鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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旧棟 攻略

 工事から2日が経過。連中は日に何度か1階と3階を往復しているらしい。3階に設置したアレへの反応は流石に薄くなったが、1階と2階の方にはまだ激しく集まる様子が確認出来るそうだ。

 

 その翌日に決行日の打ち合わせをする。メンバーは俺と最初の4人がメイン。メインだが基本は俺が前に出る。4人は手伝いに専念して貰おう。決行は明後日となった。

 

 

 決行日の前日、機材レンタルの会社さんに来ました。前にホームセンターで見つけたやつを借ります。

 

「恐れ入ります。予約してた後藤田と申しますが」

 

「はいどうも、こちらへ」

 

 応接間に通され色々と書類をやり取りする。レンタル日数は3日。店頭引き取りで料金が少し割引された。本体とオプション類を車に積み込んでこのまま鎮守府へ行く。資材置き場と化した会議スペースに置くのだ。ホームセンターにも寄って少し買い物しよう。

 

 次の日。ついに旧棟をどうにかする予定なんですがね……

 

「……エンジンが掛からん」

 

 ハイエースがうんともすんとも言わない。先月に点検したばかりなのに何だよ。

 

「やれやれ……」

 

 車から降りてボンネットを開けた。エンジンオイルを確かめるも色は綺麗な茶色だ。バッテリーが上がった? いや昨日まで普通に動いてたし大丈夫な筈。夕方前から動かしてないのでライトの付けっ放しも考えにくい。

 

「……頼むから動いてくれませんか」

 

 もう1度乗ってそう言いながらエンジンを掛ける。そしたら動いた。もう1度点検に出した方がいいのかも知れません。

 

「よーしよし、それでいいんですよー」

 

 さて行こうか。今の時間は朝7時。午前中で終わらせる予定だ。

 

 

鎮守府正門

 

「おはようございます」

 

「おはようございます。もう少し前にお願いします」

 

 正門でいつものやり取り。許可証の読み取りが終わればそのまま中に入れる。早い時間帯は他の業者の車も多い。何かしらを積んだ大型トラック、食品配送トラック、リネン配送の軽バン、ガス、大阪に本社のある某大手清掃業者と様々だ。

 

 そして俺はそんな中を駆逐艦寮まで走る。若干、物々しい雰囲気だった。提督さんも居る。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます。いよいよですか」

 

「そうですね。予定通りならそこまで苦戦はしないと思います」

 

 既に連中は自由に動けない身だ。1階~3階の何所に居ようがこの状態では逃げ場がない。

 

「おはよー」

 

「おはようさん」

 

「委細お任せンゴ」

 

「漣?」

 

「姉上、今日ぐらいはいいでござらぬか」

 

「全く」

 

「おはよう。順調にいけばそんなに掛からないと思いますが油断せず」

 

 これとは別でサポートが3チーム。

 

サポートA 陽炎・不知火・磯風

 

「無事に終わるといいわね」

 

「何かあればすぐに向かいます」

 

「必要なら後ろから着いていくぞ」

 

サポートB 響・初春・初月

 

「控えている」

 

「無理はされるでないぞ、良いな?」

 

「いつでも呼んでくれ」

 

ドローン班 夕張・瑞穂

 

「感度良好でーす」

 

「引き続きよろしくお願いいたします」

 

 一応、サポートA・B共に仕事は頼む予定だ。1階に誘き出すのと諸々を設置する必要がある。

 

「AとB共に手伝いを頼みます。作業の概要を説明します」

 

1・炊事場と廊下に燻煙剤を設置 そこへ誘き出す

 

2・フリースペースにも燻煙剤を設置

 

3・1階から追い上げられて例の部屋に戻って来た所で叩く

 

「以上になります。1階と2階に仕掛けるのをAとBどちらかにお願いします」

 

「どうする?」

 

「どちらでも構わない」

 

「んじゃ2階やるから1階よろしく」

 

「Да」

 

 準備に入ろう。1階はもう仕切られた空間なので我が物顔で歩ける。会議スペースにごっそりと置いてある燻煙剤を取り出して包装をビリビリ破いた。

 

「1人2個ね。1部屋に6個仕掛けるから」

 

 サポートAとBに計6個を預けた。ペットボトルの水も渡す。

 

「あー、廊下の分もあるか。そっちも6個にしよう」

 

「待たれ。仕掛けている内に来ぬか?」

 

「ドローン班に頼んであるんだ。窓の外までドローンを移動させて威嚇する。1階の設置が終わるまで釘付けに出来る筈だ」

 

「って事は2階に仕掛けるのが最後な訳ね?」

 

「そうです」

 

