鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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2号棟お披露目

 某日。提督さんから「旧棟のリフォームがある程度まで終わったので良ければ見に来ませんか」とのお誘い。今後の防除もあるので早速向かった。

 

 今日は来客用の駐車場へ車を停める。何か機材を持ち込む訳じゃないからいいだろう。

 

「執務室に顔を出してから行くか」

 

 そのまま向かってもいいけど研修期間の候補生さんたちがウロウロしている。いつまでなのかは知らされていないがこの期間だけって事で警備の人からストラップの入場許可証を貰っている上に自作の腕章もしてるが、要らぬ混乱は避けたい。

 

 

司令部棟

 

「どうもお疲れ様です。生まれ変わった旧棟を見に来ました」

 

「色々と様変わりしていますよ。驚かれるかもしれません。それともうご存知とは思いますが、候補生の受け入れに伴って見知らぬ顔が多くなっています。トラブル回避の意味も含めて暫くの間ですが、定期チェックの時などは1度こちらに来て頂いた後、案内を付けますのでご了承下さい」

 

「承知しました。よろしくお願いします」

 

 って訳で旧棟を見に行くための案内に深雪様がやって来た。妙に目がつり上がっているのは何故だろうか。

 

「ご案内仕る故、某に続かれよ」

 

「……かたじけのう御座る」

 

 朝ドラの時代劇にも影響されたのか凄まじい言葉が飛び出る。その上に低音。思わず乗ってしまった。

 

「良き日に参られた。さぞ旧棟の変わりぶりに驚かれる事であろう」

 

「如何様にまで変わられたのだ」

 

「かつての姿は消え失せ申した。最早新しいものになっておる」

 

 司令部棟を出るまでは付き合うけど建屋の外に出る前には流石にストップを掛けた。

 

「変な目で見られたくないからここまでね」

 

「これは失礼。んじゃ行こっか」

 

 ケロッと声色まで戻った。ギャグ漫画だったらすっ転ぶ描写が入りそうである。

 

「何か流行ってるの?」

 

「動画の企画でね、何か面白い事しようって話しになってて色々考えてんだー」

 

「出始めたんだ。最近見れてないからなぁ」

 

「2~3回前からかな。更新頻度は相変わらず遅いけどね」

 

 後で動画を見返したら「ユキミサマー」として出ていた。お面は恵比須様だった。誰のセンスかは聞かないでおく。

 

「あ、そうそう。新しい駆逐艦も来てるからタイミング合えば紹介するよ。今日は2人だけなんだけど結構人数多くなるっぽいね」

 

「マジか。覚えられるかな……」

 

 増員のために手付かずの森を潰して新しい寮を建てようとしたが、インフラ関係の値段が跳ね上がって旧棟の再利用になった訳だ。因みにオオスズメバチが潜んでいた森はもう跡形もないし、アライグマが根城にしていた缶詰工場も解体が終わって更地になっている。見知った光景が無くなるのは一抹の寂しさを感じるものだ。

 

「お、兄ちゃん。生まれ変わった旧棟を見に来たって感じかい」

 

「ようこそバーボンハウスへ。 このテキーラはサービスだからまず飲んで落ち着いて欲しいお」

 

 涼風と漣に遭遇。漣のそれは明らかに某所の古参を現す用語だけど俺はもっぱらROM専だったのを思い出した。

 

「見に来ましたよー。何所でそんな(いにしえ)の言葉を」

 

「最近色んな過去ログを読み漁るのが楽しいんですしおすし。特にオカルト板なんかは秀逸ですぞ~」

 

 女の子が読み漁っていいものではない気がするけど本人が面白いならまぁいいんでしょう。多分……

 

「あんまり浸かると戻って来れなくなるから注意ね」

 

「さ~ざ~な~み~」

 

 長姉の出現によって漣は逃走。姉的にはそういうディープな物に触れて欲しくないご様子。まぁ俺も仮にだけど下に弟妹が存在したら見せないかもしれない。

 

「こんちはー。んじゃ行くね」

 

「よろしゅうな。おはようさん、見に来たん?」

 

「お疲れ様です」

 

 陽炎型筆頭3女。陽炎は何か用事があるようなので退席。不知火はいつも通りだ。

 

「見に来ました。変な物が蔓延らないようにね」

 

「……せやな」

 

「急に周辺を探る必要性を感じ始めました。私も同行します」

 

「相当苦戦したって聞いたけどマジ?」

 

 そう言えば涼風は顔を合わせる機会が多いものの旧棟にはノータッチだった。

 

「……あんまり思い出したくないけど確かに苦戦したなぁ」

 

「お、おう。そんな遠い目されたらこれ以上は聞く気にならないから安心しろい」

 

