向かう。
軽巡寮
思い浮かぶのはチャバネ―ルとの壮絶な戦い。あれは凄かったなぁ……
「……さて、誰か居るかな?」
中に入った。相変わらず何かいい匂いがする。誰も居ない?
「すいませーん」
「はーい」
奥から誰かやって来た。赤と言うかピンクと言うか、混ざり合ったような色合いのショートカットが特徴的である。
「配達ですかー?」
「あーいえ、実は敷地内にアライグマが出没しておりまして、注意を呼び掛けているんです。それとこちらのチラシを配りに参りました」
チラシを5枚ほど手渡す。
「はいはい……あぁ、もしかして後藤田さんですか?」
「ええ。申し遅れました。後藤田プロテクトクリーンです」
「長良型5番艦の鬼怒です。長良姉と五十鈴姉と名取姉と由良姉と、上に4人も居るんで肩身が狭いんですよぉ」
フランクで話しやすそうだ。しかし一部分が特徴的なので見ないようにしなければ……
「4人もですか。自分は兄弟が居ないので羨ましいですね」
「それはそれで私が羨ましいです! あ、そうだ。もう1人居るんで呼んで来ますね」
少し奥へ引っ込んだ。連れて来られたもう1人は金髪のツインテールで、なーんか子供の頃にやってたアニメで見た事のあるようなビジュアルをしている。美少女戦士なんちゃらとか言うタイトルだったような……
「6番艦の阿武隈です……いや、私が会う必要あるの?」
声が凄く甲高いのでビックリしました。
「ご挨拶ご挨拶。ここの窮地を救ってくれた人だよ」
「あ~……私まだ阿賀野さんの部屋がある階は入らないようにしてるんだぁ。何かあの光景を思い出すと足がすくんじゃうの。でも、ありがとうございました」
「いえ滅相もない。それでお聞きしたいんですが、何か他に動物を目撃した事はありますか?」
残念だがこっちは収穫なしだった。次は重巡寮へ足を向け、続いて空母、潜水艦と渡り歩いて行く。だが何も情報はなかった。
「……もしかして俺の目にだけ見える謎の存在だったりして」
意外とあり得なくもない……いやそんな事があって堪るか。取りあえず戦艦寮へも行く事にした。
戦艦寮
目の前まで来た所で、伊勢&日向の2人組と出会った。この2人も接しやすくて有難いです。
「アライグマか……いや、済まないがコイツも他の動物も見た事はないな」
「こんなのが敷地の中に居るんだ。何所で寝起きしてるんだろうね」
それは俺も気になっている事です。
「Bonjour、イセ、ヒューガ」
美しい声が聞こえた。振り返る2人の隙間に居たのは、言葉を失うくらいの美人でした。
「あぁ、リシュリュー。丁度いい。この動物を見た事はあるか。それか、これ以外で他に動物を見た事がないか聞きたいんだが」
「これは……Raton laveur? いえ、私はないわ。他と言えば鳥ぐらいね」
「リシュリューはまだ知らないよね。害虫駆除……フランス語だと何て言うの?」
「英語でいいんじゃないのか」
「あ、そうか。えーと、Exterminatorの後藤田さん。たまーに来てるよ」
視線がこっちに来る。うわぁ、絶対に女優さんか何かでしょ。こんな人が艦娘な訳……
「Exterminator……あぁ外の方ね。初めまして、Monsieur後藤田。戦艦リシュリューと言います」
艦娘でした。
「後藤田と申します。よろしくお願い致します」
緊張しすぎてどんなやり取りしたか忘れました……はい……
「じゃあもし見つけたら、場所や時間帯も覚えておく事にするわ。それでいいかしら」
「はい。ご協力に感謝します」
3人と別れて寮に入った。ロビーで扶桑さんに遭遇する。
「本日はどのような」
「アライグマが出没しているようですので、注意の呼び掛けに参りました。それともしですが、他に野生動物を目撃していればお話を聞きたいのですが」
チラシを渡す。だが何かを思い出したような表情はしてくれなかった。
「そうですねぇ……ちょっと私には」
ここも収穫なしだ。思い切って司令部棟へ行って見る事にする。
司令部棟
「なるほど……2人はどうだ?」
「残念ですが」
「ええ……私も」
加賀&大淀の2人も見た事はないようだ。いよいよ行き詰まって来た。
