鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

70 / 86
椿象とも書くそうで

 年が明けて暫くは鎮守府の依頼もなく、新年の挨拶に行った後は2週間に1回ぐらい御用聞き程度に伺っただけだった。雪も何回か降り、鎮守方面への道は凍る事もあるから必然的に行く回数は減る。

 

 あと、やはり初夢の件もあってか提督さんの顔を見るのが少し気まずい。

 

 そうこうしてる内に気付けば春が訪れ、非常に悔しいが俺は1歳年を取ってしまった。

 

「……三十路が一歩近付いた」

 

「なーに言ってんの広樹ちゃん人生まだまだこれからよ」

 

「俺なんて60になったばかりだぞ。気分は20代の頃から大して変わってないけどさ」

 

「大丈夫大丈夫、俺も気付いたら78だけどピンピンしてら」

 

 何かが納得出来ないので商店街の飲み屋に来た。カウンターの隅で静かに飲んでたら近所のおじさん(一部はおじいさん?)たちが来襲して賑やかになってしまう。

 

 気付けば24時前。おじさんたちは探しに来た奥さん方に引き摺り出されて1人1人と消えていった。

 

「……やっと静かになった」

 

「ラストオーダーどうする?」

 

「え、もうそんな時間スか」

 

「悪いね」

 

「……焼きおにぎり下さい、あと味噌汁」

 

「あいよ」

 

 締めて店を出た。まだちょっと肌寒い中を帰宅。寝静まった親を起こさないように部屋へ引っ込んだ。

 

 すっかり気温も上がって暖かい日が続くとある日、相談が飛び込みました。一先ず様子を見に別件の後で鎮守府に向かう。今日は久々に軽で行きます。

 

 

鎮守府正門

 

「お疲れ様です」

 

「どうもお疲れ様です」

 

 おや、警備に見た事のない人が居る。新人だろうか。

 

「新しい人ですか?」

 

「別の基地で配属された者です。各鎮守府へ研修の一環で来ています」

 

 全体像は知らないが組織の大きさを改めて認識する。警備の人には何人か独特な言葉遣いの人も居るのでここに日本全国から来ているのが何となくでも分かっていた。

 

「腕章しとかないとひと騒ぎ起こしちゃいそうですね、気を付けます」

 

「よく周知させておきますのでご安心下さい」

 

 でも1度ある娘(親潮)に「不審者ですか」って言われてしまってるからなぁ……

 

 許可証のスキャンも終わったので敷地の中に車を進める。今から行くのは自然区画だ。いつだったか毛虫が発生した所の反対方向で問題が起きているらしい。近くまで行って車を停めて降りる。

 

「えーと、誰か居るかな」

 

「うぉーす、こっちこっち」

 

 望月が手招きしていた。言われるがまま着いて行く。

 

「何か原因分かる?」

 

「ここ暫くは手入れもしてなかったのが主な原因かも知れないけどね~」

 

 到着すると、いつもの長女と次女が居た。

 

「お疲れ様にゃしぃ」

 

「ありがとう。ちょっと力を貸して欲しいの」

 

 本当は長女と次女が逆なのでは、とたまに思う。

 

「見ての通りなんだけど、こんな事になってしまってて」

 

「少し厄介な状態なのですぅ」

 

 2人が指差した場所を見る。そこにはもう大量のカメムシが……

 

「……これは中々の発生具合」

 

 よーく見渡すと近くにヒノキが4本ばかり立っていた。カメムシはスギやヒノキを好むと聞く。恐らくあの辺で卵が大量に植え付けられてあちこちに分散したのだろう。ちょっとこれは準備が必要なレベルだから近々のスケジュールを確認しなくては。

 

 因みに正確な由来は明らかではないらしいが「椿象」と書いてカメムシと読むとか何とか。

 

「日を改めてもいいかな。これは相応に準備しないと無理だ」

 

「だよねー。あたしらだってこれ見た時は何からしていいか分かんなかったし」

 

