鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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どちらも害はないんです 見た目以外は……

 定休日です。

 

 今日は休みじゃ、グフフ。

 

「えーと銀行で記帳して箱罠をメンテに出して……」

 

 平日に休みがある特権ですね。昼間に銀行とか役所に行けるのは嬉しい事です。ただ自営業となると休みが休みじゃなかったりするのもままありまして。

 

「これは~……スケジュール調整して……これの見積もり何所やったかな」

 

 あぁ、平日に時間作ってやっておけば良かったなぁ、と今日も思うのであった。

 

 色々と終わらせて午後2時。部屋で寝転がっていたら携帯が震える。これはラインの方だ。すっかり直通連絡の手段と化した防除連絡網のDMである。

 

ひびきん「休みの日に済まないね」

 

 珍しい相手からだ。そう言えば改装で名前が変わった筈だけどこのアカウント名は前のままらしい。

 

後「何か出た?」

 

ひびきん「間宮さんが折り入って相談したい事があるらしい。休み明けに来て貰えたりするかな」

 

 今週は2日休みの週だから行くのは明後日になる。スケジュール帳を開いて確認したが特に何も予定はなかった。間宮さんからの相談とあれば是非とも行かなければ。

 

後「了解、10時くらいでいいかな」

 

ひびきん「伝えておく」

 

 その後の連絡によって10時に行く事が決定。また少し時間が経ったのでついでに戦艦寮裏のカメラも確認しよう。何か映っているのを少しだけ期待する。

 

 

 休み明け。先に映像を見ておきたいので早めに家を出た。9時半に着くように出発して予定通りに到着。この事は伝えてあるので戦艦寮前には誰かが居る筈だ。

 

「……おはよう」

 

「お、おはようございます」

 

 山城さんでした。不機嫌そうな感じ?

 

「何か、動物が出ているそうね。カメラの件を聞いていなくてあちこちに忌避剤を置いてしまったわ。もしかすると悪い事をしたかしら……」

 

「あー……」

 

 とは言えこの周辺へ定期的に来ているのかどうかも分からないからまだ何とも言えない。その何とも言えないお陰で次の言葉が出て来ない。

 

「……やっぱり邪魔をしたのね」

 

「いえいえ、まだ全体的な把握は出来てませんからそんな」

 

 納得して貰うまでちょっと時間が掛かった。取りあえず裏へ先導して頂く所まで丸め込む。

 

「朝に見たけど足跡っぽいのは確認出来なかったわ……」

 

「一先ず映像をチェックしますね」

 

 戦艦寮を裏にして花壇の方向を映しているカメラの映像を見る。早送りで動物が映っていないか見続けるが、気付くと山城さんも隣に座り込んで液晶を凄まじい眼光で見ていた。

 

「……1回しかここに来ていない可能性もありますので」

 

「いいから、続けて」

 

 ひたすら早送りを続ける。前に確認した日から今日に掛けて足跡の主は映ってはいなかった。

 

「…………来ていないようですね」

 

「……じゃあいいわ。次は気を付けるから」

 

 何かこっちが悪い気分になって来るがあんまり取り繕うと変に深読みされそうな感じがして多くを言う気になれない。複雑な気持ちになりつつカメラのメモリーカードを交換。また録画状態で置いて次は間宮さんの所へ向かった。

 

 

甘味処 間宮

 

 車をはす向かいに停めて暖簾を潜る。知らない艦娘3人がテーブル席に座っていた。そこに配膳する伊良湖ちゃん。

 

「はい。芋羊羹とお茶のセットですね」

 

 いい組み合わせだなぁ。個人的に芋羊羹は番茶が合うと思うんですよ。

 

「どうもー」

 

「あ、おはようございます。間宮さんは奥に居ますのでこのままどうぞ」

 

「ではお邪魔します」

 

 厨房の方へ入らせて貰った。奥で間宮さんが何か仕込み的な作業をしているのが見える。

 

