駆逐艦寮の2号棟裏をデジカメ片手に歩く。前に周辺を調査した時、何かが草の中を移動するのを見たのだった。それと基礎の通気口にあった足跡。中を見た時に遭遇した廊下の糞。まだこれの犯人が分かっていない。
「……怪しい痕跡はないね」
何か見掛けたら記録を残しておこうと思ったが特にそれらしいのは確認出来なかった。
「数日に1度は見回りしている。特に報告は上がっていないな」
「通気口も新しい格子に取り替えられましたから、もう入れないと思います」
長月&三日月が今日の先導。ヤスデの件で俺の顔が知られたようだけど、まだ会った事のない候補生グループが2つあるそうなので先導が付くのは継続中だった。
「うん、今の所は大丈夫かな。1号棟で聞き込みするから移動しよう」
場所を移して1号棟。正面出入り口から天霧&狭霧が出て来た。
「よぉ、暫くじゃん」
「お疲れ様です」
「どうもー。少し聞きたいんけど何か動物は見てないかな」
「あ、悪いなぁ。ずっと居なくて昨日戻って来たばっかでさ」
「すいません、ここ最近の事はちょっと」
「OKOK、ごめんね」
2人が出て行った後でも1号棟の聞き込みは収穫なし。2号棟はまだ空きが多いそうだから情報は得られないだろう。
「じゃあ次は軽巡寮に」
「お供しますね」
「行こう」
連れ立って向かうも、有益な情報は無さそうだと言うのが個人的な考えだった。2号棟が動き出した事で周辺の環境も整備されたから近付かなくなった可能性が高い。
気付けば軽巡寮に到着。ロビーではとある3人組が談笑していた。
「お疲れ様でーす」
3人が振り向く。2人は既に顔見知りだけどまぁまぁ久しぶりでもある。
「いつもありがとうございます」
「久しぶりー」
何時だったか深夜に遭遇した川内。覚えてくれてたのが意外だった。隣には神通。そしてもう1人。
「……配達の人?」
「ううん、害虫害獣駆除の人。阿賀野が色々あれにしちゃったのを平定した伝説の存在」
「あれはその……大変でしたね」
「後藤田プロテクトクリーンと申します」
「那珂でーす。川内型3番艦。アイドル目指して、色々やってまーす」
あいどる。アイドル? 素性とかは大丈夫なんだろうか……
と思ったけど鎮守府の息が掛かってるって事は国の管轄にあるからどうにでも出来る? と自分の中で解釈するも実際は分からんですね。
「アイドルって何かこう、大変なイメージありますけど」
「やり方は本当に色々あるんですよ。私の場合は詳しく言えませんけど主に歌の動画とか作ってます」
「歌……歌ってみたとかそういうやつですか」
「よくやります。自分で作詞作曲もしますよ。そっちは何でかあんまり伸びないんですよねー…………もしかしてG田さん?」
「……え?」
ど、何所でその情報を……
「せいかーい。気付いちゃったかぁ」
「かげっちに見せて貰った動画と同じ作業服だったからもしかしてと思って」
「あ、那珂ちゃん。それ、余所で言い触らさないようにね」
「大丈夫大丈夫。なーんだお仲間じゃないですかー」
「えーと……まぁ協力してるだけで動画に出たのも数回程度でして」
拙い。作業服のバリエーションを増やさなければ鎮守府の外でも身バレの可能性がある。一先ず話題を無理やりにでも切り替えさせて貰おう。
「すいません、そいつは置いといてちょっと聞きたいんですが」
動物の目撃情報、或いはその手の話を耳にしてないかについて聞き出した。すると川内が……
「……先週だったかな。夜に戦艦寮の近くで何か動いたのを見たような気がしたんだよねー」
「戦艦寮ですか」
「視界の隅にチラッと見えたと思ったらもう居なかった。見間違いかも」
「私は特に」
「私もー」
「ありがとうございます。ちょっと行ってみますね」
軽巡寮を出た。ここからだと戦艦寮の間には重巡と潜水艦寮があるので先にそっちを回ってからにしよう。と言う所で時刻は11時半前だ。
(んー……昼にしちまうか)
「私たち、午後の用意がありますのでそろそろ」
「あぁ、はいはい。ありがとうございました」
「執務室の方に内線はしておく。他の誰かが来るだろうな」
2人と別れて車に戻った。食堂は候補生の皆さんでごった返すから暫く昼はコンビニ飯だ。食いながら防除連絡網でも情報収集を試みる。
鎮守府防除連絡網