 俺はとうとう部屋の隅に置いてあったのを持ち出した。こいつは動力散布機。エンジン式で農薬・除草剤・肥料を遠くに飛ばす事が出来る機械だ。見た目は〇ースト〇スターズっぽくなります。タンクには殺虫剤が入っており、これを通常では考えられない噴射力で押し出す事が可能となる。

 

「ちょっと待ってね、暖機するから」

 

 外に出てエンジンを掛け、色々と微調整する。噴射量は中にしておいた。

 

「凄い物を手に入れましたね」

 

「レンタルです。値段がちょっとあれだったので」

 

 提督さんも興味津々なご様子。さて行こうか。

 

「お待たせしました。行きましょう」

 

「予備のタンク2つでええん?」

 

「2つしか借りてないからね」

 

「ねぇねぇ、これ新商品?」

 

「試供品。メーカーが感想欲しいって」

 

 ハチアブジェノサイダーの強化版。ハチアブインフェルノ(仮称)だそうだ。4人には1本ずつ持って貰う。

 

 防火扉を前にした。ドローン班からは3階に居ると連絡が入る。同時に窓へ近付いて存在を誇示するとガラスの向こうで蠢いていると聞こえた。炊事場方向への防火扉を開けて中に入り、サポートBが炊事場と廊下に手早く設置を終える。この隙に俺たちも階段方向の防火扉を開けて2階へ上がり、フリースペースの前で待機。

 

「設置完了だ。この缶はいつ入れればいい」

 

「その前に誘き出すよ。物音でいいから何か大きな音を」

 

 1階でサポートBが色々と音を出す。ドローンが窓から離れると連中が2階に下りたとの情報があった。

 

「木の棒がまだあるね。多分そこに食らい付くから、ある程度の数になるまで待って欲しい」

 

「木の棒? あの天井に近い高さのヤツかえ?」

 

 フリースペースのアレに暫く群がった後は更に炊事場へ続々と下りた。連中は同様に1階のアレにも反応して集まる。数がどんどん膨れ上がっていった。

 

「よし、ここも頼む。水も缶も直ぐに入れていいから」

 

「OKよ」

 

「了解しました」

 

「いざ参る」

 

 3階へ移動だ。到着前に1階の響から催促が上がって来る。

 

「もういいかな。正直、少し怖くなって来た」

 

「ちょっと待ってね。2階どうかな」

 

「全部仕掛けたわ」

 

「了解。1階も缶を入れて逃げていいよ。防火扉を閉め忘れない様に」

 

「直ぐ終わらせよう」

 

 1階、2階共に退避完了。3階にある例の部屋の前で連中が戻って来るのを待つ。

 

「よーし、今の所は予定通り」

 

「何か順調すぎない?」

 

「フラグやめーや」

 

「自分たちより高いか近い位置にある物に反応する習性を見つけたんだ。他に何もなければ多分、最初の時みたいに最優先で襲われると思う」

 

「だから私たちより高い棒が先に狙われるんですね」

 

「まぁその意味までは分からないけどね。何とか利用出来ないかと思って今日の作戦を考え付いた」

 

「軍師ですなぁ」

 

「野生動物相手にする方が少し楽かも……」

 

 さて燻煙剤が広まるのを待つ。あれって家具や家電の隙間に居るのを間接的にやっつけるのが基本で、実を言うと天井付近に居るのは稀に生き残ってしまう事があるのだ。天袋の奥なんかに居ると十分な効果を発揮しない時がある。

 

 んで、上に舞い上がったのは自然と下に落ちる。床に対しての効果は高くなる。そうすると、1階と2階はほぼ挟み撃ちの状態になり、もう上へ逃げるしかない。逃げる過程で集団の外側に居るのは脱落するだろう。となれば3階へ戻って来た連中は数が減っている事になる。そこへ動力散布機での攻撃を加えて仕留める予定ではあった。

 

 あと燻煙剤の噴霧後に何時間も待っていたくないのもある。目の前で確実に倒して早く安心したい。

 

「瑞穂です。1階と2階を激しく行き来しているのが見えます」

 

「分かりました。いずれ来るでしょう」

 

 引き戸のアクリル窓から中の様子を窺う。部屋の端から連中が戻って来たのが見えた。ある程度は動きが緩慢になったような気がするが油断は出来ない。ゴーグルとマスクをして踏み込む準備をする。

 

「中に入るね。そいつで後ろから援護を」

 

「オッケー」

 

「了解や」

 

「あらほらさっさー」

 

「お任せを」

 

 引き戸を開けると同時に4人がハチアブインフェルノを撒いた。視界が一気に白くなる。そこへ一歩進み、噴霧口を連中に向けてレバーを捻った。白くて太い霧が飛び出していく。薬剤は集団の外側を次々に床へ叩き落し、こちらへ近付けなかった。

 

「漣、床の方にも撒いて。まだ動いてる」

 

「合点承知」

 

