鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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本年もよろしくお願い申し上げます。


旧棟・内部調査2

 衝撃的な出来事が起きて2~3分が経過。何だか嫌な空気が漂い出す。

 

「……ちょっと休憩入れますか」

 

「ですねー」

 

「あれ、本当はGやのうて何かもっと別の生き物やったりして」

 

「まぁ私らだってあんな(深海棲艦)の見てる訳だし」

 

「ねーってば、おーい説明しろー」

 

 陽炎と黒潮が何か買って来てくれるそうなので、俺は例の存在について秋雲先生に説明を始めた。

 

「あの旧棟を使えるようにするって動きは知ってる?」

 

「何かちょっと聞いた気もするかな」

 

「中の様子を見に行ったとある3人組が何かを叫びながら泣いて帰って来た事は?」

 

「……それは知らない」

 

 3人組の言う要領を得ない言葉によって呼ばれた事。神風型と共に様子を見に行った事。炊事場の出来事。黒潮を含めた5人で再び旧棟に足を踏み入れ、2階で取り囲まれた事を話す。

 

「…………本当にゴキブリ?」

 

「1匹1匹は確かにそうだった。でもあれが集団を組んだ状態だと、まるで意思を持った何かのように動き回るんだよなぁ」

 

「ドローン。1つ予備ありますけど、続けます?」

 

「何も考えないでやると多分、さっきと同じ事になる気がします。ちょっとアプローチの仕方を変えないといけないかも知れませんね」

 

 ここで陽炎と黒潮が戻って来た。ビニール袋を1つずつ持っている。

 

「戻ったわよー」

 

「適当に選んでな~」

 

 お茶・ジュース・カフェオレ等々が並べられる。小袋のお菓子もあった。それらを手に作戦会議を始める。

 

「1階はどうにも安全な気がするんだよなぁ、あの炊事場以外は」

 

「2階の空気は上手く言えへんけどいや~な感じしたわぁ」

 

「黒潮がそう思うなら確かなようね」

 

「例えば、階段を一時的に塞いで1階の安全を完璧にするってのはどうですか?」

 

 階段を塞ぐ? そんな事が出来るのだろうか。

 

「どうやります?」

 

「そういう業者に来て貰うしかないんですけど、防火扉を増設するんですよ。こういう感じになります」

 

 夕張さんのスマホで画像を見せて貰う。役所や学校でよく見る防火扉だ。しかしこれの取り付けとなると費用が嵩む可能性がある。それに間仕切りのような使い方をしていいのかも分からない

 

「これ、消防法とか大丈夫ですかね」

 

「んー……確かに」

 

「一度相談する方がええんちゃう? こっちが動きやすい場所が増えるんやったらそれはそれでええ事やし」

 

「拠点を作れるもんね。それこそ、こんな所で店を広げなくていいようになるかも」

 

「いや~敵地の中で落ち着ける気はしないな~。気付いたら包囲されてたりして」

 

 う、それは嫌だ。ふと周りを見たら黒一色なんて受け入れたくない最後である。しかし連中を1階から2階へ追い込むにはどうすればいいのか。

 

「……試しに、出入り口周辺を掃除してみますか。それで暫く居座ってもし動きがあるようなら、予備のドローンで2階に誘導出来るかの実験をする。これが上手くいけば、防火扉を設置した後でも連中を2階へ誘い込んで1階との移動を遮断出来る、かも知れません」

 

 今日は何も道具がないので深入りは出来ない。でもこれぐらいなら可能な気がした。

 

「威力偵察って事ですね。確証は持てませんけどやって見る分にはいいと思います。皆どう?」

 

「せやな。けどもう少し人数が居らんと」

 

「ちょうどいいわ。1度その姿を肉眼で拝んでやろうじゃないの」

 

「あー、私はここでバリさんと一緒に」

 

「い く わ よ ね?」

 

「アッハイ」

 

「じゃあちょっと提督に連絡しますねー」

 

 連絡の結果、GOサインが出た。って訳で人数集めが始まる。因みに提督さんは急に外出する事になったので今日はもう戻って来れないらしい。全ては俺に委ねられてしまった。ロビーに行くと何人かが屯していたので声を掛ける。

 

 運悪く居合わせた吹雪&朝潮はどうやってるのか分からないが死んだ目付きで正面を向きつつ棒立ちのまま後ろへ猛スピードで下がり廊下の奥へ消えた。

 

「ほう、例の移動する暗闇とな。噂は聞いておったぞ。かつて旧棟で暮らしていた者としては、見過ごせん存在じゃ」

 

「以前のアレですね。お供致します」

 

「понял、随行しよう」

 

「この浜風、虫ごとき恐れはしません」

 

「前とは違う奴らか。面白い。僕も行こう」

 

 初春・綾波・響・浜風・初月が賛同してくれた。はて、響は前と容姿が少し変わったような?

