某日。アライグマの罠を引き取るために鎮守府へ来ていた。
「よーし、積み込み完了」
鉄製の折り畳んだ罠2つを車に載せる。残りは1つだが、これはまたの機会に回収しよう。
「そうだそうだ。これを持って来たんだ」
助手席のリュックから、複数の紙袋を取り出した。中には猪のジャーキーが入っている。罠で捕らえた猪を日義さんが捌いて、色々な状態にして送ってくれたのだ。その中でもこれは保存が利くのでお裾分けに選んだ。ちょっと食べてみたが、酒の進む味がして非常に美味い。
「取りあえず執務室と……酒飲みなら空母寮かな?」
まず執務室へ向かう。今日は提督さんと大淀さんだけらしい。
「自分が罠で捕らえた猪のジャーキーです。猟を教わっている方に作っていただきました」
「おぉ、ジビエですか」
「……ジビエ?」
首をかしげる大淀さん可愛い。
「狩猟した野生動物の肉をそう呼ぶみたいです。何語かはちょっと」
「フランス語ですよ。日本では関心が低いが、ヨーロッパでは高級食材として扱われているんだ」
「そうなんですね」
わー、提督さん博識。
「有難くいただきます」
「どうぞどうぞ。酒が進みますよ。大淀さんも良かったらどうぞ」
「楽しみにしておきます」
「ありがとうございます。後でいただきますね」
ほいで、司令部棟から出た。空母寮に行って残りを渡そうと思う。
空母寮
ネズミはもう出なくなり、痕跡も見つからないので来るのはちょっと久々である。
「後藤田でーす」
静まり返っている。何かちょっと嫌な予感がした。
「……またの機会にしようかな?」
外から話し声が聞こえて来た。うーん、仕事が発生しそうな予感がする。
「あ、後藤田さんじゃないですかぁ」
確か……瑞鳳さんでしたかね……
「お久しぶりです。今日は皆さんだけですか?」
「はい。正規空母の皆は出張中です。暫くは軽空母の私たちしか居ません」
軽空母と言う事は、例の酒飲みさんたちも含まれるって訳だな。じゃあ渡すか。
「こちらお裾分けになります。自分が罠で捕らえた猪のジャーキーです」
「あらー、ジビエですね。有難くいただきます」
鳳翔さんのお店に居た千歳さんでしたっけか。いやちょっと待て。あの時は割烹着でよく分からなかったけど、デカいな(意味深)
「そうだ。後藤田さんなら」
「そうね。ちょうどいいわ」
何がでしょうか。何がちょうどいいのでしょうか。
「お時間ありますか?」
「時間はまぁ……大丈夫です」
「中でお話しましょう。どうぞこちらへ」
場所は打って変わり空母寮の小部屋。一応、小会議室らしい。そこで待っていると見知らぬ艦娘4名を引き連れた2人が戻って来た。
「瑞鳳の姉、祥鳳と申します。よろしくお願いします」
おぉ、しっとり和服美人。髪が長いのも良い。いや何を考えてんだ俺は……
「千歳型2番艦、千代田です。私も鳳翔さんのお店手伝ってますから、たまに来て下さいね」
でかい。色々と。いやしかし、鳳翔さんに祥鳳さんとな。何かの拍子に間違えそうで怖い。
「ウチは龍驤や。これでも立派な軽空母やで」
頭のそれは帽子なんでしょうか? くっ付いてる訳じゃないですよね?
「…………あ、あの、CVE-73、が、ガンビア・ベイ……です」
そして1人だけ異彩を放っているのはボリュームのある金髪ツインテールで、一部がまぁ大きい娘である。軽空母?
