鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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蜷局を巻くモノ

 旧棟周辺の調査から4日後。今日は午後からまた鎮守府に打ち合わせへ行く予定だ。あれこれこうしたい云々を提督さんとやり取りしつつ、まずこちらが動きやすいように領域を広げていく算段を立てている。

 

 ほんで午前はと言うと、親父が出る筈だった地域の集まりに何でか出る事になり、渋々とコミュニティセンターみたいな所に来た。町の発展をどうだの経済効果をどうだのと仰る何ちゃら会長さん(?)の公演が終わる。

 

「あー終わった、さっさと帰ろう」

 

 顔見知りばかりが集まるこの空間。そこかしこで雑談が始まる。早く逃げないとおっちゃんたちに捉まる。

 

「よぉ広樹ちゃん。最近そこそこ儲かってるらしいじゃん。車も2台にしちゃったりしてさ」

 

「いいねぇ、うちにも少し分けておくれ」

 

「ちょっと太ったんじゃないか? ダメだよ運動しなきゃ。俺みたいなお腹になっちゃうぞ」

 

「広樹ちゃんたまには店に来てよ。おじさん寂しいな」

 

 こういう感じの絡みをされるから来たくないんだよなぁ。ってか何が寂しいだよ、いい年して。

 

「皆さん昼間から飲んでらっしゃいます?」

 

「飲みたいけどまだ早いよなぁ」

 

「あと4時間はしないと怒られちまう」

 

 その時間でも十分早いと思うが何も言わない事にした。と、ここで携帯が震え出す。緊急の連絡が入ったので鎮守府に向けて車を出した。

 

 

旧駆逐艦寮

 

「はいはい。どうしましたか」

 

「蛇です、蛇が居ます」

 

「すっごく長かったです」

 

「あれはおかしい。普通じゃない」

 

「めっちゃくちゃデカかったよな!」

 

「落ち着きなさい。何の蛇かで対応も変わるわ」

 

「騒いでる間に居なくなってました」

 

「無暗に近付けないです」

 

「模様は縞々でした!」

 

 上から吹・白・初・深・叢・磯・薄・浦と吹雪型一同が騒ぎ立てている。縞々の蛇。アオダイショウなら問題は無いが……

 

 あー、因みに弊社は毒蛇もしっかり対処致します。特に春先から夏場にかけては墓地とかお寺さんの依頼が多いですね。駆除はしないで捕獲後に山へ逃がす感じです。

 

 ハブ以外の本州に存在する毒蛇(在来種)なら問題なく取り扱えますのでよしなに。

 

 つっても基本的にはヤマカガシとマムシだけですがね。

 

「色とかは分かる?」

 

「赤っぽい感じ」

 

「土色のようにも見えました」

 

 初・白はそう答える。他も大体同じ感じだ。マムシの可能性が高そうだけどヤマカガシも視野に対策を練る。

 

「にしてもなぁ……この状況は如何ともしがたい」

 

 草、生え放題。足元、見えない。普通にしゃがむと上半身以外は草に隠れられる。

 

 そう、まずこちらが動きやすいように旧棟周辺の草を刈る役目を、たまたま全員揃っていた吹雪型がやろうとしていた直後の出来事であった。

 

「手作業はちょっとなぁ。電動草刈り機とかはあったりする?」

 

「聞いてみますね」

 

 薄雲が執務室に内線を掛ける。警備所で管理している物置にその手の器具があるそうだ。しかしそんなに数はないらしい。

 

「じゃあ俺がそれを使わせて貰うから、皆は左側の草が少ない方を刈ってくれるかな」

 

「1人だと危険じゃないか? そっち手伝うぜ」

 

「じゃあ私も。白雪、皆をお願いね」

 

「うん」

 

 右側に吹雪と深雪が参戦。それ以外は左側の草刈りを開始する事になった。草刈り機を持って来て貰う前に全員で注意事項を確認する。

 

「これ、笛ね。何かあったらこれで異常を報せる事。右側は吹雪ちゃん、左側は白雪ちゃんに持って貰います」

 

