鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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開発工廠 駆除作業日2

 俺の人差し指の爪が一瞬だけ捲れ上がって戻った日から2日後。ハイイロゴケグモの駆除作業日がやって来た。今日の作業は工廠内にある移動可能な工作機械を外へ出しながら清掃しつつ、天井部分に居るかも知れないハイイロゴケグモの駆除、巣や卵を回収する予定だ。

 

 因みに前回駆除した日の翌日、天井部分の捜索について高所作業車を使わなくても出来る案があると連絡があった。それが何なのかも今日で分かる。

 

「今日のためにこちらを用意しました!」

 

 開発工廠前のアスファルトに並べられた形と大きさが違う2種類のドローン。その数は5機ずつで計10機。

 

「これで天井近辺の捜索をします! 中央にある可動式ノズルを備えた殺虫剤で駆除が可能です! カメラもありますからその映像を見る事も出来ます!」

 

 得意げな明石さんが早口気味に捲し立てる。どう反応していいかいまいち分からない。

 

「半分は駆除型。もう半分は回収、いえ、どちらかと言えば吸引型ですね」

 

 打って変わって嬉し気な表情だが口調は落ち着いている夕張さん。して、吸引型とは何でしょうか。

 

「小型掃除機を組み合わせたこれは、巣にある程度まで接近して死骸や卵を吸い込む事が出来ます。この上の方に伸びているノズルで吸い込みます。その際は機体を傾ける事も可能です」

 

 つまり、クモ自体は駆除型でやっつけ、死骸と卵は吸引型で回収する算段らしい。

 

「……巣の方はどうなります?」

 

「それなりにパワーのある物を積んでいますから十分に吸い込めます。一応、その辺にある蜘蛛の巣でのテストも成功しました。全てを回収するのは難しいでしょうけど、目で確認しながら手作業でやるよりは時短になると思いますし、高所の作業は転落の危険もありますからまだ安全じゃないかと」

 

 まぁそれもそうか。手だろうと完全にこなすのは不可能だ。どうやったって取り切れない部分も出て来る。定期的に燻煙剤を撒けば増殖も防げるだろう。それに万一が起きて落下でもすれば、大怪我かもしくは死の二択しかない。

 

「因みにこれ、誰が操作するんですか」

 

「私とお手伝いの2人が居ます」

 

 そこに現れたのは……

 

「ん、頑張る」

 

「今日のためにガラじゃないけど練習して来たよ~」

 

 初雪と、もう1人は誰だったかな。何とか月だったと思うけど……

 

「駆除型を初雪ちゃん、吸引型を望月ちゃんにやって貰います。私もそれぞれ2機ずつくらい受け持つので、2人には残りを折半して貰おうかと」

 

 あぁ、そうそう、望月だったか。

 

「……にしても3人で10機はちょっと厳しいんじゃないですかね」

 

「自動操縦モードもありますから、その辺は何とかやりますよ」

 

 なるほど。まぁ、素人の俺が口を挟める事ではないから任せるとしよう。それはそうと、準備しなくては。

 

「えーと、皆さんお揃いでしょうか」

 

 工廠前にはとある艦種が勢ぞろいしていた。

 

「本格的な手伝いは初めてだな」

 

「長門はアライグマの時に1回経験してるじゃないの」

 

「あの時は少々緊急性があったから少し違うと思うんだが」

 

 まず長門型。

 

「頑張りますね」

 

「大和型の底力をみせてやろう」

 

 続いて大和型の2人。

 

「よろしく頼む」

 

「力仕事は久々かな。ま、気楽に行こうよ」

 

 お次は伊勢型。

 

「お昼の方はこちらでご用意しますね」

 

「少し多めに仕入れたから、ある程度はお替わりもいいわよ。ある程度はね」

 

 隣に扶桑型。この2人は今日のお昼を準備してくれる。

 

「私にも出番が回って来たか。任せてくれ」

 

 前に会った事のあるサウスダコタと……

 

「アイオワ級戦艦、ネームシップのアイオワよ。ずっと前から居たんだけど、あちこち飛び回ってて久しぶりに戻って来たわ。Mr後藤田、よろしくね」

 

 でけぇなぁおい。あ、やべ、声に出てないよな?

 

「よろしくお願いします」

 

「そうそう。マミヤの商品に加えて貰ったホットドッグ。あなたが初めてのお客さんだったそうね。気に入ってくれて嬉しいわ」

 

 間宮? ホットドッグ? そう言えば何かそんな事もあったような("物陰注意報その2"で食べた)

 

「あー……はい、美味しかったです。ありがとうございました」

 

 さてそろそろ仕事にかかりましょうかね。

 

「では予定通りにお願いします」

 

 作業が始まる。ある程度の清掃を行ってからの運び出しとなった。

 

「いくよー日向」

 

「いつでもいいぞ」

 

 絶対に持ち上がらないそうな機械が軽々と宙に浮き、戦艦たちによって工廠の外へと運び出されていく。さすがは戦艦組。凄まじいパワーだ。

 

「武蔵、いいわね?」

 

「ああ」

 

