ヤマカガシを自然に放ち、山から下りて道路を横切り正門に到着。
「すいません、戻りました」
「ああ、どうぞどうぞ」
警備の人に通して貰う。ふと、自衛隊の訓練で蛇とか食ってる動画を思い出した。
「皆さんも蛇とか訓練で食べるんですか?」
「自分たちは海自の方から来ていますので、その手の事はやってませんね。まぁ他の部署ではどうか分かりませんけども」
あー、そういうもんなのか。確かに警察と言えど交通課と刑事課ではやってる事も違うしな。
「どんな味がするとかって聞いた事あります?」
「ササミに近いって話はよく耳にしますね。不味くはないらしいです」
ふーむ。淡白な感じか。って事は味付け次第でどうとでもなる訳だ。
「なるほど。すいません、お邪魔しました」
「いえいえ」
駆逐艦寮まで戻った。さっきの面子がまだ残っている。
「はーい、山に返しました」
「兄ちゃんよぉ、蛇避けの方法とかないのか?」
「あるにはあるけど……そうすると自然が無くなる」
「何か注意書きを貼ろうかしら。蛇だって無暗に近付かなければ問題ないわよね」
「せやなぁ、向こうさんだって生きとる訳やし」
「草刈りとかして棲み分けを作るのはどう? 蛇だってワザワザ身を隠せない所には出て来ないと思うけど」
吹雪の発言は良い案だ。それをした上で陽炎の注意書きも加えれば、お互いの線引きが出来る。もし蛇を見掛けたらこっちは距離を取ればいいし、蛇もこっちが何かしている所に躍り出て来るような事はしないだろう。
「いいねそれ。蛇が居そうな所とこっちの生活圏を明確に区別出来る。あ、箒を返します」
「はーい」
白露嬢に箒と雑巾を返却。さて、間宮さんの所に行こうかな。
「んじゃ、この辺で失礼」
駆逐艦軍団と別れた。間宮さんのお店に向けて歩いていると……
「ちょっといいかしら」
「はい?」
黒髪のショートカットで巫女っぽい服装、色白、特徴的な頭の飾り。殆ど話した事ないけどあの人ですね。
「何でしょうか、山城さん」
「少しだけ、時間を貰えると有難いわ」
間宮さんのお店が遠のくけど仕方ない。遊びに来てる訳じゃないし。
「大丈夫です」
「炎天下なのもあれね。司令部棟へ行きましょう。一番近いわ」
ダルそうな彼女に着いて行く。司令部棟の、俺がよく物書きしている所に来た。ここは冷房が効いている。
「それで、どう言ったご用件でしょうか」
「私が寮の裏でガーデニングをしているのは、大和から聞いてるわね」
「あー……はい。よく手入れされてるのは見ただけでも分かります」
「季節的には過ぎてしまったけど、次の春にフジを育ててみたいと考えてるのよ」
フジ。紫色の綺麗な花だ。大量のフジが咲き乱れている光景はとても美しい。そして香りもいいのだが……
「でもあの花は、クマバチを寄せるのよね。そうすると皆にも迷惑かと思うと、踏ん切りが付かなくて」
ですよねー。クマバチのオスは刺さない、と言うより刺せないが、あのサイズはオスだろうがメスだろうが恐怖心を与えるには十分だ。
「何か良い方法がないか、相談したいの」
「フジですかぁ……」
ぶっちゃけ個人レベルの栽培における方面については門外漢でござります。だが、クマバチも悪気があってフジに集まって来る訳じゃない。共生関係にあるから仕方のない事だ。
「……因みに、どれぐらいの規模でやろうとお考えですか?」
「…………まだそこまでは決めてないわ。言っただけで止められるかも知れないから」
「いつも手入れされてる所とは別の場所、もしくは少し遠くに置かれてはどうでしょう。フジは観光名所のような大規模な栽培でなくても、植木鉢で十分に育てられる花の筈です。1つぐらいなら、そこまで大量のクマバチを引き寄せる事もないと思いますが」
暗めだった表情に少しだけ光が差した。これは正解かな?
