任務:開発工廠に潜むハイイロゴケグモを排除せよ 継続中
空っぽの罠は取りあえず司令部棟の裏に置かせていただいた。アライグマ入りの方は無事に回収。でも罠は備品なので役所まで同行し、アライグマだけを引き取って貰って罠は持って帰る事となる。
「…………あー、明日も行かなきゃならんのか」
信号待ちの最中に思い出した。明日はハイイロゴケグモの駆除作業日だ。
アライグマでバタ付いてて忘れていたが、開発工廠でハイイロゴケグモが出てからもう1週間である。
「……助手が欲しいなぁ」
家族経営でこのキャパシティーはちょっと厳しいような気がする。いや、俺の要領が悪いだけか?
「帰って準備して……忙しいですねぇどうも」
まず帰る事が最優先だ。少し休んでから準備を始めよう。
翌日
車へ積み込んだ荷物をチェックする。予定では10人が参加してくれる事になっていた。なので道具もその分だけ用意してある。
「しゅっぱーつ」
メンバーは初日にも居た綾波・敷波・朧・曙・漣・潮。これに、まだ会った事もない4人組、初春・子日・若葉・初霜が加わる。事前情報だとこの4人組は姉妹だそうだ。であれば、前回も居た6人は2人1組で作業して貰い、新しい4人はそのまま4人組として動いた方がやり易いだろう。
でも慣れて来たら2人ずつになってくれると有難い。作業効率も上がるので……
って訳で鎮守府に到着。毎度のやり取りして駐車場に停めて荷物下ろして司令部棟へ行く。工程表を出して立ち入り許可証を貰い、大淀さんと一緒に開発工廠へ向かった。
「何か最近よくここに来てる気がするんですよねー」
「昨日も朝までいらっしゃいましたからね。アライグマは無事に引き取って貰えましたか?」
「それは大丈夫です。置きっ放しの罠も順次持って帰りますから」
開発工廠が見えて来た。明石&夕張が何か打ち合わせをしているっぽい。その向こうには駆逐艦組が揃っていた。
「おはようございます」
「おはよーございまーす」
「はい! 準備は万端です!」
夕張様、上にもう1枚着てくれると嬉しく存じます。タンクトップは目のやり場に困ります。明石さんも声高らかに何かを宣言していた。そんなに力まなくてもいいと思うんですがね。
「じゃあ頼んだわよ、明石」
「お任せつかぁさい!」
「一応、あちこちに声掛けはするからね」
うーん、何もない所で転びそうな勢いだ。大淀さんは仕事があるので戻って行く。道すがら、手透きの誰かが居ればこっちの手伝いをお願いしくれるそうだ。有難い限りです。
「よろしくお願いしまーす」
「この前と同じ感じでいい?」
「皆は先週も居たからね。2人1組でお願いします」
「ぼのたんワイと組もうず」
「何よその言語は」
「潮、行こ」
「うん」
6人は前回の事もあるので早速取り掛かって貰う。ほんで、新規の4人ですが……
「初春型1番艦、初春じゃ。お主が噂の後藤田殿じゃな。よろしく頼み申すぞ」
「2番艦、子日でーす」
「若葉だ。明日の朝まで休まずこの作業をしても問題ない」
「初霜です。よろしくお願いします」
何かもうパッと見ただけで上の2人、下の2人で組ませるべきな気がした。しかしこの姉妹、かなり個性的で存在感がありますね。
「後藤田です。取りあえず、何を相手にどんな事をするか。もう1度説明をします」
ハイイロゴケグモの事、駆除の方法、気を付けるべき事、使う道具について説明する。
「まずはゴーグル、マスク、軍手を着けて下さい」
これは用意して貰った物があるのでそれを使う。休憩所に置いてある段ボールからハチアブジェノサイダーも2本取り出した。
「スプレー係が1人、回収係1人、ゴミ袋の係を2人でやってみようか。順番に一通りやって慣れて来たら、2人1組でお願いします」
「蜘蛛つきお裾分けでーす」
「置いとくよー」
綾敷コンビがタイミングよく練習台を持って来てくれた。早速これで感覚を掴んで貰おう。
「何か問題は?」
「大丈夫でーす」
「私らより大きいのが出て来たら呼ぶね」
いやそんなのは居ない……と思う。ここは現実世界だ。いやしかし、海の上を
……ってかもう俺じゃなくて警備の人を呼んでくれ。
「ではやって見ましょう」
4人で作業台を調べる。引き出しを開けると……
