鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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今月、繁忙期になりそうなので今の内に投下します。


あなをほる1

 旧棟内部調査から少し時間が経った。次の打ち合わせもまだ決まっていないが提督さんより別件の依頼が舞い込む。な訳で今日も鎮守府にやって来ました。関係者用出入口から我が物顔で入って司令部棟に車を付けそのまま執務室へ。

 

「後藤田です、失礼します」

 

 中に入る。そこには提督さんともう1人、見た事のない人物が居た。青い迷彩服と何かこう、紋章の入った帽子を被った人も居る。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

「はい」

 

 促されるままソファに座った。見た事のない人も自分から見て斜め右に座る。更にその隣りへ提督さんも座った。

 

「この間はありがとうございました。それで旧棟の事が片付かない内に別件のお願いで申し訳ないんですが、まずお話を」

 

「はぁ」

 

 視線を隣に向ける。新たに気付いた事として、肩から腕に掛けてこれは何だろう、腕章のような物を着けていた。そこには漢字で「守警」と書かれている。どういう意味だ?

 

「鎮守府警備隊を預かっている武田(たけだ)と申します。いつもお世話になっております」

 

 警備隊を預かる? うん? 門の人たちの上司? え、鎮守府警備隊長?

 

「……いえ、こちらこそ」

 

「実はちょっと困ってる事がありまして。こちらをご覧下さい」

 

 タブレットを渡された。恐らくこれは備品の筈。落としたら拙い。

 

「再生してみて下さい」

 

「はい」

 

 ディスプレイの再生ボタンを押す。高感度カメラのようだが、角度的に監視カメラの類ではないらしい。地面に水平に置いた状態なのがそれを物語っていた。映っているのは何所かのフェンスだろうか。

 

「……お?」

 

 暫くすると地面から何かが出て来た。顔は細くて特徴的な模様がある。タヌキのような体だが耳はかなり小さい。コイツは……

 

「…………アナグマっぽいですね」

 

「やはりですか」

 

 本来はまぁまぁ標高の高い所に住む動物である。しかし昨今は平野部にも進出して巣を作り、家の軒下や基礎の所に穴を掘って住み着くパターンもあるそうだ。

 

「実は敷地を覆っているフェンスの所の下に穴を掘られまして、こうやって忍び込んで来ている状態なんです。残念ながら野生動物を撃退出来る装備類がないもので」

 

 うん、正門の人たちは普段から自動小銃を持っているがあれで撃つ訳にもいかんでしょう。

 

「何か実害は出ていますか?」

 

「今の所は何も。ただ、保安上の観点からあまり宜しくないと判断した次第です」

 

 そりゃあ鎮守府の敷地内に穴を掘って住み着かれるのは良くないし、埋めるとなってもそう簡単にいく話でもない。それにコイツ、いや、野生動物全般に言える事だが病気を媒介させる可能性も高いのだ。

 

「そうですね、鳥獣保護法の枠に入っている動物ですので、駆除並びに捕獲となると少し時間が必要になります。そこを目指しつつ、超音波の類で遠ざけるのも試してみましょう。本当は電気柵か何かで1度痛い目に遭わせれば手っ取り早いんですが、あれは準備も費用も馬鹿になりませんので」

 

「引き受けて下さいますか」

 

「片手間になってしまうのはご理解下さい。そもそも、罠を用いた狩猟は待つしか出来ませんので」

 

 契約成立。まず現場を見せて貰う事になった。場所は倉庫群の裏である。

 

「ここですね」

 

 敷地と森を区切るフェンスが長い列を作っていた。そこの1部の所、地面にポッカリと穴がある。向こう側にも出入口っぽいのが見えた。散乱する土が証拠だ。

 

「……因みに他にあったりは」

 

「まだここだけです。見回りも定期的にやっておりますが、何せ向こうは手つかずの自然ですから分け入るだけでも大変で」

 

 向こう側の森の密度はかなり濃い。記憶が正しければ旧棟の裏もこの方向に面している筈だ。となれば、鎮守府の外から森に入ってここまで来るのはそれだけ骨が折れる。無駄に疲れる作業になってしまうだろう。

 

「そう言えばアレが入り込んでいるって事に誰が気付いたんですか?」

 

「巡回中の者です。タヌキのような動物がノソノソと歩いていたので追い掛けるとここに辿り着いたと」

 

 確かにタヌキっぽくもあるがアナグマはイタチ科だ。目があまり良くないらしくて動きがとても遅い。足の速い人なら逃げるアナグマに追い付ける可能性もある。

 

「後日、機材を持ち込ませて頂きます。念のためゴミ置き場なんかの監視をお願い出来ますか。雑食性で基本的には何でも食べる動物なもので」

 

「分かりました」

 