「……そうね。どうしても沢山の花が咲いているイメージが強かったから、勝手にそう考えてたわ。花壇と別の所で育てるのは、良い案ね」
「ただ、他の草花同様の害虫による被害は想定されます。もしあれでしたら、防虫ネットか何かを被せるのも良いかと思います」
「目で見る楽しみは少し減りそうね。まぁでも、その方向で考えてみるわ。ありがとう」
「他にお困りの事があればご連絡下さい。それでは」
席を立って別れる。現在の時刻、3時半過ぎ。今からおやつはちょっと遅いか……
「あら、いい所に居たわね」
「はい?」
小さい袋を抱えた加賀様見参。
「ちょっと高いコーヒーを貰ったのよ。一緒にどうかしら」
「……執務室でですか?」
「そうね。提督と大淀も居るけど、良かったら」
む、大淀さんも居るのか。これは乗っかってしまおう。
「……ご馳走になります」
「じゃあ行くわよ」
執務室まで着いて行く。日差しで暑くなった廊下から程よく冷房の効いた空間に飛び込んだ。
「戻りました」
「お邪魔します」
「おや、どうされましたか」
「1階に居たので誘いました」
「折角ですので誘われました」
「どうぞ。少しお待ち下さいね」
大淀さんに促されるままソファへ。ここの窓からは海が見えるのだ。太陽が反射していい眺めである。
「アイスとホット、どちらが良いですか?」
「アイスでお願いします」
「提督はどちらで」
「私もアイスだな」
「加賀さんはどうします?」
「ホットにして見ようかしら。いいわ、自分でやるから」
数分後、コーヒーの時間となった。
「いただきます」
いい香りだ。多分。氷の音も心地いい。スッキリした苦味を感じる。
「ちょうどいいわ。少し相談をしても?」
「何でしょう」
「司令部棟にも殺虫剤を幾つか常備しようと考えてるの。まぁでも、ここはそんなに脅威となるのは出ないから、あんまり大きなスプレー缶を置くのもどうかと思うのよね。上の人達も出入りする場所だから、存在を自己主張し過ぎないのが欲しいのだけれど」
なるほど。って事は一般的な大きさの殺虫スプレーは無理か。とは言え、消火器がそうであるように、何所に置いたか分からなくなるようなデザインは目に付き難い。店頭に置いてある各種の殺虫スプレーで黄色・緑・赤が多いのは、一目で分かると言う意味も含まれているのだ。
「そうですねぇ…………消臭スプレーとか除菌スプレーに見えるようなのは幾つか知ってますけど、イザと言う時に何所へ置いたか分からなく可能性もありますが」
「……それもそうね」
「直射日光に当たるような場所に長期間放置すると、爆発の危険もありますし……」
加賀様が眉間にシワを寄せておられる。何か解決策を提示しなければ。
「入れ物を用意するのはどうでしょう。それで日差しの当たらない所を定位置にして、掲示物も貼って置けば流石に忘れないと思いますけど」
先手を取られた。大淀さんが提案を始めている。でも良い解決策だと思う。
「確かに堂々と置かずとも入れ物で隠してしまえば、目を引く事もないな。存在感を保たせつつ、視界に入っても嫌な感じがしない方法だ」
提督さんも食い付く。うん。広樹もそう思います。
「でしたら、この前に発売されたばかりの物がオススメです。無臭タイプで大抵の害虫に効くヤツがありまして」
ついでに営業を掛ける。10本を納品する運びとなった。然程の金額ではないが、メーカーから「買って欲しい」とよく営業の電話が来るのでいい目くらましになるだろう。
「ご馳走様でした。商品の方は恐らく、来週ぐらいに届くと思いますので、搬入があり次第にお届けまします」
「ありがとうございます。その旨、よろしくお願いします」
執務室を後にした。時刻は4時を過ぎているも、司令部棟から出ると日差しが突き刺さる。
「うぇ……」
さてと、予想より早く終わったので時間が余っている。このまま帰ってもいいけど何か物足りない。
「ちょっとウロウロしましょうかね」
立ち入れない場所は知ってるから、問題の無い範囲で危険な害虫害獣が居ないか見て回る事にした。さっきのように毒蛇の類、まず居ないだろうけどハブとか何かしらが潜んでいる可能性はある。
(パトロール開始)
近くの草木を少しだけ掻き分ける。とんでもないのが飛び出して来るかも知れないので、慎重に行わなければならない。
「野生動物の痕跡も特に無さそうだな……」
ポケットの携帯が震え出す。大淀さんでした。
「まだ近くにおられますか?」
「はい、何かありました?」
「駐車場の方で海防艦の娘たちが虫捕りをしていたんですが、とても小さくて赤い虫を手で潰してしまったと連絡がありまして」
小さくて赤い虫。駐車場。あれかな?
