10分ちょっと待機。姿が見えなくなったので作業を再開する。1階の探索を進め、他の部屋も再確認。1階については炊事場と廊下奥の抜け穴以外に懸念事項はなさそうだ。防火扉の設置がスムーズにいけば安全な空間を確保出来るだろう。
「相談でーす」
「はーい」
夕張さんから何か相談があるらしい。どういったご用件でしょうか。
「2階だけでいいんで窓を幾つか開けて貰う事って出来ますか?」
「あー、今から2階を可能な範囲で探るんですよ。2つ3つは開けられるかと」
「ドローンの逃げ場が無いのがちょっとネックなんですよねー」
「分かりました。やっておきます」
「もっちーそのまま随行監視よろしく」
「あーい」
さて2階への階段を前に集合した我々。ここから先は何が起こるか本当に分からない。
「最初以来やなぁ。ウチが右な」
「では左を」
「僕は後ろを見張ってるね」
「天井は任せておくれぃ」
全員右手に殺虫スプレーを装備。初遭遇の時に効果があるのは覚えてるがあの集団だと焼け石に水だ。近付かれないようにバリヤーみたいな使い方が理想である。
「行きますか。取りあえず上がってすぐの所でいいから窓を開けよう」
階段をゆっくり上がって2階に到達。まだ遭遇はしてないので足早に窓を開けた。少し待機して様子を見る。
5分経過。
「……来ぇへんな?」
「嫌な感じもしないけど……まぁ油断は禁物」
ドローンは階段前で待機。同地点に黒潮と深雪を残し、正面入り口から見て右側にある部屋の探索を始めた。最初の内部調査でドローンが入れなかった手前の部屋の中を見に行く。
「……お、開いた」
ちょっとガタついてるが引き戸は開けられた。中は後付けの壁で仕切られていて、取りあえず個室の空間を作り出したような感じ。ドアもあるが簡素な作りだ。
「えーと……1つ目」
2段ベッドに机が2つ。これで1部屋のようだ。窓辺に近付くと下に七駆の4人が見えた。
「そうだ、糞に注意してね。居るって証拠だから」
「前は嫌って言うぐらい目にしましたね~」
「最近は姿も見掛けないね。一時期みんな耐性付いたてたけど今はちょっと怪しいかな」
ここに居る連中がちょっとずつ向こうに行ってるんじゃないか疑惑がここ最近あったがそうではないらしい。現駆逐艦寮のGが遠からず完全に居なくなる可能性は高い?
「軽く掃除すればここはすぐ使えそうだな」
個室は計5つ。1部屋で10人。右側はこれがあと1つだから20人分の部屋になるだろうか。特に収穫物はなかった。窓は全部内側から閉めて施錠もしてしまう。
「そろそろ隣へ行きましょう」
「もう10分経ったのか、少し急ごう」
「は、はい」
出来るだけ迅速に動いた。隣はキジバトの巣(空)があったがこれは回収してお掃除する。連中の糞がないのでここに出入りはしていないようだ。
「よし、向こうだ」
階段前で陣容を入れ替える。次は黒潮と深雪を引き連れていった。
「……ここさっき連中が出た所か」
一番手前の部屋だ。そう言えばここは何だったっけ。
「ここも個室?」
「元は図書室やった所や。本は殆ど残されてへんかったけど、テーブルなんかはそのままやったな。フリースペースって感じで使うてたわ」
「古い漫画あったなー。タイトル忘れちったけど」
引き戸を少しだけ開けて様子を窺う。何も居なかった。ここじゃなくて奥の引き戸も閉まったままである。もしかすると抜け穴があるかも知れない。
「2階に来るまで誰も開け閉めしてないから、ここは抜け穴がある可能性が高い。要注意で」
「あ、せやな」
「げー、言われてみれば」
明らかに嫌そうな顔をする深雪を余所に踏み込んだ。何て表現するのか、その、張り詰めた空気を感じる。
「……何であの壁あんなに黒いんだ?」
「「!?」」
深雪の一言で危機を察知した2人は床を蹴って後ろに飛んだ。同時に深雪の体も引っ張る。
「ぐぇ!」
「あかん! 退避や!」
「外へ出て!」
望月の操るドローンは開けておいた窓から外に出た。綾波は咄嗟に体が動いて階段を駆け下りる。てっきり時雨も付いて来てると思い込んでたが実はそうじゃなかった。
「え、え?」