 まずやるべき事は自治体への申請だ。続いて罠の準備。アライグマの時に使った折り畳み式の箱罠を持って来る事にしよう。申請が通るまでは何所かに置かせて貰うとして、超音波発生器での撃退を試す。

 

 どうでもいい事なんだけどアナグマの顔の模様がチャバネ―ルの模様に似てて何となくだが嫌悪感を覚えていたりもする。多分これは俺だけの筈。

 

 あとは伝手を頼って同業者に話を聞いてみるのもいいだろう。

 

害獣専門業者

とろい。ただ罠に入るとそれなりに抵抗するから気をつけろ。

 

ハンター(二種銃猟)

警戒心が薄すぎて近寄って来るんだよなぁ……

 

ハンター(一種銃猟)

人間慣れしちまうのが悪い所だ。思いっきりビビらせないと棲み分け出来ん。

 

 話を聞く限りではある意味でやり易く、ある意味で厄介な存在のようだ。人に慣れた野生動物は棲み分けが出来なくなって餌を求めて近付いて来る。観光地なら少し話は変わって来るが、そうでない所はお互いの線引きを脅かす事になり、悪い結果を引き起こす要因にもなる。この辺は難しい部分だ。

 

「さてと、役所に申請は出したから取りあえず超音波器具を揃えるか」

 

 アライグマの時にも折り畳みの罠はメンテしてるからいつでも使える。コイツをハイエースに積み込み取り寄せた超音波撃退アイテムも持参。これを設置する傍らで下準備をするため鎮守府に向かった。

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ様です。停止位置までどうぞ」

 

 ハイエースを規定の所まで進める。例の読み取り機で確認が終わったので車を奥に進め、倉庫群までやって来た。当然だが罠を置かせて貰う許可は取ってある。

 

「この辺でいいかな」

 

 穴がある所から少し距離を取った。嗅ぎ慣れない匂いで警戒されるのを防ぐためだ。

 

「よっこいせ!」

 

 いくら折り畳みの軽量タイプとは言えそれなりに重い。持ち込んだのは2つ。作戦としては、穴の近くに1つ。もう1つはアナグマが通っている道を見つけてそこに置く予定だ。目が悪くても動物の嗅覚は鋭い。道を見つける作業もあまり時間を掛けたら匂いが残ってそこを通らなくなる可能性も考えられる。

 

「ビニールシートで包んで、張り紙してと」

 

 張り紙には【罠在住 触らないで下さい 後藤田プロテクトクリーン】と書いた。続いて超音波器具の設置に向かう。

 

「えーと……ここらに置いてみるか」

 

 穴から一番近い倉庫の基礎の所を少しだけ掘り返し、そこに超音波器具を軽めに埋める感じで設置した。電池式でひと月は持つらしい。完全防水ではあるようだが、もし大雨が降ったら確認した方が良いな。効果範囲は約150mとも書いてある。

 

「次は、通り道をさがしましょうかね」

 

 地面によく目を凝らして足跡を探す。アナグマの足跡はタヌキに近いそうだ。日義さんの手伝いで山に入った時にタヌキの足跡は何回か見ているから多分分かると思う。

 

 因みにアライグマの足跡は他の動物と明らかに違うから分かりやすい。指が凄く長い上に、前足は殆ど人間に近いのだ。

 

「…………これ怪しいな」

 

 フェンスを背にしてすぐ右にある倉庫の脇道に入った所、それっぽいのがあった。ここから敷地の中に向けてずっと続いている。踏み潰してしまわないようガニ股気味で道を抜ける。その先は当然だがアスファルトなので、足跡は途絶えていた。しかしよく見ると境目のブロックに土が付着している。ここを使っているのは間違いなさそうだ。

 

「向こう側にカメラを置かせて貰って、使っている道かどうかを見極めるか」

 

 これは後でお願いしよう。お次は各寮を回って聞き込みをしておく。今の所、警備の人たちから報告はないのでゴミの類を漁ってはいないようだが、何所で何を食っているか分からないのでやっておこう。

 

 あと不審者扱いを警戒して腕章も作ったから付けておく。

 

 

駆逐艦寮

 

 今日の当番は睦月&如月だった。

 

「アナグマが入り込んでるんだけど見た事は?」

 

「どういう姿なの?」

 

「こんなやつ」

 

 携帯の画像を見せる。

 

「ほぉぉ、もこもこしててかわいいにゃしぃ」

 

「モフモフねぇ」

 

 うーん、そこで和まれると駆除ってのはちょっと言い辛い。

 

「その感じだと見た事はないんだね」

 

「ごめんなさい。ちょっとここを空けてて、昨日戻って来たばかりなの」

 

「すんごい疲れたのですぅ~」

 

「じゃあ仕方ないか。皆にも聞いてくれると助かる。それじゃ」

 

