鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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階段下の存在

 現駆逐艦寮の正面入り口から入って左側。給湯ルームや洗面所を通り過ぎた更にその奥。そこには非常階段があり、階段の下にはある程度のスペースが存在した。

 

 雑多な物が段ボールに詰められて置かれたそこは、ある意味で物置で、ある意味で使われない物の墓場となっている。

 

 おまけにこの非常階段自体、殆ど使われていない。普段も通る事は出来るが、1階以外は防火扉があるのと、窓がないので少し空気が淀んでいるため誰も使おうとしなかった。あと照明が小暗いのも影響している。

 

 

某日 23時頃

 

「遅くなっちゃったね、早く戻らないと」

 

「マ~ジで疲れた~」

 

 春雨と敷波が遅い時間に帰って来る。さっきまで工廠の方で明石の手伝いをしており、予想よりも時間が掛かってしまった。すぐ寝ないと明日に響く。

 

 建屋の中に入った敷波。視界の左端でほんのちょっとだが、何かが動いたのが分かった。

 

「ねぇ、今の見た?」

 

「え? 何?」

 

「何か動いた。ずっと奥の方」

 

 敷波が指差す先を春雨も見つめた。誰も居ない静まり返った廊下。その奥の方は廊下よりも薄暗い非常階段だ。

 

「……誰も居ないけど」

 

「んー、気のせい? まぁいいや。早く寝よう」

 

 自室へ引き上げて行く2人。翌日の夜、見回り当番の薄雲と暁が非常階段に近付きつつあった。

 

「あそこを見に行くの、ちょっと嫌なんですよねぇ」

 

「で、電気は点いてるし、大丈夫、よ……」

 

 大丈夫ではなさそうだが一通り回るのが当番の仕事である。ゆっくりと足を進めたその直後、何かが動き回る音がした。

 

「……だ、誰か居ますか?」

 

 返事はない。しかし、何かが動いている音はする。どうしようか悩んでいる薄雲は自身に何かがくっ付いたのに驚いて悲鳴を上げた。

 

「きゃあ!」

 

「ぴぃ!?」

 

 パニックになった2人はその場から逃げ出し、管理人室で朝まで震えて過ごした。単に物音が怖くなった暁が薄雲に抱き着こうとしたのが原因と分かったのも朝になってからだった。

 

 

翌日……

 

「何が居るのよ」

 

「分かんないですけど、何か居ます」

 

「見つけ出して袋叩きにしてやります」

 

「え、でも、そこまでしなくても」

 

 刺し殺すような眼光の不知火に暁が怯えている。今日は陽炎と不知火が当番だ。

 

「まぁいいわ。2人はもう上がって休んでちょうだい」

 

 薄雲と暁は業務終了。ここで離脱した。

 

「少し聞き込みしようか」

 

「まず偵察するべきかと」

 

「取り越し苦労を避けるためよ」

 

 2人は今居る娘たちに聞き込みを開始。すると敷波が「何か居たように見えた」と前夜の出来事を話す。

 

「何かって具体的に言える?」

 

「んー、視界の隅で本当にチラッと見えただけなんだよね。あれ? と思ってそっち向いたらもう何も見えなかった」

 

「引き摺り出しに行きましょう」

 

「待ちなさいって」

 

 スタスタ歩き出す不知火の肩を引っ張って止めた。

 

「他に誰か居た?」

 

「春雨。でも見えなかったって」

 

 取りあえず現段階で"何か居る"と感じたのは敷波と薄雲。"何も見えなかった"のが春雨。自爆したのが暁という結果になった。

 

「……陽が暮れたら3階から1階まで下りてみようか」

 

「じゃあ私は1階から上に」

 

「さいあくアンタ1人でどうにか出来るってんならいいけど」

 

「大丈夫です」

 

「ダメね。自信過剰。異議申し立ては認めません」

 

 逸る不知火を丸め込んで陽が暮れてから3階へ。非常階段の防火扉を前にする。

 

「じゃあ行くわよ」

 

「はい」

 

 防火扉を開ける。どうにも薄暗い照明の中、1階へ向けて降り始めた。

 

「相変わらず薄暗いわね~」

 

「この埃っぽさ、どうにも不快です」

 

 階段を降り続けて1階の前にある踊り場まで来た。

 

「そっち側に一応注意」

 

「はい」

 

 右方向に視線を配りつつ1階へ。特に何もないまま管理室まで到着する。

 

「何か感じた?」

 

「特には」

 

「んー、困ったわね」

 

 それから数日間、当番組の間で「何か居る・居ない」の引き継ぎが続いた。居る、と感じたのが14人。居ない、と感じたのが8人。何とも微妙な数字である。

 

 んで、あくる日の当番は白露&時雨。

 

「なにこのよく分かんない情報は」

 

「具体的には分からないの?」

 

「私は特に感じなかったわ」

 

「これと言って……」

 