「まぁもし見つけたらでいいのでよろしくお願いします。ではこれで」
取りあえずツチノコは忘れてアライグマへの対処を優先する事にした。こっちの方はいつ怪我人が出ても不思議ではない。
「えーと、罠の業者は……あったあった」
色んな罠を仕入れている付き合いの長い業者に電話し、折り畳み式の箱罠を取り寄せて貰うよう話を付けた。これを5個ばかり設置して様子を見ようと思う。
それから1カ月ぐらいは週に1~2回程度のチェックに留め、本格的にアライグマの捕獲へ力を入れていった。間宮さんのお店を中心に罠を設置して捕獲の確率を少しでも高めるのが良いだろう。同時にカメラも間隔を広くとって、アライグマに怪しまれないよう配慮した。
設置の初日。本日は許可を得て、泊り込ませて貰う事にした。寝場所は司令部棟の1階にある仮眠室をお借りしている。因みにこの部屋は窓を開ければ、少し遠いけどお店が見えるのだ。
「さてさて、アライグマは来てくれるかな」
そう言えばあれから、ツチノコらしき生物はカメラに映り込まなくなった。保存してある映像データにはしっかり映っているので少なくとも幻ではない事が分かる。
「……うん?」
双眼鏡でお店の近くを見ていたら、違う建物の屋根の上に誰か居るのが見て取れた。あれは何だろうか。
「…………人?」
人の形をしているが、本当に人だろうか。そんな事を思っていると、視線が合った気がした。咄嗟に双眼鏡から顔を離して身を隠す。だが部屋の灯りが煌々と点いているここは、嫌でも目立つ場所だった。
「こんな時間に起きている悪い子は誰かな~?」
窓の外から声がした。あんな場所から短時間でここまで来れると言う事は、間違いなく人間ではない。であれば艦娘の誰かだろうが……
「……失礼しました、害虫駆除業者の後藤田プロテクトクリーンと申します。本日はアライグマの罠を設置した初日でして、様子を見たいので泊り込ませて貰ってます」
覚悟を決め、両手を挙げて窓から見える所まで移動した。そこには髪を左右に短く結って、何所となく忍者っぽい恰好の娘が居た。
「…………あー、神通から聞いてたけど、私たちの寮からアレを退治してくれた人?」
神通、私たちの寮、アレを退治。そこから導き出される答えとしては、軽巡の誰かと言うのが一番近いだろうか。
「その節はお世話になりました。えーと、失礼ですが神通さんの……」
「姉の川内よ。川内型軽巡洋艦の1番艦。神通は2番艦。那珂は……長期出張中か」
もう1人、妹が居るようだ。すると3姉妹なのか。
「何か見られてるなーと思って走って来ちゃった。消灯の時間はとっくに過ぎてるし」
「……あのー……と言う事は其方も寝ないといけない時間帯では」
「私はいいの。許可も貰ってるから。夜っていいよね、夜って」
すいません、ちょっと何言ってるか分かんないです。出来れば俺も寝たいんですけどね。
「あ、邪魔してごめんね。そろそろ居なくなるから」
いや暫しお待ち下され。こんな時間に動き回ってるなら、アレを見ている可能性が高い。
「突然ですいませんが、アライグマを見た事はありますか? それと、他にも動物を見かけていたらお話を聞きたいのですが」
「ん~、この時間帯は野良猫とかも平然と入って来るしねぇ。それっぽいのはもしかしたら見た事あるかも知れないけど、何とも言えないかな」
ダメか畜生……
「なるほど……お引止めしてすいません」
「じゃあね」
目にも留まらぬ速さで消えた。あれが彼女たち本来の力なのだろうか。
「……監視再開っと」
時刻は24時を回ろうとしていた。残念だが、流石に初日で捕獲は無理だったらしい。適当な時間に切り上げ、布団に寝転んだ。
翌朝、ドアを何度も叩かれる音で目が覚めた。
「…………はいはい」
立ち上がってドアを開ける。大淀さんが居ました。
「あぁ、おはようございます」
「罠に何か掛かってます。早く行かれた方が」
「え……は、はい!」
一緒に司令部棟を飛び出し、罠の所まで走った。提督さん、間宮さん、伊良湖ちゃんの3人が罠を囲んでいる。
「すいません、朝早くからお手数を」
「こ、これは何の動物ですか?」
提督さんの声が上ずっている。え? もしかして?