 重機じゃないと外に出せないんだろうなぁと思っていたが、そんな事はなかったようだ。いや、ここだけで見れる光景の筈だ。ここの外で見た事を話しても信じて貰えないのは確実である。

 

「やだもう、機械の下ってこんなに汚いのね」

 

「基本的に動かす事はないからな。それより陸奥、そっちが少し高いぞ」

 

「よーしアイオワ、私たちもやるぞ」

 

「OK!」

 

 さて、ボーっとしてないで俺も仕事せな。

 

 運び出された機械が元あった所に卵や下手すれば幼虫が居る可能性があるので、まず薬剤を散布して回る。1度確認の終わっている場所にも念のため再度の散布を行った。それが終わったら外にある機械の入念な清掃と並行しつつ、天井部分を調べるためドローンが工廠の中に入る。

 

「行くわよ2人とも!」

 

「オッケ~」

 

「了解」

 

 一斉に飛び上がるドローンはちょっとかっこいいと思った。向こうは大丈夫そうなので清掃に混ざる。

 

「では掃除の方を始めます」

 

 ある程度は本当にある程度で、外に出すためのものだったから本格的な掃除はこれからだ。1台に2人1組で取り付いて掃除していく。俺も明石さんと一緒に1台目に取り掛かった。

 

「しかしまぁ大きいですね。幾らぐらいするんですか?」

 

「そうですねぇ、数千万はするんじゃないでしょうか」

 

 マジか。下手な新車よりよっぽど高いなおい。

 

「もっと規模の大きい鎮守府ですと、生産システムも加わって億単位の設備を持っている所もありますよ」

 

「……気が遠くなりますね」

 

 壊したら大事だ。慎重にやらなければ……

 

 その後も掃除は続く。ドローン班は何だかワーキャー言いながらやっているが、主に騒いでるのは夕張さんだった。

 

 何だかんだで昼になり作業は一旦中止。戦艦寮で昼食となる。

 

「今日のお昼はピラフを用意しました。配膳はそれぞれでお願いします」

 

「盛り過ぎはダメよ。いいわね」

 

「Oh! looks delicious!」

 

「山城は意外と料理が上手いからな。期待してるぜ」

 

「意外は余計よ、意外は」

 

 サウスダコタの言葉を一蹴しつつもちょっと嬉しそうな山城であった。

 

「いい匂い、さすがは山城だね」

 

「感謝する」

 

「褒めても何も出ないわよ」

 

 ピラフ、サラダ、スープを盛り付けてランチタイムだ。とても美味しかったです。

 

「さぁ午後も頑張ろうね」

 

「眠くなりそうだな~」

 

「お腹いっぱい。寝るかも」

 

 かも、ではなく既に初雪は眠そうである。目が細い。

 

「山城、ご馳走様」

 

「勿体ないな。食堂で間宮の手伝いでもしてはどうだ」

 

「遠慮するわ。私、どんくさいから」

 

 彼女が長門型の2人と話す光景はもしかするとかなりレアなのではないだろうか?

 

「後藤田さん、午後の工程ですけど」

 

「あー、はいはい」

 

 明石さんと少し打ち合わせをしてゾロゾロと開発工廠へ戻った。軽く体操をしてからの再開となる。

 

バキ!

 

「っ!」

 

 背中で軽い痛みと共に嫌な音がした。大丈夫かね、俺の体……

 

「どうした、顔が歪んでいるぞ」

 

「ちょっと背中で嫌な音がしまして……」

 

「運動不足だな。ラジオ体操だけでもそれなりに効果があると聞く。やってみるといい」

 

「ありがとうございます」

 

 日向様からアドバイスを頂いてしまった。明日やってみようかな。

 

「作業を再開しまーす」

 

 明石さんの号令によって再び作業が始まる。機械は残り10台くらいだが大きいのでそれなりに時間が掛かるため、どうしてもスピードは遅めだった。

 

「手が痛くなって来ましたねぇ」

 

「私も指先が痛いです」

 

 残りは7台か、先は長い。

 

「休み休み続けましょうか」

 

 時間を掛けて1台、2台と終わらせていった。気付けば時刻は15時を回ろうとしている。今日も残り2~3時間と言った所だ。

 

「お疲れ様です。どんな感じでしょう」

 

「あぁ、お疲れ様です。そうですねぇ、思っていたよりは進めてないです」

 

 提督さんが様子を見に来た。取りあえず残り時間を考えて、今日が何所まで出来るかを見定めなくてはならない。向こうの様子も探るべくドローン班の所へ向かった。

 

「夕張。順調か?」

 

「ちょっと初ちゃん寝ないで! もっちー、私の受け持ち少し渡していい!?」

 

 初雪はコントローラーを握ったまま落ちていた。

 

「無理言うなよ~、1人じゃいいとこ4機だって~。周回モードだから放っておけるんであって実質操れるのは1機なんだから~」

 

 かなり無茶な方法で頑張っていたらしい。そりゃあ10機を3人で操るのはどう考えても厳しいだろう。

 

「あー、夕張?」

 

「え? やだ提督! いつから居たんですか!」

 

「ついさっきだな」

 