「お疲れ様です」

 

 擂粉木をグルグル回していた間宮さんの手が止まる。こっちを見ると安心したような表情になった。

 

「あぁ、お休みの日に伝言をしてしまってすいません。実はご相談が」

 

「どういった内容でしょうか」

 

「まずこちらへ」

 

 横のちょっと引っ込んだ所へ案内された。ここは確か休憩スペースだ。厨房部分しか色々とチェックはしていないから何気に初めて来る。

 

「あの……お恥ずかしい事なんですが」

 

「ええ」

 

「……前に、裏手の方で出没したあれなんですけど」

 

 裏手の方で出没した? あぁ、アレか。足のいっぱいあるアレですね。

 

「見ないようにしたり、見たら遠ざかったりしていたんです。冬場は全く出て来なかったので大丈夫だったんですけど、去年より多いような気がして……ちょっと」

 

「……そうですか」

 

「あと、大きな飛んでいるのが最近、外壁に居たりしてまして」

 

「大きな飛んでいる?」

 

「凄く細長いんですけど……動いているのを見ると嫌悪感を我慢出来なくて」

 

 何だ。大きな飛んでいる? 外壁?

 

「…………前のは分かりましたけどもう1つの方がどうも見えて来ないんですが」

 

「もしかしたらまだ居るかも知れません。一緒に来て下さい」

 

 そう言うと間宮さんは徐に立ち上がり厨房からホールを通り抜けて外に出て行った。急いで追い掛ける。

 

「あ、間宮さん!」

 

 自分も厨房からホールに出た。しかしその瞬間、見知らぬ3人がこちらを凝視しているのを確認してしまう。宜しくない印象を与えてしまった感じがするけど最優先事項は間宮さんを追う事だ。一旦気にしないでおく。

 

「間宮さん!」

 

 店の外に出て右に曲がった間宮さんを追い掛ける。すると、角の所で間宮さんは硬直していた。

 

「ぃ、居ます、そこに」

 

「え?」

 

 同じ方向を見た。店の外壁に、細長くて大きな虫がへばり付いているのが分かる。名前を言うとまた怖がりそうなので言葉を選んだ。

 

「…………あれはですね、ハエの仲間です。でも花の蜜を吸う無害なヤツなんです」

 

 間宮さんが凄まじい形相でこちらを振り返った。誰かの仇でも見るような眼だ。

 

「……血を吸ったりは」

 

「しないです。幼虫も草の根とかコケを食べます。見た目で損をしている虫の1つですね」

 

「そ、そうでしたか…………」

 

 既成概念を壊されたような感じだ。落ち着いて貰えたと思うのも束の間、右から集中する視線に振り返る。

 

「ど、どういう関係かしら」

 

「もしかして間宮さんの~?」

 

「雪風、初耳です」

 

 店の出入り口から見知らぬ3名が顔を覗かせて呟いている。どうやら何らかの勘違いをされているらしい。如何に否定するか悩んでいる所に正しく助け舟が現れた。

 

「何かあったのか?」

 

 おぉ長門様。凛々しいですね。

 

「あ……いえ、大丈夫です」

 

 どうにも間宮さんの言動が不自然な感じで誤解を加速させる気がしてならない。

 

「お疲れ様です」

 

「この辺で特筆した生き物は居なかったと思うが」

 

「実はアレが居まして」

 

 指差した先を長門様が見る。タイミングよくその虫が飛んで外壁に何度もぶつかりながら最後は上の方に行った。でも視界からは依然と消えていない。

 

「周辺に自然が多いとやっぱり出るんですよね。街中じゃあまり見掛けませんけど」

 

「……私もこれは、苦手な印象だ」

 

 マジか。でも表情の硬さが色々と物語っている。

 

「中に戻りましょう。無理に見ている必要はありません」

 

 取りあえず視界から消えれば思考も回復するだろうとの思いから2人を店の中に押し込んだ。

 