後「敷地内で野生動物を目にした、或いは話を聞いた、等について情報を集めています。何かあれば一報願います」
つゆしら「ハト?」
後「ハトも糞害とかあるけど危険性の高い動物限定でお願いします。噛むとかそういうので」
しぐ「時間のある時にちょっと聞いておきます」
アヤナミ「分かりましたー」
取りあえずこれで何かあれば情報が入るでしょう。食ったので一休みだ。
13時前に電話があり、午後の先導に関して連絡を貰う。速吸さんが来るとの事。司令部棟前で落ち合う。
「お疲れ様でーす」
手を振って元気にやって来た。10代の男子だったら何か勘違いしそうだけど俺は三十路手前なので問題ない。でも内心は少しドキドキしました。
「どうもお久しぶりです」
さっき会えなかったので一応だが今日の件について説明。因みに速吸さんからも特に目ぼしい情報は無かった。
「では重巡寮からお願いします」
「はーい」
見た目は完全に部活のマネージャーである。男子校だったから女子マネという存在に一部憧れのようなものがあるのは確かです。
「噂で旧棟の事を聞いたんですけど凄く大変だったらしいですね」
「頻繁には思い出したくないっスね~」
「あ、ごめんなさい。じゃあ早く行きましょう」
悪い気もするけどあんなに悩み続けた日々は確かに思い出したくはないから有難い。とか何とか思っている内に重巡寮に着いた。しかしここと潜水艦寮でも有益な情報は得られない。
「戦艦寮に行きますか」
「はい」
程なくして戦艦寮に到着。正面出入り口から出て来たアイオワさんと遭遇する。
「Hello、今日はどうしたのかしら」
「野生動物に関して情報を集めています。ここ最近、何か見たりしませんでしたか」
「んー、バジャーの捕獲からは特に聞いてないわね」
バジャー? ああ、確かアナグマを英語で言うとそうだったっけ?
「そうですか。もし何かあれば提督さん経由でいいので連絡をお願いします」
「ごめんなさいね、明日からまたここを空けるのよ。アドミラルには話しておくわ」
「分かりました。ありがとうございます」
戦艦寮はさっき出て行ったアイオワさん以外は1人しか居なかった。取りあえず現状を説明して同行を願う。髪の色が独特なサウスダコタさんです。
「どういうのが危険な動物に分類される訳だ?」
「例えばゴミ捨て場を漁ったり自分の縄張りを主張したりするヤツですかね」
「なるほど、コヨーテみたいな連中か。そいつは放っておけないな」
コヨーテってかなり凶暴な動物だったと思うんですがアメリカじゃ日常茶飯事な存在なんでしょうか……
「あのー、コヨーテって砂漠とかのイメージが強いんですけど」
「最近は森に棲んだり街の中まで入って来るのも居るぞ。あちこちで遠吠えしてやがるんだ。もし本国に来る機会があったら十分に注意しろよ」
いやぁ恐らくそんな機会は無いでしょうね。英語話せないし。
ともあれ3人で戦艦寮の周りを見て歩いた。すると、裏手にある山城さんの花壇周辺で速吸さんが足跡を見つける。
「あの、これ、何の動物でしょうか」
「えーと……」
しゃがみ込んで足跡を見つめる。何だこれ。犬っぽいけど……
「……ちょっとこれだけじゃ何とも言えませんね」
「まさかコヨーテか?」
「いや日本国内でそんなの居たらニュースになってますよ」
これは写真に撮っておこう。後で監視のためのカメラを置く許可も貰わないとな。
「花壇の方は問題ないようだな。まぁ何かあればヤマシロが暗い顔でその辺をウロウロしてるだろうし」
「分かりやすいですね」
「ナガトには伝えておこう。私らも見回りする必要がありそうだ」
「よろしくお願いします」
「次は空母寮ですか?」
「ですね。行きましょう」
最後に空母寮へと向かった。道中ですれ違う艦娘たちにも聞き込みするが追加情報は無い。
「さっきの足跡は何でしょうね」
「知り合いに見て貰います。これだけで何かを特定するのは自分にはまだ無理ですので」
ここは日義さんの判断を仰ぐのが正解かも知れない。近々で家に行かねば。
「お、後藤田はんやん」
「あ、えっと……お久しぶり、です」
龍驤&ガンビア・ベイの不思議なコンビに遭遇。何か前の時もセットだった気がする。
「暫くです。今から寮に戻られますか?」
