鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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ヤスデを掻き分けて

 2回目の出発を見送り3回目の分散用ヤスデバケツが出来た所で再び鹿島さんとお話する。

 

「では続きですがさっきのように潰すとにおってしまいます。ちょっとやり方が拙かったですね」

 

「……今回は普段と比べて大変ですか?」

 

「作業量が多いのは事実ですけど危険な生物じゃないのでまだ安全です。ただ何年か前にヤスデが線路に大量発生してそこを走っていた電車が脱線だか起こしかけたとか」

 

「だ、脱線!?」

 

「自分も詳しい経緯は知りませんけど線路に居た無数のヤスデを踏んでブレーキが利かなくなって、らしいです」

 

 鹿島さんの顔が引き攣る。いや、故意に起きた事故ではないしヤスデも悪意があってそこに居た訳ではないが……

 

「ちょっとだけ見ます? 触らなければ何も問題はありませんが」

 

「ぃ……ひっ」

 

 遠目でもウゾウソするヤスデ軍団に恐怖する鹿島さん。ヤスデが本来は無害な存在だというのをアピールしようとしたが逆効果だったらしい。下手な事をするとお姉さんにしばかれるかも知れないのでこの辺にしておこう。

 

「大量に居ますけど1匹1匹は無害なんです。この前の長雨で地中に居たのが浮き出て来ただけだと思いますから。こういう光景は滅多に見ませんし」

 

「でもそれって……フェンスの向こうは凄いって意味ですよね」

 

 フェンスの向こう。まぁ、そうなるか。いや日向さんちゃうねん。

 

「ここに鎮守府が出来る遥か前からこいつらはここに居たんですよ。なので我々はこいつらの生態系を気にしてやらないといけないんです。人の手が入るってのは言い換えると環境破壊でもあるので」

 

 こういうのはすごーく難しい問題。Gだって本来は森に住む生き物だし。

 

 アライグマが根城にしていた缶詰工場一帯の森を切り開かなければ、あのスズメバチも全く可能性が無いとは言わないが殆ど誰かに実害を与える事なく生活していただろう。アライグマに関してはちょっと話が違うけど……

 

 あ、因みにチャバネ―ルにはモリチャバネゴキブリと言う在来種が存在します。こいつらは完全な森に住む連中で人家に定着しない種類と言われています。

 

「……そんな所まで考えてるんですか」

 

「呼ばれて行ってみたら相手が絶滅危惧種の可能性もありますからね。ヤスデは確か石垣島だかに居るのがそうです。仮にそういう場合はどうにかして追い出すしか選択肢がありませんけど」

 

 何だかんだ話している内にまた全員が戻って来た。3回目のバケツを渡す前に今の状況とヤスデの数を考慮し、別日で朝一からの作業をしたい旨を相談。加賀さんも居るのでその辺のスケジュールを同時に打ち合わせしてしまった。決行は明後日。候補生の皆さんは第3グループだけとなる。

 

 駆逐艦4名は次回も参加。漣は任務が入っているから参加出来ないそうだ。代わりに誰かへ声がけしてくれるらしい。今日はもう1度だけ分散を頼み、傍らでチマチマと駆除分もこなすに留める。

 

 因みに明日の天気は快晴。地面の水分が蒸発してヤスデが陽の当たらない奥の方へ行ってくれるのを願った。

 

 

 

翌日・正午

 

佐々波「磯浜風にオッケー貰ったでござる」

 

後「あざまーす」

 

 全員陽炎型になったか。あの娘たちは何というか話の早い所があるから色々助かる。

 

 ほいで翌日。噴霧器と薬剤のタンクやら諸々を積み込んで出発。9時前に鎮守府へ到着し現場へそのままハイエースを乗り付ける。既に磯風と浜風が待っていた。

 

「おはようございます」

 

「暫くだな」

 

「話は聞いてると思うけど数が多いからその積もりで……」

 