 何だかんだ人数が増えながら裏に回る。そこには見覚えのない建物が存在した。

 

「……おー、綺麗だ」

 

 外壁は何かで覆ったのだろう。ちょっと新し目の建物に見える。木造校舎全体から滲み出る謎の圧迫感もすっかり消え去っていた。

 

「内装とかはまだ全部終わってないけど外見はこんな感じかなー」

 

「中入れるで」

 

「私は見回りに行きます」

 

「アタイも着いてくぜ」

 

 ここで不知火と涼風とは別れた。3人で中に入ると明るい空間が広がった。埃っぽさも消えて木材のいい匂いがする。そこに見知らぬ2人の駆逐艦?と一緒に居る吹雪&白露を見掛けた。さっき聞いた新たな駆逐艦を案内している模様。

 

「ちょいとお邪魔しますよー」

 

「あ、はーい。お疲れさまでーす」

 

「まだ何も出てないよー」

 

「出ないようにするのも仕事だっちゅーに」

 

 見知らぬ方が振り返った。2人とも同じ制服を着ているから姉妹艦なんだろうな。

 

「えーと……工事の?」

 

「違う違う。ちょうどいいから紹介しちゃうね」

 

 1人は緑色の髪を束ねている。もう1人は眼鏡で服の袖がかなり余っていた。何所かに挟んだりしてちょっと危ないんじゃないでしょうかね。

 

「2号棟メイン住人予定の2人でーす。他の姉妹も少しずつ来るって」

 

「夕雲型駆逐艦、1番艦の夕雲です」

 

「2番艦、巻雲でぇす」

 

 妹さんの方は誰かに似てるような気もするけどお姉さんは見た事のないタイプだ。それに何だこの異様に成熟したオーラは。駆逐艦の雰囲気じゃないぞ。また詐欺な子が増えてしまうのか。

 

「後藤田です。工事ではなく害虫害獣駆除の業者です」

 

「……何かそういうのが出てるんですか?」

 

「出ないようにするのも仕事の1つなんで中を見に来ました」

 

「まぁ、その内に色々手伝う事になるから楽しみにしててよ」

 

「イベントみたいに言わないで貰っていいですか」

 

「害虫って……どんなのですかぁ?」

 

 思わず言い淀む。当たり障りのないものはなんだろうか……

 

「主にハチとかだね」

 

「えー私らとんでもないのとここで」

 

「はいストップ!」

 

 吹雪が白露の口を手で封じた。色々あって聞きたくないし思い出したくないのもあるご様子。

 

「ウチの姉貴の前でその件はご法度だねぇ。今度余計な事を言うと可愛い口を縫い合わせちまうぜお嬢さん」

 

 何処からか取り出したのか知らないがサングラスを掛けた深雪が白露の肩を組んで謎の小芝居を開始。これはこれで面白い。

 

「2人が困っとるやろ~、その辺にしときや~」

 

「ここの皆さんは賑やかですねぇ」

 

「早く皆も来ないかな~」

 

 穏やかそうな娘たちで何より(?)である。彼女たちと別れ深雪&黒潮を伴い中を見て回った。

 

「会議スペースだった所は中に壁を作って2つに分けたんだ」

 

「手前が管理室になるらしいぜ」

 

「隣は何や打ち合わせなんかで集まるための場所になるみたいやね」

 

「あの配管室は?」

 

「外に出られるよう非常口になったわ。中の配管も新しゅうしたらしいで」

 

「コンクリぶち抜いたのか。すげぇ……」

 

 階段との仕切りになる木製防火扉は取り外されていた。真新しくなった階段を踏みしめて2階に上がる。右を向くと廊下側に面していた教室の窓ガラスは全てなくなり、1枚の壁になっていた。そこに引き戸が計10枚も見える。

 

「これは……」

 

「デザインは1号棟と同じ感じにしたっぽいな。中は2人部屋になってるよ」

 

 少々失礼する。引き戸を開けると確かに中も現駆逐艦寮、もとい1号棟とほぼ同じ内装になっていた。これは有難い。向こうの対策がそのまま生かせる。

 

「フリースペースやった部屋とその向こうもこっちと同じく2人部屋になったで。3階も全く同じや」

 

 そうなると右側だけで20人、左も合わせて40人か。3階を含むと80人分になる訳だ。とんでもない大増員に備える計画だった事が分かる。

 

「因みに……3階のあそこってその後は何かあった?」

 

「いやー? 工事はある意味で怖いぐらいに順調だったけど」

 

「なーんも異常あらへんかったみたいやわー」

 

「じゃあ結構。恐らく生き残りが居ないってのが分かったのは大きいな」

 

