鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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サブタイの通りですが、今回は虫も動物も出ませんので悪しからず。


番外編 鎮守府公式チャンネル

某日 第十七鎮守府

駆逐艦寮 管理室にて

 

「……本当にやるの?」

 

「外部の人達にここを知ってもらういい機会だって、提督も言ってたしね」

 

「お面もあるんだから大丈夫大丈夫。他の鎮守府だって似たような事してるんだし」

 

 三脚に設置されたカメラの前に居るのは吹雪・陽炎・白露の3人だった。近くにあるテーブルの上にはひょっとこ・おかめ・きつねのお面が置かれている。

 

 なんと3人は、これから動画投稿サイトに鎮守府の公式チャンネルを設立するため、第1回となる収録を始めようとしていたのだ。

 

「んじゃ私はきつね貰うわ」

 

「おかめいただき」

 

「えー、ひょっとこぉ?」

 

 陽炎はきつね。白露はおかめ。吹雪はひょっとこのお面を被った。そしてカメラの前に用意された椅子に腰掛け、陽炎がカメラの録画ボタンを押す。

 

 椅子に座る陽炎を待ってから10秒後、白露の秒読みが始める。

 

「5秒前。4、3、2、1」

 

 一拍おいてから再び白露が喋り出した。

 

「こんにちはー。第十七鎮守府公式チャンネルでーす」

 

「私たちが普段どんな事をしているのか、見せられる限りの事を公開していきまーす」

 

「あ、えっと、よろしくお願いします」

 

「今日のメンバーはしらっちと」

 

「かげろん」

 

「ふ、フブでお送りします」

 

「メンバーは私たち以外にも増えていく予定なので、その辺もよろしくどうぞ」

 

 ギクシャクする吹雪を余所に白露と陽炎は妙にこなれた感じで収録を進めて行く。

 

「今日は第1回目の収録です。ゲストはこの方」

 

 丸椅子を片手に何かの戦隊物の仮面を被った提督がやって来た。白露と陽炎の間に入って座る。

 

「初めまして。第十七鎮守府の提督です。この娘たちの上官でもあります」

 

 あんまり堅苦しいと再生数が出ないと判断した提督の決断によりこんな事になった。因みに提督の被ってるお面は提督宅の物置から出て来た品で、実子が小さい頃にお祭りで買ってあげた物である。

 

「本チャンネルでは鎮守府内で見られる日常やハプニング等を楽しく紹介していければと思います。映せる限りの事や提供出来る限りの情報を盛り込んで参りますので、よろしくお願いします」

 

「映せない事って言うと、やっぱり機密に関わる事ですか?」

 

 生真面目成分の強い吹雪が訊ねた。

 

「それもそうだが、色々と各方面に悪影響を及ぼすような事も避けて欲しい。収録された映像は私の方で精査するので、使える部分だけを皆に渡す感じになるな」

 

「って事は下手すると殆ど撮り直しになる可能性も」

 

「ある。だからよく考えて行動して欲しい」

 

「うへぇ」

 

 1回目の収録は取りあえず当たり障りのない感じで、雑談メインに進んだ。事前のお報せとして、チャンネルの更新は隔週か月1回程度で行う事と、状況によっては突然3人以外のメンバーが進行をする場合がある事も告知した。

 

 それこそ、もしかすると提督だけが出演して収録を進行させる可能性がある事も伝えられる。

 

「本日はこの辺で失礼しまーす。ご視聴ありがとうございましたー」

 

「まったねー」

 

「さ、さようならー」

 

 適当な所で立ち上がった白露が録画停止ボタンを押す。無事、1回目の収録が終わった。

 

「さーて編集しなくちゃ」

 

「今日の感じだとほぼ問題無いわよね」

 

「今回は特にいいだろう。出来上がったら1度見せて欲しいから、連絡をよろしく」

 

「了解しました」

 

 初めての編集ソフトに苦戦しつつ、3人は何とか動画を形にさせていった。一週間後に出来上がった動画を提督に見せてチェックして貰う。

 

「……大体はイメージしてた通りになったか。まぁ1回目ならこんなもんだろう」

 

 OKが出たので動画ファイルを書き出し、アップロードも済ませた。と言う所で色々とバタバタし始めたお陰で放置してしまい2日後。再生数は100回に満たないも、地元民のコメントがチラホラと見られた。

 

「やった、コメント来てる!」

 

「いかがわしいのとか誹謗中傷だったりしない?」

 

「あんた普段どんな動画見てんのよ……」

 

 1人で疑心暗鬼に陥っている吹雪に陽炎が突っ込む。

 

「見てみなって」

 

 白露に促されて画面を覗き込む吹雪の目に飛び込んだのは「お、あそこの鎮守府じゃん」「見学会とかしてるみたいだけど交通の便がなぁ……」「提督のお面はそんなんでいいんかw」「楽しみが増えた」というコメントだった。

 

「……何かこそばゆいね」

 

「その手のコメントが来ても気にしちゃダメよ。楽しまなきゃ」

 

「早速だけど次の動画の打ち合わせしよっか」

 

