3回の打ち合わせを経て、夕張さんの提案が動き出した。
基本的に木造校舎等で防火扉を設置する場合、設置場所の周辺を難燃性の素材、金属なんかで埋める必要がある。そうなるとかなり大規模な工事だ。下手すりゃ工事中の襲撃も予想されるため現実的ではない。
そこで見つけたのが木製防火ドアだ。これはガワだけ木製で中に鉄板が仕込まれており、火災の時に外の木は燃えても中の鉄板で延焼を防ぐと言う物だ。木製部分も熱伝導率が低くて難焼性が高い木材らしい。これなら周辺が木造でも取り付けが出来る。これを炊事場方向と中央の階段前に設置すれば会議スペースだけが切り離されてこちらが自由に動ける空間が出来上がる。
出来上がる筈だ……
続いて1階をこちらに有利な環境にする試みも動き出す。前回の時に親・浜・秋が逃げ来んだ配管室が他とは独立した構造になっている事で、もしかすると拠点か物置に出来る可能性が浮上。続いて職員室を改造した会議スペースだが秋雲が閉め損ねた窓から入り込まれた件。連中がそこだけから中に入って来たとの証言によって、会議スペースには抜け穴のような場所が存在しない事が考えられる。となれば、ここも拠点に出来るかも知れない。
で、まずは調査のため配管室から入って会議スペースと他の場所を調べる必要性が生じた。これは当然だが俺がやる。気心(?)の知れた面子&他数名と共に。
「準備は宜しいですか」
「ええで~」
「大丈夫です」
「いやぁ懐かしいね旧棟。あ、でも今は感慨に耽るのも許されないのか」
「本当にここから入るんですか?」
「最初は俺が入る。問題なさそうなら皆も。問題ありそうならちょっと考える」
修羅場を2度経験した黒・綾が居る。有難い。そして
以下、陣容
炊事場見張り組:陽炎&不知火
「私も中に入りたいです」
「ダメよ。あんた直ぐ熱くなるでしょ」
会議スペース見張り組:七駆
「例の移動する何ちゃらが出るか見張ればいい訳ね」
「便宜上は会議スペースだけでござるが上階も見張らねばいかんのですぞ」
「み、見張るだけだよね?」
「あー何かあれば恐らく拙者が駆り出されるので心配はござらん」
(どうして武士言葉なのか気になるけど多分意味はないんだろうなぁ)
それなりにやる気の曙。飄々とした漣。散々っぱら中で起きた事の話しを聞かされ見張りだけでも怖い潮。漣の口調が気になるも恐らく正解を導き出す朧であった。
ドローン班:夕張&望月&初雪
「準備はいい?」
「あい、おk」
「……眠い」
「寝てないん?」
「サブスクで4時までアニメ見てた……」
「アホか」
「初ちゃんしっかり寝てって言ったのに~」
「寝れないから見てた、その内に寝れるかと思ったけど無理だった……」
「しゃーないねー」
「も~」
初雪は早々に戦線を離脱しそうである。ドローンをしきりに飛ばして連中の気を引き、こちらの存在を悟られなくするのが目的だった。上手くいくかは分からないが……
さて、中に入りましょうかね。
「…………視界はクリア、と」
配管室を覗き込んだ。何も居ない。居ないで下さいお願いします。
「先に入るよ」
鉄格子のハマっていた窓はそこそこ大きい。俺でも十分通れるサイズだ。斧で叩き折った所は工具を使って平らにした上で毛布を被せてある。これで痛くない。踏み台を伝って中に入る。
「……全部鉄筋コンクリートっぽいな」
底冷えしそうな感じだ。やはりここに連中は居ないらしい。後続を呼び込む。
「大丈夫そうだ。折り畳みの踏み台を中に」
