鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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旧棟・内部調査3

 不審者呼ばわりされたけど俺は気にしません。気にしません。大事な事なので2回言いました。

 

「戻りましたー」

 

「やっぱりないな~、後でまた探すかぁ」

 

 夕張&秋雲が戻って来た。まだ全員じゃない。

 

「浜風、戻りました」

 

「午後はどうするのじゃ」

 

「全員揃ってからお報せします」

 

 それから10分ぐらい掛けて全員が揃った。午後の作戦を説明する。

 

「ここに殺虫スプレーが9個あります。1人1つ持って貰います。夕張さんは午前同様にドローンの操縦をお願いします。それで――」

 

 一呼吸入れる。さて……

 

「皆には出入口周辺で壁や天井を見張って、移動する暗闇の出現に備えて貰います。自分は1人で炊事場の中を探ります。ドローンは近くに居て貰って死角を警戒。もし遭遇したら全速力で逃げますが、ドローンは事前の通り陽動を開始。もし食い付けば成功。食い付かない場合は仕方ない。こんな感じで行こうかと」

 

「チャレンジャーやなぁ。下手すると飲み込まれてまうでぇ」

 

「前より走る距離は短いから逃げ切れないって事はないと思う。多分だけど」

 

「何となくですけど、建物の外までは出て来ないような気がします」

 

 綾波の言う事は自分も感じていた。どうにも奴らはあの中だけが行動範囲のように思う。それが何かを意味しているのかまでは分からないが。

 

「確かに、外へ出て来ないのならドローンが2階へ行く事でそちらに引っ掛かる気もするが」

 

「全ては仮説でしかない。行動するのが一番早いと私は思う」

 

「同感です。危険はあるでしょうが、ここは踏み出すべきかと」

 

「予備もジャンク品なんで壊す勢いでやっちゃいましょう」

 

 初月・響・浜風ともに概ね反対意見はないようだ。ここで親潮を見やる。

 

「んーと……参加する?」

 

「皆さんが何をしていてこれから何をするのかが分からないんですが……」

 

「説明したげるわね」

 

 陽炎がここまでの経緯を一通り説明。顔の上半分が次第に青くなり出した。

 

「……あそこにそんなのが潜んでいるとは」

 

「無理に混ざる必要はないよ」

 

「いえ、見学だけでも」

 

「何かあったらすぐ逃げーや?」

 

 1人増えたので殺虫スプレーも1つ追加する。総勢10人で再び旧棟に足を踏み入れた。

 

「親潮ちゃん聞こえるー?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 ハンズフリーのイヤホンも同様に1つ増やし、夕張さんとの情報共有も出来るようになった。まず問題はないだろう。

 

「そうそう後藤田さん。今回はドローンの映像をPCでキャプチャーしてますから後で確認出来ますよ」

 

「キャプチャー?」

 

「画面を録画して映像に残してます。あれでしたらデータのコピーもいいですよ」

 

「録画、そんな事が出来るんですか」

 

「生配信とかで使われてる技術ですねー。そんな難しいもんじゃないです」

 

 すげー、俺には縁のない技術だ。でもちょっと勉強してみようかな。

 

「んじゃあ本日3回目の探索と行きましょう。こっちは大丈夫でーす」

 

「では追従をお願いします。皆はここで待機。もしも遭遇したらすぐ逃げる事」

 

 9人の駆逐艦を残して俺だけ炊事場に向かった。ドアを前に深呼吸する。

 

「……よし」

 

 炊事場の引き戸を開けた。前はここで僅かな光から逃げるスス〇タリを見たのだが、今回は遭遇しなかった。まず一歩だけ踏み込む。

 

「いつもの食堂に比べたらこじんまりしてるなぁ」

 

 当時ここに居た駆逐艦はこれぐらいで十分な人数だった事が窺える。誰から誰までがここで生活していたメンバーだったのか少し気になるが、それを聞き出すのは無粋だろうか。

 

「ここは開けっ放しでいいな。さすがに勝手には閉まらんでしょ」

 

 目の前で起きているのは心霊現象の類ではない。それだけが救いでもあった。

 

