鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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あなをほる2

 アナグマを追い掛けて森に入った。中途半端に大きい木々を掻き分けて進む。

 

「いで!」

 

 押し退けた枝が手から外れて顔に当たった。地味に痛い。

 

「いった!」

 

 後ろの伊勢さんも細かい枝が当たっているらしい。ズボンじゃないから尚更だろう。

 

「大丈夫ですか?」

 

「平気平気、どうって事ないよ」

 

 しかしまぁこれは視界が利かない空間だ。足元も悪い。

 

「あれ、どこ行った」

 

 見失った。流石にこの状況は動物の方が有利である。無理に進んでも怪我するだけだ。

 

「すいません、見失いました。戻りましょう」

 

「あちゃー。でもまぁ、変なのに遭遇してもあれだしね」

 

 イノシシでも出て来られたら逃げるしかない。さっさと退散するのが吉。

 

 

 って訳で執務室にやって来た。許可証を返すのと一応の報告を兼ねている。

 

「堤防の付近を見させて貰いましたが、実際に遭遇しました。森の中へ逃げて行ったのを少し追い掛けましたけど、見失ってしまったので戻った次第です」

 

「そんな所まで入り込んでいるとは……」

 

「何かこう、餌を探してるって言うよりは散歩してる感じだったよね」

 

「今日もいい天気だな~的な雰囲気はありましたね」

 

 正直言うと、放っておいてもいいような気がする。まぁ仕事なのでそれなりの業務はさせて頂きますが。

 

「許可証の方は一報下さればお渡し出来るようにしておきますので何時でもどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 カメラの件もOKは貰えた。今日は持って来ていないので設置はまた今度にしよう。

 

 

 後日、旧棟の打ち合わせついでにカメラを持って来た。倉庫の正面が映るようにセットする。隣には「調査のため撮影中 移動厳禁」と両面に書いた立札も立てた。

 

「まぁこれでいいでしょう。さて、打ち合わせ打ち合わせ」

 

「っしゃ!」

 

 急にタックルされた。何なんですか畜生。

 

「奇襲成功、油断したね」

 

「あー、久しぶり?」

 

「出張が重なって居なかったからねー。元気?」

 

「あんまり」

 

「どして」

 

「旧棟」

 

「……うん」

 

 久々に白露嬢に絡まれた。ここ最近見掛けなかったのは不在だったからの模様。

 

「んで、何か用?」

 

「そうそう、後藤田さんライン教えてー。鎮守府防除連絡網っての作ったから招待するね」

 

「……え、個人の端末?」

 

「そうだよー。仕事用と個人用で2台持ち。仕事用は経費だけど個人用はみんな自分のお金で使ってるから」

 

 いつだかに携帯のゲームはキャリア決済だのと言った夢の無い話を聞いた気がする。特定の艦娘はかなりの通信料を払ってそうだ。俺と親父も仕事用と私用で2台持ちだが、今回は仕事用の方を出す。当然でしょ。

 

「えーと……QRを読むんだったか」

 

「そそ」

 

 普段は使わないから分からん。ガラケーだったらカメラモードで読み込めた気がするがどうやるんだっけ?

 

「……カメラで読めないだと?」

 

「グーグルレンズ使わないと」

 

 何それ、美味しいの?

 

「ちょっと貸して」

 

 スマホを奪われた。手慣れた動作で登録されてしまう。最近の若い子は凄いですね(三十路手前並感)

 

「はいオッケー、何か適当にコメントしといて」

 

「適当……」

 

 

 

【鎮守府防除連絡網】

 

後「後藤田です。招待されてしまいました」

 

しぐ「姉がすいません」

 

ひびきん「Zdravstvujtye」

 

吹「旧棟以外ならお手伝いします」

 

佐々波「(*・ω・)っ亘」

 

アヤナミ「お疲れ様でーす」

 

 

 何だろう。女子中学生のライングループに1人だけ三十路手前の男が居る滑稽なこの感じ。担任の先生かな?

