鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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番外編 夏の鎮守府 その1

 あっちぃですね。広樹です。鎮守府に向けて車を走らせてます。エアコンもいいけど窓全開にして入って来る風もいいですよね。

 

 この季節はまぁ色々と忙しいです。定期チェックでも気が抜けません。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます。こちら、記入をお願いします」

 

 正門で毎度のやり取り。青い迷彩服に防弾チョッキを着て自動小銃を持ち、見るからに暑そうだが警備の人は涼しい顔である。

 

「……暑くないんですか?」

 

「まぁ、鍛えてますので」

 

 羨ましい。俺も鍛えようかな。最近どうも脇腹の肉が……

 

「はい、終わりました」

 

「ありがとうございます」

 

 車を駐車場まで進める。今日は定期チェックだ。色々と交換したり経過観察をする。

 

「よっこいせ」

 

 荷台からアレやコレやを下ろした。台車の上に載せてゴロゴロと押して歩く。まず司令部棟に行って今日の工程表を渡さなければならない。照り付ける日差しと熱されたアスファルトが強敵だ。海から風が吹いているのがまだ救いか。

 

「おはようございます。こちら、本日の工程表です」

 

「はい、確かに」

 

 執務室はいい感じに冷房が効いている。今日は提督さんだけのようだ。

 

「そういえばお盆休みはいつからになりますか?」

 

「えーと……いつも1日早く閉めてますんで、12から送り火の16までです。17日から営業再開ですね」

 

「承知しました。その辺はお呼びしないようにします」

 

「あー、まぁ緊急でしたら遠慮なく呼んで下さい」

 

 どうせひっくり返ってるだけだしなぁ。寂しい数日を過ごすぐらいならここに来るのも一考か?

 

「極力そうならないように周知はしますので」

 

「ありがとうございます。それでは作業に向かいます」

 

「よろしくお願いします」

 

 さて、まずは駆逐艦寮へ行くか。こう暑いとGどもが活き活きしてそうだ。

 

 

駆逐艦寮

 

「お邪魔しまーす」

 

「よぉ兄ちゃん、今日もあっちぃね」

 

「こんにちはー」

 

 五月雨&涼風だ。この2人は髪と服の色のせいか凄まじい清涼感を感じる。

 

「今日の日替わり責任者は誰っすかね」

 

「白雪と初雪だっけ?」

 

「初雪ちゃんは多分……ゲームしてそう」

 

 ああ、あの眠そうな感じの娘か。確かに……

 

「はーい、じゃあ失礼しますよー」

 

 管理室をノックした。お下げの可愛い白雪が出て来る。

 

「あ、おはようございます。今日はチェックの日でしたね」

 

「工程表です。何かあれば呼んで下さい」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 チラッと室内を覗き込む。テーブルでグターっとなってる初雪がゲームしていた。しかもあれは某メーカーが売り出してる据え置きも携帯も出来るハードじゃないか。もしかしてみんな結構お金持ち?

 

「……サボってる?」

 

「サボってないし。暇なだけだし」

 

「まぁ……そんなにする事ないですから」

 

 ふーん、まぁいいか。

 

 って訳で給湯室まで来ました。

 

「えーと……ホイホイ及び毒餌の交換回収ね」

 

 至る所に仕掛けてある業務用ホイホイを回収し、新しいのを設置していく。掛かっているGの数は偏りが感じられた。相対的には減って来ている。

 

「いつまでこいつ等と戦わないといけないんでしょうねぇ全く」

 

 人類が生きている限り、避けて通れない道なのだろうか。そんな所へ元気なあの娘が現れる。

 

「後藤田さーん、ゼリー作ってみたんだけど食べる?」

 

 白露嬢の声が後ろからした。何所で作ったんだそんな物。

 

「ゼリー? 得体の知れない物が入ってなければ」

 

「実は敵の死骸を利用してるんだよね」

 

「丁重にお断りします」

 

「いやそんな訳ないじゃん。ラムネ味のゼリー」

 

 振り返る。涼しげな色だ。まるで南の海みたいな感じである。

 

「混ぜて冷やしただけのヤツだよ。自分の部屋の冷蔵庫で作ったんだ」

 

「……じゃあ遠慮なく」

 

 カップを受け取る。プラスチックのスプーンで掬って食べた。

 

「おぉ、夏らしい味」

 

「やった。味見してないけど上手く出来たっぽいね」

 

「聞き捨てならない発言したな今」

 

「ネットには誰でも作れるって書いてあったし~」

 

「全く。はい、ご馳走様でした」

 

「はーい。皆にも配ろーっと」

 

 ツルンと頂いた。作業を終えて次の目的地へ向かう。

 

 

軽巡寮

 

「ごめん下さーい」

 

「いらっしゃいだクマー」

 

「ZZZ」

 

 かなり遭遇率の低い人物に会った。球磨と……クソ暑いのに寝ているそっちの方は?