「仕方ないわね」

 

「はうう、やっぱりこうなったにゃしぃ」

 

 1度見ない事にはやっぱり判断出来ない。状況によって必要な道具も異なる。って訳で早速あれこれ発注して必要な物を揃えた。5日後にもう1度鎮守府へ出向く。

 

 

「毎度どうも」

 

「こちらの方へ」

 

 研修で来てる人が誘導してくれた。動きが若干ぎこちない。

 

「えーと……はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 スキャン終了。車を敷地の奥へ進めて自然区画の手前まで行く。そこで車を降りて近付くと、睦月型が大集合していた。見た事がないのも多い。

 

「もしかして全員姉妹?」

 

「ええ、そうね」

 

「今日はみんな揃ってるので、まだ見ぬ妹をご紹介しまぁ~す」

 

 皐月・水無月・菊月は蚊の時に会っていた。望月は既に見知った仲である。

 

「えっと……弥生です。3女です。上下共に、お世話になっております」

 

 え? 3女? 凄い落ち着き具合だ。

 

「4女、卯月でーす! よろしくぴょん」

 

 ぴょ……ぴょん……、深く考えるのは止めておこう。

 

「7女の文月って言いまぁす。えへへ」

 

 可愛い。

 

「長月だ。世話になる」

 

 少し菊月に似ている。ような気がする。

 

「三日月です。よろしくお願い致します」

 

 おー? 他の姉妹とちょっと違う感じだ。

 

「因みに、皐月は卯月の妹で5女、その下が水無月、文月と続くにゃしぃ」

 

「文月ちゃんの下が長月ちゃん。次が菊月ちゃんよ。そして、三日月ちゃんに望月ちゃん」

 

「…………11人姉妹?」

 

「一堂に会するのは久々だけどな~」

 

「望月、少し太ったんじゃないのか。頬が丸く見えるぞ」

 

「長月姉は人の顔見る度にそう言うけど私ら顔の輪郭大体同じっしょ?」

 

「……そうか?」

 

「ぼ、僕に聞かれてもちょっと困るかな」

 

 明後日の方を見ながら答える水無月であった。

 

「その辺にしておけ。喧嘩するために集まった訳ではないんだ」

 

「早く、本題に入りましょう」

 

 菊月&弥生によって進路が修正された。自然区画で起きている件について話を始まる。

 

「えーと、見ての通りですがカメムシが大量発生しています。このままだと草木を食い荒らしたり洗濯物へ卵を産み付けられたり臭いが付いたりなどの弊害が起きます。みんなの生活にも直結するので速やかに除去しなければなりません。駆逐艦寮に軍手の在庫が多めにありますので各自それを着用して下さい。んで、これが捕獲機です」

 

 ペットボトルを半分に切って上を逆さまにして下半分にくっ付けた物を多数用意してあった。下半分には本来であれば水を入れるが今回は無しだ。全部殺すのは避けたい。

 

「なるほど。すくって中に落とし込めばいい訳だな」

 

「やらせてやらせて~」

 

 長月は飲み込みが早いようだ。文月に至っては無邪気な所に謎の圧を感じる。

 

「ただ全員分は無いので、何人かは専用殺虫スプレーで駆除して貰います」

 

 流石に11人は多い。ここまでの人数だとは思っていなかったなぁ。

 

「みんな集まって。じゃんけんです」

 

 弥生が全員を集めた。なるほど。この落ち着き具合にはそういう意味もあったのか。

 

 結果、数回に分けて行われたじゃんけんで綺麗に5:6と別れる。

 

「んじゃ5人には捕獲機。残り6人は殺虫スプレーをお願いします」

 

以下、陣容

捕獲機:睦月・皐月・水無月・文月・三日月

殺虫スプレー:如月・弥生・卯月・長月・菊月・望月

 

 軍手着用後に全員集合。しゃがむ事も多いだろうから下も履き替えて貰った。

 

「ではまずお手本を」

 