急に部屋から飛び出した3人と一目散に駆け出した綾波に混乱してキョロキョロする時雨。
「時雨! 早く!」
階段の下から綾波が呼んでいる。しかし何でそんな行動をしているのか理解出来ない。
「背中痛い、グキッて鳴った」
「我慢しぃ!」
深雪は黒潮が担いだ。そして部屋から出て来るもう1つの存在が時雨の視界に広がる。
「……移動する、暗闇」
壁、天井、床をも覆う漆黒の蠢く闇。ゆっくりとこちらに近付いて来た。
「ええいくそ!」
広樹が殺虫スプレーを天井へ向けて噴射。薬剤をモロに食らった集団の一部が剥がれ落ちていく。だがそんな事で前進は止まらない。
「走って!」
「……え」
連中を目にした衝撃か何かで足が動かないようだ。このままでは拙い。
「ちょっとごめん!」
時雨の前にしゃがんで背中を向ける。両腕を引っ張って前に出し、足に腕を回して背負った。何もしないと背中から落ちてしまうので時雨の手首を掴む。後は一気に階段を下りて外に出るだけでいい。
何とか5人は生還した。建屋の中に居ないってのがとても素晴らしい事に思える。
「みんな無事やんな?」
「あたしはあんまり無事じゃない……」
「時雨、大丈夫?」
「あ、うん」
「もう下ろすよ。急にごめんね」
時雨を地面に下ろした。両足で立つも少し震えている。
「……あれが例のやつなんだ」
「話だけじゃあれの恐ろしさは伝わらんで」
「そうだね……ちょっと休みたいかな」
「何だったら今日はもういいよ。あれに立ち向かうのは俺も勇気がいるし」
「……じゃあ、すいませんけど今日は」
「送って来ますね」
「さざやーん、頼むわー」
「ほいさっさー」
「あたしは?」
「せや綾波、最初の面子にしようや」
「オッケー」
怪しい笑みを浮かべる2人。取りあえず時雨は離脱。深雪もちょっとタイミングが悪かった。綾波が2人を現駆逐艦寮に送っていく。
「さっきのって怪我人とかの背負い方やろ? よぉ知ってはったな」
「狩猟の師匠に色々教わったんだ。実際にやる機会なんて無いと思ってたけどね」
日義さんとそのお仲間数名にあれこれご教授頂いたのだ。何かあった時に役立つと言われた。
因みに、単純に狩猟免許を所持しているだけでは救命講習みたいなものを受ける義務はない。猟友会に入っていれば団体で申し込んで講習を受ける事もあるらしい。そもそもウチは害虫がメインだ。後々に自分が家業を完全に継いだ時を考え、面倒ごとは減らしておきたい。あくまで個人事業の範疇に収める。
一方ドローン班
「……ねむい」
「あ、ちょっと初ちゃん!」
初雪は夕張の肩に持たれて寝始めてしまった。
「起きて! 起きてってば!」
「……ドラゴンのお肉、美味しそう」
「ダメだこりゃ、寝かしてくるわ」
初雪、離脱。替わりに望月が連れて来たのは……
「なーんであたしなんだよー」
「そこそこゲームするっしょ? 簡単簡単」
「説明するねー」
初雪を部屋に放り込んだ時に出くわした敷波である。他に人影もないので引っ張ったのだ。
その頃、綾波はとある艦娘の腕を引いて旧棟に向かっていた。相手は最初、頭の上に「?」が浮かんでいたが旧棟前に居る面子を見て何かを察し、逃げようとする。
「ちょっと急用が」
「今日はオフでしょ~」
「オフなんだから自由に過ごす権利が」
「1時間ぐらい手伝って~」
「はなせー!」
途中からズルズルと引き摺られて来たのは毎度お馴染み白露嬢。あの時の面子が揃った。
「おやおやまるで時間が撒き戻ったようですなー」
棒読み気味に白露を歓迎する漣であった。
「ぜったいヤバいじゃんこの面子!」
「会いたかったで~」
黒い笑みを浮かべる黒潮。まさにその名の通り。
「んじゃこれよろしく」
右手に殺虫スプレーを握らせる広樹。
「……出掛ければ良かった」
「忘れ物ですぞ~」
漣が白露の耳にハンズフリーのイヤホンを付けた。そこから敷波の声がする。
「諦めな。さっさと終わらせて楽になろう」
「何でそんな悟った感じなのよ」
「グダグダしてたのが運の尽き。早く終わらせれば後腐れなし」
探索再開。2階に戻ってフリースペースの中を偵察した。引き戸を開けっ放しにしていたのでもう居なかった。壁も天井も普通である。