 

「定期チェックに来ました。あの部屋を見ていいですか?」

 

「鍵は預かってるから一緒に行くクマ。多摩、多摩」

 

「……にゃ?」

 

「ちょっと席外すクマ。あ、妹の多摩だクマ。多摩、この人が後藤田さんクマ」

 

「…………多摩です、2番艦だにゃ」

 

「あー、妹さんもう1人いらっしゃたんですね」

 

「自分の受け持ちがない時は基本的に寝てるクマ。ここに居る皆でも多摩に会えるのは下手すりゃ数日に1回だクマ」

 

 何じゃそりゃ……

 

「じゃあ多摩、行って来るクマ」

 

「にゃー」

 

 また寝始めた。すげぇなこの人。

 

「レッツゴーだクマ」

 

 連れられて上階への階段を上る。あの一件で、阿賀野型は部屋を別の場所に移していた。今は空き部屋になっているが、やはり定期的に見ないとまた増える恐れがある。

 

「割と真面目に神経が磨り減る日々だったのを思い出すクマ。」

 

 開錠して貰った。まず旧阿賀野の部屋である。

 

「……特に痕跡は無いか」

 

 糞は見当たらない。卵も無し。ひっくり返ってる死骸も無い。

 

「……大丈夫そうですね。じゃあどんどん行きましょう」

 

「クマ―」

 

 能代・矢矧・酒匂の部屋だったのをそれぞれ開けて貰う。見た感じは大丈夫だが、油断ならないのがチャバネ―ルの怖い所だ。伸縮足場台を持ち込み、通気口や点検口を調べる。

 

「よっこいせ…………痕跡無しっと」

 

 チェックリストに書き込みながら作業を続ける。すぐ終わりそうだが、それでも1時間ちょっとは掛かった。地味に汗も噴出して来る。

 

「あっち……」

 

 足場台を片付けて廊下に出た。人の気配が殆ど感じられないので、今日の軽巡寮はほぼ誰も居ないらしい。

 

「終わったクマ?」

 

「はい。大丈夫そうですね。ただ、どっかのタイミングで通気口内部にまた燻煙剤を流し込みたいです。もし生き残ってるとすればそこですから」

 

「日程調整は提督の方としてくれればいいクマ。それと水分補給だクマ」

 

 氷の入ったグラスに薄緑の液体が注がれていた。緑茶だろうか。

 

「ありがとうございます」

 

 受け取って一口含む。玄米茶だ。しかもめっちゃ冷たい。

 

「おー……夏に玄米茶もいいですね」

 

「麦茶の消費量が凄まじいから変わり種だクマ」

 

 飲み干した。鼻から抜ける玄米の香りがとても良い。

 

「ごちそうさまでした。これで失礼します」

 

「熱中症に気を付けるクマー」

 

 グラスを返して軽巡寮から出る。お次は重巡寮だ。

 

 

重巡寮

 

「後藤田でーす」

 

 返事は無い。静まり返っていた。

 

「……誰か1人ぐらいは居るよなぁ」

 

 ここに来る事は少ないからどうにも入り難い。さてどうしよう。

 

「内線を掛けましょうかね」

 

 ロビーにある電話で、提督さんが居る執務室の番号を押した。コールは3回目で切れる。

 

「はい、執務室」

 

 この美声は加賀さんですね。

 

「お疲れ様です、後藤田です。重巡寮に来たんですが、どなたもいらっしゃらないようでして」

 

「あら、おかしいわね。青葉が居ると思うのだけれど」

 

 あー……Goproの人っスか。

 

「呼び出すわ。そのままそこで待っててちょうだい」

 

「はい」

 

 受話器を置いた。数分後、血相を変えた青葉が奥から走って来る。

 

「申し訳ありません! ちょっと編集が捗ってましてぇ!」

 

「……編集?」

 

「この前のアライグマですよ! もし良ければ見て行きますか!?」

 

「いえ、機会があればその内に。取りあえず、何かお困りな事はありませんか?」

 

 青葉は暫し考え込む仕草をした後、何かを思い出したようで一旦部屋に戻って行った。バインダーを抱えて戻って来る。

 

「古鷹から預かってたのを忘れてました。こちらをご覧下さい」

 

「拝見します」

 

 バインダーを受け取る。重巡寮の外や中で起きた害虫関連の出来事が纏められていた。

 

アシナガバチの目撃情報3件 主に寮の裏手 巣は未確認

目撃者:衣笠・ザラ・筑摩

 

 アシナガバチか。あいつら寄って来るんだよなぁ。心臓に悪いわ。

 

炊事場で半月ほど数匹のゴキブリが出現。誰も退治していないのに死骸を日に1~2体確認。出入りが激しい場所なので殺虫スプレーのにおいを気にする者も多く、罠の設置のみに留める。現在はほぼ収束しつつあり。

 

 おっと、こっちでもGが出たか。でも死骸が確認されている。誰も退治していないのにだ。

 

(……まさか軍曹が居る?)