 

「何か……前と感じが違うような気がするけど?」

 

「ああ、改二の改装を受けたんだ。名前も変わったが、言い難いようだったら前のままでいい」

 

「因みにどんな名前?」

 

「ヴェールヌイだ」

 

 ぶぇ……うん?

 

「……悪いけど前の方で呼ばせて貰うかな」

 

「構わないさ。以前の私が消え去った訳でもない」

 

 何か小難しい事を言うようになった気がする。まぁ、深くは触れないでおこう。そこへ掃除用具を引っ提げた陽炎と秋雲が現れた。

 

「パワハラ~、姉の権限を使ったパワハラ~」

 

「アンタ24時間あそこで息を潜め続けるRTAやる?」

 

「どう足掻いてもオワタ式じゃんそれ~」

 

 あーるてぃーえー? おわたしき? 何の事だろうか。おじさんにはちょっと分からないです。

 

「総勢8名か。取りあえず4人1組になって貰えるかな。前にアレを見た2人は一緒にならないでくれると有難い」

 

「ほな浜はこっちや。悪いけど姉妹の方が動きやすいし」

 

「でしたら、残りは私が纏めますね」

 

 こうして黒潮を筆頭に陽炎・浜風・秋雲のグループと、綾波をリーダーとする初春・響・初月のチームが出来た。夕張はドローンで遊撃&監視を行う。

 

「1つ、深追いは厳禁です。2つ、自分の守備範囲を意識する。3つ、誘いには乗らない。取りあえずこれを念頭に行動しましょう」

 

「誘い? 彼奴らにはそこまでの知能があると言うのか?」

 

「普通じゃない事は確かなのでもしもそんなのを感じたら絶対に無視して下さい」

 

「手強い相手のようですね。秋雲、遅れを取ってはいけませんよ」

 

「何で浜姉までそんなやる気なのさ……」

 

 総勢9名はゾロゾロと旧棟正面出入り口に到着。後ろを振り返ると夕張が窓ガラス越しに手を振っているのが見えた。全員がハンズフリーのイヤホンを装着している。

 

「テストテスト、皆聞こえるー?」

 

「後藤田です、聞こえます」

 

「ばっちりや」

 

「聞こえるわ」

 

「はーい、聞こえますよバリさん」

 

「問題ありません」

 

 陽炎型軍団+α(広樹)は問題なし。

 

「こちらも大丈夫です」

 

「通話に手が塞がらないとは便利な代物じゃな」

 

「よく聞こえるぞ」

 

「Дар」

 

 綾波組も大丈夫なようだ。

 

「取りあえず私は1階をグルグル回ってますね。異変を見つけたらすぐ報せます」

 

「お願いします。では行きましょう」

 

 モップ・水入りバケツ・箒・雑巾・マスク・ゴーグル・ゴム手袋を持った軍団は正面入り口から突撃を開始した。

 

「まず土埃やらを外に出します。上から順に掃除開始」

 

 古い小学校の下駄箱が目の前に広がる。思わず懐かしい気分になるが浸っている場合ではない。

 

「うえっ、すっごい埃」

 

「脚立あった方がいいわねこれ」

 

 中央にある下駄箱の上へ箒を伸ばした秋雲が余りの埃に辟易した。それを見た陽炎は脚立云々と言い出すも、みんなスカートなので倫理的な問題が生じる。

 

「あー、持って来てくれたら上の方はやるよ。危ないし」

 

「ほなウチと秋雲で持って来るわ。行くで」

 

「何か扱き使われてる気がすんだけど~」

 

「ええからええから」

 

 脚立の到着まで玄関口から奥の廊下部分を掃除するに留める。5分もすると脚立が来たので広樹は下駄箱の上を掃除し始めた。他の皆は4人1組で廊下側と下駄箱側に別れて作業を続行。

 

「よーし、下駄箱の上は終了っと」

 

 次は左右の下駄箱の上だ。その前に壁の掃除も必要であるが、まず現状確認。

 

「何か異常は?」

 

「大丈夫やでー」

 

「特に無いでーす」

 

 まだ連中に動きは無いようだ。どれぐらいで変化が起きるのかは分からない。今ここでやっている行動を敵対的なものとして見るか、まだどうでもいいと見るか、向こう次第だ。

 

 しかし何もないまま時間は過ぎ、玄関から廊下に繋がる部分の掃除も終わりそうになる。

 

「このままだと終わってしまうな。奥の方へ手を伸ばすか?」

 

「誰も殺虫剤を持って来ていないんだ。深入りして襲われたら手段が無いさ」

 

 初月と響が炊事場の方を見ながらそう言った。ここまでして動きが見られないのは少し不安にもなるだろう。

 

「後藤田殿、どう致す」

 

「これ以上の行動に出るのであれば相応に準備が必要と判断します」

 

「でも、アレが近くに居ないから何も起きてない可能性もあると思います」

 

