鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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旧棟・内部調査準備

 某日の午後。旧棟内部調査の打ち合わせに軽巡寮を訪れた。夕張さんと会うのだ。

 

「ごめん下さい」

 

「あら~、暫くです~」

 

 ヒェッ 龍田様

 

「……ご無沙汰しております」

 

「夕張ですね~、少々お待ちを~」

 

 奥に消えて行く。心臓が止まるかと思った。

 

「あー怖かった」

 

「そこまで露骨に態度が硬化すると流石の私でも分かるぜ」

 

 後ろから女性の割には低めの声がした。振り返ると、あー、ガルバルディさんでしたっけ? いやこれはモ〇ルスーツか? 違うっけ?

 

「……一応は隠したつもりなんですけどね」

 

「まぁ、怖いのは理解出来る。何か底が知れないのを感じるよな」

 

「正直そうですね……ちょっとは慣れましたけど」

 

「何がですか~?」

 

 急に隣で声がして2人同時に驚いた。思わず叫びそうになるがそれはギリギリで抑える。

 

「あー、えっとー、旧棟の移動する暗闇がですね」

 

「そうそう、怖そうだなって話を」

 

「あれですか~、確かに怖いですよね~」

 

「すいません遅れましたー」

 

 いい所で夕張さんがやって来た。有難い。

 

「お疲れ様です。旧棟の件で」

 

「はい、あっちでお話しましょう」

 

 ロビーの隅っこに移動した。夕張さんの抱えるノートPCとファイルがテーブルに置かれる。

 

「これが大淀から預かった旧駆逐艦寮の図面です。3D化したデータもありますので、良かったらどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 取りあえず1階から攻めて行きたい所だ。図面を受け取って立ち上がったノートPCのデータと照らし合わせていく。

 

 と、ここで気付いた。さっきから視界の隅にチラチラとよくないものが見える。いつもは作業着姿だが恐らく今日は制服であろうその服、お腹が丸見えですけどいいんですか?

 

(気にしない気にしない)

 

「あれから中には誰も入っていません。窓枠が外れている所以外は、出入り口も締め切っている状態です」

 

「裏手の方ですけど何か野生動物の目撃情報とかは」

 

「今のところは何も」

 

「何も…………なるほど」

 

 ふーむ、やはりカメラを仕掛けておいた方が良さそうだ。後で提督さんにもお願いしよう。

 

「そうそう、当日の拠点はどうしますか?」

 

「拠点ですか……正面出入り口の前はちょっと遠慮したいですね」

 

「じゃあ今の駆逐艦寮の中から出入り口が見える所にしましょう。そうすればモニターとかも置けるので見やすいと思います」

 

 モニター? 外部に映像の出力が出来るのか。すげぇ……

 

「分かりました、その方向でお願いします。取りあえず1階の……炊事場以外を探りましょう。あとは順次、上階を偵察する感じで」

 

「あー……本当にそんなの居るんですか?」

 

「居るんですよねぇこれが」

 

 移動する暗闇の目撃者は俺を含めてたった13人。この鎮守府の総勢200数名で考えると1割に満たない証言にしかならない。提督さんも信じてはいるが自分の目で見た訳ではないから、話を聞いただけでは疑う気にもなるでしょうね。

 

「まぁ、映像越しでも威圧感は半端ないと思うんで気を付けて下さい」

 

「うーん、ジャンク品を使おうかなぁ。そうすれば最悪、壊れても構わないし」

 

「自分も回収しに行く勇気はないですね。その方がいいかも知れません」

 

 打ち合わせはこの辺で終了。次は重巡寮へ向かう。

 

 

重巡寮

 

「すいません後藤田ですー」

 

「ZZZZ」

 

 ロビーのソファで寝入っている見た事のない艦娘を発見。誰の姉妹だろうか……

 

「あーすいません、お待たせしました」

 

「いえいえ、本当にさっき来ましたんで」

 