 

「やばそうな動物とか虫を見掛けたら皆ここに書き込むからよろしく」

 

「これは何、どういう用途?」

 

「普段からそういう情報が見れれば便利かと思って」

 

 そりゃ便利ですがね。まぁでも、彼女たちの間での情報共有って側面もあるのだろう。こっちも何をいつどれくらい見掛けたか分かればその頻度によって対処の優先順位を付けられるかも知れない。かも知れない。

 

「……有効に活用させて頂きます」

 

「はーい。んじゃ」

 

 ここで別れて旧棟の打ち合わせに向かった。防火扉の件について話を詰めていく。

 

 

2日後……

 

「さーて映ってるかな」

 

 映像の確認に来た。取りあえず電源を1度切ってバッテリーを交換する。武田さんからは特に何処そこで見掛けたとの話もない。連絡網でもアナグマの目撃情報はなかった。

 

「……お、居る居る」

 

 やはり倉庫の間を道として使っているようだ。そこから出て来て数時間後にまたそこへ入って消える。

 

「って事は、奥の方に罠を置いておけばいいか」

 

 問題は捕獲出来るかである。既に自治体からの許可は下りたのでいつ始めてもいいが、罠に仕掛けるための餌がない。一旦店に戻って取って来るとしよう。

 

「行って戻って1時間かな。どれさっさと」

 

「あー、済まない。急ぐ所か?」

 

 振り向くと長門様がいらっしゃった。今日もイケメンですね。

 

「……内容によりますね」

 

「ここ2~3日、寮の近くで蛇が出るんだ。偶然にも写真に撮れたから見て欲しいんだが」

 

「分かりました。拝見します」

 

 マムシかな? ヤマカガシかな? 取りあえずスマホの写真を見た。

 

「…………シマヘビですねこれは。毒はありませんので放っておいても大丈夫です」

 

「そうか。因みに何所で他の蛇と見分けたらいいんだ?」

 

「えーと……シマヘビは首の付け根から尻尾の先まで一本の線が幾つか走ってるんですよ。これはマムシにもヤマカガシにもない特徴です。ヤマカガシは全体的に毒々しい感じで朱色に近い斑点が特徴ですね。これは大人になると薄くなってしまう事があるんですが、顎の下が全体的に白っぽいのもヤマカガシだけですのでそこで見分けられると思います。マムシもそういう個体が居ますけど、マムシは規則的な模様が体全体にあるので分かりやすいかも知れません。模様の間に規則的に分け目のような色が入ってます。因みにアオダイショウは魚の鱗みたいな模様をしてますのでもっと見分けやすいかと」

 

「……な、なるほど」

 

 しまった。長門様の頭上に「?」が浮かんでおられる。情報が多すぎた。

 

「…………近々で何か資料を持って来ますので、それを寮の方に張りますね」

 

「申し訳ない。取りあえずこの蛇については毒がない事を周知させておく」

 

 ああは言ったが、蛇の見分けはキノコと同じで簡単に判断出来ない。個体によって色も変わったりする。

 

 因みに沖縄では在来種のハブと特定外来生物のタイワンハブが交雑してやべーのが勢力を広げているとか何とか。交雑ってのは米で言う所の品種改良だが、野生動物になると話が変わって来る。生態系への影響が懸念されるのだ。

 

 

 と、講習会で習いました。以上。店に戻って餌を取って来ます。

 

 

後藤田プロテクトクリーン

 

「戻りましたけどまた出ますよー」

 

「広樹ー、来週の子ども会のお祭りで助っ人して来い。金物店の伊藤さん事故って1か月入院だとさ」

 

 親父から聞きたくない事を聞かされた。面倒くせぇなぁ。

 

「……何で俺が」

 

「正規の労働人口で最年少だから」

 

「小中の同級生何人か居ますよね」

 

「全員お仕事」

 

 人身御供か畜生。

 

「……へーい」

 

「んじゃ会長には連絡しとくから」

 

 こう考えると、次期経営者が独身ってのはこの商店街においてデメリットになるような気がする。結婚相手? 彼女も居た事ありませんが何か。

 

「そいじゃもう1度出ます」

 

 餌を取って出発。来週の事は考えないようにしよう。旧棟に比べりゃまだマシだし。

 

 マシだよな?

 

 

 って訳で鎮守府に戻る。罠を組み立てて奥に運んだ。フェンスの下に掘られた穴の近くに仕掛けて餌も取り付け準備完了。もう1つは倉庫の間の隣に置いた。

 

「こんなもんかな。あとは祈るだけだ」

 

 実際、祈るしかないのだ。マタギのような追い込みは出来ない。

 

「今日はこれでお終いと。立札は回収して……」

 

 罠を仕掛けた事を武田さんに報告しておく。定期的に見てくれるそうなので罠に掛かれば連絡があるだろう。しかし時間が余ってしまった。次の打ち合わせはまだ決まってないし他に案件もない。このまま帰ってもいいがそれも何だか寂しい。

 

「……おやつでも食うか」

 

 間宮さんの店に足を向ける。何か新商品に出会えるだろうか。

 

 

 また久々に客として訪れた。暖簾を潜ると伊良湖ちゃんと遭遇する。

 

「あ、いらっしゃいませ」

 

「どうも。今日は仕事関係ないです」

 