 罠猟で山に入る時に使う笛の予備だ。無論だが新品を渡します。

 

「素足は危険なので着替えて下さい。上も長袖の物を着るようにお願いします」

 

 万一噛まれても、服だけに噛み付けば御の字だ。ちょっと暑苦しいかも知れないが仕方ない。

 

 そんでもって皆が着替えに駆逐寮へ戻っている間、周囲の安全を確認しておく。もしかすると既に背後へ回り込まれている可能性もある。落ちていた長めの木の棒で草を掻き分けるが、蛇の姿を捉える事は出来なかった。

 

 念のため今の駆逐艦寮周辺も少し探る。こっちは大丈夫のようだ。

 

「何してんのー?」

 

「ちょ、姉さん」

 

 窓が開く音と主に白露嬢の声がした。顔を上げると紙パックのココアを飲みながらこちらを見ている白露&呆れ顔の時雨が居る。

 

「でっかい蛇が出たらしいんで今から草刈りする所。寮に居る皆にも報せてくれ」

 

「マジで。何か手伝う?」

 

「あれだったらこっちの寮周辺の草刈りとかしてくれると助かるけど」

 

「りょうかーい。何人か連れてくね」

 

 と言う訳で急遽、白露・時雨・五月雨・潮・不知火・睦月・皐月が加わった。

 

「へ、蛇って……毒蛇ですか?」

 

「それもまだ分かりません。なので必要以上に注意して下さい」

 

「ちょ、ちょっと怖いですね」

 

 潮と五月雨の表情は固い。まぁ無理もないか。

 

「この不知火、蛇如きに引けは取りません」

 

 彼女は相変わらずの眼光だ。蛇と睨み合ったら撃退出来そうである。

 

「お任せにゃしぃ」

 

「頑張るからね!」

 

 睦&皐は何と言うか微笑ましい。そうこうしてる内に吹雪型も再集合。草刈り機も届いたので作業開始だ。

 

「よいせっと」

 

 脛を守る安全用のプロテクターを着けた。スイッチを入れると甲高い音と共に刃が回り出す。

 

「取りあえず大雑把に切っていくから、残っている所を頼むね」

 

「合点合点」

 

「はーい」

 

 ブイーンと草刈り開始。左右に振りながら進んで行く。出来ればこの音で遠くへ逃げてくれると有難いがどうだろうか……

 

「深雪、ゴミ袋持って来て」

 

「あいよー」

 

 俺が刈った草を2人が少しずつゴミ袋に詰めてくれた。並行して残っている草を刈って貰う。大変に有難いです。

 

「……すげぇな、もう半分か」

 

 右側はもう半分程度を刈ってしまった。文明の利器は素晴らしい。

 

「ピー!」

 

「ん? 笛か?」

 

「え、何……」

 

「……出たかな?」

 

 笛の音がした。草刈り機の電源を切って小走りで向かう。

 

「蛇出た?」

 

 バツの悪そうな白雪が振り返る。

 

「す、すいません。早とちりです。磯波ちゃんが草むらから飛び出した鳥に驚いて悲鳴を」

 

「ごめんなさい。ビックリしてしまって」

 

「何か出たのかと思ったわよもう」

 

 まぁ何事も無ければいい。笛の音を聞きつけた現駆逐艦の草刈りチームもやって来るが、一通り説明したので作業再開となる。

 

 30分後。裏側の突き当りまで草刈りが完了。ここらで一旦、作業を山になりつつある草の回収へ移行した。同時に向こう側の様子を見に行く。

 

「ちょっと向こう見て来るね」

 

「分かりましたー」

 

 旧棟の正面口を横目に左側へやって来た。こっちは奥へ行くに連れて増える草にばかり手こずっているようだ。

 

「その後は問題無い?」

 

「はい。ただ、奥に向かうに連れて草が濃くなってるのが少し」

 

「足、痛い。手、痛い。休みたい」

 

「黙ってやんなさい」

 