「お忙しい所をすいません。そちらの状況は如何でしょうか」

 

「はい! 順調……ではないですねぇ」

 

 天井部分の半分は何とか終わったそうだ。巣も可能な限りは吸い込んだらしいが、細かい所は残ったままである。まぁこれは人力でも難しいから仕方ない。何よりもドローン班は圧倒的な人手不足だ。

 

「機械の清掃も残り時間を加味すると何台か終わりませんね」

 

「あれは別の所に場所を用意してますので、終わった物はそっちへ移しましょう。終わらなかった分はこちらで作業を継続しますから大丈夫です」

 

 何だか毎度毎度、作業の読みが甘くて1日の予定が全部終わらない事が多い。その辺も考慮して予備日を設けてはいるが、そっちに全部のしわ寄せを集めるのは良くないだろう。

 

「規模が大きい作業は難しいですねぇ。どうにも読み通りにいかなくて申し訳ありません」

 

「ここの面積を考えると本来なら大手さんに頼むレベルですから仕方ありませんよ。それを引き受けて頂いてるだけでも感謝仕切れません。あ、そうそう。様子見ついでにこれを渡しに来たんでした」

 

 提督さんは小脇に抱えていた封筒を差し出した。

 

「……何ですか?」

 

「敷地内車両通行許可証です。ようやく届きましたのでどうぞ」

 

 おー、ついに来たか。アライグマの一件で、上に申請するから用紙を書いて欲しいと言われたヤツが届いたようだ。これがあれば駆逐艦寮から出る色んなのが詰まったゴミ袋の移動も楽になる。

 

 いやでも運動不足が更に加速しそうだなぁ。取りあえずこれは受け取っておこう。

 

「ありがとうございます。これで重量のある罠の移動も楽になります」

 

 しかしそう考えるとやはり凄い便利な物に思えて来た。置きっ放しのアライグマの罠も近い内に回収しなくては。

 

 さてと、許可証についてはこれぐらいにして、今日の工程を見直さなくてはならない。

 

「今日の残り時間で天井はどの程度ならいけますか?」

 

「あと……3分の2は何とか」

 

「バリさ~ん、正直に言いなよ~。かなり指痛いんだけど~」

 

「……3分の1……ですかね」

 

「では回収のドローンを全部下ろして、噴射型だけにしましょう。それで終わってない部分への噴霧だけお願いします」

 

 ドローン班についてはこれで良し。ほいで、自分が受け持っている所はどうするか。

 

「4人1組へ変えて1人1人の負担を軽くしてみましょう。自分は工廠内で増えているのが居ないかもう1度見て回りますので、明石さんは来週のスケジュール調整をお願いします」

 

「了解です!」

 

 戦艦組に2人1組から4人1組へ変える旨を伝える。幾ら戦艦と言えど疲労は無視出来ないらしく、単純に手数が増える事を喜んでいた。

 

「どれ行きますか」

 

 薬剤入りのタンクを背負って工廠内部に入った。時計回りに見ていく。

 

「……おや?」

 

 こんな所に巣がある。はて、見落としかそれとも……

 

「綺麗に排除して、薬も撒いて、と」

 

 巣を拭い取った。一応入念に見たが生きている個体は確認出来ない。多めに薬品を撒いておく。

 

「はい次。迅速迅速」

 

 確認しつつ見取り図に終わった所を書き込んだ。これを基に作業がない間も見回りをして貰って、情報を更新していくのが狙いである。連中の繁殖力を調べる事も出来そうだ。

 

 気付くと時間が溶けていた。時計の針は17時前を指している。

 

「あー疲れた」

 

 見回りは取りあえず終了。工廠の外に出た。

 

「お疲れ様です。そちら、どうでしょうか」

 

 バインダーを脇に抱えた明石さんが振り返る。

 

「残り2台までいけました。後はこちらで進めます。来週のスケジュール確認をお願いします」

 

 バインダーを受け取った。来週は……

 

(機械の清掃は明日再開。天井の方も2日に1回程度で継続実施。来週のメインは大掃除だな)

 

 当日のメンバー:吹雪型8名・綾波型8名・白露型10名・長良型2名

 

 28人も居る。凄い人数だ。それにしても、駆逐艦の方は知っている数よりも多い。まだ見ぬ姉妹が居ると言う事なのか。

 

「……はい。大丈夫そうですね。運び出した機材を戻す日はまた考えるとして、駆除作業自体はこれで終わりに出来そうな気がします」

 

「ありがとうございます。でもまだ油断は出来ないですねぇ」

 

「来週は開始時間を少し早めましょう。そうすれば今日よりも時間を見やすいかも知れません」

 

 そんな訳で本日の作業はここまでとなった。最後に念のため燻煙剤を複数設置して広範囲へ行き渡らせる。食堂で夕食を取ったり道具や在庫の確認をして時間を潰し、空になった燻煙剤を回収してから帰った。

 

「……来週で終わると良いなぁ」

 

 車内で1人そう零す。毎週毎週こんな大きい作業をしてると流石に疲れも溜まるってもんだ。何所か温泉でも行って暫く休みたいなんて気分にもなる。

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