鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。


百足、再び

 広樹です。取りあえず始業前のラジオ体操を始めました。その内に効果が出て来るといいなぁ。

 

 前回作業日の2日後。提督さんから受け取った車両通行許可証をインパネの上に載せて鎮守府へやって来た。今日は残っているアライグマの罠ラスト1個を回収に来たのだ。

 

「お疲れ様です。罠の回収に来ました」

 

「おはようございます。あ、ついに許可証が出ましたね」

 

 警備の人が許可証を見つける。そう言えばこれがあると何か対応が変わるのだろうか。

 

「はい。因みに敷地の奥へはどうやって入れば」

 

「これを持って来られた場合は関係者用の出入り口からどうぞ。何かのついでとかで来られて許可証が無い場合は、以前のように来客用の方から出入りして下さい」

 

「関係者用?」

 

 鎮守府の出入り口は2つある。1つは俺が何時も出入りしている来客用の方。こっちは中に入ると、そのまま来客用の駐車場へ繋がるようになっていた。警備所を挟んだ隣は関係者用で敷地内の奥へとダイレクトに入れる。

 

「あー、隣ですね。分かりました」

 

 ハイエースを一旦バックさせてから入り直す。何か手続きがあるのか思っていると、バーコードの読み取り機みたいなのをフロントガラス越しにかざした。

 

「はい、OKです。どうぞ」

 

 わぁ凄い。楽でいいなこれ。

 

「何か埋め込んであるんですか?」

 

「まぁそうですね。詳しくは言えませんけど」

 

 あ、はい。分かりました。これ以上は何も聞きません。

 

「では失礼します」

 

 車を敷地の中へ進める。目指すは司令部棟だ。裏手に置かせて貰っている最後の罠を回収に向かう。

 

 敷地内は制限速度30キロだ。教習所に行ってた頃は30キロでも怖かったけど今は何ともない。慣れって凄いなぁと今更ながらに思います。

 

 

司令部棟裏

 

「どっこいせっと!」

 

 鋼鉄製の罠を持ち上げて積み込み作業を開始。くっそ重いです。

 

「おっと!」

 

 手が滑って盛大にアスファルトへ落とした。ガシャーン! なんて金属音が響き渡る。そして司令部棟の何所かの窓が開く音もした。

 

「大丈夫ですかー?」

 

 上から大淀さんの声がする。顔を上げるとちゃっかり隣に加賀様もいらっしゃった。

 

「騒々しいわね」

 

 どうも今日は機嫌が良くないみたいなので早々に退散するとしよう。その証拠に目付きが鋭いし声がいつも以上に低い。

 

「大丈夫でーす、お騒がせしましたー」

 

 今度は落とす事なく積み込めた。バックドアもそっと閉める。

 

「さて、退避退避」

 

 あ、待てよ。ついでだから間宮さんの所に寄って行こう。何か新商品に出会えるかも知れない。車をゆっくり発進させてお店へ向かった。

 

 お店の斜め向かいに車を停め、久々に客として暖簾をくぐった。当然だが間宮さんがいらっしゃる。

 

「今日はどうされましたか?」

 

「久しぶりに食べに来ました」

 

「あら、ごめんなさい。何か出たのかと思ってしまって」

 

 まぁここ最近の事を考えると脳みそが勝手にそう思ってしまうのも無理はないか……

 

「こちらにどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 カウンターに座り、メニューを眺める。特に新しい商品は追加されていないようだ。

 

「うーん……今日のおすすめにしようかな」

 

 美味しそうなのでこれにしよう。お茶が運ばれて来ると同時に注文する。

 

「今日のおすすめでお願いします」

 

「はい。お待ち下さい」

 

 こんな注文をすると、常連のような気分になった。ここ最近はあまり来れてないから常連と呼べるほどの存在ではありませんけどね。

 

 とか思っていると、暖簾が風と共に捲れ上がる。

 

「すいません、後藤田さんが来て……ますね」

 

「はい?」

 

 飛び込んで来たのは小脇にクリアファイルを抱えた古鷹でした。ちょっと息を切らしているがどうしたのだろう。

 

「司令部棟の裏に車があったのを見掛けて、追い掛けて来たんです。お仕事をお願いしてもいいでしょうか」

 

「分かりました。取りあえずどうぞ」

 

 隣に座って貰う。それでどのような案件でございましょうか。

 

「以前、ムカデを退治して頂いた件なんですが、ここ最近になってまた姿を現すようになりまして」

 

