鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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巣は高い所にあるとは限らない

 一先ず肩の荷が下りたのも束の間、防除連絡網にとても気になる情報が舞い込んだ。しかし我が身の安全には代えられない。話は恐らく向こうから来るだろうけど俺は全体の調整とかをやればいいだけだ。

 

 休み明けに案の定、連絡が入る。空き家の巣を撤去する打ち合わせも兼ねて今日もまた鎮守府へ。

 

 

執務室

 

「実は切り開いている森にハチが潜んでいる事が分かりまして」

 

「あー……なるほど」

 

「救急車で搬送する事態になったため、作業が一旦ストップしているんです」

 

「そうですねぇ。知り合いに声を掛けて見ますので少しお時間を頂ければ」

 

 前の時に呼んだ先輩方を招集。全員が来てくれる事になった。後日に集まるので今日は空き家の巣の撤去についてだけ打ち合わせする。

 

 

3日後……

 

「いやー久しぶりだなぁ」

 

「何のハチかはまだ分からないの?」

 

「アナフィラキシーになった人が数名居るそうなので恐らくアレですね。今の所は誰も死んでませんけど」

 

 もはや固有名詞を言うのも嫌だ。それだけで何か息苦しくなる。

 

「そりゃ大変だ、任してくれ」

 

「現場までの案内だけでいいよ。そうしたらズーっと後ろの方に居な。危ないから」

 

 先輩方を現場の近くまで連れて行く。森は前よりも切り開かれているので近付いても何でか遠い事に違和感を覚える。重機が鎮座しているのが見えて来た。

 

「あの中です」

 

「はいよー」

 

「見て来るね」

 

「下がってな。建物の中に居るといい」

 

「どれどれ、拝んでやろうか」

 

 防護服に身を包んだ4人は森の中へ入って行った。30分後に戻って来る。

 

「見て来たよ。オオスズメバチだね」

 

 オオスズメバチがやって来たんです。

 

 仕事してない頃はゲタゲタ笑いながら動画見てたけど今となっては非常に恐ろしい存在である。

 

「巣の大きさはどれぐらいでしたか?」

 

「まだ分からんな。ファイバースコープでもっと詳しく見ないと何とも」

 

「念のため周辺も調べるよ。半径500mぐらいは探っておかないと危険だ」

 

「……え、大きさが分からない?」

 

「土の中なんだ。ありゃ少し苦労するね」

 

 話には聞いていたが土の中に巣を作るってのは本当だったのか。これまで仕事でやって来たのは軒下と木の上しか経験がない。さすがはハチの駆除専門でやってる4人だ。場数が違う。

 

「ざっくりでいいんですけど所要日数とか出せます?」

 

「1つだけなら1日で終わるよ。昼間でもいいんだけど出来れば夜の方が有難いね。その方が外に出る蜂も少ないし」

 

「ただねぇ、さっきも言ったけど周辺を調べておきたいんだ。もしかすると他にもある可能性がね」

 

「おーい、差し入れ貰ったぞー」

 

「おぉ、ありがてぇ」

 

 振り返ると、後ろの方に大淀さんが居た。何か凄く久しぶりな感じがする。

 

「お疲れ様です。旧棟の件、ありがとうございました」

 

「あー、いえこちらこそ。皆にご協力を頂いたお陰です」

 

「休む間もなくお願いをして申し訳ありません。1度、執務室の方へ来て貰えますか?」

 

「大丈夫です。先輩方、休憩がてら作業の話し合いなんかを進めてて下さい。また戻りますから」

 

 そうして俺は大淀さんと共に執務室へ。本件について具体的なお話をする。

 

 

 

「と言う訳ですので、自分は今回はスケジュール調整と資機材の管理が主な仕事になります。料金につきましては4名の方と詳しく話し合って頂ければと思います。自分は後で何割かを貰いますので、それでいいかなと」

 

「正直今回は違う所を探してお願いしようかと思ってたんですが、毎度毎度ありがとうございます」

 