ここから脱出する場合を想定して折り畳み式の踏み台を中に入れる。それでなくても窓から下に降りるには足場があった方が安全だ。中の方にこれを設置する。
「っしゃ深雪様一番乗り」
「一番に帰って来ぇへんようにな~」
「何があってもおかしくないので慎重に」
「え、そんな凄い事が起きるの?」
今日は見張りのチーム以外は作業服だ。スカートでは動きにくいし場合によって目のやり場に困るから仕方ない。
「ドアをゆっくり開けて大丈夫っぽかったら入る。ダメな感じがしたら逃げる。よろしく」
鉄製のドアをそーっと押した。よくよく考えれば鍵が開いていたのも奇跡に近い。段々と広がっていく視界に奴らは確認出来なかった。大丈夫らしい。
「……良さそうだな」
会議スペースに足を踏み入れる。左の窓から外が見えた。七駆がそれぞれ手を振っている。
「まだ大丈夫みたいやね」
「んじゃこの辺でドローンを入れて貰うか」
ドローン班に連絡した。旧棟正面出入り口の地面に置いてあった3機のドローンが飛び上がり、建屋の中に入って行く。
「じゃあ適当に回ってますね」
「お願いします」
「2階見て来るよー」
「取りあえず、1階の炊事場以外を偵察する」
これでもし遭遇すれば情報が回って来るだろう。こっちは会議スペースの調査に入る。
「秋雲が閉めれなかった窓ってこれか。どれどれ」
深雪は中途半端に開いている窓を閉めようとした。しかし全く動かない。建て付けが悪くなってるかレールが錆ているらしい。
「無理、あんまり下手にやると壊しそう」
「これで窓枠をちょっとずつ叩いてみて。そこはもう開かなくなってもいいから」
プラスチックハンマーを手渡す。
「お、合点合点」
「後藤田さん、あれどう思いますか」
「あれ?」
時雨嬢に呼ばれた。天井を指差している。その先を見ると、天井の一部が雨漏りか何かによる腐食で薄くなっているのが分かった。完全に壊れている訳じゃないが連中が集団を組んだ質量なら容易に突き破れそうだ。
「……屋根裏と上階の間に空間があるとして、廊下とは仕切られた構造なら入って来れないと思うけど」
「でも可能性やんなそれ」
「塞いじゃいますか?」
綾波嬢の台詞が何かちょっと……怖いものを感じました。何でだろう。
「やるなら別日だね。後で図面を見てみる。今日はそういうのを調べるだけだから」
30分ばかり掛けて会議スペースを調べた結果、天井の一部以外は問題なさそうだった。動かない窓も閉める事に成功。内鍵が機能している所は施錠も済ませた。
「他、何か気になる所はないかな」
全員がもう1度この空間を見渡す。何も言わないから大丈夫かと思われたその時……
「あー、見つけてもうた」
「え?」
「あれ、ヤバいんちゃう?」
黒潮が指差した先は旧棟正面出入り口に近い方にあるこの会議スペースの入り口。更にその上だ。何がヤバそうなのか注視すると、確かにヤバそうな事が分かる。
「……これはどうだろうなぁ」
天井の隅が壊れている。ネズミは流石に入って来れなそうだが、連中のサイズなら確実に出入りしてしまえそうな隙間があった。
「えーと、廊下の天井がこっちより低ければワンチャン」
引き戸を開けて廊下に出た。上を見る。
「あ~……ダメだな」
こっちからも壊れているのが分かる。連中があそこを使わなかったのは数が多かったからのようだ。恐らくだが。
もしくは認識されていない可能性もあるか……
(パテとかで埋めればいけるか?)
いや待て、下手すりゃパテだけでは全部埋めれないかもしれない。上から樹脂液か何かで更に塗ればいいだろうか? そうすれば隙間をなくせる?