「後ろ、大丈夫ですか?」

 

「今の所はって感じですね」

 

 後方を見張って貰えるのは有難い。遠隔操作でも背中合わせなのは実感出来る。でもそれで惚れたりはしない。

 

「……テーブルのある区画はクリア、と」

 

 まだ何も起きていない。それよりも連中の糞がこの辺に無い事がおかしい。奥の調理区画だろうか。行きたくないが行くしかない。

 

「先に進みます。あの奥は下手するとアマゾンの奥地かそれぐらいの何かと思ってもいいかと」

 

「地獄の一丁目ですか、拝んでやりましょう」

 

 恐らくだけど食事を受け取るであろうカウンターがあった。横にある通用口から調理区画に足を踏み入れる。昨今の小学校で給食調理場がある所は少ないと聞くが、ここは昔の設備がそのまま残っているようだ。

 

「……お、糞がポツポツとあるな」

 

 黒い米粒のようなのが無数にある。正しく連中の排泄物だ。しかし不思議な事の1つとして、何を食べているのか気になる所だ。まぁ雑食だから木でも食っている可能性はある。となればだが、下手するとかなり高額なリフォームが必要?

 

(俺が気にしても仕方ないな。取りあえず調査続行)

 

 大きな寸胴。それを凌ぐ超巨大鍋。様々な調理器具。どれもこれも糞だらけだ。ここを復活させるなら再利用せずに捨てて新しいの買う事をお勧めする。

 

(ってなれば建て直した方が色々と安全だよなー……まぁ俺が口を挟む事ではないけど)

 

 何だか自分に言い訳をしているようだが実際問題として口を挟める立場じゃないのは事実だ。そもそも部外者だし。

 

「アレ、居ませんねー」

 

「上の方に何か美味い物でもあるんですかね」

 

「映像だとそれらしいのは見えませんでしたけど、あそこに何があるかは書類を作ってなかった気がしますから何とも……」

 

 その気になればすぐ見に行ける場所だったから作ってないのも無理はない。こんな状況になってるなんて予想も出来ないから仕方ないでしょう。

 

「おや……この糞は」

 

 最初にここへ入った時に見たのと同じに見える。すっかり干からびているのでかなり日数が経っているようだ。

 

(アレが居ない時間帯にここへ忍び込んでいるのか……何らかの棲み分けが存在するのか)

 

 と思っている所へ響の声がイヤホンに入り込んで来た。

 

「聞こえるかな。今、どの辺に居るんだい?」

 

「今は……奥の調理区画に入った所」

 

「そこからもっと奥にドアがあるのは分かる?」

 

「もっと奥?」

 

 奥には業務用の大きな冷蔵庫が何台か並んでいるからドアは見えない。でもあの並び方だと奥に空間があるのが分かる。左の方からその先に行けそうだ。

 

「業務用の冷蔵庫で見えないけどその先がありそうだね」

 

「今、私たちは炊事場の出入口がある廊下の奥を見ているんだ。天井から何か黒いのがその奥のドアに流れ込んでいる。戻って来てしまったみたいだよ」

 

「あれは本当に虫かの?」

 

「やっぱ別の生き物やろあれ」

 

「うわぁ、あれが全部G?」

 

 初春・黒潮・陽炎の声もした。本当に全員でその光景を見ているらしい。

 

「……戻るか」

 

「あ、今、奥の方で何か動きました」

 

 冷蔵庫を注視した。何か分からないが冷蔵庫のふちに沿って黒いのがゾワゾワと蠢いている。後ずさりを始めた次の瞬間、冷蔵庫だけでなく他の調理器具や調理台を飲み込みながら一気に近付いて来た。

 

「退避!」

 

「はい!」

 

 全力疾走で炊事場から脱出。ドアから出た瞬間に左を見ると、向こうからも別の集団がこちらに迫りつつあった。

 

「皆も逃げろ! 早く!」

 

「私は予定通りこのドローンを2階に上げますね」

 

 移動する暗闇の衝撃を目の当たりにした彼女たちも大急ぎで正面出入り口に向けて走った。しかし、ここでアクシデントが発生する。

 

「ひぃ!」

 

