鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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旧棟・周辺調査

 広樹です。店の休みは基本毎週水曜。そして第2週と第4週は木曜も定休日です。今日はその木曜なんですが、母親が「たまには夕飯作れ」と仰ったのでスーパーに来ています。

 

「……何にしましょうかね」

 

 煮る・焼く・炒めるしか出来ないので凝った物は作れません。って訳で……

 

「ここはクックドゥーに頼るか」

 

 麻婆豆腐の素を買った。そんで豆腐とひき肉。後は冷凍餃子。こんなもんでいいでしょ。

 

「…………明日は鎮守府かぁ」

 

 軽い打ち合わせと旧棟周辺の調査がメインである。魔物が棲まう要塞をどうやって攻略するかは1度置いといて、他に出入りしている動物や危険な虫が周辺に居ないかをまず調べる。

 

 旧棟の裏にスズメバチなんて居たら申し訳ないがこの案件は辞退するしかない。もう2回刺されてるから次は確実にあの世逝きだ。そうならないためにも、動きやすい環境を作る事は大切なのだ。

 

 

 翌日。午前中は店番で昼を食ったら鎮守府に向かった。何気に許可証を貰ってから軽自動車で行くのは初めてである。最近は殆どハイエースばっかりだったから運転の感覚がちょっと狂い気味だ。右左折の時に違和感がある。

 

「お疲れ様でーす」

 

「お疲れ様です。前の方にお願いします」

 

 そろそろ見慣れて来た例の読み取り機でチェックが終了。そのまま司令部棟に行って車から降りた。執務室へ向かう。

 

「後藤田です」

 

「どうぞ」

 

 ドアを開けて入室。加賀様は居ないが大淀さんがいらっしゃる。

 

「失礼します。あれ、提督さんは」

 

「伐開の業者さんと廃工場がある森の所まで下見に行っています。もうすぐ戻りますから、少しお待ち下さい」

 

 お、ついに本格的に動き出すのか。って事は俺の手持ち時間もそんなに多くない訳だ。

 

「あそこを切り開くとなるとかなりの日数が必要でしょうね」

 

「ええ、相応の規模での工事になると思います」

 

「長引いてくれたりするとこっちとしてはちょっと有難い所があるんですよねー」

 

「旧棟の件ですね。あまり無理はしないで下さい」

 

 あ、そんな事を言われると何かこう、好きになります。

 

「すいません、お待たせしました」

 

 ドアが開くと共に提督さんが戻って来た。

 

「ああいえ、さっき来た所ですから」

 

 無事、打ち合わせが始まる。まずはどれだけの時間が使えるかの確認だが、伐開の方に掛かる日数もまだ不明なため、具体的な数字は出なかった。ただ向こうの業者の見立てによれば色々な手続きや準備も必要なため、2~3ヶ月程度は掛かる可能性があるとの事らしい。

 

「規模が規模なので、その後の整地作業も含めると下手すれば半年かそこらは掛かるかも、と仰ってはいました」

 

「半年ですか。まぁ仮にそれぐらいの時間を頂けるんであれば何とかはなると思いますけど」

 

 少なくとも2ヶ月は固いようだ。であれば色々と策を練る時間もありそうだ。

 

「取りあえず旧棟の周辺を自分の目で見ておきたいんですが、よろしいですか?」

 

「はい。大淀、案内を頼む。鬱蒼としているから着替えて行くといい」

 

「了解しました。ちょっと失礼しますね」

 

 大淀さんは席を外した。着替えるのだろう。

 

「それでなんですけど、駆逐艦寮の方に道具を置かせて欲しいんですが」

 

「分かりました。準備するように伝えます。人手に関してはその日に居る者で、まぁ希望制と言う事になりますが」

 

「大丈夫です。あれは自分でも正直、尻込みするレベルですから」

 

 その後もやり取りが続く。10分程度が経った頃、ツナギに着替えた大淀さんが戻って来た。

 

「お待たせしました」

 

「では行って来ます。終わったら1度、報告に戻りますので」

 

「よろしくお願いします」

 

 司令部棟を出て駆逐艦寮を目指す。目的地はその裏にある旧駆逐艦寮。あー、怖い。

 

 

旧駆逐艦寮

 

 木造校舎ってのは何かこう、威圧感がありません? 使われてないからですかね。

 

「じゃあ取りあえず、右回りに行きますか」

 

「慎重に進みましょう」

 

 調査を始める。草は膝より高くて股下に近いぐらいだ。木は生えていない。草で見えないが、森との間に何か仕切りがあるらしい。

 

「後ででいいんですけど、ここの古い写真とかってあったりします?」

 

「記録を探せばあるかも知れません。必要ですか?」

 

