どうにも大雨が続いた月の半ばから月末にかけて、県内各地で土砂崩れや鉄砲水、中規模な洪水も発生した。ウチも何ヶ所か雨漏りしたのでビニール袋やガムテープを使った応急処置を行っている。
雨が収まった翌日。防除連絡網にチラホラと情報が流れ出した。
吹「鳳翔さんの畑、殆どダメになっちゃったらしいよ」
アヤナミ「あんなにずっと降ってたら仕方ないね」
マジか。しかしこうなるとモグラを意図せず完全に追い出せた事にならんだろうか。その後もたまーに見てるけどしぶとく1~2匹潜んでいる感じがしたから、他力本願だけどこれで仕留めるか出て行ったかになっていると嬉しい。
つゆしら「正門の所にでっかいカエルいた、山から流されて来たっぽい」
佐々波「道路が川になってるお」
しぐ「あちこち被害が出てるみたいだね」
鎮守府の中も大なり小なり影響を受けたようだ。まぁ天候には勝てない訳ですね。
数日後……
母は町内会の集まり。珍しく親父が外回り。1人で店番して昼を食った後にその連絡は来た。
佐々波「レンラクコウ シチコクヤマ」
(……となりのト〇ロ?)
何だろう。本当に連絡を取りたいのかどうか…… 取りあえず返信する。
後「あの映画、東京と埼玉が舞台って知ってる?」
佐々波「マ? それはそうとお仕事の相談でござる」
倉庫地帯の一画である生物が大量発生したらしい。巡回組の駆逐艦たちが見つけたそうだ。翌日に鎮守府へ出向く。
正門で毎度のやり取りを終えて中に車を入れる。今回は1号棟まで来て欲しいらしいのでそこまで行った。
「……お、居る居る」
話を持ち掛けて来た漣の他に見知らぬ艦娘が4名。制服的に陽炎型だろうか。
「やぁ戦友、共に壁越えと行こうじゃないか」
「俺、そのゲームはひとつしかやった事ないんだよなぁ」
動画で色々見てるから知ってる程度の人間です。やった事あるのは何とかファンタズマってやつだけだ。ハイエースから降りて5人を前にする。
「えーと? 見つけたのがそっちの?」
「如何にも」
「陽炎型16番艦、嵐だ。よろしくな」
見た事ないタイプだ。天霧とも少し違うカッコよさ。
「初風。陽炎型7番艦。姉さんたちから色々聞いてるわ」
ちょっとキツそうな雰囲気。まぁ初対面だし。
「舞風でーす。陽炎型18番艦でーす」
んー?
「陽炎型15番艦、野分と申します」
イケメンやぁ。キリっとしてますね。
して、18? 睦月型が11人姉妹ってこの前に知ったけど陽炎型ってそんなに居るのか。
「後藤田です。因みにだけど秋雲ちゃんって」
「秋雲は私の妹で19番艦だよー」
19人姉妹…… すげぇ……
「……あ、先導は」
「この漣にお任せを」
漣氏に連れられて状況の確認に向かう。こっちの
「んで、どういう状況で見つけたの?」
「何だっけ? アナグマ? そういうのが出入りしてるっての聞いてから皆で時間のある時に見回りする事にしたんだ。その途中でな」
「見付けたのは偶然よ。見付けたくなかったけど」
「ウゾウソしてます!」
「あれは、その……形容し難いものです」
名状しがたいバールのような何かって訳でもあるまいに。これ何だっけ。昔に深夜アニメでちょっとだけ見た記憶が……
「こちらにござりて」
気付けば倉庫地帯に足を踏み入れていた。とある倉庫と倉庫の間に何かが蠢いている。大量にだ。効果音を付けるなら「うじゃあ!」って感じ。
「……ヤスデだねこれは」
ムカデに間違われる事もあるがこちらは無害な虫だ。漢字は馬陸。由来は一説によるとヤスデの足が動く光景が沢山の馬が走っているように見える所から来ているらしい。
「実害は無いけど不快害虫だね。この前の大雨で地下に居たのが一斉に出て来たのかな。触らなければ何も問題はないけど……」
振り返ると4人の顔はしかめっ面だった。まぁ女性にこの量は厳しいだろう。
「……一応念を押して言うけども噛んだりはしないよ」