「……コイツがそうか」
「若葉、触っちゃダメよ」
巣に張り付くハイイロゴケグモを発見。作業開始だ。
「どれぐらいからスプレーを放てば良いのじゃ」
「1mちょっと離れてても届く。そんなに近付く必要も遠ざかる必要もないかな」
「ふむ、では参ろうか」
近からず遠からずの距離から噴射。激しくもがいていたが、数秒程度で脚を閉じてそのまま動かなくなった。
「回収するよー」
子日が死骸を火箸で掴み、若葉と初霜が広げるゴミ袋に入れた。続いて巣ごと卵を回収するやり方も見せる。
「こうやって火箸で絡み取って、あとはゴミ袋の中に入れて袋の上から拭う。これで触る必要もなく、巣と卵が回収出来ます」
「難しくはなさそうじゃな。これなら任せてくれてよいぞ」
「子日、頑張っちゃうからね」
「もっと沢山の蜘蛛が居るやつはないのか」
「1つずつ終わらせていきましょう」
案外、慣れるのが早そうだ。任せても大丈夫っぽい。4人が遠ざかっていく所へ新たな人影が……
「お昼で居なくなるけど手伝うよー」
「こんにちはー」
遊びに来ましたー、な勢いで飛龍&蒼龍が現れた。まぁ加わってくれるのは助かります。
「ありがとうございます。この前と同じ感じでお願いします」
慣れた手つきで道具を身に付けていく。
「夕張ー、建造に運んでるやつもう1度調べるねー」
「寮に戻る時に誰かに声掛けておくからー」
「はーい、すいませーん」
お、見落としがないか心配だったのをチェックしてくれるらしい。有難や有難や。
そんで、1人で固い表情をしている明石さんに近付く。
「お疲れ様です。今日はどれぐらいまでの予定でしたっけ」
「ああはい。まず前回の作業で運び出せなかった物を、今日で全部建造の方へ移します。既に運んでしまっている方の再チェックも考えていたんですけど、さっき二航戦のお2人が行ってくれましたので、そちらは大丈夫だと思います。午前はそれらに費やして、午後は清掃がメインとなります。その段階で薬剤の散布をお願いします」
「分かりました。では昼までこれを続けましょう」
暫し、作業に没頭する。初日に1度チェックしている事もあって、再発見の報告は殆ど無かった。ただ、幾つか巣が残っている所もあったため、それらは入念に拭き取る処置を行っている。
昼を報せるチャイムが鳴った。12時である。夕張が休憩を宣言した。
「はーい、お昼でーす」
一旦終了となる。ゴーグル・マスク・軍手を外して道具を集め、手を洗ってゾロゾロと食堂に来ました。
(何にしようかな……)
日替わりA:ご飯・豚汁・鯖の味噌煮・お新香
日替わりB:ご飯・中華スープ・チンジャオロース・ザーサイともやしのサラダ
日替わりC:ハンバーグプレート・スープとサラダはセルフ
選び難い。日替わり以外にもメニューは沢山ある。
「綾姉はどうすんの」
「んー、今日は野菜炒めにしようかしら」
「ふーん、じゃあ私は日替わりのBで」
野菜炒めかぁ。ここのは豚肉がしっかりしてて美味いんだよなぁ。野菜も歯応えがあって音まで美味い。
「間宮さーん。オムカツカレーお願いしまーす」
「チキングリル定食、ご飯大盛りで下さーい」
飛龍と蒼龍は流石である。空母はよく食べますね。
「天ざる下さーい」
随分と渋いのを注文するのは誰かと思いきや夕張さんでした。
おっと、俺もそろそろ決めないと。
「アジフライ定食お願いします」
「はーい」
間宮さんは今日もお美しい。
約1時間後。お腹も落ち着いて来たので作業再開である。二航戦が居なくなった分は誰が来るのかと思っていると……
「Hey、Mr後藤田」
「ここに来た日以来かしら?」
振り向いたそこには金髪外人美女2名。まさかのイントレピッド&ホーネットだった。会う事も滅多に無いのでちょっと接しにくい。
「お久しぶりです。因みに今ここで何をしてるかはご存知ですか?」
念のため確認である。
「ハイイロゴケグモの駆除と清掃でしょ?」
あ、ちゃんと存じてましたか。
「似たような名前の蜘蛛が本国に居るのは知ってるわ。見た事はないけれど」
「しっかりバッチリ、手伝うからね」
これなら有難い応援である。取りあえず道具を渡して着けて貰い、諸々の説明をした。