 古鷹が現れるも寝ている艦娘の方へ進んでいった。

 

「加古、加古」

 

「……ん~~、あと1時間」

 

「もう加古、起きて」

 

「30分でいいから~~……ZZZZ」

 

 また寝たようだ。あそこまで意識が戻って来たら普通は起きそうなものだが。

 

「仕方ないなー。すいません、妹の加古です。また機会があれば改めてご挨拶させますので」

 

「あれ……てっきり青葉さんなんかが妹かと思ってましたが」

 

「んーとぉ……厳密に言うと無関係ではないんですけど……まぁそれは置いておきましょう」

 

 おっと、他人の血筋を詮索しても仕方ないな。お仕事お仕事。

 

「いえ失礼しました。本題に入りましょう」

 

 彼女が持って来たファイルを見せて貰う。重巡寮は裏手の雑木林のお陰で色々と出るのだ。目撃情報を纏めたのをこうして定期的にチェックしている。

 

「…………真っ黒い蜂のようなものですか」

 

「それ、みんな結構怖がってます。誰のベランダにも巣は確認出来てないので、建物の外に居るのは間違いないと思うんですけど」

 

「具体的な形とかは分かりませんかね。どなたか例えばクマバチと言った事は」

 

「クマバチではないって所が共通認識です。私も色々と調べてみたんですけど、それっぽいのが沢山あって……」

 

 これは実物を目にしないと何とも言えない。しかし簡単に遭遇は出来ない筈だ。こういうのは意識して探すと見つからないものである。普段その辺に転がってるボールペンの如しだ。

 

「もし可能なら写真とかを撮っておいて貰えると助かります。難しいかも知れませんが」

 

「そうですね、無理はしない方向でみんなにも頼んでみます」

 

 他は特に目立ったものは見当たらない。近々でまた様子見ついでに、忌避剤を持って来る事にした。今日中に発注を掛けてしまおう。って所で今度は司令部棟に向かう。

 

 

司令部棟

 

 ドアをノックする。

 

「お疲れ様です、後藤田です」

 

「セールスはお断りよ」

 

「いえどうかお話だけでも」

 

「仕方ないわね。どうぞ」

 

「失礼します」

 

 この小芝居が出来るって事は提督さんは居ないようだ。ドアを開けると案の定、加賀さんだけだった。

 

「えーと、提督さんは戻られてない感じでしょうか」

 

「トイレよ。すぐ戻るわ。座って待っていて頂戴」

 

 言われるままソファに腰掛けるのとほぼ同時にドアが開いた。戻って来たようだ。

 

「あぁすいません。お待たせを」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 打ち合わせ開始。今回も内部調査に関する事だ。

 

「それでですね、もし可能なら、旧棟の裏手にカメラを設置させて頂きたいんです。もし出入りしている野生動物が何なのか分かれば、場合によってはそっちの対策が先になる可能性もありまして」

 

「この前に何かが移動している事だけが分かった件ですね。そう言えば屋内には糞もあったそうですが」

 

「犬っぽい感じだったんですけど、この周辺に野犬の類が居れば流石に誰かしら気付きますもんね」

 

「一応それなりの警備システムがありますので、何かあればそういう報告も上がって来ますが特には確認してませんね。分かりました。よろしくお願いします」

 

 その後、15分ばかりのやり取りをして打ち合わせは終了した。旧棟裏へカメラを仕掛けるついでに周辺の様子を探る事にする。

 

 

旧駆逐艦

 

「……うーん、1人はちと怖いが仕方ない」

 

 ウダウダ言ってても始まらない。子供じゃないんだから仕方ない。

 

「子供ねぇ……戻ってもいいけど学生時代を全部もう1度ってのはやだなぁ」

 

「へぇ~、そうなのねぇ~」

 

「そうですねー……え?」

 

 振り向くとそこには、荒潮もとい、駆逐艦詐欺の1人がニコニコしながら立っていた。

 