「いやぁ…………そう言われてもなぁ」
「こんなに沢山は無理……」
「正直言ってあんまり見たくありません!」
「すいません、私もこれはちょっと……」
しゃーない。自然の分解者でも線引きを越えると厄介な存在になってしまう。
因みにヤスデは非常に強い繁殖力を持つ台湾原産の外来種が国内に存在する。今回のは色が黒いから在来種っぽい。外来種は色が明るいのだ。
「んー……人手……これは厳しいかな」
執務室に相談だ。相手が相手なのを伝えた結果、警備から人を向かわせるとの事。加えて候補生の人も行かせるので見学か場合によっては手伝いをお願いして構わないそうだ。
「お疲れ様です」
「どうすれば宜しいですか」
見知った顔のお二人。アナグマの時に先導して貰った伊藤さんと高橋さんである。
「ありがとうございます。ご覧の通りでして、男手が必要な状態です」
2人はヤスデの大群を見た。微妙な顔付きになるがどうして呼ばれたのかは理解出来たようだ。
「これを……どれぐらいまで捕獲か駆除すれば?」
「そうですね、3分の1は敷地外へ出しましょう。もう3分の1はあちこちへ撒いて分散させます。そもそもは益虫ですから居て損はありません。残りの3分の1は心を鬼にして……と言った感じですか」
「3分の1が相当な量になりそうですね」
こりゃ男手が3人では足りないな。提督さんから許可も出ているから候補生の方々にも手伝って貰おう。今後の経験になれば幸いです。
「まず分散させるのを集めましょうか。バケツか何かと、軍手よりはゴム手袋の方がいいですね」
「バケツは物置にあるので持って来ます」
「管理部からゴム手袋を貰いましょう。少しお待ちを」
「お願いします」
2人が居なくなったと同時に5人へもお使いを頼む。
「えーと、5人で在庫の殺虫剤を多目に持って来てくれるかな」
「おk」
漣の先導で1号棟に置いてある在庫を取りに行く。残された広樹と候補生集団。
「すいません。提督さんから言われていると思いますが少々お手伝いをお願いします。何度か見掛けているでしょうが自分は害虫害獣駆除の業者でして、ここの皆さんとは幾分見知った関係になります。怪しい者ではなのでお見知り置き下さい」
「各グループのリーダーは前に出なさい。この鎮守府だけかも知れないけれど、次のステップに入るための点数として本件における行動を評価します」
何時の間にか視界に入る加賀様。あー、来ちゃったか。まぁ俺だけじゃどうしても荷が重いってのは分かっちゃいますよねぇ。
「すいません、ありがとうございます」
「気にしないで頂戴。続けて」
「お疲れ様です。見学させて頂きますね」
秘書艦のナンバー……どっちだろう。大淀さんが1なのかそれとも加賀様が1なのか分からん。加えて確実に序列3位の鹿島さんもやって来た。
「あ、えっと、第1グループのリーダーです」
「第2グループです」
「第3は自分です」
それぞれが5~6人で1グループらしい。取りあえずこれからする事を説明した。
「お待たせしました、ありったけのバケツです。それとスコップも」
「ゴム手袋は使い捨てで100枚入りのを持って来ました」
警備の人たちも2人から4人に増えた。有難い。
「待たせたな」
「お、ありがとう」
5人が戻って来た。殺虫剤は25本ある。全員にゴム手袋をして貰い、ヤスデ軍団を少しずつ減らしていく。
「まず1つ」
「こっちも1つ上がりました」
あまり中身を凝視する気になれないバケツが出来上がった。量は控えめにしておく。3つになった所で分散をお願した。まず第1グループにお渡し。
「これを頼みます」
候補生の人らはバケツの中を見て顔を青くした。まぁ無理もない。
「……中身全部ですか?」
「全部ですね。日当たりの悪い場所か草木の多い場所、それか人目に付かない所にお願いします。ただ一か所に集中して撒くのは止めて下さい。大雨が降ったらここと同じような状況になりますから」
