鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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今回はまぁ、頭を空っぽにしてお楽しみ下さい。


黒くて光ってる素早いアイツ フォーエバー

 広樹です。ハイイロゴケグモの駆除作業日(暫定最終日)を2日前に控えた今日、珍しく提督さんから直接呼び出されたので鎮守府に向けて車を走らせています。許可証もあるんでそのまま司令部棟に横付けしよう。

 

「お疲れ様でーす」

 

「ああ、どうぞどうぞ」

 

 関係者用出入り口に車を少しだけ入れ、何かの読み取り機でチェックが終了。そのまま司令部棟を目指した。

 

 車を横付けして降りた。さて、何の依頼でしょうかねと思いつつ司令部棟に足を踏み入れ、執務室のドアをノックする。

 

「恐れ入ります、後藤田です」

 

「どうぞ」

 

 ドアを開ける。執務室には提督さんだけだった。

 

「お掛け下さい」

 

「失礼します」

 

 ソファに腰掛ける。提督さんは何かのファイルを取り出して向い側に座った。

 

「実はですね、大口案件のご相談になります」

 

 大口。既に零細自営業のキャパシティーではない案件も幾つかこなして来た中、それを凌ぐものがあるのだろうか。

 

「……内容は」

 

「まずこちらを」

 

 テーブルにファイルを開いて置いた。

 

「拝見します」

 

 ファイルを手繰り寄せて内容を確認する。まず張り付けられていた画像が目に飛び込んだ。これは駆逐艦寮の裏手にある旧駆逐艦寮だ。ここを再び使えるようにする計画が動いているらしい。

 

「……あの裏手にある古い建物ですねこれは」

 

「ええ。以前、大淀と廃工場の現地調査にご協力頂いた件で、計画に少々変更が起きました。まだ先の事ですが、駆逐艦の増員が決まりまして、今の駆逐艦寮では人数が限界なんです。それで廃工場一帯を切り開いて用地を確保し、新しい寮を建てる事になっていたんですが、インフラ等の整備でちょっと予算が厳しくなってしまった事もあり、既にある物を使う方針になりました。切り開いた所はグラウンドや何かしらの運動場を作る予定です」

 

「なるほど。それでまぁ、長年放置でもないですけど、半ばそんな状態だった場所を使えるようにする訳ですから、色々と綺麗にしないといけませんね」

 

「仰る通りです。一昨日、吹雪と朝潮、夕立の3人が旧棟の様子を見に行ったんですが、悲鳴を上げて帰って来まして」

 

「……何がありました」

 

「移動する暗闇と泣きながら連呼していました。外壁を調べて回ったんですが、何ヵ所か窓ガラスが割れていたり強風の影響か窓枠自体が外れている所もありまして、恐らくそこから色々と中に入ってしまっているんでしょう」

 

 移動する暗闇。嫌な予感が膨れ上がる。にしても、ここで空き家案件に当たるとは思わなかった。

 

「空き家ってのは管理が難しいですよねぇ。この前は大丈夫でもちょっと間隔が開くと何か変わっていたりしますし」

 

 数年前から増えている案件の1つに空き家の害虫駆除があった。家そのものが食料にもなるので、放置しておくと酷い事になる。

 

「何度か見掛けられて大きさもご存知とは思いますが、これの駆除作業をお願いしたい次第でして」

 

「分かりました。ハイイロゴケグモに関しても明後日で最後の予定ですし、駆逐艦寮の方も最近は落ち着いて来ましたので、今の状態なら何とかこなせるかと思います」

 

 って訳でここに契約が成立した。まず様子見をする事になり、案内役として5人の艦娘が執務室にやって来る。

 

「神風型1番艦、神風です。よろしくお願いします」

 

「2番艦、朝風よ。覚えておいてね」

 

「春風です。ご無沙汰致しております」

 

「僕は松風。4番艦さ」

 

「5番艦、旗風と申します。お見知りおき下さい」

 

 着物、袴、ブーツ。あれ、時空が歪んだか? ここは大正時代の女学校か何かだったのか?

 

「おや? 春風だけは知ってたのか」

 

「はい。以前、当番の時にお会いしました」

 

 かなり前だったような気がする。俺自身はちょっとうろ覚えだ。

 

「5人は元々、旧棟で生活していたメンバーになります。中の事は詳しいので案内役を任せました」

 

「またあそこを使う事になるとは思わなかったけどねぇ」

 

「懐かしいわね。取り壊さなくて正解だったって事かしら」

 

「部屋をまたあっちに移しても良いかも知れませんね」

 

 松風、朝風、旗風は何となく郷愁に浸っているようだ。

 

「ちょっと皆、吹雪たちの件を忘れてないでしょうね」

 

「移動する暗闇とは何なのでしょうか」

 

 神風が釘を刺す。春風は"移動する暗闇"をさほど理解していないらしい。

 

(多分……居るんだろうなぁ)