 

 軍曹(アシダカグモ)。我々の業界でも名高きゴキブリハンターだ。意外に知られてないけど外来種である。まだ実物を見た事がないので一目拝みたいがしかし……

 

「……炊事場の方へちょっと失礼しますね」

 

「はい。こちらでーす」

 

 炊事場を拝見。取りあえず死骸は見つからなかった。あちこち入念に見まわすが、軍曹のお姿は確認出来ない。

 

「もしこれ以上に見かけるようでしたら、無臭タイプの燻煙剤もありますので、一報をお願いします」

 

「ありがとうございますー」

 

 続いて寮の裏手を確認。残念ながらアシナガバチは居なかった。重巡寮の裏は自然が多いので、もし巣があるとしたらその中だろう。でも今は装備が無いので踏み込まない。

 

「近場に殺虫剤を置きましょう。もし危機的な状況になれば使うと言う事で」

 

「はい。古鷹に伝えておきます」

 

 ここはこれぐらいでいいだろう。炊事場にもし本当に軍曹が居るなら、ぶっちゃけ任せても良い。下手にこっちが介入すればやり難くなるだけだ。

 

 その後、昼を挟んで潜水艦・空母・戦艦寮と渡り歩いた。何所とも特に問題は無い。理想的な定期チェックの日である。このままトラブルなく終わりたい所だ。

 

「3時か……久々に間宮さんのお店でも」

 

 小腹が空いた。間宮さんの所で水羊羹か水まんじゅう、いや、かき氷もいいな。

 

「後藤田さーーん!」

 

 遠くから響く白露嬢の声。あー聞こえない。俺に穏やかな3時のおやつを食わせてくれ。

 

「蛇! 蛇出た!! 蛇!!!」

 

 スネーク? 確か3まではやったなぁ。いや違うか。

 

「何の蛇?」

 

「分かんないけど早く来て!」

 

 腕を掴まれてそのまま駆逐艦寮に逆戻り。ってか装備が無いけど……

 

 

駆逐艦寮

 

 寮の入り口の前に駆逐艦が屯している。駆逐艦が屯しているってここの外じゃ通じない表現ですね。

 

「はーい、後藤田でーす」

 

「兄ちゃん! あれ何て蛇だ!」

 

「めっちゃ怒ってるっぽい~」

 

「白雪! 中に居る皆に正面入口へ近付かないように伝えて!」

 

「何よコイツ、一体どっから来たのかしら」

 

 入り口の前には涼風・夕立・吹雪・陽炎。寮の中には白雪・初雪・五月雨・黒潮が見える。その間には1匹の蛇が居た。

 

「……わー、ヤマカガシか」

 

 コブラのように上体を起こして首から左右に体を広げて大きく見せる。これはヤマカガシの威嚇行為だ。微かにシューシュー鳴いているのもそれである。毒はマムシよりも強い。

 

「道具が無いなぁ……下手に殺すのもあれだし」

 

 大方、迷い込んだのだろう。あちこち動き回ってる間にここへ来てしまった可能性がある。

 

「掃除道具とかでさ、T字の箒ある?」

 

「あるよ」

 

「1本借りるよ。裏に通用口とかあったっけ」

 

「こっちこっち」

 

 白露の後を着いて行く。寮の角の所に通用口があるのでそこから入った。中でT字箒を受け取る。

 

「厚手のタオルもいいかな。3枚ぐらいあると嬉しいけど」

 

「ちょっと待ってね」

 

 タオルと言うか、使い古しの干からびた雑巾を貰った。まぁこれでもいいか。

 

「よーし、では行きますか」

 

 ロビーまで歩く。ヤマカガシの後ろに取り付いた。

 

「……よっと」

 

 箒で頭を後ろから押さえ込んだ。更に雑巾で頭を上から包み、そのまま持ち上げる。

 

「山に放って来る。箒はまだ借りるよ」

 

「兄ちゃんすげぇな!」

 

「お見事ぽいぽい~」

 

「いやー、真似出来ないわ」

 

 ヤマカガシが腕に絡み付いて来るが気にしない。そのまま正門で事情を話し、一旦敷地の外に出た。近くの山に入り、手頃な場所で足を止める。

 

「はいはい、もうちょっと待ってくれ」

 

 まず頭を包んでいる雑巾を地面に押し付け、潰さないように足で押さえる。続いて箒で頭の後ろを押さえ、腕に絡み付いているのを外しながら右手を自由に。箒で押さえたまましゃがんでいる姿勢から立ち上がった。

 

「はい。出来れば鎮守府にはもう行くなよ」

 

 十分に距離を空けてから箒を離す。相変わらず威嚇して来るが、こっちが遠ざかると森の中へ消えて行った。

 

「……そう言えば、ツチノコのような何かは元気かな」

 

 見つけようと思っても見つかるものではない。2度目の邂逅は無いと思っていいだろう。取りあえず鎮守府へ戻った。

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