(……お前かーーーい!)
罠の中には、最近足取りの掴めなかったツチノコ(?)が居た。体を中途半端に曲げて飛び上がろうとするが、天井部分に当たって全てが無駄な行動になっている。
「アライグマ……じゃないですよね?」
「蛇の仲間……ですか?」
間宮さんと伊良湖ちゃんも不思議な顔をしていた。拙い。出来ればこっそり捕まえたかったのにこれでは……
「……な、何でしょうねコイツは。確かに蛇っぽいですが」
一芝居打った。取りあえずこの場を収めなくてはならない。
「おっはよーございます!」
「っぽーい!」
白露&夕立コンビが現れた。いかん、面倒な事になりそうだ。
「何を見てるんですかー?」
「アライグマ捕まったっぽい?」
そして罠の中に居るのを見た2人は、途端にはしゃぎ出した。
「マジ!? ツチノコじゃん!!」
「本物っぽい!?」
「つ、ツチノコ?」
博識の大淀さんでもご存知なかったようだ。と言うか、興味なんてないでしょうね。
「やばいよこれ! 賞金貰えるやつ!」
「お金持ちになれるっぽい!」
「…………まぁまぁ、コイツは逃がしましょう。鎮守府の敷地でツチノコ捕獲なんて、地方紙ですら食い付くかどうかってネタですよ。それに散々っぱら調べて、やっぱりツチノコじゃなかったなんて事になったら笑われるだけです。仮に本物だとしても、この世には未知な部分があった方が面白いじゃないですか」
提督さんにそう語り掛けた。自分でも何言ってるかあんまり分かってない。
「……そうですね。こんな事で騒ぎを起こしたくないですし、上の手を煩わせるような事になるのもちょっと」
「下手をすれば、外出もままならなくなりそうですね」
大淀さんがそう言った事で、白露&夕立の表情が変わった。休日に出掛けられなくなるのは嫌らしい。
「……写真だけ……いや、動画も……いいですか?」
「ぽ、ぽい」
「個人の端末には残さず、データは全てこの場で共有サーバーに送る事。いいな?」
「「はい」」
2人はツチノコの写真や動画を撮り始めた。撮ったのは提督さんが見ている状態でどっかに送ったようだ。自分の端末から消す所までの確認が終わる。
「ここで見た事の口外は禁止とする。各自、そのように」
俺も……でしょうねぇ。
「……ではこれを山にでも放って来ます。生きるなら自然の中の方が良いでしょう」
「よろしくお願いします。ビニールシートか何かで覆いましょうか」
「そうですね、ありがとうございます」
罠を青いビニールシートで覆って、ゆっくりと車に積み込んだ。まだちょっと諦め切れてない表情の白露を尻目に車を出し、近くの山に入る。そこで下ろしてシートを外しながら罠を開け放った。
「ほら、行けよ」
ツチノコは豊かな自然を見ると同時に勢いよく飛び出した。嗚呼、500万が跳ねて森の中に消えて行く。惜しかったなぁ……
「アリガトウ」
「……え?」
今何か……妖精っぽい声がしたような……まぁいいか。
「……戻りましょうかね」
ツチノコはもう見えなくなった。ここは県で管理している山だから、そうそう見つかる事はないだろう。これで良かった事にして一度鎮守府に戻った。
「逃がして来ました。罠はまたここに仕掛けて宜しいでしょうか」
「大丈夫です。ありがとうございました」
白露ちゃんが微妙な顔でこっちを見ているが仕方ない。今日はこの辺で帰るとしよう。
以後、カメラにツチノコは映ってないし、罠にも掛かっていない。地元情報が見れる掲示板でも特にそれらしき書き込みはなかった。だがアライグマはまだ罠に掛かっていないから、根本的な解決にはまだ時間が必要そうである。