 

 何となくでも予想は出来る。多分アレだ。こちらも相応に覚悟しておかなくては。

 

 

旧駆逐艦寮 正面入り口

 

 再びここにやって来た。雰囲気たっぷりの木造校舎。学校を舞台にしたホラー映画の4作目に出来てた校舎に似ている気がする。あれが1番怖かったなぁ……

 

「ほ、本当に入るんですか?」

 

「ぽい~」

 

「中に入るのはおすすめ出来ません。いえ、入らない事をおすすめします」

 

 最初に様子見に入った3人が後ろに居る。顔は青かった。

 

「まぁ今日は偵察だからね。無茶はしないよ」

 

「色々と持って来たから大丈夫よ」

 

 神風は大きなバックパックを地面に置いた。中には大量の殺虫スプレーが詰まっている。

 

「あちこちのメーカーから取り寄せたわ。これだけあれば問題ないわよね」

 

 とは言え民生品ばかりだ。あ、これは新商品だな。ちょっと高くて即効性があるヤツだ。

 

「在庫あるんですから使って下さいよ」

 

「何が有効か分からないじゃない。沢山あった方が心強いでしょ」

 

 吹雪ちゃんが敬語だ。もしかして同じ駆逐艦同士でも上下関係があるんだろうか。

 

「姉貴は何かって言うと全力だからね。取りあえず僕はこれにするよ」

 

「私はこれにするわ」

 

「えーと……私はこれを」

 

 松・朝・春の3人はそれぞれ違う殺虫スプレーをチョイス。

 

「……どれがどう違うのでしょうか」

 

 旗風は何を選べばいいか分からないらしい。まぁこんなにあればそうだろう。

 

「んー……精々が届く距離ぐらいかな。薬剤の成分が強いと効き目も早いけど」

 

「あ、これとか良さそうね」

 

 神風が選んだのは例のハチアブジェノサイダーの派生系で冷却無香料タイプだ。凍らせて退治するヤツである。

 

「迷ってるなら同じにしましょ。早くしないと日が暮れちゃうわ」

 

「じゃあ、私もこれを」

 

 武器を選び終わったので旧棟の鍵を開け、中に踏み込んだ。木造建屋特有のにおいと若干の湿気がそれとなく恐怖心を煽る。

 

「空気が滞留してる感じね。後で換気しなくちゃ」

 

「ちょっとカビ臭いわね。まぁ木造だから仕方ないか」

 

 朝風と神風は勝手知ったると言った感じで先を進んだ。その後に続く。

 

「さて、今日は何所までやるんだい?」

 

「今日は中を一通り見て、何の生物が巣食ってるか大まかにチェック出来れば御の字かな」

 

「微力ながら、お手伝いさせていただきます」

 

「では先に進みましょうか」

 

 正面入り口から左に曲がって炊事場に来た。途端に自分の中のセンサーが危険信号を発し始める。

 

「……炊事場にしては大きいね」

 

「元々、校舎にあった調理場をそのまま炊事場として使っていたのよ。昔は週に何回か、調理師の人が来てここで料理してくれてた事もあったわ」

 

「今ある食堂は意外と新しい建物なのよ。前はここがある関係上、そんなに大きくなかったの」

 

 神・朝の解説で新事実を知る。部外者だから当然だけど、まだ鎮守府については知らない事だらけだ。

 

「なるほど。じゃあ取りあえず中を調べようか」

 

 引き戸を開けた瞬間、暗闇が一瞬にして奥の方へ消え去った。目の前には30人くらいが座れそうな複数の長テーブルと椅子がある。暗闇はその更に奥の厨房へと引っ込んだ。

 

 イメージするならあれだ。と〇りのト〇ロ冒頭で錠前を開けた瞬間にス〇ワタリが日光から逃れようと消え去るシーン。あれが目の前で再現されたのだ。

 

「……今の見た?」

 

 振り返ると5人は後ろの壁に背中をくっ付けて慄いていた。それぞれ持っていた殺虫スプレーも床に落ちている。

 

「……何よ今の」

 

「あんなに居るって……冗談でしょ」

 

「み、見間違いだよ姉貴たち……でも見ちゃったなぁ」

 

「……移動する暗闇……でしたね」

 

「ここはもう……私たちが知ってる場所ではないのですね」

 

 あー、これはもう悪いけど戦力にならないなぁ。仕方ないから1度出るか。

 

「一旦出ようか」

 

 超高速で頷く5人と一緒に外へ出た。正面入り口まで大した距離ではないが、5人は俺の周囲に固まってすっかり閉口してしまっていた。

 

 無事に外へ帰還。待っていた3人が出迎えた。

 

「あ、戻って来たっぽい」

 

「……あの様子だと見たんだね」

 

「私は二度と見たくありません」

 

 神風型5人は意気消沈。ロビーで休んで貰っている。ほいでもって、今居る人員で肝の据わったのを選定した結果……

 