「分かりました。ちょっと見て来ます」
いざ駐車場へ。
因みにここの駐車場は来客用と関係者用で分かれているが、隣同士なのでどっちかには居るだろう。
駐車場
案の定、人だかりが出来ている。ちっちゃい海防艦が3人と、あの2人は……
「ほーら大丈夫だ。綺麗に拭いたからな」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
「大丈夫大丈夫、後で医務室に行って診てもらいましょうね」
半べその海防艦を抱っこしている髪の長くてメガネをした艦娘。そして隣に居るショートカットの艦娘。どちらも似た格好だ。確かこの2人は……
「お疲れ様です。大淀さんから連絡をいただいて来たんですが」
「よぉ、久しぶりだな。この摩耶さまを忘れたなんて言わせねーぞ」
「鳥海です。ご無沙汰しております」
そして海防艦の3人。記憶が正しければ姉妹だった筈だ。
「佐渡さまだぜー。忘れて貰っちゃ困るぜー」
「海防艦、択捉です。お久しぶりです」
「……松輪です」
抱っこされている半べその松輪ちゃんは警戒心を剥き出しにしている。忘れられてしまったようだが俺は医者じゃありませんぞ。
「赤い虫を潰したそうですが」
「ああ。そこのコンクリの所にいっぱい居るぞ」
鉄柵と駐車場を区切るブロックの部分を見た。赤くて小さい虫がウジャウジャ居る。
「…………アカダニですねぇ」
皆さんも1度は見た事あるんじゃないでしょうか。駐車場の車止めとか、学校の塀とかで春から夏場によく見るあの赤くてちっこいヤツです。
「手で潰しちゃった感じですか?」
「ええ。それで指先が赤くなって、ビックリしちゃったみたいで」
「何か症状は出るのか?」
「殆どないですね。少し痒くなるかも知れませんが、市販の塗り薬で十分です」
ぶっちゃけアカダニはアリよりも無害だ。あいつらは噛むけどこっちは殆ど噛まない。
「良かったなぁ、まつ。ほぼ何ともないってさ」
「松輪、大丈夫だってよ」
「う、うん」
何だろう。口にしたらあれなんだろうけど、もし摩耶さんが男だったら完全に子連れな風景に見える。
(子連れかぁ……遠からずその辺も考えないと拙いよなぁ……)
孫の顔ぐらいは見せてやりたいと思ってるんですけどねぇ……はてさて……
「悪かったな、呼び付けちまって」
「まぁまぁ、これも仕事の内ですよ」
腕時計を見るといい時間になっていた。ぼちぼちお暇するか。
「ではそろそろ失礼します」
「おう、サンキューな」
「ありがとうございました」
5人と別れる。ふと思ったが、虫捕りなんてするんだな。その辺は小さい子とあんまり変わらないのだろうか。
(いかん、その当たりに首を突っ込んではいけない気がする。考えないでおこう)
車に乗り込みエンジンを掛ける。直射日光で熱された車内がクーラーでゆっくりと冷やされていった。では帰るとしましょう。
「酒でも買って帰るか~」
「オォナンダ、インシュウンテンカ、ツカマッチマウゾ」
「トチュウデノンデクダト? マゼテクレ」
「いや買って帰るっちゅーとるがな」
こいつらの扱いも慣れたもんだ。適当に受け答えしながら敷地を出ると聞こえなくなる。やはり鎮守府の中だけが影響を受ける範囲らしい。
「オレタチガソノキニナレバオマエノイエマデツイテイクコトダッテ」
「それ冗談だろ?」
「ヨウセイヲアマリナメナイホウガイイゾ」
本気なんだか嘘なんだか分からない所が少し怖い。がしかし!
「何かあったら提督さんにすぐ電話するからな」
「ア、サーセン」
「カンニンシテツカァサイ」
この通りである。慣れてしまった自分もどうかと思うが……
(広樹です。お見合いとかどうなんでしょうね……いや、何でもないです)
今回から不定期で掲載していきます
閑話・あるんだかないんだか分からない設定集1
舞台
場所は日本の何所かの沿岸部。郊外に出ると一気に山や田畑が広がる典型的な地方都市。人口は30万人ちょっと。自然は豊富。ターミナル駅を中心に公共交通機関がそれなりに揃っているも、基本的には車社会。
主人公
後藤田広樹 年齢:20代後半(三十路手前)
害虫駆除サービス「後藤田プロテクトクリーン」の次期経営者を目指して(?)奔走する1人息子。年齢=彼女居ない歴。男子校出身。進学した専門学校はちょうど深海棲艦が出現した時の影響で殆ど学校に行けず、郵送かメールで送られて来る課題をこなして送り返しながら、家の手伝いをするだけの寂しい青春時代を過ごした。女性への免疫は仕事以外で殆どなかったが鎮守府の仕事が増えるに連れて改善されていった。三十路の恐怖に震えている。間宮に心を惹かれながら、大淀に対しても「いいなぁ」と思っているヘタレ。
酒:飲む
煙草:イキって吸ってた時期もあった