「なるほど。まぁ裏手の雑木林がある限りはどうしても再発の可能性がありますね」

 

 重巡寮の見た目は新し目の小さいマンションと言った感じだ。しかしその裏手には鬱蒼とした雑木林が存在を誇示している。手を全く入れていない訳ではないが、伐採するのも金が掛かるのでそのままになっているらしい。

 

 そしてこれは又聞きした話だが、俺が出入りするようになる前は特に何も起きなかったそうだ。どういう事なんですかねえ……

 

「この前、ついに部屋の中にまで入って来たんです。中途半端にドアが開いていたのも原因なんですけど、足元に来るまで気付かなかった青葉が驚いて飛び上がって、床に落ちて軽い怪我もしてしまいまして」

 

 あら、これはちょっと穏やかではないな。

 

「これが見掛けた回数や、建物の中に入って来た頻度を纏めたリストです」

 

「拝見します」

 

 クリアファイルから出された紙に目を通す。見掛けた回数は十数回。建物の中に入って来た回数も同じぐらい。一週間でこの数字だ。一般家庭ならそろそろ気が参って来るだろう。

 

「……何所かで漏水してたりしませんか? ムカデは実を言うと水が好きな生き物でして」

 

「水ですか……」

 

 暫く考えたが、答えは見つからなかったようだ。何度も首を傾げている。

 

「特に異常は無いと思います」

 

「であれば別の何かが原因でしょうね。取りあえず見てみましょうか」

 

「えーと……お仕事に行かれますか?」

 

 隣にお盆を持った間宮さんが立っている。しまった、注文していたのをすっかり忘れていた。

 

「……いただいてから向かってもいいでしょうか」

 

「はい。私は先に戻ってますので、ゆっくり来て下さい」

 

 と言う訳で無事、本日のおすすめを食べられた。車に乗り込んで重巡寮へ向かう。

 

「ごちそうさまです」

 

「ありがとうございました。行ってらっしゃいませ」

 

「……はい、失礼します」

 

 今ちょっと、ドキッとした。もし仮にどうにかなる事が出来たとしたらあれを毎日聞けるんですよ皆さん。凄いと思いませんか?

 

 そんな事を考えていたら食品配送トラックの進行を妨害しそうになったので気持ちを切り替える。危ない危ない。運転中に考え事はいかんですよ。

 

 

重巡寮

 

 邪魔にならない場所に車を停めて中に入る。アライグマの時にも会った利根と衣笠、肘に包帯を巻いた青葉が居た。

 

「よく来てくれたのう。また手を煩わせてしまって済まぬ」

 

「どうもー青葉です。出来れば今回も撮らせて貰えませんでしょうか」

 

「青葉、片腕殆ど使えないんだから大人しくしてなさい」

 

「えーでも」

 

「い い か ら」

 

「はい」

 

 シュンとなる青葉は大人しくソファに腰掛けた。まぁ下手に動き回って怪我が増えるのはよろしくないだろう。

 

「まず一通り見て来ますので、皆さんに何を手伝っていただくかは後でお話しますね」

 

 リスト片手に偵察を開始。同行者は衣笠と古鷹の2人。裏手に出て建物と雑木林の間にある庭を調べた。

 

「お、小さいけど居るな」

 

 基礎の部分に小ぶりなムカデを発見。まだ成長途中のようだ。

 

「小さくても形は同じなんですね」

 

「これがあんなに大きくなるって考えると怖いなぁ」

 

 コイツはその辺にあった木の枝に乗せて森へ帰した。物は試しと言う事で通用口を開ける。

 

「そんな直ぐに姿を現す事はないでしょうけどもちょっと開けておきましょう。もし入って来たのを追い掛けられたら、ムカデがやって来る原因を調べられるかも知れません」

 

「あ、でしたらちょっと皆に報せて来ますね」

 

 古鷹が通用口から入ってロビーへ向かった。戻って来るまでの間、建物の外壁を調べる。

 

「……うわ」

 

 角を曲がって側面に出ると、そこそこ大きいのが3匹も壁にへばり付いていた。

 

「これはちょっと触れないなぁ。戻るか」

 

「後藤田さん後藤田さん、1匹中に入ろうとしてます」

 

「え?」

 

 衣笠に呼び戻される。すると壁に居たのと同じぐらいのムカデが通用口から入っていく光景を目撃した。

 

「……マジか」

 

「すいません、お待たせしました」

 

