薬剤散布のメンテをする傍らで耳にしたが、夜な夜な巨大蛾が群を成して飛び回っているとの目撃情報が相次いでいるらしい。依頼のあった場所はもう殆ど毛虫の駆除に成功しているから、何所か他の場所にも群生している可能性がありそうだ。これは調べなくてはならない。
応接室
「と言う訳でお願いなんですが、もう少し広範囲を調べさせて頂けませんか」
「なるほど……少し考えさせて下さい」
害虫駆除とは言え、民間の人間が出入りしていい場所なんて限られているだろう。そうなってくると、予想されるのは自分たちの方からも人員を出して捜索の範囲を広げる方法だ。
(あれ……そうすると俺は大勢の艦娘に囲まれて1人ぼっち?)
やばい、正気を保てるだろうか。いや変な意味ではなく、いつものように振舞えないかも知れない。駆逐艦はまだしも巡洋艦や戦艦の美女に囲まれたらどうなってしまうのだろうか。
「こちらからも人員を出します。説明会を行いますので会議室に集合させますね。大淀と一緒に資料の作成をお願い出来ますか」
「分かりました、ありがとうございます」
え、大淀さんと一緒に資料の作成?ちょっと待て。男子校だった俺が喉から手が出るほど欲しかった高校時代の青春【女子との共同作業】が実現されようとしているだと?
「大淀、後藤田さんと一緒に資料を作ってくれ。秘書艦は加賀と交代だ」
「了解致しました。後藤田さん、こちらへどうぞ」
応接室を出て敷地内の図書館へ移動した。ここは所属艦娘が利用するための場所で一般開放はされていない。歴史書や洋書、かつての大戦の資料、小説や絵本に漫画まで備わっていた。
「凄いですねこれは」
「一般的な自治体の図書館と遜色ないレベルの量が揃っています。虫に関しては確か…」
案内図を見つめる大淀さん。とても美しいです。
「えーと、あっちですね。奥の方です」
奥へと進んでいく。そこには日本だけでなく世界中の虫に関する資料が収められていた。その中から〈ドクガ〉に関する物を探し出す。今この鎮守府の草木を侵食しているのはドクガと呼ばれるオレンジ色の蛾だ。成虫の見た目はまぁまぁ可愛いかも知れないが、触れると赤く腫れ上がって痒みが一ヶ月近く続く厄介な虫である。
「あった、ドクガ。こいつです」
「じゃあコピーして来ますね」
コピーした写真を元に文章化と画像データを作成していく。2人で行う共同作業。とても充実した小1時間でした。
会議室
集められたのは吹雪型や綾波型、白露型に朝潮型、陽炎型の各長女たちとその妹が数人である。まるで中学校の教室のような光景だ。
「では行きましょう」
提督さん、大淀さん、俺の順番で会議室へ入る。さすがに長女勢だ。何も言われずとも立ち上がって行う敬礼が美しい。妹たちも真面目そうな面子が揃っている。俺の姿を認識した白露ちゃんがニカっと笑みを浮かべたが、取りあえず今は軽い会釈だけで済ませた。
「最近敷地内で夜間に多数の巨大な蛾が飛び回っていると言う報告が出ているが、これに関連して幼虫が群生している草木の捜索を行う運びとなった。知ってる者も多いと思うが、こちらに居るのは害虫駆除でいつもお世話になっている後藤田さんだ。民間の方なため、機密に触れる施設や敷地への立ち入りが難しい事から、皆にも駆除を手伝って貰いたい。詳しくは後藤田さんからどうぞ」
彼女たちが居る所より一段高い壇上に立つ。教育実習にでも来たような感覚に襲われた。大淀さんの資料が行き渡るのを待ってから話し始める。
「何人かは顔見知りと思いますが、改めまして後藤田プロテクトクリーンから参りました後藤田広樹です。敷地内の自然区画で発生した毛虫の駆除を行いましたが、どうやら他にも群生している可能性が高い事が判明しました。既に成虫となった個体に関してはまず置いといて、営巣している草木を刈り取る事でこれ以上の増加を阻止する駆除を行います」
プロジェクターが起動してホワイトボードに鎮守府の地図が映し出された。大淀さんへバトンタッチする。
「捜索を行うのは自然区画から半径100mに渡った範囲です。この周辺では蛾の目撃情報が多く寄せられています。草木には無闇に手で触れず、必ず手袋や火箸のような物を使って下さい。必要な道具に関しては全て用意しますから、見つけたら私の方まで報告をお願いします」
と言う訳で準備が進んでいった。提督さんは業務があるので一旦戻り、立会いとして1人の艦娘が現れた。サイドテールに青い袴が特徴的である。
「航空母艦、加賀です。後藤田さんのお話は常々伺っています。私の事はあまり気にせず、全体の指示に専念して下さい」
よく分からないが抜き身の日本刀のような冷たい空気が駆け抜けた。目付きは鋭いし声色も低い。何もしていないのに思わず謝ってしまいそうだ。
「ご、後藤田広樹です。よろしくお願いします」
そんな所へ空気を読まずに白露ちゃん参上!
