鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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ハイイロだけど黒とか茶色だったりもする その2

 レーベとマックスがコーヒーを淹れに行った事で由良と2人だけにされてしまった広樹。

 

(お湯が沸くまで数分。コーヒーを淹れるとして、インスタントなら1分かそこら。ドリップ式ならもう少し掛かるか。あんなプレハブの所に大層な物は置かない筈だから、コーヒーミルで豆からってのは無い……といいなぁ)

 

 取りあえず10分稼げばいいだろう。よし、まずは背伸びでもするか!

 

「ふん!」

 

 背中がバキバキと盛大に鳴った。気持ちいいがこれは人の耳に聞きこえるぐらい大きい。

 

「すごい音しましたね」

 

「いでで、前の仕事が立ちっ放しだったもんで。いや失礼、まさか聞こえるとは…………」

 

 あかん。もうキツイ。どうしよう……

 

「……そう言えば前にお会いした時と服装が違いますけど、何かあったんですか?」

 

 チャバネ―ルの時は白い学生服っぽい恰好だったけど、今は落ち着いた色合いの服を着ているのが気に掛かった。いや待て。これは機密に触れる事を聞いてないか? まずいかな?

 

「ちょっと前に新しい装備を頂いたんです。それで制服も変わったんですよ。改二ってご存知ですか?」

 

「カイニ? いえ申し訳ありませんが」

 

「私たちは色々な経験が一定のレベルに達すると、装備を新しくする事が出来るんです。その中でも更に高い練度を持っていると認められた時、改二と呼ばれる存在となって、制服や装備も新しい物が支給されるんです。私たち全員がそうなれる訳ではないんですが、そのための研究は日夜続けられていると聞いています。前の装備が良いって言う方は改二の認定を受けずに、そのままの物を使い続ける場合もあるそうです」

 

 喋って頂いているので聞いてるが、これはいいんだろうか……

 

「あ、因みに今のは当たり障りない事しか言ってませんから大丈夫ですよ。見学会でも言ってる事ですから」

 

「見学会。そう言えば情報誌に載ってましたね。月に1回でしたっけ?」

 

「2回やる時もありますね。次は来月の半ばだったと思いますけど、来られますか?」

 

「いやー普段から出入りしてるんで大体の物は見てますから結構です。顔見知りの娘たちと会ったら普通に声掛けて来そうですし、一緒に居る他の人たちから変な目で見られたりしたら多分その場から逃げ出したくなると思いますから」

 

 寧ろ見学会に顔見知りが居たらやり難いだろう。俺も何かギクシャクしてしまいそうだ。

 

 しかしどれぐらい経った? ぶっちゃけもう限界なんですが……

 

「待ったかしら? どうぞ」

 

「こっちは由良さんのです」

 

「あぁすいません。ありがとうございます」

 

「ありがとう」

 

 レーベとマックスがいい所でコーヒーを持って来てくれた。本当に有難いです。

 

「じゃあいただきます」

 

 いい香りだ。出先で出されるインスタントとは違う。とか思ってみるだけです。そんなに肥えた感覚は持ち合わせておりません。

 

 コーヒーを啜っていると、司令部棟に向かった2人が戻って来た。提督さんも一緒に来ている。

 

「お待たせしました、細部については提督とご相談下さい」

 

「実物を見たいんですが、よろしいですか」

 

「写真がありますのでそれを。今あそこに立ち入るのはちょっと危険ですので」

 

 携帯で撮った写真を見せた。セアカゴケグモと違ってハイイロゴケグモはあまり聞かない種類だ。沖縄では多いとか何とか。

 

「…………なるほど、こんな毒蜘蛛も居るんですね」

 

「日本で死者はまだ確認されてません。そこまで毒性は強くないんですが、それなりに色々と症状が出ます」

 

「あの中を全て綺麗にするとして、どれぐらい掛かるとお考えですか?」

 

「そうですね……一週間から二週間は見た方がいいかと。動かせない物もあるでしょうし、最後の手段としては燻煙剤を焚きまくるか、隙間と言う隙間に薬剤を撒くのが関の山ですね」

 

 日数はちょっと盛った。変に短くすれば1日の作業量が増えてしまう。

 

「もしくは、1日の工程を決めて少しずつ安全な場所を増やしていくのも有りではないでしょうか。一気にケリを着けようとするよりはトラブルが少ないと思います」

 

「分かりました。こちらも業務が完全に滞るのは避けたいので、その案で行きましょう。明石」

 

「はい!」

 