「あー古鷹、動かないで」

 

「え……ひっ」

 

 戻って来た古鷹が床を這うムカデを見て固まった。ムカデの方から離れていくのを待つ。

 

(そう言えばリストを見る限り、目撃も遭遇も1階だけだな。どうしてだろう……)

 

 リストにもあるように、目撃場所は基本的に1階のみだった。不思議な事に上階での遭遇や目撃情報はない。侵入ルートは恐らく、1階の中途半端に開いていたり換気のために開けていた窓や通気口からなのだろう。

 

 ムカデは触角を頻繁に動かしながら、少しずつ古鷹から離れていった。それを後ろからこっそり追い掛ける。しかし、何も道具がない事に気付いた。

 

「そうだ。火箸とかあります?」

 

「多分、物置部屋とかには」

 

「急いで持って来るね」

 

 衣笠が小走りで物置部屋に向かった。このままゆっくり追い掛けるなら、戻って来るまでに大した距離は移動してないだろう。

 

「……何所に行こうとしてるんだ」

 

「こっちは炊事場があります。でも、ゴミは別の所に纏めて置いてあるので、生臭いなんて事はない筈ですけど……」

 

 何かを求めて彷徨うムカデはゆっくりと進み続けた。予想通り、然程の距離を移動する前に衣笠が舞い戻る。

 

「火箸です。それと一応ゴミ袋も」

 

「ありがとうございます」

 

 暫し、ムカデの追跡を続ける。ウネウネと動き回るムカデは炊事場の中へと吸い込まれて行った。

 

「炊事場に入りましたね」

 

「うーん、掃除が不十分なのかな」

 

「綺麗にはしてると思うけどね」

 

 炊事場を覗き込む。ふと、鼻先を何かの匂いが掠めた。

 

(何だ? 甘い匂い?)

 

「あれ、何所に行ったんだろ」

 

「消えちゃった?」

 

 意識を戻す。ムカデの姿が見えない。

 

「げ……隠れたか?」

 

 中には入らずにくまなく探すが見つからない。少しずつ足を踏み入れようと思い始めたその時……

 

「あ、居ました」

 

 古鷹がムカデを見つけた。冷蔵庫の裏から壁を伝ってシンクに取り付こうとしている。

 

「捕まえます。ここで待ってて下さい」

 

 火箸を構えて近付く。ムカデは三角コーナーの上から触角を動かして何かを調べているようだ。それに夢中になっている間に火箸で捕獲する。

 

「よっと」

 

 体を掴むと全身を激しく動かして火箸に絡み付いて来た。長さがあるのでどうやっても手に触れる事はないが、見ていて気持ちのいい光景ではない。

 

「はいはい。悪いけど出てって貰うぞ」

 

 黒いゴミ袋に放り込む。これで外からは見えない。

 

「終わりました。取りあえず逃がして来ます」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「もう終わったの? はっや」

 

 ガサガサ動いているゴミ袋を片手に外へ出た。森の手前で封を解いてムカデを逃がす。

 

「ほれ、はよいけ」

 

 ボトっと落ちたムカデは森の中へ逃げていった。ついでに外壁に居た連中も引っぺがして森に帰しておく。

 

「さて戻るかね」

 

 報告も兼ねて2人の所へ戻る。だがその時、足の間を細長いのがすり抜けようとした。

 

「ちょい待ち」

 

 火箸で掴んで持ち上げた。さっきのよりは小さいから同じ個体ではない。

 

「何だおい。次から次へと」

 

 念のため通用口は閉める。コイツはそのまま森の中へと放り込み、今度こそ炊事場へ戻った。

 

「お待たせしました。取りあえずロビーの方へ戻りましょうか」

 

「ちょっと疲れましたね。少し休憩にしましょう」

 

「皆もそろそろ帰って来る時間だよ」

 

 うん? 誰か出掛けているんでしょうかね。まぁいいや。

 

 ロビーへ戻ると、ちょうどその出掛けていた面子と出くわした。初めてここに来た時以来の高雄&愛宕、アライグマの時にも会った筑摩、お馴染みになったザラの4人が居る。

 

 4人の私服姿は初めて見たが、一見するとモデルか何かかと思う容姿だった。

 

「あら、お久しぶりです」

 

「暫くでーす」

 

「もしかしてここでもアライグマが?」

 

「アライグマ? こんな所に?」

 

「ご無沙汰しております。実はまたムカデがですね」

 