 前日の担当は叢雲&霰。例にならって確認に向かったが何も感じられなかったそうだ。

 

「気にし過ぎよ、馬鹿馬鹿しい」

 

「でも今日に至るまで14人が居るって感じたのはちょっと無視出来ない数字じゃないかな」

 

「あそこ、暗くてよく見えないから、変な想像をするのは仕方ないかも」

 

「面白そうじゃん。私たちも後で調べようよ」

 

「僕は静かな夜を過ごしたいんだけど。願いが叶うなら」

 

「残念、地獄に付き合って貰おう!」

 

「はぁ~~」

 

 時雨の盛大な溜息を余所に叢雲と霰は自室へ帰る。何やかんや、時刻は日付が変わる前まで進んだ。

 

「じゃあそろそろ行こうか」

 

「あと5分で見たい番組が始まるからその後にしない?」

 

「録画でいいじゃーん」

 

 そう言って白露は時雨に絡み始めた。額に若干の青筋を立てながら時雨は手早く録画をセットして立ち上がる。

 

「さっさと終わらせて交替で休もう。どうせ何も居ないよ」

 

「全速前進DA!」

 

 飛び出す白露。何か変な動画でも見たんだろうなぁ、と思いながら時雨は白露を追い掛けた。

 

 非常階段の手前まで来た2人。すると、何か物音がしている事に気付く。

 

「……後ろ、じゃないよね」

 

「前からしてるね。当たっちゃったか~」

 

 さてどうする。下手に飛び込んで怪我をするのは避けたい。

 

「時雨、張り紙作って2階と3階の防火扉に張って来て。終わったらバリケード作るから戻って来てね」

 

「張り紙?」

 

「朝まで使用禁止とかそんなのでいいから。万一に誰も通らないようにするため」

 

「分かった、急いで行くよ」

 

 時雨は管理室まで戻り備品のノートPCを立ち上げて張り紙を作成。印刷したのを持って2階と3階へ張って回った。そして1階へ戻ってバリケードを作る。

 

 ロビーの椅子やら給湯ルームに積まれたお茶・お菓子の入った段ボールを積み上げてバリケードのような何かを拵える。洗面所の掃除ロッカーから取り出したT字箒を手に陣取った。

 

「……で、どうするの」

 

「取りあえず朝まで見張ってようか。しびれ切らして出て来たら迎撃すればいいし」

 

 物騒な考えだと思いつつも時雨は白露と共に見張り続けた。気付けば外が明るくなって来ている。時刻は朝6時になっていた。

 

「…………一晩中見張ってたけど出て来なかったね」

 

「……一晩中じゃないよ。姉さんも僕も2時間くらい落ちてたよ」

 

「そうだっけ? 覚えてない……」

 

「姉さん目が半分開いたまま寝てたね。痛くないの?」

 

「全然」

 

「ふーん……そろそろ片付けようか、みんな起きて来るし」

 

 無気力なままバリケードの撤去を開始。終わった後で階段下を見に行ったが何も居なかった。同時に落ちているタイミングで逃げ出されたらしい?

 

 更に数日間、情報の共有は続いた。"居る"が6名追加。"居ない"は2名となる。

 

 あくる日の当番は満潮&霞。

 

「最近この情報で持ち切りね。士気に関わりそうだわ」

 

「化けの皮剝いでやろうじゃないの。いつまでもこんな事を続けてるなんて馬鹿馬鹿しいったら」

 

 夜になって2人は懐中電灯を片手にズカズカと階段下へ向かった。

 

「そこに居るのは分かってんのよ! 逃げられると思わないで!」

 

「さっさと出て来なさいな! 抵抗するなら返り討ちにしてやるから!」

 

 暗闇に懐中電灯を向けた瞬間、煌々と光る2つの目が見えた。本能的な恐怖を感じた2人はその場に懐中電灯を投げ捨てて管理室へ退散。朝を待つ事になる。

 

 翌日の当番に来た五月雨&初霜へ2人が何を見たか力説するも、直接見た訳ではないので五月雨と初霜の頭には「?」が浮かぶだけだった。

 

 と、この辺で野生動物の可能性を見出した白露は防除連絡網で「何か居るから来て」とダイレクトメッセージを送った。送られた側はこれも仕事の内かと思い鎮守府にやって来る。

 

「で、具体的に説明して欲しい訳だが」

 

「いや、害獣かもって思ったから」

 

「鳴き声とかは?」

 

「聞いてない」

 

「どんな見た目よ」

 

「見てない。でも何か居るんだよね。動き回ってる音はしたから」

 

「……最近の睡眠時間は?」

 

「7~8時間くらい?」

 

「何か心労があるとか」

 

「シンロー?」

 

「ストレス的な」

 

「ないない」

 

「……見間違いでは」

 

「もしかしなくても疑ってるでしょそれ」

 

「声もしないし実体も見てないのに何か動き回ってるとか聞いたらそうも思うわい」

 