「後藤田さん!一緒に捜そうよ!」
「あー……ごめんね、俺は第一報に備えてここに居ないといけないから」
「えーいいじゃん!今日は白露型の半分が来てるんだよ!一緒に捜そ!」
そういう彼女の後ろには、この前に会った時雨と夕立に、見た事のない亜麻色のツインテールとゴキブリの件で話を聞いたピンク色のサイドテール等が勢揃いしていた。
「あ、あの、ちょっと前にお世話になりました春雨です」
「村雨よ。後藤田さん、よろしくね」
君のその色気は本当に駆逐艦なのかと聞きたくなるが今は何も言うまい。取りあえずの挨拶を済ませると、加賀さんが全方位へ睨みを利かせて駆逐艦たちを追い払った。侵食されている木々の捜索が開始される。無線機を持つ大淀さんとベンチに座って地図を広げた。
「加賀さんっていつもあんな感じなんですか」
このぐらいの質問なら別に機密どうこうはないだろう。当たり障りない感じで大淀さんとのコミュニケーションを図る。
「提督が着任されたかなり初期の頃から一緒だったそうですから、御自分が規律を正す事で全体を纏める役割をされているそうです。私も最初の頃はお小言を何度か頂きました」
「ははぁ……なるほど」
なんてやり取りをしている所へ第一報が飛び込んだ。綾波型の娘たちが資材倉庫の裏で毛虫が群生する植木を発見。入っても構わない敷地らしいので大急ぎで向かった。1人の艦娘が手を振って場所を知らせてくれる。
「おーい、こっちこっち」
「ありがとう、えーと君は」
「綾波型2番艦の敷波、以後よろしく。この奥だよ」
倉庫と倉庫の間を通って裏手に出る。そこには更に2人の艦娘が居て、毛虫に食い荒らされている植木の数を数えていた。
「どれぐらいあるかな」
「数えただけで10はありますね。あ、私は綾波型7番艦の朧です。よろしくお願いします」
「綾波型1番艦、綾波と申します。いつもありがとうございます」
とても礼儀正しい娘たちだ。近所のガキんちょ共もこうなら可愛げがあるのにとか思う。
「皆ありがとう。枝きりとマジックハンドがあるから、これで根本から伐って表に運び出そう」
割烹着のような防護服と枝きりを装備した。2人にはマジックハンドで少し離れた場所から植木の根本を固定して貰う。伐ったらそのままゆっくりと表に運んでいけば大丈夫だ。取りあえず1本目の伐採に成功する。
「誰か表にビニールシートを広げてくれるかな。これをそこに置きたいんだ」
「OK、任せて」
様子を窺っていた敷波ちゃんが表に走って行った。バサバサと広げる音が聞こえ、通りの一部に敷かれたビニールシートに食い荒らされた植木をそっと安置する。作業を行っている間にも大淀さんから矢継ぎ早に発見の情報が飛び込んで来た。これでは体がいくつあっても足りない。作業が一旦終わった段階で大淀さんに連絡を取る。
「思っていたよりもかなり多いですね。用意していたプランを実行しましょう」
「分かりました、通達を出しますね」
全員にマニュアルを広げるよう指示した。彼女たちだけでも同じ作業を行えるように記した物である。これによって俺1人が奔走しなくても各所で作業が進んでいくのだ。最初からこうすれば良かったかも知れない……
その後、かなりの時間を掛けて作業は終了した。駐車場にはいくつものビニールシートが広げられ、50近い数の食い荒らされた植木が置かれている。これらを処分すればドクガを増やす事は避けられるだろう。成虫にはまた別のプランがあるから夜になったら実行する予定だ。取りあえず少し休ませてくれ。
リアル事情につき暫く投稿の間隔が長くなりそうです
ご了承頂きたく思います