「一応これで、説明は以上になります。午後からは清掃がメインですので、もし見つけたら対処をお願いします」
「OK、大丈夫よ」
「さぁホーネット、行こう!」
意気揚々と混ざって行った。しかしあれだ。流石は海外組。色々とデカい。そしてあのスリットはいかんです。目の毒だ。
「……お仕事お仕事」
切り替え完了。駆除は一旦終わっている。俺も清掃に混ざるとしよう。
「何よこれ、あっちこっちに巣があるじゃないの」
「曙ー、いいから手を動かして」
「ヒエッ、巣が軍手に付いた!」
「漣、それぐらいで慌てなーい」
「背中に蜘蛛が」
「!!??」
敷波は凄まじい顔で硬直した。
「……ごめん、嘘」
「綾姉!!」
「ちょっと、終わんないから早くやろうよ」
「時間もあんまり無いです」
朧と潮が止めに入る珍しい光景が見れた。一方のこちら……
「任せろ。全て綺麗にしてみせる」
「これ、若葉。1人で何でもやろうとするでない」
「ダメだよ、皆でやらなくちゃ」
「もう、若葉ったら」
何ですかね。若葉って子は頑張り屋なのでしょうかね。まぁ問題なく作業出来てるならいいか。
「Mr後藤田、ちょっといい?」
「はい」
イントレピッドさんに呼ばれました。着いて行きます。
「これ、その蜘蛛よね」
「ごめんなさい。一応、確認をと思って」
ペンライトが照らす先には、ハイイロゴケグモが居た。巣の中でジッとしている。
「そうですね。殺虫剤で駆除した後に死骸をビニール袋に入れて下さい」
「よーし、私に任せて」
スプレーを吹き掛け、床に落ちた死骸をビニール袋に回収。続いて巣を火箸で絡め取る。
「これぐらい?」
「卵は出来るだけ残さないようにして下さい。この小さいのがそうです」
壁に残っている控え目の金平糖みたいな形をしたヤツを照らした。
「うまく掴めるかな」
「壁に火箸をつけて削ぎ落とすようにすれば簡単に取れます。まだ巣の一部が残ってると思うんで、それを利用する感じです」
「やってみていいかしら」
ホーネットが火箸で卵の回収を試みる。先端を壁に這わせながら上手く絡め取った。
「あ、上手いですね」
「難しくはないわね。大丈夫だと思うわ」
こっちも順調である。さて、今の時間は……
「……もう3時か」
残りの作業時間は2時間程度だ。明石さんの所に行ってスケジュールを確認する。
「進みはどんな感じですか」
「そうですね……ちょっとだけ遅れてます」
清掃に思ったより時間が掛かっている。それもそうだ。まだ全て駆除出来た訳ではない。ハイイロゴケグモを探しながらとなると仕方ないだろう。
「もう少し人数があると早まりますか?」
「いえ、変に人手を増やすと全体の動きが悪くなると思います。今ぐらいが丁度いいんでしょうけど、中でハイイロゴケグモを探しながらの作業ですから、どうしても慎重になります。取りあえずこのまま進めて、全体の作業度合いを確認しましょう。もしあれだったら、予備日も念頭に入れてって感じで」
「分かりました。今日はこのまま進めて、予定通り17時で終わりましょう」
と言う訳で、開発工廠へ戻った。残り2時間で何所まで出来るだろうか……
2時間後……
「……半分は行きませんでしたね」
今日は時間切れである。開発工廠全体の半分手前までは終わった。
「来週のスケジュールをもう少し練り直します。あと忘れてましたけど、天井の方とかはどうしましょうか」
「天井……天井かぁ」
どっかしらには居るんだろうなぁ。足場を組まないと絶対に届かないけど、それには資格が必要だ。俺? 持ってる訳ないじゃないですか。
「……足場組む業者を探しますか」
「高所作業車とかどうです?」
高所作業車。なるほど、そういうのもあったか。
「いいですね。そっちの方が楽かも知れません」
「分かりました。上の方に掛け合います」
あ、そうか。下手に民間を頼るより身内の方が面倒事にならなくていいのか。
「よろしくお願いします。取りあえず来週について少し煮詰めましょう」
「はい」
本日は解散だ。明石さんと司令部棟まで行き、執務室で報告を済ませて来週の調整を始める。まだハイイロゴケグモの完全排除には時間が掛かりそうだ。
任務:開発工廠に潜むハイイロゴケグモを排除せよ 50%