「えっと、すいません、一応こんな感じのデータが」

 

 まさかこんな事で姉が広樹を呼ぶと思っていなかった時雨はこれまでの"居るor居ない"を見せた。既に"居ない"の方が少数派になりつつある。

 

「……因みに夜だけ? 昼間は?」

 

「日中の内に見に行ったのも何人か居ます。でも確認出来てません」

 

「って事は、夜行性の何かって感じか……」

 

「やっぱ動物?」

 

「光る目ってのが怪しいけど2人しか見てないとデータにはならないかな。これは見間違いの可能性も指摘されてしまう。反射する何かをそう見てしまったとも考えられるし」

 

 って訳で、階段下を見に行く事になった。広樹はマジックハンド式のさすまたと牙を通さない革手袋を装備。

 

「着いてくよー」

 

「危ないから来ないで下さいませ」

 

「邪魔しちゃダメだよ姉さん」

 

 階段下を見に行って数分後、首をかしげる広樹が戻って来た。

 

「どう?」

 

「……今は居なかったけども臭いはするな。多分動物だ」

 

「何か入り込んでるって話しは聞いてないですね……」

 

「1階で何所かしら窓が開けっ放しになってない?」

 

「調べるね」

 

 結果、1階は異常なし。2階と3階も同様。謎が深まるばかりだ。

 

「夜になったらもう1度来るよ。今日の当番は?」

 

「私ら。代わって貰った。もしかしたら面白そうなの見れるかもだし」

 

「姉さんが期待してるような事は起きないんじゃないかな……」

 

 何が面白そうなのかは分からないがここで広樹は一旦帰宅。陽が暮れて時刻は21時頃になり、珍しく来客用の駐車場に車を停めた広樹が道具を持って歩いて来る。管理室をノックして中に入った。

 

「あー、久々に歩いたな」

 

「車で入ってくれば良かったじゃん」

 

「普段は居ない車があると警戒されて出会えない可能性が高くなるからね。23時ぐらいに1度見に行くよ」

 

「何か飲みますか?」

 

「いや大丈夫。持って来てるから」

 

 約2時間、特に何もなく過ぎ去った。白露はゲーム。時雨は雑誌を眺めつつ時折りテレビを見て、広樹は書類仕事をする。

 

「……お、いい時間だな」

 

 22時55分。何か居るか否かを確かめに向かう。

 

「途中まで一緒に行くね」

 

「もし居なかったら先に少し休むよ僕」

 

 シーンとする廊下を歩いて非常階段へ。次第に緊張感が高まる3人。

 

「…………何か動いた」

 

「音した?」

 

「微かに」

 

「……2回も遭遇するのって運が良いのかな」

 

「上の防火扉は閉まってるね?」

 

「階段の方に押さないと開かないから逃げ場はこの廊下だけだね」

 

「もし何かあれば外へ逃げていいよ。ちょっと見て来る」

 

 広樹は1人、階段下へ向かった。見守る白露と時雨。

 

 

 数分後、何かを抱きかかえた広樹が戻って来た。キョトンとした顔をする茶トラの猫だ。

 

「犯人確保」

 

「猫! 猫だ!」

 

「……目が光ったってそういう事か」

 

「だろうね。人と関わりのある動物は大体目が光るけど。これは中猫ぐらいかな。空の段ボール箱から出て来たんだ」

 

「1度あそこも整理しないといけないね」

 

「猫~猫~」

 

 ニヤニヤしながら猫をモフり始める白露。そして意外にも無抵抗な猫であった。

 

「ァ~ァ」

 

「え、鳴いた?」

 

「声が枯れてるな。変に触らない方がいい。感染症かも知れないし」

 

「姉さん手洗ってね」

 

 翌朝、猫は動物病院へ運ばれた。諸々の治療後に鎮守府へ一旦戻り、白露の駄々やら何やらを経てあれこれ提督と相談した結果、猫は鎮守府で生活する事になった。

 

 

 暫くして

 

「正面から堂々と出入りしてたんだ」

 

「よく思い返したら、雨の日とかに床が不自然に濡れてる事があったんです。それがロビーの辺りならまだしも、非常階段の近くだった時もあって」

 

「誰も見てない時や居ない時にシレッとここで休憩してたって訳か」

 

 猫がどうやって出入りしてたかを話す広樹と時雨を余所に……

 

「トラジー、おやつだよー」

 

「あらぁ、きなこちゃんよこの子は」

 

「分かってないなー、寅蔵だぜ寅蔵。オスなんだろ?」

 

「名前統一した方がいいんじゃないの……」

 

 猫を囲んで呼びたいように呼ぶ白露・荒潮・深雪。それを宥めるように言う吹雪であった。




次回は予定通り「年末&年越し編」です。

最初だけ微ホラー感出したつもりですが出せてるのか自分でも分からなくなりました……
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