 おや? 何だろう。久しぶりに会ったせいなのか雰囲気が変わったのを感じる。

 

「……もしかして2人とも改二なった?」

 

「改二ではありませんが、特定の分野に特化する改装を受けました。改めまして、浜風乙改です」

 

「同じく磯風乙改だ。今後ともよろしく頼む」

 

「そういうのもあるんだ」

 

「因みに浦風姉さんと谷風も私たちとはまた違う改装を受け、丁改になりました」

 

「……テイカイ?」

 

「甲乙丙丁の丁だ。あまり馴染みのない漢字ではあるがな」

 

 改二だけじゃなかったのか。なるほどね。でもまぁ、俺に話せる情報はそれぐらいなんだろうな。つまり一般の人間に公開出来るレベルって訳だ。

 

 それから5分後、第3グループの皆さんがやって来た。前回は制服だったけど今回はジャージである。続いて嵐・初風・舞風・野分の4名。警備も一昨日に会った人が2人。高橋さんと伊藤さんは正門の警備シフトで動けないそうだ。なので今日はこれで全員。

 

「皆さんおはようございます。引き続き作業を行って参りますので、ご協力よろしくお願い致します」

 

 まずヤスデの状況を確認。一昨日よりも少なくなっていた。でも奥の方はまだ色々とアレである。分散用がもうちょっと必要なのを感じた。

 

「もう2回だけ分散用のバケツを作りますので、第3グループの皆さんにはそちらをお願いします」

 

 って訳でヤスデバケツの作成を開始。駆逐艦6名には前回同様に駆除の分をお願いした。

 

「ふむ、これがヤスデか。図鑑で見るのと実物は少し違うな」

 

「落ち葉を食べて分解するらしいわ。その糞が土を良くするそうよ」

 

「姉さんたち、いつそんな事を調べたんですか」

 

「相手を知るのは戦いの基本ですよ、野分」

 

「毒の有り無しが分かれば心構えも変わるものだ。油断はしないが」

 

「あんたら、何かそういうの研究する仕事が似合うんじゃないの」

 

「磯姉と浜姉はすげぇな」

 

「お仕事お仕事ー♪」

 

 舞風ちゃん完全に末っ子気質な感じだけどその下にあの子(秋雲)が居るって考えると不思議な気分になる。こちらは全員姉妹だから仕事も早いだろう。

 

 分散用は終了。駆除組へのバケツを用意する傍ら、倉庫の半分まで道を切り開いた。ここからは噴霧器で一気にやる。

 

「えーと……今から薬剤を撒きます。ある程度まで進んだら止まりますので、警備の皆さんには死骸を回収してビニール袋に収める作業の方をお願いします。あの黒いヤツに入れて下さい」

 

 既に駆除組が死骸を放り込んでいるビニール袋が4つほどあった。中身は全部がまだ半分にもなっていない。

 

「第3グループの皆さんは休憩で。この後に一番キツイ作業がありますから休んでて下さい」

 

 フェンスの向こうに運ぶのは人海戦術でやるしかない。今の内に休憩してて貰おう。

 

「では行きます」

 

 噴霧器を持って奥へ進む。ヤスデの群れに薬剤を掛けながら、出来るだけ、可能な限り死骸を潰さないようずり足で前に進んだ。

 

「お願いしまーす」

 

 3mばかり前進して1~2分待機後に警備の人を呼ぶ。薬剤は業務用だから即効性も高い。後ろのヤスデはもう殆ど動かなくなっていた。スコップとバケツを持った人影が近付く。

 

「下の土ごとでも大丈夫ですか」

 

「ある程度なら問題ないです。あんまり土が入ると袋が重くなって破けるかもしれませんからその辺は注意して下さい」

 

「作業開始!」

 

 微妙に聞こえて来る少量の土を掘り返す音を聞きながら、真後ろの死骸が無くなるまで待った。

 

「再開しますね」

 