「伊良湖、済まないがココアを頼む。出来れば……甘めにして欲しい」

 

「はい。少々お待ち下さい」

 

 可愛い注文が聞こえたのを尻目に間宮さんと厨房へ。アレと裏手のを含めてどうするかお話しなければならない。

 

「それで駆除かそれとも忌避剤で近付かないようにするか、どちらを」

 

「……あの細長いのはどんな影響が」

 

「幼虫は農業方面で食害を起こしてしまいますけど成虫に害はありません。寿命が尽きるまで何も接種しない事もあるそうです」

 

 またもや自身の常識を覆されたような表情になった。目を見開いていらっしゃる。

 

「…………私に構わず本当の事を言って頂いていいので」

 

「全部本当です。残念ながら」

 

 その後、間宮さんはテーブルの模様をずっと見ているだけになってしまった。無理に存在を受け入れろとは言えないのでこちらから切り出すしかないらしい。

 

「ではこの周辺に薬剤を撒きましょう。忌避剤と殺虫剤の効果を併せ持ったのがありますのでそれを使います」

 

「……よろしくお願いします」

 

 と言う訳で、今回の相手はギブアップ宣言を出されてしまった店の裏手に出没するゲジゲジと新たな存在ことガガンボになります。ガガンボは大体が春から秋に掛けて飛んでいます。明るい色に集まる習性があるので白い外壁の建物なんかにも飛んで来る模様です。

 

 では重巡寮の在庫を取りに行くか。裏手にある雑木林の件であっちには強めの薬剤を常備しているからそれを使う。ガガンボは適当に追っ払ってしまえばいい。薬剤が効果を発揮すれば近付かなくなる筈だ。ゲジゲジはどうしようかな……

 

 ゲジゲジの事を考えながら店を出た所で後ろから呼び止められる。

 

「しれぇーから必要ならお手伝いするようにって言われました~」

 

 誰? しれぇー? 司令? 提督さんか?

 

「あー、これは申し訳ないです。じゃあ任せられそうなのがあればお願いします。害虫害獣駆除をしている後藤田です」

 

 さてこの3人。もしかして2号棟メインの住人と聞いた夕雲型か否か。

 

「陽炎型9番艦、天津風改二よ。あまり居ない事も多いけどよろしく」

 

「陽炎型8番艦の雪風、同じく改二です。間宮さんとはどんなご関係でしょうか」

 

「10番艦、時津風だよ~。お姉ちゃんたちから色々聞いてま~す」

 

 まだ見ぬ陽炎型だったのか。改めて思うけどやっぱり陽炎型はみんな個性が溢れている。あと3人して微妙に何かを期待するような目で見ないでくれませんか。

 

「いや間宮さんとは別に変な関係ではなくてですね」

 

「じ、じゃあ特別な?」

 

「お仕事での関係です」

 

「本当~?」

 

「雪風、口は堅いので秘密は守ります」

 

「何もありませんね残念ながら。それより早速ですが1つお手伝いをお願いします」

 

 こういう時は脳にタスクを追加してやると優先順位が変わる。体よく丸め込んで重巡寮までの先導をお願いした。ついでに忌避剤のスプレーも渡す。

 

「お店の周りに吹きかけて下さい。虫が寄って来なくなります」

 

「分かったわ」

 

「は~い」

 

「お任せ下さい」

 

 テクテクと店まで戻る。取りあえず正面出入口の周辺から始めて貰った。そして俺は横に回ってガガンボと対峙する。

 

「ちょっと退いて頂きますよ~」

 

 胸ポケットにある指示棒を取り出して伸ばす。こういう時に便利なのだ。

 

「どちらかへ行かれて下さい」

 

 ガガンボの横を叩くと不安定な動きで外壁から離れた。それでもまた戻って来るが何回か繰り返すと高めに飛んでフラフラと消え去る。この隙に薬剤を壁全体に撒いた。もしまた戻って来たら残念ながら殺虫効果によって死んでしまうがそれは仕方ない。

