鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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開発工廠 駆除作業日3(暫定最終日)

 移動する暗闇の衝撃も冷めないまま2日が経過。今日は開発工廠駆除作業の暫定最終日だ。以後は様子を見つつ、必要なら作業日を設ける事となっている。

 

「おはようございます。取りあえず本日が最終日となります」

 

「ありがとうございます。暫くはこちらも目を光らせますので、何かあればよろしくお願いします」

 

 執務室に顔を出したら開発工廠へ向かった。大勢の駆逐艦軍団と他にも数名が待っている。その中には加賀様もいらっしゃいました。

 

「どうかされましたか?」

 

「立会よ。あまり気にしないで頂戴」

 

 相変わらずの涼しい目つきで見張られると思うとちょっとやり難いなぁ。

 

「おはようございます。最終日ですね」

 

「ああ、おはようございます。何とか終わらせたい所ですね」

 

 クリップボードを持った明石さんがやって来た。今日の工程を見直す。

 

午前中:清掃

昼食の間に燻煙剤を設置

午後:換気の後に薬剤散布 ※換気中は工廠施設周辺に生息域が伸びていないか調査

 

 さて上手くいくかどうか……

 

「お疲れ様です。今日は吹雪型が全員揃いましたので、末の妹をご紹介します」

 

 吹雪ちゃんの隣に見知らぬ艦娘。でも同じセーラー服だ。

 

「特改Ⅰ型、浦波です。いつもタイミング悪く不在だったのでお会い出来ませんでしたが、よろしくお願い致します」

 

 何だろう。深雪ちゃんっぽくもあるけどちょっと違う不思議な感じがする。

 

「後藤田です。色々と聞いてると思いますがよろしくどうぞ」

 

「磯波姉さんと一緒に頑張ります!」

 

「そ、そんなに大きい声で言わなくてもいいから……」

 

 後ろに居る磯波の顔はちょっとだけ赤かった。

 

「チーッス、こっちも紹介したいのが居るんだ」

 

「天霧と狭霧でーす」

 

 綾敷コンビと見知らぬ艦娘2名が現れた。着ている制服は殆ど同じデザインだが少しだけ色が薄い。

 

「天霧だ。よろしくな」

 

 おー、見た事ないタイプだ。でも木曾さんなんかに近い気もする。

 

「狭霧と申します。えっと、本日は微力ながら、お手伝いさせていただきます」

 

 あら可愛い。萩風ちゃんと似ている?

 

「よろしくお願いします。今日はもうそんなに大変な作業はないけど、注意しながらやって下さい」

 

「これまでの事は一通り聞いてる。皆の動きを見ながらやってみるさ」

 

「一応、姉から色々と教えては貰いました」

 

 姉。ふと、何番目の姉妹なのか気になった。

 

「2人の上と下は誰になるの?」

 

「あたしたちの上は綾姉と敷姉だな」

 

「天霧は私のすぐ上になります」

 

 え……って事はいつもの4人組は2人の妹だったのか。新しい事実に驚く。

 

「後藤田さん後藤田さん、まだ見ぬ白露型も居るからこっち来て」

 

 今度は白露嬢に呼ばれた。朝からせわしないですね。まぁ挨拶回りは大事だ。

 

「改白露型の江風だぜ。任せてくれよな」

 

「海風です。よろしくお願いします」

 

 既視感に襲われる。あれ、さっき似たような光景を見たなぁ?

