鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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草刈り 午前の部

 少し時間が経つ。作業日も決まった。何度かやり取りした中で、当日の安全性を高めるため前日に駆逐艦寮周辺へ忌避剤を撒く運びとなる。全く何もせず草むらに分け入るよりは色んなものに遭遇する可能性が低くなるだろうと言う狙いがあった。

 

 そんで前日。撒きに来ました。

 

「……生え放題」

 

 改めて見るとかなりの雑草天国である。何が潜んでいるか全く分からない。

 

「ちょっと偵察したいけど……屋上行けるか?」

 

 1号棟の屋上から周りを見ておきたくなった。もしかすると蛇がとぐろ巻いて休んでいたら見えるかも知れない。管理室に行きましょう。

 

「後藤田でーす」

 

「はーい」

 

 出て来たのは五月雨ちゃん。周りの気温が1~2度下がったような気がする。

 

「どうしました?」

 

「明日に備えて薬撒きに来たんだけど、屋上から1度見ておきたいんだ。蛇とか動物がもし見えたら危険かどうか分かるし」

 

「屋上は……えっと、たしか今」

 

 管理室の中に戻って行った。何かしらの紙が挟まれたクリップボードを見ている。今が無理なら在庫確認にあちこち回って戻ってからでもいいけど。

 

「秋ちゃーん、これって今日だよね」

 

「んああ変な所にベタしちゃったじゃん」

 

「あ、ごめんね」

 

「保存するからちょっと待って」

 

 奥から聞き覚えのある声。ベタ? 漫画の黒いヤツだっけ?

 

「えーと……あー、撮影やってるね」

 

「屋上にはまだ出られないのかな」

 

「2時間も前からやってんでしょ。そろそろ終わるんじゃない?」

 

 そう言いながら視界に入って来たのは例の秋雲ちゃんでございました。

 

「あ、こんちはー」

 

「どうもー」

 

 明らかに末っ子の雰囲気ではない。いや、でもこの独特なマイペース感は末っ子的な部分も感じる。しかし直ぐ上の(舞風)と比べると何とも言えない気分になった。

 

「屋上ねー、吹雪たちが撮影してるわ。でもいい時間だから終わってるかも」

 

「撮影? あー、はいはい」

 

 もしかして明日の草刈りを撮るための導入部分でもやってるのだろうか。だとすれば明日は気を付けないといけない。

 

「どうしようか」

 

「いいよいいよ、あたしが先導で行って来るから」

 

「でも秋ちゃん、締め切り? 近いんでしょ?」

 

「いいの。さみっち何もない所で転ぶ時あるから危ないし」

 

「そんな事ないもん!」

 

 と言いながら秋雲に近付こうとした五月雨ちゃんは正に何もない所でコケそうになった。俺も思わず体が前に出るけど届く筈もない。秋雲氏が抱き留める事で転ぶのは阻止される。

 

「…………大丈夫?」

 

「……う~」

 

 少し涙目になって膨れる五月雨ちゃん可愛い。

 

 って訳で秋雲先生と共に屋上へ向かう。屋上にはロビー横の中央階段から行ける。猫が居た非常階段は最上階までしか行けない。

 

「んーと……しきしきー」

 

「撮影中だよー」

 

 屋上へ繋がる手前の踊り場で敷波が人留になっていた。

 

「あとどれぐらい?」

 

「まだ30分ぐらいは掛かるかも」

 

「だって」

 

「んじゃここで待たして貰います」

 

 俺が姿を現した事で敷波ちゃんの表情が変わった。

 

「え、何か出た?」

 

 大体はいつも俺が言うセリフを言われてしまう。もしかして浸透している?