「あんま気は進まないけど偵察ぐらいならいいよー」

 

 いつもの白露嬢と

 

「頑張りまーす」

 

 綾波に

 

「あーGぐらいだったらもう慣れたでござる」

 

 漣

 

「まぁ深追いせんのやったら大丈夫やろ?」

 

 黒潮、の計4人が参加した。神風には簡単な地図を書いて貰って、それを基に探索を進める事となる。

 

「取りあえず殺虫剤は護身用程度って考えてくれ。移動する暗闇と遭遇したら真っ先に逃げる事。以上」

 

「マジで移動する暗闇なの?」

 

「マジ」

 

「手を付けない間に随分と増えたンゴねぇ」

 

「漣、変な言語は慎みなさい」

 

「あ、はい。姉上」

 

「出来れば無事に終えたいもんやねぇ」

 

 再び旧棟に足を踏み入れる。炊事場は後回しだ。先に敵の居なさそうな所から探って行く。

 

 物置部屋。元々は職員室だった所を再利用した会議室。更にその中に間仕切りで作られた休憩スペース。トイレの捜索が終了。トイレは水抜きされていたので何かしらが群生する条件を回避出来たようだ。

 

「ねぇ後藤田さん、何かの糞っぽいのがあるよ。しかもすっごいにおい」

 

「糞?」

 

 白露が廊下の壁と床の境目辺りを指差す。近付いて見ると、確かにすごいにおいだ。

 

「……何だろうね。犬っぽい感じもするけど」

 

「野良犬だったら流石に私たちでも気付くと思いますけど」

 

「鳴き声とかは特に聞いてないですぞ」

 

「野良犬なんてこの辺にはおらんで」

 

 まぁそりゃそうだ。北海道には野犬が居るって話しを聞いた事があるけど、元々は飼い犬だろう。この糞は一応、写真に取っておいて探索を続行だ。

 

 1階は炊事場を除いて探索が終了。主に跳ねるのとか足がいっぱいあるのとかクモが巣を張ってるぐらいである。

 

「2階はどないする?」

 

「全部で何階建てだっけ?」

 

「3階建て」

 

「ゆっくり見て行こうか」

 

「ほいさっさー」

 

「後方の安全はお任せ下さい」

 

 階段を上って2階に到達。ここは殆どが部屋になっているようだ。

 

「さてどっちから見ようかな」

 

「あれ、何か急に暗くなった?」

 

 確かに周りが急に暗くなった。太陽が雲に隠れたんだろうか。

 

「今日は全国的に快晴だと天気予報で言っていましたが」

 

「変やなぁ」

 

「あー皆さん、壁と天井をよく見て頂けると幸いなのですがー」

 

 漣が機械的な声でそう言った。ふと壁と天井を見る。そこにはですね……

 

「……しまった、囲まれた」

 

 我々はいつの間にか移動する暗闇に囲まれていた。壁と天井が蠢いているのが分かる。

 

「ど、どうする?」

 

「しゃがんで殺虫剤を上下左右に撒きながら逃げよう。それしかない」

 

 俺を含めた6人は一斉にしゃがんで殺虫剤を撒き散らした。その姿勢のまま1階へ続く階段を駆け下りる。

 

「ボトボト落ちる音がするー!」

 

「うひぃ! 耳元を掠めるでない!」

 

「あと少しや!」

 

「みんな急いで!」

 

 正面入り口から外へ飛び出す。同時に扉を閉めた。強烈な衝撃が襲って来るかと覚悟したが、それはなかったので安堵する。

 

「……寿命が縮んだ」

 

「あー怖かった。海の上で戦ってる方がまだマシかも」

 

「同感でござる」

 

「あれを倒すのは骨が折れるでぇ?」

 

「いっそ取り壊した方がいいのでは」

 

「出来るだけはやって見るよ。取りあえず休もう」

 

 息を整えながらロビーへ向かう。吹雪・夕立・朝潮の3人は、この話を聞いて目から光を失った。神風型は全員耳を塞いで拒絶。少し休んだ後、俺は執務室を訪れた。

 

「……そんな事が」

 

「ご期待に添えない可能性もありますが、やっては見ます。もし時間切れが近いですとか、計画自体にまた変更があった際は遠慮なく仰って下さい」

 

「分かりました。ですがそちらも、限界を感じたら無理せずにご連絡下さい。何か手段を考えますし、その時点までに掛かった費用もお支払いしますので」

 

 あれ、もしかするとこれはどっちに転んでも美味しい話なのでは? とか思い始めた。であればやるだけやってギブアップしても金が入る?

 

 いやいや、ここで変な商魂を出すと痛い目に合う。最善は尽くそうと心に決めた。

 

 こうして俺はまた大口案件を抱え、こまめに鎮守府へ通う事になるのだった。

 

(広樹です。安息の日々が訪れるまで、戦い続けるとです)

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