 

「後藤田です。ひとつよろしくお願いします」

 

「今日が最終日なんだって? もっと早く戻って来れてたら面白そうな事に混ざれたんだけどなぁ」

 

「暫定だから今日が絶対の最終日ではないかな。今後の状況次第で作業日を設ける可能性はあるけどね」

 

「お、じゃあそん時は呼んでくれよ。楽しみにしてるぜ」

 

「もう江風、遊んでる訳じゃないんだからそういう風に考えちゃダメでしょ」

 

「まぁ、職業体験の一種とでも思ってくれればいいよ。こういう世界があるんだと知ってくれるだけでもこっちは有難いです」

 

「すいません。元気が有り余ってるようで」

 

 保護者の人と話しているような気分になって来た。どうしてですかね。

 

「暫くでーす。ちょっとこちらも1人ご紹介させて下さーい」

 

 よく通る声に白い鉢巻き。今日は2人だけだが軽巡も居た。その1人が長良である。隣にはガンビア・ベイのようにボリュームのあるツインテールの艦娘が立っていた。

 

「長良型2番艦、五十鈴です。阿賀野の件ではお世話になりました。今後とも何かあれば、よろしくお願い致します」

 

 わぁ、凄いオーラを感じる。俺のような適当人間には眩しい存在だ。あとデカいですね。

 

「後藤田です。提督さんを始め皆さんにはお世話になっております。これからも贔屓にして頂けると幸いです」

 

 うーん? 取り引き? 役所? 何かそんな所に居るイメージが……

 

「まぁまぁそんな堅苦しくならないでさ、いつもみたいに緩やかに行こうよ」

 

「姉さん。外部の人とそんな軽々しい付き合いは危険じゃないかしら」

 

 おや、意外に真面目というか少し固い感じのお方?

 

「初めまして。加賀の妹です」

 

 いやどう見ても髪を下ろしただけの加賀さんですよね!?

 

「あー、これはどうも。毎度お世話になっております」

 

 何がしたいのかよく分からんが取りあえず乗っかる。駆逐艦の約半分は唖然。もう半分程度は笑いを堪えているようだ。長良は口を押さえてクスクス笑っている。五十鈴はポカーンとしていた。

 

「姉が急用で戻ってしまいましたので、本日の立会を任されました。よろしくお願い致します」

 

「いえこちらこそ。所でいつまでこれ続けます?」

 

 あえてこっちから切り込んだ。そろそろ仕事させて欲しいんですが……

 

「もう少し付き合ってくれてもいいんじゃないかしら」

 

「ちょーっと時間が押してまして」

 

「じゃあ仕方ないわね。皆、今日もよろしく頼むわ」

 

 駆逐艦の笑い声交じりの返事が響く。明石さんが必要な道具の用意を始めたぐらいでお呼び出しを食らった。

 

「茶番に付き合わせて悪かったわ。五十鈴と接してちょっと分かったと思うけれど、ああいう一面のある娘だからあえて私がふざける事で"ある程度はリラックスしていい作業"という印象を持たせたかったのよ。通じたかは分からないけど」

 

「いえ助かりました。ありがとうございます」

 

「あまりこうしていると怪しまれるわ。作業に戻って」

 

「はい」

 

 そうだそうだ、早くしないと時間が無くなる。最後ぐらいは予定通りに終わらせたい。

 

「吹雪型を五十鈴さん、白露型は長良さんでお願いします。綾波型の皆は私と後藤田さんで回りましょう」

 

「はいはーい、じゃあ行くよ皆ー」

 

「用意はいいわね。他の所に後れを取っちゃダメよ」

 

 加賀さんのお陰だろうか。表情は幾分か柔らかくなったように見える。

 

「マスク、ゴーグル、手袋、各種清掃器具の準備はよろしいですか皆さん」

 

 綾波型を前にそう問い掛ける。少しだけ学校の先生か用務員になった気分だ。

 

「「「「はーい」」」」 「オッケー」 「大丈夫でーす」

 

 一文字の4人組と綾敷はいつも通りだ。まぁこの6人は大丈夫でしょう。

 

「おう、いつでもいいぞ」

 

「が、頑張ります」

 

 綾敷と一緒に動いた方がやり易そうに感じた。自然と誘導する事にしよう。

 

「では始めましょうか明石さん」

 

「是非とも最終日にしましょうね」

 

 そうしたいものだ。ってな訳でお掃除開始。

 

 