 

「いや明日のために薬撒きに来たんだけど生え放題だから無策に分け入りたくなくてさ、屋上からちょっと周辺を見たいんだ」

 

「あー、なるほどね」

 

 階段に腰掛け2人と雑談しながら待つ。思っていたよりも早く終わったようで15分くらいだった。白露嬢のちょっかいを回避して屋上に出る。一通り見たけど問題はなさそうだ。

 

 と言うか今気付いたけど、2号棟の部屋側の窓が1号棟の裏に面しているから双眼鏡の類が使えない。下手すれば覗き扱いされてしまう。秋雲氏が傍に居なければ言い訳も何もあったものではないだろう。

 

 んで今日は忌避剤を撒いてお終い。明日に備えて早く休みます。

 

 

翌日・朝8時 駆逐艦寮1号棟前

 

 ハイエースで近付くに連れて大勢の駆逐艦が見えて来た。みんなしっかり野良仕事の出来る恰好である。1号棟を正面から見て左の方に駐車。バックドアを開けて荷物を取り出した。

 

「おはようございまーす」

 

「何でそんな明るい色の作業服なの」

 

 白露嬢に突っ込まれる。ガラじゃないけど今日はオレンジのツナギだ。たまに利用してる通販サイトで買いました。安いから材質はそれなりです。

 

「今日、撮影すんでしょ」

 

「するよ」

 

「俺は事務とか何かの人で手伝いに来てたって事にしといて。このツナギは今回しか着ないから身バレ防止」

 

「今日の導入はさっき撮ったしやってる間は手元と周辺しか映さない予定だよ。あと録画しっ放しはデータ大きくなるから区切り区切りでしか撮らないつもりだし」

 

「何所かで映り込むかも知れんからね。後でチェックした時に映ってたらカットかモザイクで」

 

「はーい」

 

 取りあえずこれでもし映り込んでも俺だと言う事にはならない。さてそろそろ意識を仕事へ持っていきましょう。

 

「おはようございます。珍しい色ですね」

 

「撮影するらしいんで別人感を出したいんですよ」

 

「……確かに普段のだと同一人物っぽく思われてしまいますか」

 

 提督さんにも察して頂けたご様子。動画に出る用の作業服を1着持っておいた方がいいかも。

 

「はーい集合。みんな居るかしら」

 

 よく通る声だ。聞こえた方を見ると陸奥さんがいらっしゃいます。同時にサポートメンバーも全員居た。

 

「疲れたと思ったら無理せずに休む事。1号棟に色々と用意してあるから使っていいわ。お昼はお弁当が人数分あるから自分が選んだのを持って行ってね」

 

 今日の昼は3種類の弁当から好きなのを選ぶ形式。俺も選ばせて貰った。

 

「私たちも手伝うから頑張って終わらせましょう。提督、何かあるかしら」

 

「怪我なく終わってくれればそれでいい。注意事項として通り雨があるかも知れない。その場合は一時中断して雨が上がったら再開するように」

 

 と言う訳で1号棟及び2号棟の草刈りが始まった。俺は2号棟を担当する。こっちの方が何か出る可能性が高いからでもあった。

 

 因みに、以前マムシが出た時に渡した異常を報せるための笛も事前に配布済みである。

 

「済まない。ちょっとだけ集まってくれ」

 

「はい」

 

 長門様に呼ばれる。サポートメンバーも集合した。

 

「こちらは10人居るから半々に別れて行動する。1号棟は私と夕張、それに千代田と北上、そして速吸だ。2号棟が陸奥、由良、千歳に球磨、そして神威でいこうと思う」

 

 2号棟組は何かいい感じに"お姉さん軍団"な気がする。

 

 そう言えばと思い返し胸ポケットの紙を取り出した。駆逐艦の最終的な内訳が書かれている。1号棟は吹雪型・朝潮型・神風型に変更。朝潮型が午後に抜けて初春型が合流。2号棟が白露型・暁型・陽炎型に夕雲型4人へ変更。暁型が午前で抜ける所までは一緒だ。そして午後からの合流で島風型の名前があった。

 

(……どんな娘でしょうね)

 

「では向かおう」

 

 別れて動き出した。2号棟へ向けて移動する。

 

「サボったら承知しないクマ」

 

「あ~、大丈夫大丈夫」

 

「んじゃ定期的に見に行くクマ」

 

「いやぁ~そこまでしなくても~」

 

 何か色々と気になるご様子。でもあっちはメンツ的にサボりは許さなそうな気が……

 

 とか何とか思っている間もなく2号棟へ到着。かなり久しぶりの暁型と出会う。

 

「давно не виделись」

 

「……ごめん、分かんない」

 