「居らんな」
「大丈夫でござる」
黒・漣を先頭に中へ入る。続いて広樹。後ろは綾・白だ。
「何所か行っちゃったんですね」
「閉めても多分、居なくなってたと思うよ」
「あいつらもしかして何か学習してる?」
「可能性はあるけど単に俺らが情報不足なのもあるな。もっと遭遇して色々試せればいいんだけどあの数が難易度を上げてる」
5人はフリースペースへ完全に入り切った。手早く調査を始める。
「ここの窓ガラス割れてますね」
「熱割れかもね。まぁ穴は開いてないから取りあえずいいか」
「床が抜けそうな所があるお」
「何かで目印にしといて。他にもないか探して欲しい」
「壁剥がれそうや、補強せないかんな」
「あー……動物の骨が」
棚を退かした白露がとんでもない物を見つけた。広樹もそれを見にいく。
「……ちょっと分かんないな。蛆が沸いて食ったんだと思う」
「ウゲ、嫌なもん見ちゃった」
その後も15分くらい掛けて調査を進めた。天井の1部に穴が開いている事が判明。恐らくさっきの奴らはそこを行き来しているのかも知れない。
「ドアは開けとく? 閉める?」
「閉めといていいよ。前を通った時に奇襲されたくないし」
「確かにそうですね」
「想像したないわぁも~」
「ダァシェリエス、ダァシェリエス」
引き戸を開けるような知能はない筈だから閉めておく。次は隣の部屋だ。ここは確か個室になっている所だ。
「あ、私の部屋があった所じゃん」
「え? ここ?」
「そうそう、時雨と一緒だったんだ」
勝手知ったるように引き戸を開けた白露は中に入った。
「ただいまー。なんてね」
目の前見えるドアを開けた。中は他と同じで2段ベッドに机が2つだ。
「隣から順次確認してって」
「了解や」
「はい」
「心得ますた」
残念だが廊下側にある奥の方の窓が開いており、その周辺に糞が確認された。近くの個室2つも入り込んだ形跡がある。
「ここはアカンな、出入りしとるわ」
「みんな……3階から何か黒いのが降りて来た」
敷波の震え声がした。ドローンは階段前でずっと待機している。自分たちが今居る所から先は行き止まりだ。逃げるには階段を使うしかない。あれ? 詰んだ?
「……陽動みたいな事は出来そう?」
「や、やってみるけど……」
敷波が操るドローンは1階へ向かった。一部がそっちに引き寄せられる。しかし残りがこっちに来た。引き戸は閉めておく。
「……来てます」
窓から廊下の様子を見た綾波がそう告げる。さて……
「隠れられそうな所は」
「ないですぞー」
「少し様子を見ようか」
屈んだまま待機。胸ポケットの手鏡を取り出して連中の動きを観察する。残りの集団は廊下の奥へ進んで行った。逃げるなら今しかない。
「みんなは先に出て。もし1階で遭遇したら配管室から外へ逃げればいい」
「分かりました」
「気ぃ付けてや」
「これで終わり?」
「終わりかな。3階はまた今度だ」
「ラッキー」
「こんな危ない所に居られるか、俺は部屋に戻るからな」
「さ~ざ~な~み~」
「ア、サーセン」
盛大な死亡フラグを口にする漣に綾波はとても穏やかな口調で呼び掛けた。しかし何所か殺意の籠もった声でもある。
「……よし、出よう」
入った所の引き戸を開けてコソコソと脱出開始。連中はまだ動かない。
「はいどんどん行った行った」
4人が無事に脱出。最後に広樹も部屋から出れた。階段を下りて目の前に見える正面出入り口へ到達。後ろを振り向いても姿は見えなかった。
「ドローン、どうかな」
「無事だよー。中に戻ったのは炊事場の方に行ったね」
「続けますか?」
「今日はここまでにしましょう。3階は日を改めて行います。意外に疲れましたし」
「ドローン戻したら休んでいい?」
「いいわよ、お疲れー」
見張り組も撤収。漣は七駆の3人と共に戻って行った。
「んじゃ解散。お疲れ様でした」
「一休みやな」
「お茶にしましょう」
「私は部屋帰って寝るー」
本日は終了。次はいよいよ3階の確認と可能ならあれこれ用意して連中の生態を調べたい。調査の再開はもう少し先だ。
次回は通常回です。潜入編の続きは3からになります。