「適切と思う場所を探して。付いて行くわ」
第1グループは加賀様を伴って移動開始。その間に新たなバケツが3つ出来ていた。早いなおい。
「自分たちが見届けますね」
「第2グループ、出発!」
後から来た警備の人が第2グループを率いていく。更にすかさず出来上がるバケツ3個。
「次は自分たちが」
「一旦抜けます」
伊藤さんと高橋さんによって第3グループも出発した。残った俺と鹿島さんと5人。
「さて、駆除する分も少しは」
「あれでしたら貰い受けますぞ」
「平気?」
「大丈夫だ、問題ない」
「待ちなさいって、私らは大丈夫じゃないわよ」
そう言う初風の表情には余裕がなかった。心なしか距離も遠い。
「ヤスデのバケツに殺虫剤入れてグルグルかき混ぜるだけの簡単なお仕事でござるよ」
「そ、それで本当に駆除出来るんですか?」
「こんなに居んだぞ。25本なんてあっという間になくっちまう」
「そしたら追加で持って来ればいいだけだお」
「簡単なお仕事ならお任せお任せ~」
2対3か。野分ちゃんはもう一押しで傾いてくれそうな雰囲気。
「そんな難しい作業じゃないよ。数は多いけどね」
「……では、ご指導をお願いします」
しかしまぁ、野分ちゃんイケボですね。
「どうしても無理ならそれはそれで。取りあえずこんな感じでお願いします」
ヤスデのバケツに殺虫剤を噴き掛け小さいスコップでかき混ぜる。あんまり多いと何かの拍子で外に出るからヤスデは半分よりもちょっと少ないぐらいの量でいいだろう。
「ゆっくりかき混ぜれば万遍なく殺虫剤が行き渡るから。5分ぐらいで動かなくなると思う」
「これ、何所に捨てるので?」
「車に黒の大きなゴミ袋あるからそこに集める。死骸は全部持って帰るよ」
って訳で作業を一部お願いした。漣氏ならいい感じに場を回してくれると思う。
分散させに行った人たちがまだ戻らないので取りあえず駆除分のバケツをゆっくり作ったがそれも数分とせずに終了。あんまり多いと大変だろうから5つぐらいで中断する。
「今、大丈夫ですか?」
「ああはいはい。どうしました」
鹿島さんが何か聞きたいご様子。
「この虫はムカデとは関係あります?」
「いえ、似てますが違う生き物です。ムカデには毒がありますけどヤスデに毒はありません。ただヤスデは体液に有害な物質が含まれてるんで潰したりすると一種の刺激臭が」
そこまで言った所で駆除組が騒ぎ始める。
「何か変な臭いするわよ! 大丈夫なのそれ!」
「あー、ちょっと厳しいですぞー」
「お、おい、離れた方が……」
「一時退避しまーす!」
「これしき……いえ、離れておきます」
やべ、言い忘れてた。
「しまった。ちょっとすいません、また後で」
駆除組に色々と説明しやり方を変える事にした。バケツには少量のヤスデを入れた状態で殺虫剤を掛け、動かなくなったらゴミ袋へ放り込んでいく形にする。だがこれだと駆除分は相当な時間が掛かりそうだ。
次の分散用バケツを作りつつ、頭の中で日を改める算段を立て出した所で第1グループが戻って来る。あからさまに疲弊した表情だった
「戻ったわ。次の分は」
「これらです」
「5分休憩にします。それが済んだら出発よ」
「因みにですが何所に撒きました?」
「重巡寮裏の雑木林に少し多目に。後は植え込みの中にちょっとずつかしら」
あそこか。まぁ手近な選択肢ではある。
「戻りました」
「すいませんお待たせを」
おぉ、第2第3もほぼ同時に戻って来た。少し休憩を挟んで次の分をお願いする。
(んー……今日は分散だけにして本格的な駆除分は明日の方がいいかな。次戻って来たら1度説明しよう)
殺虫剤より噴霧器の方が良さそうだ。正直ここまで多いとは思っていなかったのと体液の件を失念していたのであまり派手な事も出来ない。意外と強敵な予感がして来た。