 磯・薄・浦の3人は黙々と草刈りしているが、疲れて来ているのが見て取れた。こっちも残りを電動で刈ってしまおう。皆を一旦、右側に行かせて草の回収に加わって貰う事にした。

 

「じゃあ残りは電動でやるから皆は右側に移動して草の回収をお願いします。それがひと段落したら休憩にしていいよ」

 

「え、休憩?」

 

「向こうが終わったら。さぁ行くわよ」

 

「あぅ」

 

 ゾロゾロと移動する皆の後に続き、電動草刈り機を持って左側に戻る。

 

「どれさっさと終わらせますか」

 

 残っている草を次々に刈っていく。20分もせずに右側同様、突き当りの所まで作業が終了した。

 

「後藤田さん。こっち、粗方終わりました。特に問題もないです」

 

 時雨嬢がやって来た。現駆逐艦寮の草刈りも無事に終わったようである。

 

「はーい。ゴミ袋があるからそれに刈ったのを積めてくれたら終わりでいいよ」

 

「ピー!」 「ピ、ピー!」

 

 おっと? 重なるように2つ鳴った?

 

「……さっきとは違う感じですね」

 

「うーん、今度こそかな?」

 

 足早に右側へ向かう。吹雪型が密集していた。

 

「出た?」

 

「今、そっちの草から顔を出してました」

 

「こっちを少し見た後にまた居なくなっちゃいましたけど」

 

 吹・白が残っている裏手の草の方を指差している。やはりそこに潜んでいるか。

 

「動画撮れた」

 

「しゃ、写真もなんとか」

 

 初・磯のスマホを拝借。まず動画から。

 

「あんたそんなのいいからこっち来なさい! 危ないわよ!」

 

「噛まれるからこっち戻れって!」

 

 叢・深の声がする。映像はガクガクだが最後のズームで何となく蛇だってのが分かる程度だった。

 

「これじゃちょっとなぁ」

 

 続いて写真を見た。こっちはかなり鮮明に写っている。

 

「……マムシだね」

 

「あ、あの毒蛇ですか」

 

「毒蛇……」

 

 薄・浦の顔が引き攣り出す。マムシの致死率はそんなに高くないが、それでも危険なものは危険だ。放っておくのは危ない。

 

「今度こそ出た?」

 

「蹴散らしてやります」

 

 白露&不知火が登場。潮と五月雨は怖いので待機。睦月と皐月は疲れて動けないらしい。

 

「はいはい、あんまり集まらない。少し遠ざかりましょう」

 

 建屋が途切れる所まで下がった。どうやってマムシを捕獲、あるいは駆除、もしくは追っ払う方法を考える。

 

「無暗に突っ込むのは当然危険。草刈りしながら進んでもいいけど、それも危ない。さてどうするかな」

 

 と言うか道具が必要だ。これは1度店に戻るべきだろうか……

 

「夕張さん呼んでさ、ドローン使わせて貰おうよ」

 

 白露嬢が提案を出す。思わず飛び付いた。

 

「……その心は?」

 

「居場所が分かれば挟み撃ちに出来ない? じゃなきゃ私ら全員でどっちかから攻めて立てて、後藤田さんの方に追い込むとか。運が良ければ森の奥へ逃げるかもよ」

 

 この案件が長引くと旧棟の作業に少なからず影響を及ぼす。可能なら今日か明日にでも片付けたいが相手の居場所が分からない状態では色々と懸念事項が多い。確かにドローンがあれば居場所を特定出来るかも知れない。

 

「…………やってみるか。悪いけどその辺の調整を頼めるかな。流石に道具が必要だから1度戻りたいんだけど」

 

「オッケー」

 

「皆には監視をお願いします。もしも出て来たら無理はせずに距離を取る事。何所かに逃げた場合は連絡して下さい。笛はそのまま持ってていいから」

 

「分かりました」

 

「はい」

 

 って訳で1度店に帰った。道具を積み込んで再び鎮守府に向かう。幸い、連絡はなかったので逃げてはいないらしい。

 

 また旧棟に戻ってくるとそこには夕張さんの姿がある。無事にドローンが使えそうだ。

 