「まぁこれもやり方の1つですからね。気にされないで下さい」

 

 と、ここでドアが開いた。俺が執務室に来ると同時に席を外した大淀さんが誰かを連れてやって来る。

 

「あぁ大淀。連れて来てくれたか」

 

「はい」

 

「実は最近、秘書艦が出来る娘たちを増やす事にしたんです。増員される駆逐艦の調整やら何やらで少々人手不足でして」

 

 人手不足。いや有り余ってますやん。と頭の片隅で思うが、組織が大きくなれば仕方のない事か。うちのような零細には真似出来ない。

 

「練習巡洋艦、鹿島です。お初にお目にかかります」

 

 うわー、綺麗。かわいい。でかい。スカート短すぎん? あれ、服が香取さんと同じだ。

 

「後藤田です。もしかして香取さんは……」

 

「香取は私の姉になります。山城さんの件でお話は伺っておりました」

 

 声もいいなぁ。耳通りがとてもいい。

 

「んー……何か言ってました?」

 

「いえ、特に目立ったような事は……」

 

 少なくともある事ない事を言う人ではない訳か。ならいいかな。

 

「鹿島。今後は後藤田さんと会う機会も増えるだろう。私が居ない時でも対応を頼むぞ」

 

「はい、お任せ下さい」

 

「じゃあこっちに。書類の分け方から始めるわね」

 

 後進を教育する大淀さん、いいね。

 

「では戻って作業日程なんかを打ち合わせて来ますので」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 執務室を出た。外に向けて歩き出し、階段まで数mの所に来たその時、後ろから異様な雰囲気を感じる。2~3歩前に進んで振り返ると……

 

「分かったかしら」

 

 いつも通り涼しい顔の割には謎のオーラを発せられる加賀様がいらっしゃいました。

 

「そんな剣幕のような何かを中てられたら嫌でも分かります。久しぶりですね?」

 

「ちょっと出張が長引いてさすがに疲れたわ。数日はオフよ。旧棟の件、お疲れ様」

 

「ありがとうございます。今後も様子は見ますがね」

 

「所で、鹿島にはもう?」

 

「さっき挨拶を」

 

「その感じは守備範囲外って訳ね」

 

「……守備範囲とか女性が言わない方が宜しいのでは」

 

「あら、女だと思ってくれてるの。嬉しい」

 

「先を急ぎますのでこれで」

 

「つれないわね」

 

 何とでも言うがいい。仕事の前に体力を消耗したくないねん。

 

 

 足早に戻って来たが先輩方の姿が見えない。石ころで重しをしてあるメモ書きを見つけた。

 

【半径1キロ圏内を調べる事にしたから今日はもう帰っちゃっていいよ。また後で連絡するから】

 

「……ありゃ」

 

 ではお言葉に甘えてそうしよう。提督さんには別途で連絡しておく。

 

 

 それから数日間。作業日の調整や集められた情報を基に打ち合わせを何回かやった。巣の大きさは推定で50cm程度。ハチの数は600匹前後と考える。にしてもかなりの数だ。

 

「具体的にスケジュールを決めたいんですがいつを作業日にします?」

 

「うーん、それなんだけどさぁ」

 

「稲刈りがあってね。2日ちょっとは掛かっちまうんだ」

 

「ウチの方は出荷もあるからもう少し時間が必要かな」

 

「ごめんね、なるべく早く終わらせるから」

 

 実を言うとこの4人、家は農家なのだ。住んでる地域にハチが多いものの専門の業者がおらず、自治体も私有地での作業は行っていない事からハチの駆除をビジネスとして立ち上げたのだった。親父がこの内の1人と飲み友達であり、仕事を融通し始めたのが付き合い出す切欠。

 

 そして俺にとってはハチの駆除を教えて貰った師匠でもある。

 

「分かりました。見通しが立ったら連絡をお願いします」

 