「せやで。御用聞きに来るんか?」
「いえ、野生動物の目撃情報を集めてまして、これから行く所でした。何か見てますかね」
「んー……ウチは特になぁ」
「わ、私もです」
「ではこのまま行きましょう。他の方にもお聞きしたいので」
「危険な相手なん?」
「まだ分かりません。注意はしておいて下さい」
「……UMA?」
「変な事言わんの」
「よっぽどのアレじゃなきゃそんなの居ないですよ」
しかしかなり前に"ツチノコ"らしい何かを道路挟んで向こうの山へ逃がしたんだよなぁ。そういう類じゃないのを祈る。
「まぁええわ。行こか」
そんなこんなで空母寮に到着。居たのはニ航戦の2人にイントレピッド&ホーネット。
「見てないなぁ」
「ごめーん、これと言って」
「Sorry、私は何も」
「アナグマ? あれからは何も聞いてないわ」
さーて何がこの周辺をウロ付いているのやら。俺にもよく分からなくなって来たぞ。
「分かりました。もし何かあればよろしくお願いします」
空母寮を出て少し歩いた。この段階で有益な情報は戦艦寮回りの事だけ。四六時中全員が居る訳でもないだろうから彼女たちから得られるのはこのぐらいだろう。
「他の所……もうないですね」
「執務室に寄って見ます。その後は正門の警備所もちょっと聞いて見ます。あれでしたらこの辺で」
「じゃあ執務室まではお供します」
って訳で提督さんの居る執務室へ。少し久しぶりに訪れる。中には提督さんとすっかり秘書艦の馴染んだ鹿島さん。
「お邪魔致します」
「どうぞどうぞ。鹿島」
「はい。コーヒーをお持ちしますね」
「あ、私は」
「遠慮せず入りなさい」
「速吸さんもどうぞ」
今さらだが執務室のレイアウトは正面に提督さんの机が1つ、秘書艦の机が左右に2つ。元から秘書艦の机は2つあって加賀さんと大淀さんが共有していたがその内の片方を鹿島さんが使い始めた。3人揃っているのはまだ見ていないからどれが誰の専用って訳でもない?
それと応接セットに色んな本棚。大きな時計もあって床の絨毯はそこそこ高い物に見える。
「野生動物ですか。ここ最近は特に話を聞きませんね」
「川内さんから夜に何かを見掛けたと小耳に挟んだんですが」
「え~……川内のあれは自分にも如何ともし難いものでして、お恥ずかしい事です」
「な、何かあるんですか」
「夜が好きだとか何とかで、消灯時間を過ぎても起きてるのがですね。敷地内に限ってウロ付くのを許可してまして」
よく分からないが小難しい事情があるようだ。深くは聞かないでおこう。
「コーヒー凄く美味しいです」
「良い物を頂いたんです。本当はアイスの方がもっと美味しいそうですけど」
横耳で2人の会話を聞きながら提督さんとお話。残念だが足跡以上のものは得られない。ついでにカメラの件を話したら了承は貰えたので後日に設置する事にした。
「では失礼します。ご馳走でした」
「また今度ゆっくりどうぞ」
「速吸、戻ります」
「お疲れ様です」
執務室を出て正門警備所へ。暫くの間は見回りの回数を増やしてくれるそうだ。今日はここまでにして帰宅。防除連絡網からも連絡はないまま3日が経過した。カメラを設置しに再び鎮守府へ。
「お、トラ吉だっけ」
「トラジだってば」
「姉さん、抱っこしたままはダメだよ」
猫を抱えて仁王立ちする白露を時雨が宥める。
「だってどっか行っちゃうし」
「自由にさせるってのが提督との約束じゃないか」
「でも」
白露の腕に抱かれていたトラ猫は暴れて地面に降り立った。そのまま何処かへ走り去る。
「もー! 夜には帰って来なさいよ!」
「猫はあんなもんだよ。変に行動を縛らない方がいいんだ」
「心配だなぁ」
ちょっと久しぶりにこの2人とも会った。足跡のある戦艦寮へ向けて歩く傍ら、時雨嬢から相談を持ち掛けられる。
「あの、畑違いなのは承知なんですが、猫との付き合い方を姉さんに教えて貰えると」
「畑違いだねぇ。でもちょっと考えておく。ベッタリな訳?」
「んー……構いたがりと言いますか」
「了解」
「時雨ー、何か言った?」
「何も言ってないよ」
まぁ初めて距離の近い動物と触れ合ったらそうなるのは分かる。俺も小学生の時に触らせてくれる野良猫と出会って変に構ったもんだ。そして気付けば居なくなっていた時の寂しさたるや……