「あ、ちょ! 親潮姉!」

 

「親潮姉さん!」

 

 想像を絶する光景を見た事で完全にパニックへ陥った親潮は1人で反対側の奥へ逃げてしまった。それを浜風と秋雲が追い掛けていく。

 

「親潮! そっちはダメよ!」

 

「秋、浜! こっちや! はよ戻りぃ!」

 

「追い付かれる! 行ってはいかん!」

 

「早く出ないと飲み込まれます!」

 

 3人を追い掛けようとした陽炎と黒潮は初春&綾波に抑えられる。そこに合流した広樹も陽炎と黒潮たちを外に押し出そうとする傍らで廊下の奥へ逃げた3人を視界の隅に収めた。元々は職員室だった所を再利用した会議室に飛び込む所までを見届ける。

 

「引っ掛かりました! あまり多くないですけどこのまま引き摺り回してみます!」

 

 移動する暗闇の大体3分の1がドローンの陽動に引っ掛かる。更に3分の1が奥へ逃げた親・浜・秋を追い掛け、残り3分の1が広樹たちに迫った。

 

「まず外に出る! 早く!」

 

 何とか建屋の外に出た。玄関先まで追って来た集団は急にUターンしてまた炊事場の方へ消える。その行動原理が不明な所が怖い。

 

「3人を追わなきゃ!」

 

「落ち着くのじゃ、今入ればまた彼奴等が現れる」

 

 中に戻ろうとする陽炎に初春が釘を刺す。確かにもう1度踏み込むには早すぎる。

 

「そっちから窓を開けて3人を外に出せないか?」

 

 初月が外側の窓を見て言った。会議室までの距離は左程ではない。ってか、旧棟を正面に見て1階右側にズラーっと並ぶ窓は全て元々が職員室の所である。

 

「手っ取り早い方法だね」

 

「中にもう1度入るよりは安全だと思います」

 

 響と綾波もそのやり方に賛同。俺も賛成だ。

 

「夕張さん、状況は」

 

「2階をグルグルしてます。そろそろ3階の方に行こうかと」

 

「そのままお願いします」

 

 

一方 会議室へ逃げ込んだ3人

 

「秋雲、そっちの窓が開いてるから閉めて!」

 

「かったいんだけどこの窓!」

 

 廊下側の窓が幾つか中途半端に開いている。錆か立て付けが悪くなったかで動かない。

 

「あー! 駄目だ浜姉、すぐそこまで来た!」

 

 窓から見える廊下が黒く埋め尽くされ始めた。このままでは危険である。

 

「下がって!」

 

 秋雲が離れた瞬間に僅かな隙間から続々と侵入して来た。自分たちが入って来たドアの部分は完全に覆われてしまう。

 

「ど、どうしよう浜姉!」

 

 浜風は辺りを見回す。こんな数に殺虫剤をやっても焼け石に水。長テーブルではどうにも出来ない。ソファも同様。衝立を投げ付けても大した意味はない。あとは青くなった秋雲としゃがみ込んで震える親潮だけ。

 

「あの奥に入って!」

 

 視界に映ったのは部屋の隅にある防火扉だった。他は木造だが防火扉は鉄製に見える。その周辺も金属で作られているらしい。

 

「あれ!? 入れんの!?」

 

「分からないけど早く! 親潮姉さんを立ち上がらせて!」

 

 防火扉まで走る。ドアノブを捻ると重苦しい音と共に開いた。中には何らかの配管が通っているがスペースは広い。採光用らしい窓もある。もうここに入るしかなかった。

 

「親潮姉! 立って!」

 

「あれ幻よね、そうでしょ」

 

「ところがどっこい夢じゃないの! 立ってお願い!」

 

「姉さん早く!」

 

 浜風も混ざり2人で親潮を肩車して防火扉の中に入った。内鍵も閉めたから入って来ない筈だ。隙間があったらどうなるか分かったものではないが……

 

「……どう?」

 

「静かに」

 

 耳を澄ませる。特に音は聞こえない。

 

「…………大丈夫、かも」

 

「でも袋小路じゃ~ん。どうしようか」

 