 次回の更新に向けて話し合いが始まる。色々とネタ出しを行い、その中から選んだ物を提督に精査して貰ってからの撮影となった。次回は水上機動訓練の主観映像に決定する。

 

 

数日後……

 

「やっほー、かげろんでーす。今回は私たちが普段海の上で見ている光景をお送りしまーす。ここは鎮守府正面の訓練海域ですので、一般の船舶やダイバーさんが存在しない事は予めお伝えしておきまーす」

 

 ゴープロを額に装着した陽炎が海の上を進みながら話し始める。

 

「本日は水上機動訓練の様子を一部ご覧いただきます。見学会でもやってる事ではありますが、実際に私たちの目を通したらどう見えているのか、皆さんにお届けしたいと思いまーす」

 

 進み続けると共に進行方向へ誰かが見えて来た。先に待機していた白露と吹雪だ。お面は危険なので外してあるが、後で顔を隠す加工が必要になるだろう。その辺は青葉が教えてくれるので問題ない。

 

「準備いいー?」

 

「いつでもいいよー」

 

「はーい」

 

 まずは海上に浮かんだ複数のブイの間を縫って進む最も基本的な機動術である。よそ見しながらでも出来るようになれば一人前とか何とか……(神通談)

 

「ではお願いします」

 

「まず私からね」

 

 一気に加速した白露がブイの間を文字通りに縫っていった。続いて吹雪もジグザグに縫って進む。

 

「2人が終わりましたので、私も続きます」

 

 最初は見ている側が酔わないようにゆっくり進む。自転車程度のスピードを維持した。

 

「次はもうちょっと加速しますよー」

 

 次第にスピードを上げていった。最後はレース中のバイクかと思うほどにまで速くなる。ブイの間を通るのが殆ど一瞬の出来事と化した。

 

「いかがでしたでしょうか。これが私たちの目線で見ている風景です。次はもうちょっとブイを複雑な位置関係に変えますので、一旦切りますね」

 

 録画を停止した。この間にブイを移動させてさっきよりも間隔を狭めたり広くしたりする。あえてブイ同士をぶつかりそうな距離で設置したりもした。

 

「再開しまーす。どうでしょうか、普通に通るのも面倒な感じですね。ではこれの間を速めに通り抜けます」

 

 さっきの最高速度よりもやや遅めで無事に通り抜けた。同じように少しずつ速度を上げるが、あんまり衝撃映像にしても仕方ないのでこの辺が落し所だろう。

 

「本当はもうちょっと速く出来ますけど、今回はこの辺で失礼しますねー」

 

「ご視聴ありがとうございましたー」

 

「また見てねー」

 

 収録を止める。ブイは自動帰還モードで港に帰って行った。吹雪が装備している専用タブレットでブイを待機モードから切り替えその様子を見守る。

 

「これおまけ用に撮っとこうか?」

 

「うん、いいね」

 

「ただ帰って行くだけのブイ見て面白い?」

 

「中にはそういうのが好きって人も居るんじゃない?」

 

 録画を再開した。ブイが帰って行く様子を映像に収める。

 

「お昼どうするー?」

 

 唐突に白露が喋り出す。

 

「今日の日替わりなんだっけ?」 

 

「新しいお店のメニュー表がこの前届いたけど注文してみない?」

 

 吹雪は新しく町に出来た店が気になるご様子。

 

「えー時間掛かるじゃーん」

 

「注文するならお昼の1時間前にはやっとかないとねー」

 

 吹雪の提案は2人にやんわりと却下されてしまった。水上機動のスピーディーな映像とブイが自動帰還する微笑ましい映像に、この何気ない会話が入った事で2回目の動画は再生数1000を超え、コメントも倍以上が書き込まれるのであった。

 

「やべぇ、バイク買い戻そうかな。乗りたくなって来た」

「一列に並んで帰って行くブイに癒しを感じる」

「最後の会話が年相応感あってすき。でも彼女たちって何さ(オヤコンナジカンニダレダロウ)」

「他の鎮守府の訓練映像も見たけどこっちのも凄いなぁ」

 

 所謂"バズった"まではいかないが、チャンネル登録者数と再生数はジワジワと伸び始めた。そんなある時。

 

「来週のスケジュールを確認しまーす」

 

「ごめん、出張。戻るの再来週になるわ」

 

「護衛作戦に出るから同じく戻りは再来週」

 

 陽炎と吹雪は遠出のため居ない。カメラと司会を1人で行うのは可能っちゃ可能だが……

 

「1回お休みでもいいんじゃない? 最初の告知で更新は隔週か月1回程度って言ってるんだし」

 

「これ始まってから目まぐるしい日々が続いてる気もするしね。休もうよ」

 

「じゃ何か適当に撮り溜めしとくよ。私も急に遠出する可能性だってあるし」

 

 と言う訳で、白露1人で収録する事になった。その旨を提督に伝える。

 

「大丈夫か?」

 

「いい機会なんてメンバーを増やすための布石にします。最初はサポメンって感じで出て貰って、徐々に準レギュラーぐらいにしていければなー、なんて」

 