 

 一旦ここで店の正面に出た。3人がどんな様子か見ておかなくては。

 

「時津風、そんな遠くまで行かなくていいわ」

 

「え~? でも広く撒いた方が安全になるんじゃないの~?」

 

 とは言うが店から50mぐらい離れた所にスプレーを撒いている。確かにそんな遠くまではしなくてもいい。

 

「ダンゴムシさんを見つけました。垣根に移してあげます」

 

「ちょっと全然進んでないじゃないのよ。ある程度にしておきなさいね」

 

 うーん、初風ちゃんに近いものを感じる。あれ? でもダンゴムシを運んでいる雪風ちゃんの方が姉なんだよな? 何かよく分からなくなって来た。

 

「……お仕事お仕事」

 

 まぁ忌避剤は広範囲に撒けばその分だけバリヤー効果も得られる。特に危ない事もない筈から任せてしまっていいだろう。って訳で反対側の壁にも薬剤を散布した。さて問題はゲジゲジだ。

 

「…………側溝にでも逃がしてやりたいなぁ」

 

 しかし捕まえるのは至難の業だ。動きが素早いし体が細いから狭い隙間にも入れる。そうなったら暫くは出て来ない。難しい。

 

「……待てよ?」

 

 確か警備の人たちが蓋付きの塵取りで清掃しているのを見た記憶がある。もし借りられたらそこにゲジゲジを放り込んでしまえば後はこちらの思い通りだ。車にカラのホムセン箱も1つあるからそこに集めて道路向かいの山に放つも倉庫区画の何所かへ逃がすも自由自在である。

 

「よし、行って見るか」

 

 小走りで正門の詰め所へ行く。無事に承諾を得たので塵取りと箒を借りて店に戻り、3人はまだ作業の途中なのでそれを見つつ店の裏へ回った。

 

「……お、いらっしゃいますね」

 

 裏口の近くに1匹。済まないけど河岸を変えて貰います。

 

「ほいっと」

 

 まず1匹ゲット。上の方の壁に居たのは箒で落としてこれもゲット。続いて3匹4匹と捕まえる。合計で8匹だろうか。ゲジゲジに悪意なんてものはないだろうけど女性にこの数を見て見ぬふりさせるのは忍びない。厨房のG対策ばっかじゃなくてこの辺も気に掛けるべきだったかも知れませんね。

 

 ゲジゲジご一行は道路挟んだ向こうの山へ逃がし、道具を返却してまた店に戻る。裏手にも薬剤を撒いて仕事は完了だ。ここも定期チェックの項目に追加しておこう。

 

「もういいよー、お疲れ様でしたー」

 

「スプレー空になっちゃった~」

 

「雪風、もういいわよ」

 

「はーい」

 

 店内に戻って報告する。ココアの入ったマグを両手で持ってフーフーしながら飲んでいる長門様を可愛いと思う反面、その事を口にしてはいけないと思うのであった。と言う所で携帯が震える。電話だ。

 

「おっとっと」

 

 液晶には「第十七鎮守府 代表」の文字。提督さんだろうか?

 

「もしもし」

 

「お疲れ様。車で来ているのを見掛けたのだけれど、今は何所にいるのかしら」

 

 加賀様やー。厄介事の予感。

 

「今日は間宮さんから相談を持ち掛けられましてそのまま仕事の流れに」

 

「そっちが完全に終わってからでいいわ。後で空母寮に来て」

 

「えーと……何か出ましたか?」

 

「あなたが探している正体不明の動物を見たって情報があるの」

 

 マジか。有力な情報であるのを期待しよう。

 

「分かりました。後で向かいます」

 

「よろしく」

 

 通話終了。これは早く行かなければならない。ついに正体を拝める時が来たようだ。

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