「まぁこれは何とかしてみるよ。無理だったら申し訳ないけど」
さて会議スペースの調査はこれで終了。続いて他の所を探る。
「んお、モニター真っ暗になった」
望月の発言で3人の警戒心が一気に高まる。深雪と時雨は何が起きたのかいまいち理解していない。
「……出よう」
「せやな」
「はい」
「え? 何で?」
「どうしました?」
「説明は後で。とにかく出よう」
正面出入り口から一時撤退。外に出ると、陽炎&不知火が2階を見つめていた。
「出たわね……」
「あれが例の……」
2人の所に行って視線の先を見る。何の部屋か忘れたけど2階の一室に黒いのが蠢いていた。
「……1つやられたか」
「これ何なん? 位置反応も消えたし」
「ゲームオーバーね。予備使っていいから」
「え、マジ?」
「こっちは大丈夫そう、多分……」
ドローン班のやり取りによって1つやられてしまったのは確実らしい。2階の調査もしたいけどこれは難しいかな……
「では2人に説明します。連中、ドローンを敵か何かと認識しているようで、攻撃して来ます。さっきのを含めて3つぐらいやられてます」
「……空母の人たち呼んで来ようか?」
「艦載機の攻撃が効くのは僕たちの敵だけだから無理じゃないかな」
あ、やっぱそうなんだ。ちょっと考えた事もあるけど不可能らしいですね。
「2階に居る連中の姿が消えるまで休憩とします」
15分ちょっとは休めた。意外にしぶとく居残っていたものだ。また正面出入り口から中に入る。
「後藤田です。1階にドローンを1つ寄越して貰えますか」
「はーい、もっちーお願い」
「あいよ~」
新しいドローン(ジャンク品)が飛んで来た。俺より少し高い位置で止まる。
「何すんのさ」
「ここから炊事場の方を監視してて欲しいんだ。特に廊下の奥の方をね。皆は階段とか天井の見張りを頼む」
その言葉に黒潮と綾波が反応する。何をしようとしているか凡そ分かったらしい。
「……ホンマ?」
「危険では」
「どっちにしろ炊事場の奥は見れてないから1回ぐらい探っておかないと。何かあれば直ぐ逃げてね」
「炊事場の奥? なんかデッカイ冷蔵庫あった気がするけど」
「よく覚えてるね。僕はそんな奥までまじまじと見た事なかったよ」
「前に入った時、冷蔵庫の手前まで行ったんだ。そこで襲撃にあって逃げたから奥がどうなってるか分からない」
「……襲撃?」
「えっと……あれってこっちから何かしなくても襲って来るんですか?」
「「「来る」」」
3人同時に答えた。時雨嬢の顔が若干引き攣る。
「……今日って長門さんとか居たっけ」
「あの数やと戦艦の人たちでも無理や。さっき2階に居たの見たやろ? あれで少ない方」
「……姉さん1回しか入ってないくせに色々知ってそうに言うから変だと思ってたんだ」
「後でちょっとお話しておきます」
綾波嬢の言葉に圧を感じる。まぁいいや。少しは痛い目に遭うのも経験だ。
「じゃあちょっと待ってて」
4人を残して炊事場へ向かった。引き戸は開けっ放しにしてあったのでスッと中に入る。
「……この静けさが逆に怖い」
窓の向こうでは陽炎が手を振っている。隣の不知火は相変わらず殺気立った視線だ。あの2人なら何が起きても見流さないだろう。適当に答えて奥へ進む。この前と同じで糞だらけだ。
(マスクしとくか)
ポケットのマスクを取り出した。糞を吸い込むとアレルギー症状を引き起こす事があるので要注意である。
「……お邪魔しまーす」
特に問題なく奥まで進める。巨大な冷蔵庫の裏をこっそり覗き込んだ。ここも当然だが糞だらけ。それにドアが幾つか開いている。どうやら床が前に傾いているらしい。老朽化のようだ。
(元々この冷蔵庫を根城にしていたのが食えるのを食い続けて増えた。そんな感じか?)
小さいデジカメで写真を撮っておいた。目を凝らすと廊下側になる壁の上に穴が開いているのも分かる。前の時はあそこから雪崩れ込んで来たのだろう。
「よーしこれぐらいでいいな」
窓のある所まで戻ると陽炎がすぐ近くまで来ていた。冷蔵庫のある奥は窓が途中でなくなるので外からだと分かり難い。窓を開けてみる。
「ごめんごめん、そっちからだと見えないか」
「いやー私もそう言えば窓が途中までだったなって気付いてね。何もないならそれで」
「3階の窓に黒いのが見えるおー」
「みんなー! 逃げてー!」
漣と潮の声がした。今度は3階らしい。
「げっ、出るか」
「あーもー! またやられた!」
3階は夕張さんが探っていたようだ。急いで階段の所まで戻ると既に誰も居ないので俺も外に出た。連中の姿が消えるまで少し休憩となる。