「ごめんね、2人とも」

 

「取りあえずそこの窓を開けましょう」

 

 親潮を座らせた浜風は採光用らしき窓を開けた。しかしそこには鉄格子が姿を現す。窓のサイズは大きいがこれでは外に出れない。ため息を付きかけた所へ黒潮がやって来た。

 

「あ、無事やんな?」

 

「はい。まだ無事です」

 

 広樹以下、全員も到着した。広樹が鉄格子の状態を確認する。

 

「何の鉄格子かと思ってたけど配管室とかだったのか。太さは10センチぐらいかな。中も空洞っぽいけど錆があんまりないから手で切るのは……」

 

「何か工具探してくるわね」

 

「せや、物置に消火斧あったわ。あれなら壊せるんちゃう? ここやと電源もないし」

 

「取りあえずそれを持って来て欲しい。何人か中に入って連中の気を引いてくれるかな」

 

「任された。廊下に引きずり出したらあとは外に出るだけで十分じゃろう」

 

「заметано」

 

「急ごう、早くしないとここに入って来てしまう」

 

「切断した所に手を触れると危険です。厚手のタオルか何かを持って来ますね」

 

 初春・響・初月はまた中に戻って後ろから移動する暗闇の気を引くべく向かった。綾波は現駆逐艦寮に行って脱出時に使う厚手の布類を探す。陽炎と黒潮も消火斧を取りに行った。

 

 

旧棟内部 会議室前

 

「宜しいか」

 

「後ろは見張ってる」

 

「踏み込もう」

 

 初春と響が中に入った。足をドンドン鳴らして気を引き付ける。

 

「こっちじゃこっち」

 

「"自主規制"」

 

 響が何を言ったか定かではないが、防火扉に迫っていた移動する暗闇はまんまと陽動に引っ掛かった。そのまま出入口まで引き摺り出される事になる。会議室の方に戻ったらまた中に入って同じような事を繰り返した。

 

 陽動が3回目になった頃、陽炎・黒潮・綾波が戻って来た。消火斧を広樹に手渡す。

 

「よーし、皆こっち側の壁に背をつけて」

 

 3人は言われた通り外に面した壁に背中をつけた。これで破片も飛んでは来ない筈。

 

「せーの!」

 

 鉄格子の下部分に向けて消火斧を叩き付ける。一気に数本がへし折れた。

 

「もいっちょ!」

 

 2~3回で下は全部切れた。残りは上だけ。同様に叩き折る事に成功。

 

「早く外に!」

 

 綾波が予備の毛布で千切れた鉄格子の下を覆う。これで怪我もしないだろう。

 

「秋雲、先に」

 

「んじゃその次は親潮姉だね。引っ張るから押し出して」

 

 最初に秋雲が外に出た。続いて親潮を外側と中側から同時に押したり引っ張りして外に出す。

 

「浜姉も早く!」

 

「腕伸ばして」

 

「お願いします」

 

 中から外に押し出す力がない状態で引っ張り出すのは少し骨が折れた。浜風は窓枠の所に膝を置いたが、勢い余って飛び出す形になった。広樹に思いっきりぶつかる。

 

「す、すいません、失礼しました」

 

「OKOK、何とかなった」

 

 一安心である。でも広樹は、その"感触"に暫く苛まれるのだった。

 

「夕張さん、そっちどうですか」

 

「壁にぶつけてダメにしちゃいました。でも誘導出来るってのが分かっただけでも幸いかと」

 

「分かりました。今日はここまでにしましょう。今後の事はまた打ち合わせで」

 

「はーい、了解です」

 

 

収穫:移動する暗闇は誘導が可能(っぽい)

   炊事場奥の廊下(行き止まり)付近に連中の抜け道らしきものあり

   

 

 アクシデントもあったが、取りあえずでも欲しい情報は集まったので今日は解散となる。しかし抜け道をどうにかしないと1階の安全確保は難しそうだ。この辺も何か対策が必要になるだろう。




後日 別件で鎮守府に来た広樹

「これってもしかして?」

 拾っていた漫画の下書きらしき物を見せる。

「あざます!」(ジャンピング土下座)
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