 自分だけでやればその辺は比較的に自由なものだが人数が増えると難しくなる。取りあえず2週間以内にと言う事で一旦解散。俺は俺で空き家の巣を取り除くための道具を持ち込みに鎮守府へ。こっちの作業日はスズメバチが終わってからでいいだろう。

 

 駆逐艦寮の手前でハイエースを停め、道具を旧棟の方へ運び込んでいる途中、鹿島さんがやって来た。

 

「お疲れ様です。ちょっと宜しいでしょうか」

 

「はい、何か」

 

「えーと……実は」

 

 伐開の業者がいつから作業を再開出来るか聞いて来ているそうだ。向こうは向こうでスケジュールがあるのは間違いない。しかしこっちもこっちで事情が……

 

「なるほど。そうですね、実を言うとこっちもまだ明確に作業日が決まってる訳ではないもので」

 

「一応、全体のスケジュールがあるんですけど、少し遅れ気味で……」

 

 うーん。これは難しい。かと言って俺がそっちの業者に連絡を取るの何かも違う。向こうが元請けなのか下請けなのかも分からないし、変なトラブルを起こすのも嫌だ。ただでさえ零細なのに仕事が出来なくなるのは回避しなければならない。

 

「分かりました。2~3日中に作業日を決めてそれを提督さんの方に連絡します」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 今日はここで引き上げて連絡を取ろう。そんでこの件を伝えて作業日を決めて貰う。

 

 結果、作業は4人の家が忙しくなる前にと言う事で落ち着く。決行は4日後となった。

 

 

当日

 

 夜7時に集合。作業は照明器具が照らす中で行う。

 

「お疲れ様です」

 

「おーう」

 

「悪いねこんな時間から」

 

「さぁ稼ぎましょう稼ぎましょう」

 

「しまった、夜食忘れたな」

 

「食堂の方で作って貰いました。適当な時間に食べて下さい」

 

 間宮さん謹製の炊き込みおにぎりとおかずが2~3品入った不透明の容器を渡す。

 

「おぉ、すげぇ」

 

「中身は?」

 

「炊き込みのおにぎりだと聞いてます」

 

「今食っちまいたいね」

 

「アホ、後だ後」

 

「あ、それとですね」

 

 色々とグッズも用意したから渡しておこう。万一に備え氷や水もあるし夜間救急の受け入れがある病院も念のため把握済みだ。

 

 そしてここに1人、無関係の人物が居る。

 

「どうもー青葉ですー。完全防備で邪魔はしませんので一部始終を撮らせて貰えないでしょうかー」

 

 声でそうだと分かるだけで見た目は誰かも分からないカメラを携えた防護服の青葉。それと後ろに居る保護者2名。

 

「止めたんだけど……ごめんなさい」

 

 げんなりした顔の衣笠。

 

「邪魔でしたら断って頂いていいので」

 

 困り顔の古鷹。

 

「……どうします?」

 

「んー、さすがに作業中は危ないからねぇ」

 

「その防護服どこのメーカー? 変に安いヤツは材質が薄い所から刺されちゃうよ」

 

「顔の所も針が入れる隙間あると毒液飛ばされるよ」

 

「毒液が目に入ったら最悪は失明だね」

 

 この言葉を聞いた衣笠と古鷹は血相を変えて青葉を取り押さえ始めた。

 

「ダメ! 絶対ダメ!」

 

「青葉! 今回はダメだからね!」

 

「そんなぁここまで来て!」

 

「あのー、例えば安全が確認されてからではダメですか? 取り出された巣を撮影するとかは」

 

「あ! それでもいいです! 是非!」

 

 って訳で作業が一通り終わってからにして貰う。先輩方4名はスコップやらを担いで森の中に分け入った。

 

「7時15分、作業開始」

 

 記録を残しておく。これは後で先輩方の報酬に直結する部分もあるから必要な事だった。んで俺は3人を引き連れてこの場から退避。司令部棟の物書きスペースに移動した。終われば向こうから連絡が入る。

 

「今日はいつもと違うんですね」

 

「2回刺されてますから」

 

「あ、知ってる。アレルギー症状で気道が塞がるってやつ」

 