 約1時間が経過した。既に何度も見たり薬撒いたり掃除している所だが、入念にチェックしていく。移動する暗闇は置いておくとして、寝ても起きてもハイイロの事を考えなくていい日々が戻って来るなら今日頑張るしかないのだ。

 

「どう? 居る?」

 

「巣も本体も見ないですぞー」

 

「曙ちゃん、頭の上に気を付けて。そこ狭いから」

 

「分かってるわよ」

 

 こっちは問題無し。

 

「なぁ綾姉。何も居ないぞ」

 

「最終日だから仕方ないかしらね」

 

「初日は酷かったよ~。あっちこっちに居てさぁ」

 

「……あっちこっち」

 

 狭霧の顔が青くなる。急にキョロキョロし始めた。

 

「今やってるのはどっちかっていうと入って来ないようにするための掃除だからさ、そんなに怖がんなくていいよ」

 

「掃除だけで終わりかー、ちょっとは駆除ってのもやって見たかったんだけどなぁ」

 

「わ、私は今日の参加で良かったと思う」

 

 あれを楽しいと思うか少しキツかったと思うかは人それぞれだ。俺個人的にはちょっと辛い所もあったかな。

 

「経過報告です。本体、巣、共に見つかりません。このままだとお昼前には終わりそうですね」

 

 明石さんが集計した報告を聞く。時間が余るのはいいが、手持ち無沙汰になるのも考え物だ。何かやる事を考えなくてはならない。

 

「分かりました。ただそうなると、昼食までの間に何か場を繋がなくてはいけませんかね」

 

「あれでしたら作業台やその他の動かせる物を戻す準備を多少でも進めます。これはこれでまた時間が掛かりますから」

 

 なるほど、それはいい手だ。お願いするとしよう。俺はその間に午後の準備を進めればいい。

 

「ではそちらをお願いします。自分は午後の準備を幾分かやってしまいますので」

 

「了解しました」

 

 その後、1時間ちょっとを残して午前の作業が終了。10分程の休憩を挟む。

 

「なーんか張り合いがないねぇ。1匹くらい居ないもんかな」

 

「皆が先に頑張ってくれてたお陰でしょ。いい事じゃない」

 

 江風は掃除だけじゃ物足りないようだ。海風が宥めるも不完全燃焼な顔である。

 

「お望みとあらば数えられないぐらいの違う虫が棲み付いてる所あるけど行って見たい?」

 

 暗黒微笑を浮かべる白露嬢が江風ちゃんと俺を交互に見て来る。やめろ。今日はまだこっちだけに集中させてくれ。旧棟の事は少し忘れさせてくれ。

 

「……思い出しちゃった」

 

「ぽい……」

 

 吹雪&夕立の表情が暗くなった。

 

「え、何だそれ。何所にあるんだ?」

 

「姉さん。いずれ遭遇する事になる可能性は高いんだから今は黙っておいた方が」

 

「うーん、そうだね。その時が来たら教えるよ」

 

 時雨嬢が釘を刺す。あれに関する事は知っている者はまだ少ない方がいい。

 

「勿体ぶらないで教えてくれよ姉貴たちー」

 

 江風が追い縋る所でタイミングよく明石さんが集合を掛ける。意識がそっちに切り替わったらしくそれ以上の追及は無かった。俺もこの間に午後の準備を進めなくては。

 

 何やかんやとしている内に昼の鐘が鳴る。食事の前に燻煙剤を等間隔に設置していった。この作業は俺だけでいい。最後に明石さんが中途半端に閉めてくれていた工廠のドアを完全に閉め切ってから食堂に行った。

 

「日替わりCお願いします」

 

「はーい」

 

 奥から間宮さんの声。でも配膳は伊良湖ちゃん。忙しいみたいですね。

 

「ごちそうさまでした」

 

 トレイを戻して先に工廠へ向かう。準備の続きをしている間に燻煙剤を焚いて1時間ちょっとが経過。本当はもっと時間を掛けたい所だが、早く帰れるなら早く帰りたい気持ちもあるのでスケジュールを少し切り上げる。