 素晴らしい事だ。胸を撫で下ろしつつ階段を上がる。3階に到達して左を向くと、そこにあの部屋はもう無く、2階同様の光景が広がっていた。右を向いても同じである。いい事なんだけど謎の違和感が俺を包み込んだ。

 

「…………全く知らない所に来たみたいだ」

 

「最早新しいものになってるって言ったろー? 確かに変な感じしないでもないけど」

 

「改装前のこん中に入ったの何やかんやでも30人おらへんからなぁ。多分その感覚あるんはウチらだけやで」

 

 廊下の窓から下を見ると裏手を見回る不知火と涼風が見えた。特に異常は無さそうである。

 

「2階と3階は全部こうなったと。あとは……」

 

「まだ炊事場だった所に行ってないな」

 

「……あそこはどうなったの」

 

「調理器具やら冷蔵庫は全部廃棄されたで。清掃の業者さん大勢来てえらい苦労したらしいわ」

 

 ですよねー。あれは今後暫くは見れないであろうレベルのものだったし……

 

「何つったっけ、システムキッチン? みたいな感じのが3つあって、冷蔵庫も相応の大きさのやつが2つぐらいになんのかな? 自分たちで作れる範囲の料理なら十分ってレベルのもんになったよ」

 

「2号棟はロビーあらへんからその役割も兼ねるみたいやね。調理室兼フリースペースみたいな」

 

「へー、見に行こう見に行こう」

 

 1階へ戻る。その調理室兼フリースペースへ繋がる所の木製防火扉は観音開きの大きな物に変えられていた。周囲の色と同じ色で自然な感じになっている。

 

「おー……綺麗じゃん」

 

 何だろう。料理教室が開けそうな雰囲気だ。それに明るい。椅子はまだ無いけど対面式で計10人ぐらいが座れそうなダイニングテーブルが8つ。これで人数分か。窓側にも壁に固定されたテーブルが見えるしそっちは高さ的にお洒落なカフェとかにある椅子が置かれる気がする。

 

「すげぇ。お店みたいな感じ」

 

「ここまでせんでも良かった気ぃせぇへん?」

 

「安くしてくれるとかそういうのあったんじゃねーの?」

 

 ありそうな話だ。にしてもこれは中々に良いと個人的には思う。

 

「では水回りをちょっと失礼しますよ~」

 

 キッチンに近付いた。新品ピカピカ。IHとガスコンロが両方使えるハイブリッドなやつだ。

 

「よいせっと」

 

 それぞれ下の収納を開けてみる。配管回りは特に問題なさそうだ。変な隙間も見当たらない。収納を閉めて上を見ると、換気扇が視界に入った。

 

「換気扇……ダクトが長いと何か棲み付くんだよなぁ」

 

 キッチンの配置は電車のホームの島式? みたいな感じで、入り口から入ると使ってる人の背中が見えるのが1つ。顔が見えるのが2つだ。上の換気扇は3つとも、恐らく途中で合流して1つの出口へ排出される形式に見える。

 

 その出口から何か入り込んだ時、何所に巣を作られるかは未知数だ。下手すりゃ強度の低い場所を食い破って天井裏をいいようにされる可能性もある。

 

「これは今から外を確認っと……あとはいいか」

 

「終わったー?」

 

「最後に外を見るよ」

 

「ええでー」

 

 外に出てダクトの出口を探す。それは2号棟の左壁面から飛び出していた。目の細かいカバーがしてある。しっかりネジ止めもされてあった。

 

「うん。当面は大丈夫そうだね。完全に工事終わって誰かしらが生活し始めたらまた見に来るよ。ここのデザインに合いそうな防虫防獣のグッズ持って来るから」

 

「おおきにー」

 

 そこへ見回りをしていた2人も合流する。

 

「異常ありませんでした」

 

「遠からず草刈りの算段しないといけねぇな、まだ先だけど」

 

「重労働やな~」

 

「んーと? もういい?」

 

「いいよー。執務室で報告するから先導願います」

 

 また深雪様の先導で執務室へ。所見を報告し軽く雑談してると候補生集団が現れたので失礼する。

 

「長居しました。今日はこれで」

 

「どうもありがとうございました。またよろしくお願いします」

 

 会釈しながら視線を感じつつ廊下に出た。そそくさと建屋からも出て駐車場へ。エンジン掛けた途端に耳元へ届く声。

 

「マタコンドユックリシテケヤ」

 

「セワシナクテワルイナ」

 

 お、もう片方は久々に聞いた。

 

「出張?」

 

「アーチョイトアチコチナァ、ヒサシブリジャネェカオイ」

 

 少しゆっくり目に走ってちょっと会話を楽しみながら敷地を出た。ゆっくりしてけと言われてもここは一般人から見れば軍事施設な訳であって遊びに来る場所ではないんですがね……

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