 浜風の言う通りこれ以上踏み込むのであれば1度店に戻った方がいい。だが綾波が言うように、アレが炊事場周辺かそもそも1階に居ない可能性も考えられる。

 

「今日はこの辺にしておいた方がええんとちゃう? ぼちぼちお昼やし」

 

「そう言われるとお腹空いて来たな~」

 

「午後に仕切り直す?」

 

 まず全員のスケジュールを確認した。みんな午後は空いているらしい。もしかすると人数を増やせるかもしれないとの事だ。

 

「取りあえず少し早いけど昼にしましょう。午後については考えます」

 

 一旦、解散となる。道具は正面入り口の所に積んでおいた。さて午後をどうすか……

 

「ドローンでもう1度だけ上階を偵察して貰うか……或いは炊事場にちょっかいを掛けるか」

 

 考えが纏まらない。と、ここで旧棟の裏に置いてあるカメラの事を思い出した。まずそっちの回収をしてしまおう。

 

 すっかり草の刈られた旧棟裏。見晴らしは抜群である。そんな一画に佇む三脚に乗ったカメラがあった。電源を切って三脚ごと持ち上げ、土を少し掘り返してここが定点だった事の目印を残す。

 

「何か映ってるのかただの静止画同然か2つに1つっと」

 

 バッテリーを交換して映像を確認。サッと見た程度では目ぼしい物は映っていなかった。朝が夜になってまた朝になる繰り返しだ。

 

「外れか……まぁいいや、昼にするべし」

 

 食堂に向かい、日替わりを頂いた。車に戻って作戦を考える。

 

「どうしてくれようか……」

 

1・半数を率いて2階に上がり手近な所を肉眼で確認

  残り半数は1階で警戒(殺虫スプレーは在庫を使用)

 

2・店に戻って道具を持って来てから作戦を再開

 

3・全員に出入口で警戒して貰ってる間に1人で炊事場を探索

  ドローンも随行

 

 そもそも中の様子をただ探るだけの予定が思わぬ展開になった本日。夕張の提案する1階と2階を遮断する方法を基に、連中を誘導出来るか試す行動に出た訳だが、肝心の連中が現れない事で頓挫してしまった。

 

「……思い切って3番を試すか」

 

 初回の面子が全員揃っていれば1番を選んでもいいのだが、今回は黒潮と綾波しか居ない。2番だともう自分のスイッチが切れてしまいそうな気がする。

 

「よし、即決即断即行」

 

 車から降りて駆逐艦寮に入った。管理人室にはさっき姿を消した吹雪と朝潮が居て、部屋の奥へ逃げられる。

 

「い、嫌です。私は嫌です」

 

「お断りします!」

 

 朝潮ちゃんそんな大きな声で宣言しないでおくれ。変な意味じゃないけど外に聞こえるから。

 

「待って待って、在庫の殺虫剤何個か持って行くだけだから。危ない目に合うのも俺だけだから」

 

 あー、やばい。傍から見ると宜しくない光景になっている。こういう時にあの娘1(荒潮)とかあの娘2(村雨)に見られると面倒な事態を引き起こしかねない。

 

「取りあえず9個持って行くから記入しといて。次に来た時に補充するから。よろしく」

 

 勝手に深読みしてある事ない事を言い出す前にドアを閉めた。そして後ろに感じる気配。振り返るとそこには……

 

「……ふ、不審者ですか」

 

 陽炎型の制服を着ている。髪は黒くて後ろは背中に掛かるぐらいの長さ。知らない娘ですね。

 

「…………違います」

 

「否定するのは不審者だからですね。こんな所に作業服を着た男の人が居るのはおかしいじゃないですか」

 

 うーん、今度から腕章か何か用意しようかな。こういう事を回避出来そうな気はする。とか思っているとドアが開いた。吹雪ちゃんが顔を出す。

 

「お、親潮ちゃん。その人は怪しい人じゃないから」

 

「でもさっきそこに押し入ろうとしてましたよね」

 

「あれ、何してるのよ親潮」

 

「どないしたー?」

 

 陽炎と黒潮が戻って来た。この状況を見て何となく察したらしい。

 

「親潮、その人が後藤田さんや」

 

「あんた早とちりして何か言ってないでしょーね」

 

「え……後藤田……さん?」

 

「どうも、不審者の後藤田です」

 

 2人が「あちゃー」と言う顔をした。これぐらいの事はしてもいいだろう。

 

「すんまへんなぁ、普段から話はしてるんやけど」

 

「親潮、午後に戻って来るんだったわね。それを見越して伝えとけばよかったわ」

 

「まぁまぁ。こっちも次から見た目で分かるように何か工夫するよ」

 

「し、失礼しました。陽炎型4番艦の親潮です」

 

「ウチの直ぐ下の妹や。ちーとだけ融通利かん所あるけどな」

 

 そんなこんなで事案化は回避された。まだ全員揃っていないのでもう少し休んでて貰おう。

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