 綾波がまだ生きているのを見つけて漣に指示を飛ばす。後ろの連携は完璧のようだ。

 

「何か逃げとらん?」

 

「確かに」

 

 それはこっちでも分かった。2階へ下りているらしい。

 

「夕張でーす。2階に一部が逃げて来ました」

 

「えーと……そのまま1階に下りたのも居ますね」

 

 逃げて行く穴に向けて近付く。そのまま噴霧口を穴に突っ込んで出力を上げた。

 

「どんどん1階に増えていきます」

 

「しぶといね連中」

 

 3階からは居なくなった。廊下に戻って締め切り、予備のタンクを用意しておく。

 

「また戻って来るよ。繰り返せばいい」

 

 1階も2階も逃げ場がないのを悟ったのか、数分とせずまた3階に戻って来た。同じように動力散布機で攻撃を加える。これを4回ほど繰り返した。

 

「瑞穂です。明らかに数が減りました」

 

「弱々しくなったね」

 

 そろそろ息切れだろう。ここで一計を案じる。

 

「2階に行ってそいつをもう1本撒いてくれるかな。1階にあと1本ずつ在庫がある。ここは俺だけでいいから」

 

「大丈夫?」

 

「もう終わるよ。燻煙剤を撒いて1時間もしない内に踏み込むと気管をやられるから注意して。そいつはガンタイプの殺虫剤だから、引き戸を少し開けてそこから手だけ突っ込めばいい」

 

「分かりました」

 

「任せて欲しいお」

 

「行くでー」

 

 4人は1階に下りて在庫を手に取り、2階へ上がった。言われた通り引き戸を少しだけ開けた状態でインフェルノを噴霧する。

 

「また3階に行きます」

 

「了解です」

 

 1階はもう居ない。2階に残っていたのが追い上げられて3階に戻って来た。そこへもう一撃お見舞いだ。

 

「これで終わりにさせて下さいお願いします」

 

 戻って来た所へ出鼻を挫く。勢いよく噴射される殺虫剤は群れを押し返した。目の前で動き回っているのは消え去るが、生き残りを警戒してタンクが尽きるまで穴の中に噴霧を続ける。

 

「後藤田さーん、もういいよー」

 

「んぇ?」

 

「2階の天井から凄まじい量が出てるから。もう1匹も見えないし」

 

 白露嬢が報せに来てくれた。レバーを徐々に弱めて噴霧口を穴から離す。

 

「……取りあえず終わりかな」

 

「少し休も」

 

 2階の皆と合流して1階に諸々を置く。建屋の外に出ると提督さんが出迎えてくれた。

 

「終わりましたか?」

 

「一旦、ですかね。休んだら確認します」

 

 休憩を挟んでまた動力散布機を背負い1階から確認。インフェルノはもう無くなったので在庫のハチアブジェノサイダーを全員に持って貰い、隙間という隙間に撒いて回った。

 

「何やあっけない最後やったなぁ」

 

「もうちょっと何か起きるかと思ってたけどね」

 

「最後どうなったの?」

 

「動力散布機で一網打尽や」

 

 一網打尽。出来てたら嬉しい。ただどうだろうか……

 

 動力散布機は返却してしまったが数日おきで様子を見に行った。念のため天井裏も確認するが痕跡はない。外にはみ出ている空き家状態のハチの巣はまた後で撤去しよう。

 

 

執務室にて

 

「定期的に見には来ますが、終わったと考えて貰って宜しいかと思います」

 

「いや、どうも今回はありがとうございました」

 

「空っぽのハチの巣も後日で撤去しますのでまたそのお話に参ります」

 

 正直、何だか喪失感を覚えている。病院通いが終わった時の感じに近い。

 

「どうですか。よければ今夜」

 

「あー……そうすると帰れなくなりますし」

 

「そのまま休んでいかれて下さい。明日は定休日じゃないですか。少し羽を伸ばして」

 

「……お世話になります」

 

 悪い事をしているような気もするがまぁ……今回ぐらいはいいでしょう。いいよね?

 

 

 翌日の朝9時頃にお暇して家に帰った。午後、部屋で寝転がっているとラインの通知が入って来る。

 

【鎮守府防除連絡網】

 

しぐ「森を切り開いている業者さんが大きなハチに刺されて救急車が何台も来てるみたいだ」

 

つゆしら「さっきからサイレン五月蠅いと思ったらそれ?」

 

吹「近付かない方がいいね」

 

しぐ「何のハチかまだ分からないけどもしかしてこれって」

 

 次の通知が入る前に携帯を裏返してそっと床に置いた。救急車ってなると恐らくアイツらだろうな。あー、連絡来るだろうけど今回はパス……いや、俺が前に出る必要はないな。だったらやりようはある。

 

(取りあえず今は休ましてくれ……)




長らく旧棟編にお付き合い頂きありがとうございました。
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