「え……」

 

 想像したらしい古鷹の顔が青くなった。急に立ち上がって窓の施錠を調べ始める。

 

「大丈夫ですよ。ここが締め切ってあるのは見たんで」

 

「で、でも」

 

「距離もあるのでこの辺は行動半径外の筈です。それに夜間は巣に戻ってますから外に居る確率は低いですね。だから夜に作業をする事にしたんです」

 

 納得したらしい古鷹は静かに座った。それでもキョロキョロしている。ついでだから重巡寮の動向を聞いておこう。

 

「最近は何か出てませんか?」

 

「えーと……これと言って」

 

「裏の外壁にカミキリムシ居てびっくりしたぐらいかな」

 

「飛んで来たのが意外でしたねー」

 

 あれやこれや話している内に1時間。まだ連絡はない。焦っても仕方ないが何も出来ないのは落ち着かないもんだ。

 

 更に30分後。テーブルの上に置いてあった携帯が震えた。

 

「もしもし」

 

「中間報告だよ。巣は全部取り出したけど飛んでるのがいっぱい居るから近付かないでね。また連絡する」

 

「分かりました。気を付けて下さい」

 

 通話を終えた。キラキラした目の青葉がテーブルの向こうから身を乗り出す。

 

「終わったんですか!?」

 

「巣の取り出しは終わったそうなんですがまだ飛んでる蜂が多いのでそっちの作業に入るそうです。もう暫く待機ですね」

 

「いつまでも待ちますよー」

 

 それから1時間ちょい。生き残りを捕獲、或いは駆除が終わったとの連絡が入る。森の方は一旦遠くへ逃げたのが戻って来る危険性があるので合流は司令部棟でする事になった。

 

「はーいお待ちどう」

 

「中々の大物だったねぇ」

 

「いやー疲れた疲れた」

 

「戻り蜂を退治するから明日また来るよ」

 

 目の前に置かれたのは大小合わせて8つの巣盤。全部を横に繋げると畳の1畳分はあるだろうか。加えて死骸の入った瓶が4つ。中で蠢いてる瓶が3つだ。

 

「うわ~……すっごい」

 

「あんなに沢山居たんですね……」

 

 青葉は嬉々としてその光景を撮り始める。それを尻目に明日の件を打ち合わせする広樹たち。

 

「何時にしますか?」

 

「9時ぐらいかな。また少し森に入って様子見て、罠を幾つか仕掛けるからね」

 

「何もしないと2週間ぐらいで死んじまうけどスケジュール押してんでしょ? 強力なの持って行くから4~5日あれば戻り蜂も居なくなると思うよ」

 

「巣と蜂は持って帰るけど防護服は置かせて貰える?」

 

「大丈夫です。他の所に場所があるので」

 

「んじゃ取りあえず夜食を頂こうかね」

 

 満足した青葉は衣笠、古鷹と共に帰って行った。夜食を食べ終わった4人も帰り、残った広樹は防護服と空の容器を旧棟1階の会議スペースに置いて帰宅。翌日も少し早く来て防護服を持ち出し、容器を食堂に返却して4人を待った。

 

 戻り蜂への対処も無事終了。暫くして4人から飲みに連れ出された広樹。

 

「蜂じゃなくても人手必要だったら呼んでよ。大喜びで行くから」

 

「何かありました?」

 

「いやー、前の時よりいい金額を貰っちゃってさ」

 

「広樹ちゃんいっつもあんな額貰ってんの? 羨ましいねぇ」

 

「作業内容によりますよそんなの」

 

「今日は奢るから飲んで飲んで。これからも宜しく頼むよ」

 

「人を金運を上げるアイテムか何かと勘違いしてませんか皆さん」

 

 取りあえず今回の仕事も終わった。そんな簡単に呼び出すつもりはないがまぁ、蜂の類だったら4人投げてしまうのが得策だろうか。

 

(広樹です。飲み過ぎました。何かの酒をボトルキープしたような記憶が……)

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