 捕獲機のメンバーだけ集めてどうやって捕獲するかを見せた。

 

「後ろから掬うようにして」

 

 葉っぱに付いているカメムシのお尻から掬い上げて中に入れた。そのまま中へ落とし込まれる。

 

「こんな感じ。1匹ずつでいいから」

 

 捕獲機組は早速作業に入って貰おう。続いて殺虫スプレー組。

 

「一気にやると直ぐに無くなるから2~3回に分けてやって。大量発生したとは言え殺し過ぎるのはダメです。少しは自然に戻さないとね」

 

「魚や動物も獲り過ぎるのはダメと聞く。大量に居ても節度は守らねばな」

 

「感染症は媒介しないけど人によっては皮膚炎を起こすらしいから注意して下さい」

 

「そのために軍手が必要、と言う訳ですね」

 

 菊月と弥生の2人は何かよく分からないけど話が早い。有難い事だ。

 

「三日月、無益な殺生は致しません」

 

「頑張りまぁ~す」

 

「ここに入れたカメムシは何所へ出せばいいの?」

 

 捕獲機を持った水無月が聞いて来た。

 

「それ用のバケツを持って来るよ。ちょっと待ってて」

 

「よーし、始めちゃうね!」

 

「片っ端から掬い上げるにゃしぃ!」

 

 皐月の声掛けで捕獲機組の5人が動き出した。

 

「いいかしら皆。ちょっとずつよ」

 

「はい」

 

「お任せぴょん!」

 

「出過ぎるのは良くないな。捕獲機組と調整しながらいこう」

 

「菊月、参る」

 

「アレに比べたら怖くはないけども臭いがつくのはちょっとね~」

 

 この中で画面越しでも同じ経験をしたのは望月だけだ。自然と距離感が縮まる。ふと、視界の隅に何かの集団を捉えた。提督さんと同じ白い服を着ている集団だ。それとなく望月に聞いてみる。

 

「……何の集まり?」

 

「あ~、提督候補生ってやつだね。ここの近場じゃ敵が出ないからさ、研修には持って来いみたいだよ」

 

 そういう事情があるのか。確かにこの辺で1度も深海棲艦が出たとの警報が鳴った事はない。有難いけど、いつかそうじゃなくなる日が、と思うと不安にもなってしまう。

 

「だからと言って何もしてないと腕が錆びるからね。出張は大事って訳」

 

「それ、俺が聞いていい話し?」

 

「……聞かなかった事にしてくれると有難いかもしんない」

 

「了解」

 

 言わずもがな、って訳でもないが、視線を感じる。艦娘と一緒に何をしてんだアイツは、と思っている人は少なからず居るだろう。

 

 と、この辺でカメムシを入れるバケツと作業後に撒く忌避剤のタンクを運ぶ事にした。少し離れた所の車へ戻ってバックドアを開ける。

 

「よっこいせ」

 

 忌避剤の詰まったタンク(まぁまぁ重い)を1つずつ車外へ。そんな中、腰へ違和感を覚えた。

 

(…………嫌な痛みが)

 

 鈍痛のような何かが襲い掛かる。急に動くのは避けたい。ゆっくり立ち上がって車体に両手を持たれながら深呼吸を繰り返すも痛みが引かない。どうしたもんか……

 

「お忙しい所、失礼を。陸軍丙型特殊船、あきつ丸と申します。出入り業者の方とお見受けしますが」

 

「同じく陸軍特種船、神州丸。何やらお困りのように感じたので声を掛けさて頂いた次第」

 

 りくぐん? 陸軍? 陸自じゃない? はて……

 

 声のした方向へ顔を捻る。片方はかっちりとした服装。もう片方は黒頭巾とでも言うような服装だ。そして2人共、一部がとても大きくていらっしゃる。

 

「……いやお見苦しい所を。立ち上がる時に変な力の入り方がしたようで少々腰が」

 

「なんと、それはお辛いでしょう」

 