「後藤田です。えーと……海外組の方って事でよろしいですかね」
「イントレピッドやホーネットと同じでアメリカ勢や。向こうには姉妹がぎょうさん居るらしいで」
「は、はい……30人くらいですけど」
30!? 陽炎軍団でも15人くらいは居るって聞いたけどその倍だと……
「凄いですね……あ、それで、ご用件の方は」
それを切り出した瞬間、6人の顔色が一様に悪くなった。そんなに難しい案件なのだろうか。
「うーんと……まぁ、相談やねんけどぉ」
「はい」
「寮の裏手に殆ど使ってない物置が何個かあんねん。ちょっと古くなったりガタが来たりで、買い替えよういう話になってるんやけど……」
「昨日、中の物を取り出そうとしたんですが……」
祥鳳さんの発言以後、少し長い沈黙が続いた。そして瑞鳳さんがゆっくり喋り出す。
「……茶色いのが……たくさん飛び出して来て」
「Oh terrible」
ガンビア・ベイがフラ付いた。椅子から倒れそうになるのを千代田に支えられる。
「あー、大丈夫?」
「……むりぃ」
「部屋で寝てきぃや。千代田、頼むで」
「はーい」
2人が退室した。話は続く。
「……ほんでな、あの、茶色くて、ピョンピョンと跳ね回るのがぎょうさんおってな」
茶色。跳ね回る。あー、アレか。
「なるほど。最後がマで終わる虫ですね」
全員の顔色が悪いので正式名称を言うのは止めておいた。それでも、マと発言しただけで全員が一瞬跳ね上がる。
「……ご存知とは思いますけど、別に病気を媒介させる事はありませんが」
「まぁそれは知っとるねんで。せやけどなぁ……」
「どうやれば追っ払えるでしょうか」
困り顔の鳳しょ……いや、祥鳳さんもいいですね。
して、カマドウマ。漢字は竈馬。うーん、害はないけどまぁ、女性にとっては苦手でしょうね。男でも無理な人は無理だし。
「そうですね。手っ取り早い方法としてはドアを開け放って居なくなるのを待つか、殺虫剤を中にぶち撒けるの2択でしょうか。もしくは防護服を着て踏み込む感じもありかと思いますが」
そんな提案をしてみたが、乗り気ではないようだ。然らばお仕事と参りましょう。
「では取りあえず現場を見てもいいですか」
4人の表情が一気に明るくなった。こういう光景を見られるのは役得なんでしょうかね。
空母寮・裏手
意外にも初めて来た。別の角度から見た事はあっても、近付くまでは至らなかった場所だ。
「あれがそうですね」
ちょっと草臥れた感じの物置が5つある。塗装も剥げている所が目立った。
「えっと、出来ればその……私たちはここで」
「待っててもいいですか?」
祥鳳&瑞鳳の足が止まった。後ろには残りの2人が同じように立っている。
「堪忍やで、後藤田はん」
「近付くのはちょーっと遠慮したいと言いますか……」
「…………まぁ、分かりました」
女性に自ら
「わー……結構な数で」
10、いや、もう数えるのも億劫なレベルだ。手入れされていない&物陰や奥まった場所&湿気が多い所にはよく連中が群生する事がある。物置も見るからに雨風に晒された感じだ。地面も水はけが悪いのか湿っぽい。
「物置の中には特別必要な物とかありますか?」
「大した物はないと思いますけど、備品が何かしら入っている可能性が」
「ここに鎮守府が出来た頃に買った物置やからなぁ。正直何が入っているかいまいち分からんわ」
あんな物置ではそれも然りか。ウチだって物置に何があるかはお袋しか把握してないだろうし。
「無下に殺すのもあれですんで、取りあえず片っ端から捕まえますね。物置の中に居る連中についてはある程度だけ捕まえて残りは駆除しちゃいます」
道具を取りに車へ戻った。その道中、見知らぬ2人を引き連れた陸奥さんと遭遇する。1人は何かこう、和服と言うか巫女っぽい恰好だ。もう1人は大きな荷物が目立つも地味な服装である。
「あら、お疲れ様です」
「お疲れ様です。そちらのお2人は……」
「ちょうどいいわ。今さっき着いたばかりなの。特務艦の宗谷と、水上機母艦の日進よ」
特務艦。水上機母艦。って事は軽巡寮に行く訳か。ぶっちゃけ、その何々艦がどんな役割なのかは未だによく分かってません。サーセン。
「特務艦、宗谷です。よろしくお願いします」
「水上機母艦の日進じゃ。よろしゅうに」
あれ、宗谷ってあの宗谷? 南極に行った船の宗谷?