 薬剤を掛けて進む。効き目が出るまで待つ。回収されるのを待つ。これを繰り返す事4回で敷地を囲うフェンスの手前まで来た。この辺はまだ大量に居る。

 

「駆除分はこれで終わりです。後は……」

 

 ついに来てしまったか。敷地の外まで運んで森に入ってあちこちに撒く作業が。

 

「別の所に通用口がありますんで、そこから向こうに出ましょう」

 

「え、そんなのあるんですか」

 

「アナグマの件で作ったんです。掘っている途中の穴を見つけて埋めてしまおうと思いまして。一々迂回するのも大変ですから」

 

 これは嬉しい情報だ。そんなに大移動しなくても済む訳だ。ありがたやありがたや。

 

「使わせて頂きます」

 

「鍵を持って来ますから少しお待ちを」

 

 表まで戻った。近くに積んである一昨日に使ったバケツを集め、ズラッと並べる。

 

「こちら、終わってます」

 

「運ぶのも手伝うぞ」

 

 磯浜がやって来る。やっぱり仕事が早い。

 

「んーと、森に入るから下だけでも長いのを履いてくれるかな」

 

「承知しました。みんな、着替えましょう」

 

 浜風が全員を引き連れていった。戻るのを待つ間に候補生の皆さんへ作業を説明する。

 

「通用口があるそうなのでそこから出て森の中にヤスデを撒きます。昨日と今朝同様、万遍なくお願いします」

 

「お待たせしました」

 

 鍵が到着。程なく陽炎型6人も戻って来た。それぞれバケツはヤスデを半分まで入れる。これが15個近く完成して並べられているのを見た初風が呟いた。

 

「……何か"ずもももも"って感じのオーラが見えるわ」

 

「言いたい事はなんとなーく分かるけどね」

 

 見ようによってはそういう何かが出ているようにも見える。

 

「先導しますので我々の後に」

 

「出発!」

 

 警備の人らを先頭に第3グループが進む。俺はその後ろを陽炎型6名と一緒について行った。通用口は4つ隣の倉庫と5つ目の倉庫の間。通路が広めになっている所の先にあった。とても網目が細かくて下にも隙間が少ない。何か入り込むのを防ぐためと思われる。

 

 南京錠が解かれて通用口が開いた。第3グループに続いて外に出ると、目の前には広大な自然が姿を現した。森の匂いが濃い。

 

「…………すげぇ」

 

 何が出てもおかしくない雰囲気である。海の方で熊の目撃情報は無いが、不意に危ないのと遭遇するかも……

 

「……建物以外で頭の上が全部木で覆われているのって変な感じだな」

 

「足元も不安定ですね」

 

 嵐と野分は落ち着かない様子。頭上に何もない海を走る彼女たちにとってはあまり経験のない事のようだ。歩きづらいのもあってか動きが悪い。

 

「この辺に撒こう、木の根元でいいよ」

 

「舞風、こっちの木にしましょ。浜風と磯風はあっちにお願い」

 

「承知しました」

 

「了解」

 

「こういうの何だっけ、放流? あれはお魚?」

 

「いいから早くしなさい」

 

 おや、姉妹を仕切っている。磯浜を呼び捨て? もしかして2人のお姉さんなの?

 

「……あの2人って何番艦?」

 

 隣に居た嵐に聞いてみた。

 

「ん? 磯姉が12番で浜姉が13だ。ここに居る中じゃ初姉が1番上だな」

 

 意外な事実を知ってしまった。なるほど。

 

「あんま前に出たがらないしぶっきらぼうに見えるけど面倒見はいいんだぜ、初姉」

 

「嵐、余計な事ばっか言ってないで手を動かして」

 

「へーい」

 

「あいた!」

 

「野分ー?」

 

「大丈夫、躓いただけです」

 