「もしあればでいいです。今日必要って訳でもないので」

 

 あれだったらこの辺の草は刈ってしまってもいいだろう。蛇と出くわす可能性もあるから、連中が身を隠す場所を消してしまいたい。もしも仕切りが思っていたより遠くだったら、伐開の業者にそこまで切り開いて貰うのも有りだ。それがどの辺なのかを知るために、昔の写真がもしもあれば嬉しい。

 

「外壁は……結構アレですね」

 

 何ヵ所か穴が確認出来る。キツツキでも来たんだろか。

 

「内装は一度全てリフォームしていますけど、外はある程度しかやらなかった筈です」

 

 視線を更に上へ向けて行く。すると、壁と屋根の境目の所に何か大きい塊があるのが見えた。

 

「……おっと、ハチの巣ですね」

 

「え……」

 

 胸ポケットから小さい双眼鏡を取り出して様子を見る。ハチの姿は確認出来ない。それに、建物に対して巣がくっ付いていると言うより、建物内から生えているように見えた。

 

「スズメバチじゃないですね。もしそうなら警戒役がその辺で飛び回ってるでしょうし」

 

 偵察を続ける。この巣の出来方は……

 

「多分、ミツバチだと思います。スズメバチの巣は出入り口が基本的に1つですからね。1匹も居ないんで恐らく引っ越した後でしょう」

 

「でも屋根裏にまだ残っていたりは」

 

「可能性はありますね。ただどうでしょうか。かなり古い巣っぽいですし、構造物が欠けている部分もあります。放っておくと新しい群れがやって来る事もありますから、何処かのタイミングで取ってしまうのが良いですね」

 

 ミツバチの巣(恐らく空き家)を確認した。調査を続ける。ぶっちゃけ、心臓が口から出そうでした。静かに深呼吸しつつ裏手に出る。

 

「あー、窓枠が外れますねここ」

 

「同じような所が何ヵ所かあると提督が言っていました。多分、他にもあると思います」

 

 窓枠が外れている所に近付く。中に顔を突っ込むと、廊下にガラスが散乱していた。雨風のせいか汚れも凄い。大きな木の枝でも飛んで来たのだろう。

 

「……鳥が出入りしているみたいですね」

 

 窓枠のあった部分に糞の跡が確認出来る。何かの鳥が棲み付いている可能性もありそうだ。

 

「まぁ鳥ぐらいならいいか。毒がある訳でもないし」

 

「後藤田さん、今何か」

 

「はい?」

 

 ガサガサと草の動く音がした。そっちを向くと、旧棟から何かが森に向けて移動しているのが分かる。草がまぁまぁ高いお陰で姿は確認出来ない。

 

「……ゆっくり後ろに」

 

「は、はい」

 

 後ずさりな感じで距離を取っていく。幸い、何かはそのまま森に入って行ったようだ。

 

「…………何でしょうね今の」

 

「またイタチとかですか?」

 

「調べないと分かりませんけど……そうだったら厄介ですね」

 

 あれはぶっちゃけ、もう勘弁して欲しいランキング1位だ。ちょうどいいので何かが移動していた辺りに殺虫剤を撒く。これでもしかすると異変を感じ取り、出入りしなくなるかも知れない。まぁここを通らないだけで他のルートを使う可能性はあるが……

 

「忌避剤の代わりです。何所から出て来たか調べるのでちょっと待って下さい」

 

 壁を見る。出入口は無い。あれぇ?

 

「……因みにですけどさっきのは窓から出て来ましたか?」

 

「いえそこまでは。多分、下の方だと思います」

 

「下?」

 

 草を掻き分けて基礎の部分を見る。通気口に嵌めていた鉄格子の1つが壊れていて、そこに入れる大きさなら出入り可能な状態になっていた。

 

「ここか」

 

 地面に膝をついてペンライトで中を照らす。色々と凄まじい事になっていたが、光に反応して動くようなのは確認出来なかった。ここからでは床の上にあるであろう出入り口までは見えない。

 

「蛍光塗料を撒いておきます。上手くいけば足跡が見れるかも知れません」

 

 通気口のコンクリ部分と地面に蛍光塗料のスプレーを撒いた。と、ここでさっきの行動に気付く。

 

「しまったな。さっきの忌避剤代わりはやらない方が良かったか……」

 

 ここを警戒されてしまうと通らなくなる=足跡が付かないかも知れない。他に出入り口があればそっちにも撒いておけばいいか?