 その時、4人の持っているバッグに気付いた。あれは確か有名なアイスのチェーン店が売り出している保冷バッグだ。駅前にも最近店が出来たし、郊外にも2~3つはあった気がする。

 

「お帰りなさい。あ、買って来てくれたんですね」

 

「早い者勝ちよー。今日居る人数分はあるけど」

 

 愛宕が保冷バッグを開けたのを皮切りに、それぞれも開け始めた。中にはシンプルな物から豪華にトッピングが施された物まで幅広いアイスが収まっている。

 

「はい姉さん。いつものトッピングですよ」

 

「おー! 有難いぞ筑摩!」

 

 子供が夢見るような色々トッピングされたアイスを嬉しそうに受け取る利根であった。そして漂い始める甘い匂い。これはさっき嗅いだのと同じである。

 

「そうか。バニラの匂いだったか」

 

「どうかしましたか?」

 

「原因が分かりました。古鷹さんだけちょっとご協力願います」

 

 古鷹を含め頭の上から"?"が消えない彼女たちを尻目に行動を開始。2人で炊事場へと戻る。

 

「あまり大きい声じゃ言えないんですけど、ムカデって甘い物も好きなんですよ」

 

「甘い物……もしかして」

 

「まだオープンして間もないですけど、ここから一番近い店は駅前ですよね。ムカデがまた出始めたのと皆さんがアイスを食べるようになった時期は同じじゃないですか?」

 

「そ、そうですね」

 

「あそこでカップとかを洗っても、三角コーナーに残ったのはよっぽど洗い流さないと消えない筈です。恐らく、中途半端に残ったのが蓄積して、連中を誘い込む要因になっている可能性があります」

 

 炊事場から三角コーナーを取り出して裏手に置いて見た。無論、戸締まりはしっかりとしてある。

 

「……あ、来た」

 

 1匹、2匹、3匹と姿を現す。三角コーナーに頭を突っ込んでいるのが見えた。

 

「この隙にシンクを綺麗にして、消臭もしてしまいましょう」

 

「徹底的にやります!」

 

 意気込む古鷹と共にお掃除を開始。排水溝の中も綺麗にした。無香料の消臭スプレーをあちこちに噴き掛けていく。

 

「これぐらいでしょうか」

 

「匂いはしなくなりましたね」

 

 残りは三角コーナーを綺麗にして、群がっていたのを回収。こいつらは帰りに山へ放とう。性懲りもなくやって来る可能性は否めないし……

 

「取りあえず様子を見ましょう。多分大丈夫だと思いますけど」

 

「不手際でした。ありがとうございます」

 

 ロビーへ戻り、軽くお話をする。もしかすると原因はアイスかも知れないので、処理の仕方をもう少し工夫した方がいいかも知れないと言う事と、その上で様子見をする事。これでも侵入が絶えない場合は本格的に駆除作業をするので連絡して欲しいとも伝える。

 

「では失礼します」

 

 蠢くゴミ袋片手に車へ乗り込んだ。そのまま敷地を出て近くの横道から山に入り、ムカデを放つ。草むらに消えるのを見届けて帰路に着いた。

 

「やれやれ、大捕物にならずに済んだか」

 

 開発工廠の件でキャパシティがきつい所に変な物が出なくて良かったとも思う。今日はもう帰って休みましょう。罠のメンテもしたいし。




新年一発目ですので大人しめな感じにしました。
物足りなかったら申し訳ございません。

1月3日:追記(入れ忘れてました)
閑話・あるんだかないんだか分からない設定集2

後藤田プロテクトクリーン
商店街に店を構えて40年ぐらい経った地域密着型の害虫駆除サービス業態。開業当時は新築だった店舗付き住宅。耐震規定の改正に伴うリフォームを1度しているが、元が古いためいい加減にあちこちガタが来ている。営業時間は9時~19時。定休日は毎週水曜と第2第4木曜。土日は早仕舞いか不定期に休む場合あり。害獣への本格対処も視野に業務拡充を図っている。

後藤田家
2階建ての5LDKでベランダと物置、駐車場付き。庭はないが洗濯物を干せるだけの空間はある。1階は居間と両親の寝室、仏間がある。2階には広樹の部屋と物置部屋。ベランダは物置部屋の方にしかなく、広樹の部屋には手摺のみ。車は自家用車兼業務用車のハイエース(MT)と業務用の軽自動車(AT)が1台ずつ。軽自動車購入前からあった原付は暫く母親が乗り回していたが処分した。
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