「動かせる物だけ細心の注意を払いつつ建造工廠へ移してくれ。あっちに自分の作業スペースを作って構わない。何か大掛かりな開発をしたい場合は悪いが事前に連絡を頼む。近隣の鎮守府に協力を要請して、向こうの施設を貸して貰うようにするから」

 

「承知しました、直ちに!」

 

「あ、コラ!」

 

 走り出そうとした明石の鉢巻きを大淀が引っ張った。

 

「ぐぇ!」

 

「待ちなさい。手が空いている駆逐艦の娘たちを20人くらい集めてるから、あなたが纏めて動かしてね。ちょっとは指揮をする経験にもなるでしょ」

 

「何で工作艦の私が指揮しないといけないの!?」

 

「ここの責任者はあなたでしょ。自分の管理下にある所で誰かを動かすなら少しはそういう経験もしておかないと」

 

 ため口の大淀さんも……これはこれで……

 

「お疲れ様です、司令官」

 

「皆さん、おはようございます」

 

 吹雪型と綾波型が集団で現れた。どっかの中学生たちがボランティアか何かで集まったように見えてしまいます。

 

「白露型推参!」

 

「っぽい!」

 

「お、おはようございます」

 

 白露・夕立・時雨のお馴染み3人組とその妹たちもやって来た。

 

「陽炎以下6名、集合しました!」

 

「ご無沙汰しております」

 

 こっちもよく見る3人とアブの時に出会った浜風、そして面識のない娘が2人ばかり居る。

 

「妹の浦風と谷風よ。今日はたまたま居合わせたから連れて来たわ」

 

「うちは浦風じゃ。よろしゅうね」

 

「谷風さんだよ。害虫退治もどんと来いってなもんさ」

 

 うーん、京都弁? いや、その語尾は広島の方だったっけ? あんまり方言に明るくないのであれですが、新鮮な気分になります。2人目は涼風ちゃんと言葉遣いが似てるような似てないような……

 

「人数が一気に増えたな、ここでは話しにくいから場所を移そう」

 

 提督さんの計らいで司令部棟の会議室を使う事になった。全員でゾロゾロと移動する。

 

「今度は何が出たの?」

 

「ハイイロゴケグモって言う毒蜘蛛。セアカゴケグモの仲間」

 

「あー、この前の真っ黒くて毛が生えたのより強い?」

 

「いや基本的には大人しいし毒もそこまで強くない。でも繁殖力がやばくて、放っておくとあちこちに居るような状態になる」

 

「うぇ~、それはやだなぁ」

 

「仲良さそうじゃねぇ」

 

 白露嬢と毎度お馴染みなやり取りをしていたら何か突っ込まれました。

 

「何よ浦風、いつもこんな感じだよ」

 

「ほんまぁ? もしかしたら、もしかするんじゃと思うたんけどねぇ」

 

「おっとぉ、谷風さんもそれは感じてたねぇ」

 

 2人はニヤニヤしている。

 

「村雨と荒潮みたいな事を言ってないで前見て歩きなさい前。ってかどう見たらそういう風に感じるのよ」

 

 もし町中に居たとしてもどちらかと言えば兄妹に見られそうな気はするが、流石に付き合ってるとかそんな目で見て来るヤツはあんまり居ないんじゃなかろうか。ってか、下手すりゃ何らかの条例を違反している疑いを掛けられそうな気がする。

 

 なんて考えていると丁度よく司令部棟に入った。会議室へと場が移る。

 

「えーそれでは、詳細をお伝え致します。以前セアカゴケグモが出たのはご存知かと思いますが、その仲間のハイイロゴケグモが開発工廠で確認されました。いつから居たのかはまだ不明です。目に付いた時にはもう繁殖期になっているそうですので、かなりの数が潜んでいると思って間違いないでしょう。こちらから何かしない限りは噛まれる事もありませんが、安全の面を考えるとやはり駆除の必要があります。いつも通り器具は用意しますので、皆さんにこれの発見と死骸回収をお願いします。また初期の段階では自分が駆除しますが、ある程度の指導も行いますので慣れて来た方は1人での対処もして頂こうと考えております」

 

 その後、段取りやら何やらも彼女たちを交えて打ち合わせを進めた。明石さんにはグループの編成と陣頭指揮の役目が課せられる。その日の進行具合等を管理して貰うのだ。

 

「じゃあ日程はこんな感じでお願いします。今日出来る事は限界がありますので、取りあえず出入口付近の安全確認ぐらいで済ませましょう。またウチの方で卸しますから、駆逐寮の殺虫剤を使わせて頂いても宜しいでしょうか」

 

「ええ。本来であれば相応に準備して来て頂く所を、手ぶらに近い形でお呼びして申し訳ありません」

 