 

「すいません、他の通気口も調べて貰えますか。ここと同じ感じになっている所があれば出入りしている可能性があります。さっき、忌避剤代わりで撒いた殺虫剤を警戒してここを通らなくなるかも知れないので」

 

「分かりました。探してみます」

 

 草を掻き分けて基礎の部分を調べていく。自分が見た範囲では全て無事だった。

 

「参ったなぁ……水でもぶちまけるか?」

 

「こっちにありまーす」

 

 おっとマジか。小走りで向かう。

 

「ありましたか」

 

「ここ、どうでしょうか」

 

 膝を付いて通気口を見る。確かに同じような状態だ。

 

「それじゃあここにも塗料をっと」

 

 さっきの所と同じ感じで散布した。さて、足跡が見れるか否か……

 

「っ!」

 

 隣の大淀さんが息を飲むような声を出した。振り向くと、まぁまぁ大きいバッタが腕にくっ付いているのが見える。

 

「……しゃがんでたからその辺の草と同じ高さだったんですね」

 

 と言った瞬間、自分の手にも白いトンボが止まった。これは取りあえずいいのでバッタをどうにかしないといけない。

 

「そのままで」

 

 親指・人差し指・中指でバッタの体を横から掴む。持ち上げた時に少しだけ作業服が引っ張られるがすぐに離れた。手の中に収めた状態で立ち上がり、手を開くとバッタは勢いよく跳ねて草の中に姿を消す。

 

「……えーと、大丈夫ですか?」

 

「…………びっくりしました」

 

 はて。気の利いた事を言えるような男じゃないからどうしていいか分からない。年齢イコールだから経験値がない。

 

「……休憩しますか。近くに自販機ありましたからそこでちょっと休みましょう」

 

「は、はい」

 

 まぁバッタが腕に飛んで来たのは人によっては怖いでしょう。俺だって子供の時、カミキリムシが飛んで来て服にくっ付いた時は泣いたもんだ。

 

 

 自販機コーナーに到着。最近は缶コーヒーをコンビニで買った方が安い時代になって来ましたね。どうしたもんでしょう。

 

「みっともないから止めなさい」

 

「あの100円玉……細かいので最後の1枚だったのに」

 

「蜘蛛の巣だらけですね、ちょっとこれは」

 

 自販機の下を覗き込んでいるのは初雪と薄雲。そして仁王立ちの叢雲という光景が目に飛び込んだ。

 

「……落とした?」

 

「落とした……最後の100円玉」

 

「100円玉1枚に固執し過ぎよ」

 

 胸ポケットに入っている指示棒を取り出す。これ、離れた所から虫の近くを叩いて移動させたり逃がすのに便利なんですよ。

 

「どれ」

 

 ペンライトで照らしながらしゃがんだ。蜘蛛の巣や落ち葉が支配する世界に光る物が1つ。

 

「あったあった」

 

 指示棒で掻き出す。見事、100円玉を救出した。

 

「はい、100円」

 

「感謝の極み」

 

 デ〇ラー総統かな?

 

「良かったですね、初雪姉さん」

 

「まぁいいわ。それで、何買うの?」

 

「炭酸系がいいなぁ」

 

 他の自販機も見始めた。取りあえずこっちは買ってしまう。近くのベンチに腰掛けた。

 

「あとは裏から左に回って戻るだけですね。30分そこらもあれば終わるでしょう」

 

「すいません、お役に立てず」

 

「いえいえ、1人だと何かあった時に大変ですから」

 

 そう。俺の場合、スズメバチの件があるから死体で見つかる可能性も高い。だから2人なのはとても有難い事なのだ。

 

 10分程度の休憩を終えて再び旧棟へ向かう。また右回りだと面倒なので、思い切って左から行く事にする。これなら移動時間が少ない。

 

「では行きますか」

 

「はい」

 

 左からのルートは特に問題なく進んだ。窓枠が外れている所も何ヵ所か確認。それ以外でヤバそうと感じた事も特になかった。

 

「何か……あっさり終わりましたね」

 

「左の方だけ草も少なかったですね。でも窓枠の件は、提督と話して修繕の算段を付けようと思います。あのままだと何か入ってしまいますし」

 

 司令部棟まで戻り、報告も終えた。また近々で、夕張さんの手を借りて今度はドローンを用いた内部と屋根部分の偵察もしておきたいと伝える。その辺の日程調整はまた後日という事で今日はお終い。

 

「今日はこれでお暇します。また連絡しますので」

 

「ありがとうございました、お気を付けて」

 

 さーて帰って他に何を見ておけばいいか考えて、それらを含めて明後日ぐらいには連絡したい所だ。

 

(広樹です。まぁ、ゆっくり事を構えましょう)

 

 やる事は山積みである。出来る事からやっていかないと何も始まらないけど、何も始めたくない気持ちも何所かにあった。1つ1つ解決していければいいなぁ。

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