 うーん。長姉(陽炎)のリーダーシップ的な部分を感じる。やっぱ姉妹なんだなぁとしみじみ……いや、俺は何者だ。父親じゃあるまいし……

 

「終わりました」

 

「終わったぞ」

 

「全員終わった?」

 

 6名とも撒くのが終わったので補充したくないのを補充しに戻る。候補生の人たちも何人か戻り始めた。残念だが4つ目の倉庫の裏は何かカバーで覆われた物が積み上がっているので裏を直接通る事は出来ない。

 

「バケツ貰うよ。入れ終わったらどんどん運んでいいから」

 

 空いたバケツをヤスデで満たしていく。何を目的にこんな事をしてるんだろう、と言う気分にもなって来た。自分が運ぶバケツも作ってとにかくヤスデを敷地の外へ出す。候補生の方々は俺とそんなに年が離れてはいないので運ぶ用バケツは自分で作って頂く。軍手してるから素手で触れる事もないし。

 

 30分ばかりが経過し、倉庫の裏はようやく地面が見えて来た。もう一息だ。しかし……

 

「まだ居るのぉ?」

 

「……あー、終わらねぇ」

 

 初風は辟易気味だ。嵐もため息交じりになっている。

 

「休んでていいよ。合流は気力が戻ったらで」

 

「すいません、少々気分が」

 

「おーっと……大丈夫?」

 

「野分、部屋に戻って少し横になりなさい」

 

「1号棟まで連れて行こう。歩けるな?」

 

「はい」

 

「どんどん運ぶよー」

 

 陽炎型の戦力が一時的に6分の2まで落ち込んだ。浜風と磯風も疲れが見えて来る。でも舞風だけ元気。

 

「後どれぐらいだ」

 

 倉庫裏に走る。右はもう殆ど居ない。左はまだ何回か運ばないといけない感じ。

 

「……一気にやっちまうか」

 

 往復の移動が疲労を蓄積させていた。敷地の外も最初より50mぐらい先へ行ってヤスデを放っているからその分で移動距離が増えている。これでもし通用口が無かったらと考えると、もっと早い段階で全員がバテていた可能性があった。表に戻って警備の人を呼ぶ。

 

「すいません、次で最後にしましょう。長引かせるとこっちも消耗するだけです」

 

「分かりました」

 

「集合!」

 

 第3グループも足取りが重い。バケツをまた集めて満杯の手前までにする。何とかこれで最後の分に出来た。

 

「運びまぁーす」

 

「元気だねぇ」

 

「舞風、転ばないようにね」

 

 浜風と舞風以外は休憩に入った。でもこれでお終いだ。2人にも早く休んで貰おう。

 

「行きましょう」

 

「移動開始! 最後だ!」

 

「気を抜くなよ!」

 

 不思議と一体感が生まれていく。どうにかして無事に最後の分も外へ出し終わり、通用口の施錠を見届けた。まだヤスデがある程度は残ってるけど適正な生息数だ。放っておけば何所かへ行ってくれる。

 

「後日に様子を見に来ますが今日のような作業は最後になります。ご協力ありがとうございました」

 

 第3グループもホッとした表情になる。これはこれで良い経験になるでしょう。多分。

 

「お疲れ様でした。意外に手強い相手でしたね」

 

「下手に殺せないのが厄介だったなぁ。もう休んでいいよ」

 

「はい。失礼します」

 

「お疲れ様でしたぁー!」

 

 今日はここで解散。舞風ちゃんだけ謎に無尽蔵なエネルギーの持ち主と言うのが分かった。

 

 2日後に様子を見に行くと、倉庫の間と裏は元から何も居なかったかのような風景になっていた。残ったのは地面か落ち葉の下に隠れたんだろう。

 

「……本件は終了っと」

 

 諸々、書類を作って請求書等を提督さんに提出。無事に終わった良かったです。

 

(広樹です。あんな無限に続くエネルギーが欲しいとです。肉体改造するしかないんでしょうか)

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