「司令部棟にも幾つか在庫がありますから、そちらもお使い下さいね」

 

「おおよどぉ~、私だけじゃ無理ぃ~」

 

「ああ、はいはい。今行くから」

 

 半べその明石を余所に行動を開始する。司令部棟の在庫を持ち出し、動ける艦娘たち数名と共に一旦駆逐艦寮へ向かった。

 

「1箱あれば十分かな」

 

 物置部屋に積まれている段ボールを1つだけ外に出す。箱を開けると、中には30本近いハチアブジェノサイダーが入っていた。

 

「皆で分けますか?」

 

 隣にしゃがみ込んだ吹雪ちゃんが訊ねる。

 

「いや、このまま運ぼう。そんであのプレハブ小屋に置いといて、司令部棟から持ち出したのも一緒に管理すれば楽だ」

 

 段ボールを運びながらぞろぞろ移動した。開発工廠まで辿り着くと、作業服を着た誰かが立ち尽くしているのが目に飛び込む。小柄で髪を結っているので女性だろうか。因みに今、工廠の出入り口は立ち入り禁止の看板が置いてある。

 

「あ、夕張さんじゃん」

 

「夕張さーん」

 

 敷波と綾波が呼び掛けると、その娘は振り返った。

 

「ねぇ! これ何!? 明石が何かした!?」

 

 開口一番にとんでもない事を口走りますね……

 

「い、いえ。ここでハイイロゴケグモって言う種類の毒蜘蛛が見つかったので、一時的に立ち入り禁止にしてるんです。明石さんは今、司令部棟の会議室で駆除の工程とかを調整しています」

 

 吹雪ちゃんが事情を説明した事で彼女はようやく冷静になった。ほんで、あなたも艦娘って事で間違いないですね?

 

「兵装実験軽巡の夕張です。ここで明石と一緒に開発とかを担当してます」

 

「後藤田と申します。害虫駆除と最近では害獣の捕獲も始めました。あ、そう言えばですね」

 

 段ボールを置いて内ポケットのチラシを取り出す。

 

「アライグマが出没してますので、もし見かけたらご連絡下さい。場所と時間帯も教えて頂けると幸いです」

 

「へー、アライグマなんて居るんですねぇ」

 

 この言動じゃツチノコも見た事は無いようだ。あれは本当に何だったんだろうか……

 

「夕張さん。今から開発工廠の出入り口を安全にする作業を始めるんですけど、手伝って貰えますか?」

 

「このままじゃ仕事出来ないから当然手伝うわよ。何すればいい?」

 

 白雪の申し出に彼女は気持ちよく答えた。明石がこの場に居なくてもある程度は機械を動かす事が出来そうだ。一先ず、今日やる事の説明が終わる。

 

「手袋とかあった方がいいよね。あとマスクもか。取って来るから待ってて」

 

 プレハブ小屋から手袋・マスク・ゴーグル等が次々に運び出されて来た。それを身に着け、出入り口の前に集まった。

 

「工具箱とか作業台をまず外に出して。そこで蜘蛛が居るかどうかをチェックしましょう」

 

 夕張指揮の下、軽い物から運び出す作業が始まった。工具箱も念のため中を開けて確認していく。

 

「お! こいつそうだろ!」

 

「落ち着きなさい、はしゃいだら危ないわよ」

 

「後藤田さん、居ました」

 

 深雪・叢雲・磯波が見つけたようだ。運び出した作業台の1つに居るらしい。

 

「どれどれ」

 

 台の下には工具を置くための空間がある。その裏側、しゃがまないと見えない場所に巣を作っていた。

 

「よーし、ちょっと離れてて。何も難しい事はない。この殺虫剤をブシューっとすればOK」

 

 少し離れた所からハチアブジェノサイダーを食らわせる。薬剤が勢いよく噴霧される事でハイイロゴケグモは激しく暴れ、巣から逃げようとするが次第に足を閉じて動かなくなり、最後はポトっと落ちてしまった。

 

「死骸は火箸とかで拾ってビニール袋に入れて欲しい。ただし、卵には殺虫剤が効きにくいから踏み潰したりして貰えると助かり……」

 

 そこまで説明した所で3人の目から光が失われた。やっぱりそういうのは厳しいようだ。

 

「……まぁ難しいなら一緒にビニール袋へ入れて下さい。それかハイイロゴケグモだけ排除してくれたら後始末は俺がやります」

 

 うーん、思ったよりキツイ仕事になりそうです。ってかスラックスと革靴でやる作業ではないなこれ。一旦帰って着替えたいけど今日の作業的にはそこまでやらなくても、と言うのが悩み処だ……

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