「こちら、害虫駆除業者の後藤田さんよ。ここ最近は週に1回来てるから、見掛けても怪しまないでね」
「後藤田と申します。その辺で何かしてるかも知れませんけど気にしないで下さい。あと見知らぬ野生動物を見掛けたら、提督さん経由で良いので教えて下さると幸いです。最近になって害獣の捕獲も始めましたんで」
「長門からアライグマの件は聞いたわ。あんな所に居たんですってね」
「簡単に見つからない理由がよく分かりましたよ。あんな廃墟で寝起きしてたなら当然ですね」
因みに、あの廃墟と廃工場は現在も取り壊しが進められている最中だ。いずれ鎮守府の敷地がもう少し広くなる日が来るだろう。
「と言う事はその……もし何か出た場合は対処して頂けるんでしょうか」
「そうですね。ただ近頃はそこまで凶悪なのは出ませんけども」
「一時期は色々とよく出てたのよ。今は大分落ち着いたけど」
「なんと。見たかった気もするが、落ち着いた今の着任で良かったとも思うのぅ」
いやまぁ、お2人の行く軽巡寮も手放しでは喜べない場所なんですけどね……
「あぁすいません。ちょっと急ぎますのでこれで」
手短に別れを告げて駐車場へ走る。虫捕り網と適当な入れ物、殺虫剤、一応の防護服を持って空母寮へ引き返した。復活したらしいガンビア・ベイと千代田が合流している。
「大丈夫ですか?」
「が、頑張ってお手伝いします」
「無理しなくていいからね」
顔色は悪いが、見張りぐらいなら出来るだろう。全員にも殺虫剤を持って貰い、自分の方に近付いて来た場合はそれで駆除。あとは変な方向に飛んでいくのを報せてくれればそれでいい。
「では始めます。あらぬ方向に飛んで行くのを見掛けたら教えて下さい。自分の方に近付いて来た場合は距離を取るか、可能ならお手持ちの殺虫剤で仕留めて貰って大丈夫です」
言うは易し。6人の表情は固かった。半ば棒立ちなのが心境を物語っている。
しかしそれを尻目に作業を開始。虫捕り網で目に付いたのから片っ端に捕まえていった。
「よっと」
網を突き破るかのように強烈なジャンプである。2匹を一気に捕らえた。
「はいはい。森の中へ帰りましょうね」
透明なケースは見た目がやばい事になるので、ホムセン箱へどんどん放り込む。中で飛んではぶつかってバチバチと当たる音がした。
「はいっと」
3匹。
「ほれ」
2匹。
「あっ、逃げた」
追いかける。1匹ゲット。
「後藤田さーん」
「あっちに飛んでいくのが居まーす」
祥鳳&瑞鳳に呼ばれた。指差す方向を見ると、2匹が変な方向に行っているのが分かる。
「……随分遠くに逃げるなぁ」
追い掛けて捕まえる。いや、これは見た目以上に重労働だな。
「後藤田はん後藤田はん、ちょっとこっちに近付いとるのが居るんやけどぉ」
「あ、わ、私が、やっつけます」
ガンビア・ベイが殺虫剤を噴射。バリア効果になったのか、近付いていたカマドウマは後ずさりして逃げた。
「おー、ナイスや!」
「……こ、怖かったぁ」
半べそである。何でか分からないが、漫画とかで目がバツ印になって泣いてるキャラを連想させた。
「お姉、何かあっちに飛んでいくのが居るけど……」
「後ろからなら大丈夫かしら。こっそり近付いて、私たちでやりましょう」
お、有難い行動ですね。出来ればそれぐらいはやって欲しいが果たして……
「千代田は右から、私は左からね」
「了解」
2人で後ろからゆっくり接近。殺虫剤が届く距離まで近付き、一気に噴射した。
「えい!」
「逃がさないわ」
左右から殺虫剤を食らっては無事で済まない。引っくり返ってジタバタした後、動かなくなった。
「……死んだ?」
「みたいね」
「あー、ありがとうございます。箒か何かで集めといて下さい。後で処分しますから」
暫し捕獲作業を続ける。物置の外に居る分は捕まえ終わった。
「さて残るは中に居る連中だな」
全ての物置でちょっとだけ引き戸を開けて確認すると、外よりは少なかった。これなら捕まえずに燻煙剤で駆除してもいいだろう。
「燻煙剤を仕掛けます。3時間ほどで終了ですね。捕まえたのは外の山へ逃がして来ます」
先に燻煙剤を仕掛けてから中で当たる音の響くホムセン箱を抱え、正門から出て道路を渡りいつもの山に入った。適当な場所でホムセン箱を開けてカマドウマたちを解放。人によっては卒倒するレベルの光景である。
「よーし、戻るか」
空っぽのホムセン箱を抱えて鎮守府に戻った。燻煙剤が効果を弱めるまでは時間があるので暫し休憩だ。空母寮でこの後の流れを確認し、駐車場で装備を解いたら後部座席で横になる。
カサブランカ級は50隻存在したようですが、さすがにアメリカでも全員分の艦娘は居ないんじゃなかろうかと思ったので取りあえず30としました。よろしくお願いします。特に今後の展開には絡んで来ませんので悪しからず。