「まぁ企画もこれなら大丈夫か。ゲストが足りなければ呼んでくれ」

 

「了解しました!」

 

 そして来週になる。

 

「しらっちでーす。残念ながらフブとかげろんはスケジュールの都合が合わなくなったので、今日は私と妹のしぐしぐでお送りしまーす」

 

 カメラを構える時雨は何と言えばいいか思案しつつ、ゆっくり喋った。

 

「えーと、しぐしぐです。急にカメラを渡されて困惑しながらこの場に居ます。よろしくお願いします」

 

「今回は私発案の企画を行いますが、まずゲストが数人必要なのでそれを確保しに参ります」

 

 駆逐艦寮を出て歩き始める。するとそこに通り掛かったのは……

 

「あ、いい所にターゲット発見」

 

 定期チェックに来ている広樹を見つけた白露嬢。

 

「お兄さんお兄さん、ちょっとお尋ねします」

 

「もうお兄さんなんて言われる年じゃないんだけどなぁ。それ何でお面してんの?」

 

「公式チャンネルの収録中だから顔バレ防止。あ、じゃあお兄ちゃんならいい?」

 

「若返っとるやん。ってか、誰がお兄ちゃんじゃ誰が。血を分けた覚えはないぞ」

 

 徐に広樹の作業着を引っ張り始める白露であった。

 

「ねぇお兄ちゃーんちょっと協力してー」

 

「仕事の邪魔せんで下さーい」

 

 公開出来ない映像になりそうだと判断した時雨はカメラを咄嗟に下へ向けていた。アスファルトだけが映る中に白露と広樹の会話が聞こえている。

 

「姉さん、後藤田さん一応部外者だから提督にも訊かないと」

 

「顔は隠すし声も変えるからいけるっしょ」

 

「え、マジでネットに流すの?」←身内で見せ合う映像だと思ってた

 

 取りあえず間に一度提督を挟む事になった。提督自身も出るし、広樹にも被り物をして貰ってかつ声も加工する事で出演が決まる。因みにさっきの映像は全て使わない事となり、企画も一部変更。そんな訳で……

 

 

間宮

 

「しらっちでーす。今日は鎮守府の甘味処、間宮さんにやって来ました。フブとかげろんはスケジュールが合わなくて不在なので今日は妹のしぐしぐとお送りします」

 

「しぐしぐです。何をどうしたらいいかまだ分かってませんが、よろしくお願いします」

 

 時雨は仮〇ライダーのお面を被って出演。これも提督の家にあった物だ。

 

「私たちの心の癒しである間宮さんで、今日はおやつを食べたいと思います」

 

 暖簾を潜る。間宮さんはカメラの後ろを移動して貰うので上手く映さないようにしてあった。

 

「おや提督が居ますね」

 

「お疲れ様です」

 

「やぁ、ご苦労さん」

 

 例の戦隊物のお面を被った提督と……

 

「そして向い側に居るのはG田さんですね」

 

「どうも、G田です」

 

 地蔵の被り物をした広樹が映り込む。アップロード用の映像では画面下に「出入り業者のG田さん 出演にご協力いただきました」とテロップが追加されている。

 

「ではお2人に軽くインタビューしてみましょう。提督はここのメニューでどれが好きですか?」

 

「私はシンプルに胡麻の串団子とお茶のセットかな」

 

「通なお好みですね~、胡麻とはまた渋い」

 

「G田さんはどうですか?」

 

 今度は時雨が訪ねた。

 

「色々好きなんですけど 最近は草餅のぜんざいにはまってます。夏場だと水ようかんもいいですね。変わり種だとシュークリームとコーヒーのセットなんかもおすすめです」

 

 このままだと広樹が喋り続けそうだと判断した時雨は、うまい具合にインタビューを切り上げた。2人もテーブルに座り注文を済ませる。

 

 白露は餡蜜。時雨はアイスが乗ったホットケーキを注文した。カメラはテーブルだけが映るように固定。お面を外して食べ始める。

 

「やっぱり甘い物は正義だね」

 

「食べ過ぎるとしっぺ返しが怖いけどね」

 

「言わないでよそんな事~」

 

 談笑しつつ食べ終わる。3回目の動画もそこそこの再生数とコメントを得るに至り、登録者数もゆっくり増えていった。

 

「提督の趣向が渋い」

「ホットケーキ美味しそう」

「G田さんかなり通ってるっぽいなw」

「しぐしぐは今後も出るん?」

 

 等々のコメントが書き込まれる。こうして始まった第十七鎮守府公式チャンネルはローカルな存在として手堅く登録者数を伸ばしていくのだった。

 

 この時の広樹は内心「先を越された」と考えていたが、実際に収録している所と編集している所を見た結果「1人じゃ厳しそう」との結論に至り、店の仕事を利用したチャンネルの開設は一旦白紙に戻したそうだ。

 

 因みに広樹はその後、5回に1回は出る存在として密かに知られていく事になる。身バレはしてないが商店街の連中は薄々感付いているとか何とか……

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