「……いつのまに」

 

「旧棟の方に行くのを見掛けたから付いて来ちゃった~。人手が必要になったら、呼びに行く係が必要でしょ?」

 

「…………まぁちょっとは手伝ってくれると有難いけど」

 

「はぁ~い」

 

 どうしてこうなった。まぁいい。気にしない気にしない。

 

 旧棟の裏手に移動。草は綺麗に刈られている。どの辺にカメラを仕掛ければいいだろうか。

 

「さてと……カメラは何所に置こうかな」

 

「あらあら大変、そういう趣味だったのね~」

 

「あのねぇ」

 

「やだ~冗談よ」

 

 いかん。調子が狂う。さっさと終わらせないとペースに飲まれそうだ。

 

「えーとね、まず基礎の所の通風孔とその周辺に蛍光塗料のスプレーを撒いて貰います。前にも1度やってるけど、草刈やら何やらであんまり意味がなくなってしまったのでもう1回やります」

 

「どんな感じでやればいいのかしらぁ」

 

「まぁ、難しい事は考えずにこんな感じで」

 

 お手本を見せる。と言うかこれに関しては特に技術も何もないが。

 

「先にカメラを設置するから、この作業を進めて下さい。終わったらそっちに混ざるけどもし先に終わったら一声掛けて欲しいです」

 

「全部の通風孔?」

 

「全部だね。あとこれ、緊急用の笛。変な物が出たとか蛇に出会ったとかあれば吹いて」

 

「了解よ~」

 

 よし、これで体よく離れられる。カメラを設置したら反対方向に向かうように塗料を撒いて正面で合流。作業終了。解散だ。

 

 しかし思うように事は運ばなかった。画角が上手く決まらない。可能な限り広い範囲を映像に収めたいが、カメラのズームを一番手前にしても気に入る状態にならん。

 

「ん~……難しい」

 

「全部終わったわよ~」

 

「え、もう?」

 

「30分ぐらいは経ったんじゃないかしら~」

 

 マジか、そんなに悩んでたとは。

 

「何が決まらないのぉ?」

 

「映像の取れる範囲が決まらなくて」

 

「じゃあ私がどの辺から映像に入るかで設置場所を決めるのはどう?」

 

「あ、それはいいかも。じゃあちょっと森の境目当たりに行ってくれるかな」

 

「はぁ~い」

 

 荒潮がトコトコと小走りで森と敷地の境目に行った。そこから少しずつ前に歩いて貰う。10歩ぐらい進んだ所で液晶に映り込んだ。 

 

「ストップ。一歩下がってみて」

 

 映像から荒潮が居なくなる。旧棟の裏はしっかり映ってるので、この状態だと森の方にカメラを向けた方が良さそうだ。

 

「ちょっとずつカメラをそっちに向けるから下がれる所まで下がって欲しい」

 

「OKよぉ」

 

 カメラを動かしつつ手の動きで後退を指示。するとある角度で旧棟の裏側が映像から消えた。

 

「ここまでは入るのか」

 

「まだ下がる?」

 

「一歩前に」

 

 また荒潮が映り込んだ。と言う事は、もう少し左に向けるのがベストだろう。

 

「こんな感じかな。OK、終わった」

 

「ギャラはお幾らかしら~」

 

「録画はしてないから何も発生しませんね」

 

「えぇ~、いいじゃなぁい」

 

「よくありません。ご協力ありがとうございました。これにて失礼」

 

「もうちょっとお話しましょう~」

 

 纏わりつかれながら旧棟周辺をもう1度見て回る。外れていた窓はビニールシートで塞がれていた。業者の人が下見か何かに来たようだ。俺の出番も近い内に回って来る事だろう。しっかり準備しなくてはならない。

 

(広樹です。移動する暗闇"小さい無数の龍田様"なんてのを想像して震え上がりました。君は、生き延びる事が出来るか)

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