 続いて軽巡、重巡と回ったが収穫は無し。お次は潜水艦寮だ。

 

 

潜水艦寮

 

「ごめんくださーい」

 

「はーい」

 

 この声は大鯨さんですね。

 

「あら、暫くです」

 

「どうも。この動物を見掛けた事はありますか?」

 

 画像を見せた。5秒ほどで首を捻られたので見た事はないのだろう。

 

「申し訳ありません。私はちょっと」

 

「分かりました。もし見掛けたら提督さん経由で一報を願います」

 

 そこへ、聞き慣れない声が近付いて来た。不審者扱いされませんように。

 

「大鯨さーん、ただいまー」

 

「も、戻りました」

 

「はーいお帰りなさい。あ、お会いした事は……」

 

「初めてですね」

 

「ですよね。2人とも、害獣害虫駆除業者の後藤田さんよ」

 

 振り向くと、まぁその、スクール水着っぽいのを着た艦娘が2人居た。明らかに潜水艦なのでしょうね。頭に被っているのがとても特徴的である。

 

「後藤田です。週に何回か来ていますのでよろしくどうぞ」

 

「お、噂の後藤田さんだね。伊号潜水艦の伊14、イヨだよ」

 

「えっと、伊号潜水艦、伊13です。ヒトミ、です」

 

 潜水艦とはあんまり絡みがないので少し取っ付きにくい。

 

「2人にもちょっと聞きたいんだけどこの動物を見た事はあるかな」

 

 アナグマの画像を見せた。すると、イヨの方が反応する。

 

「あー、この前だったかな。戻って来た時に堤防の近くで何かウロウロしててさ、何だろうなって見てたら森に消えてったんだよ。これかも」

 

「そうなの? 私は、ちょっと気付かなかったけど……」

 

「堤防かぁ。見に行きたいけど向こうは別の許可証が居るんだよなぁ」

 

 俺が出入りしていいのは港湾施設より手前側だけだ。ハイイロゴケグモの時みたいに、あの辺へ行くのは違う許可証が必要になる。

 

「じゃあ私から聞いてみますね」

 

 大鯨さんが執務室に電話を掛ける。付き添いに許可証を持たせて向かわせるから、待って貰うようにとの事だった。

 

 

15分後……

 

「やっほー、お待たせー」

 

 わー、伊勢さんや。話しやすいから有難い。

 

「お疲れ様です」

 

「暇だったからいいよー。動物相手なら私ら(戦艦)の方がいいだろうって事でね」

 

「すいません、ありがとうございます」

 

「んじゃあこれ、許可証」

 

 イヨを先頭にアナグマらしき動物を見た所まで案内して貰った。港湾施設の方へ向かう。

 

「そう言えばハイイロゴケグモはどうなりました? 自分もすっかり忘れてて申し訳ないんですが」

 

「定期的に薬撒いて夕張がドローンで天井の辺りとか見てるよ。今の所は問題ないかな。でも季節が一周するまでは何とも言えないよね」

 

「まぁそうですね。完全に居なくなったかどうか判断するのは時間が掛かりますから」

 

 海の匂いがして来た。港湾施設周辺に足を踏み入れる。ちょっと久々に来たなぁ。

 

「えーとね、あの辺かな」

 

 イヨが指差す先を見る。そこは岸壁が終わる部分で、地面との境目でもあった。あとはひたすらに森が広がっているだけだ。

 

「ちょうど境界線の辺りか」

 

 近付いて地面に足跡がないか調べた。すると、倉庫の隙間で見たのと同じ物がある。

 

「……正解っぽいな」

 

「本当? あれがそうだったんだ」

 

「警備の人たちが言ってたヤツね。ここまで入り込んでるんだ」

 

「夜行性みたいですけど昼間も普通に活動してるって聞きますからね。何をしようとしてるかまでは分かりませんが、行動範囲は意外と広い可能性が――」

 

 ガサガサと音がする。顔を上げると、森から出て来たアナグマが堂々と前を通ろうとしていた。歩きながらこっちを一瞥してそのまま歩き続けるも、10歩くらいで停まってもう1度こっちを見た。「ヤベッ」とでも言いたげな仕草で森に走って引き返していく。

 

「…………居たね」

 

「居ましたね」

 

「そうそう、あれあれ」

 

 いや、野良猫を見掛けたような空気を出している場合じゃないだろ。にしても呑気な動物だな。

 

「ちょっと追い掛けて見ましょう」

 

「イヨ、あんたは戻ってな。ヒトミが心配するから」

 

「はーい」

 

 伊勢さんと2人で森に分け入った。こうなると小さい方が有利だけど、行ける所まで追跡してみよう。




補足

一種銃猟:ライフル・散弾銃
二種銃猟:空気銃

広樹は現状、わな猟の免許しか持っていません。
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