 

 皆が戻って来る前にドアを開けて放って換気を始めた。間もなく休憩も終了である。

 

 午後の始まりを告げる鐘が鳴る2分前には全員が再び集合。いいスタートダッシュが切れそうだ。

 

「換気にもう1時間ちょっと使いたいので、周辺の調査はゆっくりで大丈夫です」

 

 そう呼び掛けた所で鐘が鳴った。駆逐艦軍団はまた3つに分かれてそれぞれに動き出す。五十鈴率いる吹雪型は隣の建造工廠、長良率いる白露型は岸壁周辺、明石と綾波型がこの開発工廠の周りを調べていた。

 

「ちょっといいかしら。大きなクモが居るから一応見て欲しいわ」

 

 五十鈴さんに呼ばれたので足を速める。大きなクモ。はてさて……

 

「大きいなぁコイツ」

 

「厳つい形してるわね」

 

「あ、あんまり近付くと飛んで来たりしないですか」

 

 建造工廠の横では深雪・叢雲・浦波がそのクモを眺めていた。そこに混じる広樹。

 

「大きなクモってそいつ?」

 

 隣にしゃがんだ。

 

「……あー、オニグモってやつだな。害はないから放っといていいよ」

 

 他のクモに比べて足は短いが腹が大きい。名前の由来はよく分かってないそうだ。

 

「後藤田さん! 外に1匹!」

 

「今行きます!」

 

 今度は明石さんに呼ばれた。開発工廠の外壁に1匹居たようだ。

 

 無事、駆除が完了。折角なので天霧と狭霧にやって貰った。天霧は満足気だが狭霧は終始おっかなびっくりな感じである。まぁ仕方ないか。

 

 そんなこんなで1時間過ぎた。次はいよいよ最後の中に薬剤を撒く作業だ。薬剤入りの霧吹きを1人1つ持って貰い、中身が無くなるまで噴霧を続ける。これだけやればもう入って来ないだろう。と思いたい。

 

 予定より1時間早く、全ての作業が終了した。これで本件は一旦、俺の手を離れる事になる。

 

 その場を終わらせて挨拶も済ませ、使った物を車に積み込んで司令部棟に向かった。提督さんに報告しなくてはならない。ってか、気付いたら加賀さん居なくなってたけど"立会"とは何だったんだろうか。

 

 

執務室

 

「お疲れ様です。本日の作業は無事、終了しました」

 

「ありがとうございました。後はこちらで進めます。何かあればすぐにご連絡しますので」

 

「はい」

 

「終わったのね」

 

「取りあえずは、って感じですか」

 

「正直、私が居なくても無事に進むと思ったから途中で失礼したわ。見られてるとやり難いでしょうし」

 

 心を読まれていたらしい。恐ろしい人だ。

 

「えーと、近い内に旧棟の件でお話をしたいんですが、日時のご都合はいかがでしょうか」

 

「ちょっとお待ちを」

 

 メモ帳とノートPCでスケジュールの確認が終わる。

 

「来週の中頃……あ、水曜と次の木曜はお休みでしたね。であれば金曜の午後一はどうでしょう」

 

「はい。ではまたその時間にお伺いします」

 

 今日はこれで失礼する。取りあえず、ハイイロゴケグモが一旦片付いたから、少しだけ現実逃避させて欲しいのだ。




閑話 あるんだかないんだか分からない設定集3

商店街
古い店が軒を並べる高齢化が進んだ商店街で平均年齢は60~70代。店番で殆ど座ってるだけだが90代の高齢者も居る。正規の労働力としては20代の広樹が一番若い。だが自分の仕事をしながら店を手伝っている20代も当然存在する。閉業している店がないのが唯一の救い。デパートやアーケード街とは協力関係にあり、お買い物ロードだの食べ歩きMAPだのを共同で作って消費者の誘致に励んでいる。
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