「お疲れ様です。急なお願いで申し訳ありません」

 

「あー、いえいえ。何かここの調査で使わせて欲しいって話しは提督からもありましたんで、ゆっくり準備してた所です」

 

 既にドローンの準備は終わっていた。独特のモーター音を響かせながらドローンが浮き上がる。

 

「じゃあ探ってみますか」

 

 機体下部に設置されたカメラの映像を見ながら調べる。5分とせず、草の中に何かが居るのが見て取れた。

 

「……コイツですね」

 

「凄い。蛇が蜷局巻いてる所って初めて見ました」

 

 絵に描いたように見事な蜷局だ。サイズもそこそこ大きい。しかし蛇が蜷局を巻いている時は逆に手出しが出来ない。この状態は蛇が自身の安全を確保しつつ、何かあったら最も迅速に動ける体勢なのだ。

 

「これはこっちからの方が近いですね。因みに他に居たりは」

 

「もう少し探しますか」

 

 旧棟の裏に他の蛇が居ないか今少し調査する。だが幸いな事にあの1匹だけのようだ。

 

「よーし、じゃあ皆には左側に行って貰って、向こうから追い立ててくれるかな。こっちに出て来た所を捕まえるから」

 

「「「はーい」」」

 

「もしもそっちにマムシが向かったらドローンを近付けるから、皆逃げてねー」

 

 向こうに着くのを待つ間、捕獲機をチェックする。特に問題はない。手袋は革手だから牙は通さない。足はさっき草刈りで使ってたプロテクター。マムシを入れるための特殊繊維で出来た袋も装備。準備は完了だ。

 

「……お、着いたな」

 

 向こう側に全員揃ったのが見える。手を振り合って追い立てるのを始めて貰った。

 

「…………まだ動かないですね」

 

「もう少し近付けば嫌でも動く筈です」

 

 わざと草の音を大きく立てながら近づいていく。ある程度距離が詰まった所で、マムシが首を持ち上げた。

 

「あ、動きそうです」

 

 マムシはキョロキョロした後、こちらに向けて移動を開始。さて、このまま何もない空間に出て来てくれるだろうか。

 

「……手前で止まりましたね」

 

「草が途切れますからね、怖いんでしょう」

 

 身を隠せない場所に出るのは勇気が居るようだ。頼むからそのまま出て来て下さい。

 

「顔を出しそうです」

 

「知らんふりして見ますか」

 

 マムシに背を向けた。どうやら見られていない事が分かったのか、マムシはゆっくりと出て来た。

 

「……どうします?」

 

「まだこのままで」

 

 背は向けたまま映像を注視する。マムシの体が完全に露出した頃合いを見計らってこちらも動いた。

 

「ドローンで注意を引いて貰えますか」

 

「お任せを」

 

 急に頭上へ現れたドローンにマムシが尻尾の先端を細かく震わせて威嚇音を出し始めた。首を折り畳んで警戒の体勢になる。

 

「映像越しでもちょっと怖いですね」

 

「手早く終わらせますからもう少しそのまま」

 

 後ろに回り込み、マムシの首を捕獲機で掴んだ。驚いたマムシが捕獲機に絡み付くも金属をどうにか出来る訳がない。ロックを掛けて捕獲機を置き、首を左手で掴んでロックを解除。今度は腕に絡み付くが袋に突っ込み、袋の上から右手で首を掴み直して左手を少しずつ外に出す。

 

 袋の口を閉めて無事、捕獲終了。さて、コイツはどうしよう……

 

「終わったー?」

 

「捕まえたんですね」

 

 白露と吹雪が草むらから出て来た。他の皆もぞろぞろと出て来る。

 

「終わりました。あとはこっちで処理します」

 

 皆には残りの草刈りをお願いして今日は終了。本来の予定だった打ち合わせは後日に再調整して貰う。疲れたのでもう帰りましょう。

 

 

(広樹です。マムシは近所のおじさんたちにあげました。マムシ酒にするそうです)

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