「はい。お好きな席へどうぞ」

 

 こうでも言わないと何かあったと思われる。そんな人間になってしまったのがちょっと辛い。

 

「……くるみのお汁粉?」

 

 何だこれは、新メニューか。頼むしかないだろ。

 

「くるみのお汁粉を」

 

「はーい、ありがとうございます」

 

 数分後。白い餡に餅が浮いたお汁粉がやって来た。優しい甘さが美味しかったです。

 

「ふぅ…………これいいな」

 

 こういうのはレギュラーメニューではないから1度しか食べられない可能性が高い。罠を口実にもう1度食べに来ようかな。

 

 なんて思っている所で携帯が鳴った。あれ、武田さんだ。

 

「お疲れ様です、後藤田です」

 

「お疲れ様です。さっき巡回の者がアナグマを見つけまして、倉庫の間に入って行ったそうなんです」

 

「……その後は何かありましたか」

 

「ガシャーンと大きな音が2回したと」

 

 2回? どういう事だ?

 

「えーと……見つけた時は何匹でしたか?」

 

「1匹と報告を受けています。まだ裏の方には行っていないそうなんですが、如何されますか」

 

 見つけたのは1匹で音が2回? 箱罠は入ったら基本的には一方通行だ。仮に脱出に成功したとしても2回連続ってのは考えにくい。

 

「……今から向かいます。まだ巡回の方は残ってますか?」

 

「倉庫の前で待機しています」

 

「分かりました。自分が行くまでは動かないようにお伝え下さい」

 

「承知しました」

 

 通話を切って携帯を仕舞う。2回ってのが解せないが何なのだろう。

 

「すいません、お勘定お願いします」

 

「はい。お仕事ですか?」

 

「アナグマが罠に掛かったみたいです。そう言えば間宮さんは」

 

「今日は食堂で鳳翔さんと新メニューの考案をしてます。良ければご賞味下さい」

 

「タイミングが合えば是非。では失礼します」

 

 店を出て倉庫の方に急いだ。青い迷彩服に防弾チョッキ、ヘルメットに自動小銃と言う出で立ちの2人が視界に入る。

 

「お疲れ様です。警備隊の伊藤(いとう)です」

 

「同じく高橋(たかはし)です。アナグマはこの倉庫の間に入って行きました」

 

「ありがとうございます。音が2回ってのは本当ですか?」

 

「ええ。何秒かの間を置いてでした」

 

 やはり2つの罠を数秒間隔で切り抜けたとは思えない。もしかして2匹居た?

 

「……分かりました。奥に行って見ましょう」

 

「先行します。我々の後にどうぞ」」

 

「もし他の野生動物が居ると危険です。安全の確認を待って下さい」

 

 わー、何かの映画みたいだ。そんな事を思いつつ倉庫の間を進む2人の後に続く。

 

「クリア」

 

「クリア。アナグマは2匹居たようですね」

 

「え?」

 

 2つの罠にアナグマが1匹ずつ掛かっていた。何だこれは。(つがい)か何かか?

 

「……まぁ、同時って事はこれでお終いだろ」

 

 と言った所で視線を感じる。フェンスの向こうを見ると、1匹のアナグマがこっちを見ていた。「やっべーあいつら捕まっちゃったよ」的な雰囲気を感じる。

 

「…………カッ!」

 

 野生動物のように威嚇したらそいつは森の奥へ逃げて行った。穴を塞いで超音波器具をもっと増やせばもう来なくなるだろうか。なればいいな。

 

「……明日にでも超音波器具を増やします。目の前で仲間が捕まれば学習すると思いますから近付かなくなる可能性が高いかと」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

「流石ですね。2匹も居たのを見抜いていたとは」

 

「いやこれは偶然ですよ」

 

 1つ目を無視された時の保険でもう1つ仕掛けていたが、まさかこんな結果になるとは思っていなかった。こいつらは行政に連絡を入れて引き取って貰う事になる。自分で全部の捕獲計画を提出すればトドメ刺しと解体まで出来るが、今回は旧棟の件もあるので労力を抑えたかった。それに1人でトドメ刺しと解体はまだ敷居が高い。日義さんに教えて貰わないと。

 

「罠はこのままでお願いします。明日にでも役所の人間が来ると思いますので」

 

 翌日、引き取りまでを見届けて罠を回収した。穴の方は埋めてくれるそうなのでお任せする。自分がやるべきは超音波器具を増やす事だ。あれで学習すればもう来ないと思うが果たして……




警備隊の人たちは海上自衛隊の「陸警隊」という所から出向している設定です。各基地の警備をしている部隊らしいです。その方面はあんまり詳しくないのでご了承ください。
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