「其方のタンクを運べばよろしいか。荷運びなら我らにお任せを」

 

 見た所、大和さんや武蔵さんのようなものは感じない。しかし予想を翻し2人は忌避剤の詰まったタンクを重ねて軽々と持ち上げた。

 

「自分たちは輸送。もとい、物を運ぶのが大きな役割でして。本来の手段ではありませんが、これぐらいならお安い御用であります」

 

「外部の方に本来の運び方はお見せ出来ない故、このような形で失礼致す」

 

 すげぇなこれ、昭和にあった蕎麦の出前みたいだ。

 

「どうもありがとうございます。自然区画の方へ運んで頂けると」

 

「承知した」

 

「お任せを。であります」

 

 2人に運んで貰って俺はバケツを持ちゆっくり後ろを歩く。自然区画へ戻った。

 

「おぉ、これは睦月型が全員集合でありますな」

 

「なるほど。カメムシの駆除であったか」

 

 振り返った睦月型が2人に向かって集まり始めた。先生を見つけた幼稚園児のようだと思ったのは言わないでおこう。

 

「となれば、貴殿が後藤田殿のようですな」

 

「我らは陸軍の船。このような荷運びの類なら任せて貰いたい。ここに居る時であれば、だが」

 

「お忙しいようですね」

 

「まぁ色々と」

 

「東西南北を駆け回っている身。いつでもと言えないのが口惜しい所」

 

 その後、2人も交えてカメムシの除去に勤しんだ。

 

「捕まえたっ」

 

「1匹ゲットにゃしぃ!」

 

「逃がさないからね~」

 

「おーっとっと、捕まえたよ」

 

「こうやって、こんな感じです」

 

「やって見るであります」

 

 捕獲機組は順調のご様子。

 

「ごめんなさいね。増え過ぎたのは誰のせいでもないけれど」

 

「害になってしまう分は、排除します」

 

「仕方ないぴょん~」

 

「この辺は私が受け持つ」

 

「では、こっちは任せて貰おうか」

 

「あーい、ここいらはやっとくよー」

 

「後学のために見届けるとしよう」

 

 半分程度は生かして捕らえる事に成功。この内の更に半分は鎮守府のあちこちへ少しずつ撒いて一極集中の棲息を避ける。残りは道路を挟んで向かい側の山へ放った。駆除した分は可能な限り集めて回収。後は忌避剤を撒くだけだ。

 

「んじゃ後はやっておくよ。皆は解散で」

 

「えっと、この捕獲機はどうすればいいでしょうか」

 

 三日月ちゃん可愛い。変な意味じゃなくね。

 

「1か所に纏めといて。持って帰るからさ」

 

「みんな~、ここに集めよ~」

 

 文月の一言で捕獲機組が同じ場所に置き始めた。人数が多い姉妹は連携が早い。

 

「殺虫スプレーはここへ。中身が極端に減った分は少し離しましょう」

 

 弥生が声掛けをして殺虫スプレー組が缶を置いていく。

 

「良い経験をさせて貰いました。感謝申し上げる」

 

「なるほど、これが棲み分けと言うものか。生きる上では避けられぬな」

 

 何かしら得るものがあれば幸いで御座います。2人にも解散して貰った。1人になる。

 

「さーて。後はこの辺に撒いて終わり、と」

 

「腰を痛めたと聞いたが本当か? そんな時は動きたくないだろうが出来る範囲で動いた方が良い。だからと言って過度な運動は禁物だが、体全体を軽く捻じったりする事で痛みを分散しつつ意識を反らせる。脳が勘違いするんだ」

 

 急に現れた日向さん。さっきの2人から腰の事を聞いたんだろうか……

 

「あー、実は大分マシになりまして」

 

「油断は禁物だ。腰にいいストレッチを教えよう」

 

 正月休みから怠けた分が一気に押し寄せるようなストレッチだった。やっぱ運動しなきゃダメですね……




ちょっとあれこれ積み込み過ぎた感……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。