「久しぶり、って意味さ。改二になってから少し忙しくてね。あまりここに居ない側になってしまった」

 

 そう言うものの彼女とは比較的交流が多い方である。他の3姉妹はいつぶりだろうか。

 

「元気ー? 忘れてないわよね」

 

 これは逆に覚えててくれたのが意外です。

 

「覚えてますよ。雷ちゃんで合ってますか」

 

「せいかーい。午前中だけだけど頑張るわ」

 

「あ、あの、お元気でしたか?」

 

 電ちゃん可愛い。

 

「元気じゃない時もあったけど今は元気な方です」

 

「それは良かったのです」

 

「きょ、今日はよろしく。怖がったりしないんだから」

 

 よく考えるとこの娘が長女な訳か。秋雲氏もそうだけど不思議な気分になる。

 

「見慣れないのが居たら直ぐに報せてくれればいいからね」

 

「お疲れ様です。妹たちにご挨拶させたいのですが宜しいでしょうか」

 

 出ました、雰囲気が駆逐艦詐欺の夕雲様です。妹さんは今日は袖からしっかり手が出ていますね。

 

「あーどうもどうも。後藤田です」

 

「夕雲型3番艦、風雲です。お世話になります」

 

 背筋がピシッとしていて凛々しさと可愛さが同居した感じ。いいね。

 

「4番艦の長波だよ。何かこの辺、色々出るらしいけどマジ?」

 

 ハスキーボイスでイケメン。でも一部がデカい。視線に注意しなければ。

 

「まだ熊と猪は出てないね。こういう会話するとフラグが立つから黙っておきましょう」

 

「了解、確かにありそうだな。何も言わないでおくわ」

 

 挨拶も一通り終えたので作業開始。白露型と夕雲型が左回り、残りのこっちは右回りだ。

 

「どーれやりますかね」

 

 鎌を片手に草を刈ってゆく。本当は根っこから引っこ抜いた方がいいけど疲労が凄まじいので作業効率が落ちるのだ。手の力も入らなくなる。

 

「どんどん刈るよー」

 

「舞風ー、慌てるとケガするわよ」

 

 初風&舞風。前にもこんなやり取りを見た気がする。

 

「ちょっと舞姉こっちに飛ばさないでよ」

 

「あ、ごめーん」

 

 何処より秋雲先生の声。ああ言う呼び方なんだ。

 

 開始から早くも30分が経過。俺はもう地面に座ってある程度を刈ったら進むスタイルでちょっと楽させて貰ってる。

 

「浜風と野分、動きが悪いから休んで来るクマ」

 

「いえまだ」

 

「これしき」

 

「大勢居るから大丈夫だクマ。北上の様子を見るついでで一緒に休むクマ」

 

 サボりチェックの上手い口実と頑張りすぎる娘たちを適度に休ませるテクニック。

 

「刈った草集めるぞー」

 

「ゴミ袋居る所ありますかー」

 

 お、この声は江風と海風。ちょっと久しぶり。だが振り向いたそこには何となく容姿が変わった2人が居た。

 

「1枚貰っていいかな」

 

「あいよー」

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます。何か見た目変わったけど改装した?」

 

「ご名答。改白露型、江風改二だぜ」

 

「海風改二です。一緒に改装を受けました」

 

 改白露型? よく分かんないのでスルーしよう。他人様の事情に首を突っ込むべきではない。

 

 ピーー!

 

「……おやおや」

 

 鳴ったか。しゃーないですね。

 

「ちょっとごめん」

 

「着いてくぞ。ゴミ袋が役に立つかもな」

 

「危ない事はしないでね」

 

 江風と共に音のした方向へ小走りする。そこでは村雨嬢がしりもちを付いた姿勢のまま固まっていた。

 

「はい通りますよ」

 

「あ、えっと、鳴らしちゃったんですけど、大した事は」

 

「カエルぐらいで大げさっぽーい」

 

「カエル?」

 

 笛を鳴らしたのは時雨嬢らしい。村雨が何かに驚いて悲鳴を上げたので思わず吹いてしまったそうだ。見に行くと膝の上にカエルが居た。サイズは小ぶり。

 

「あー、草むらには居るもんだね」

 

「最近よく鳴いてんだよなぁ」

 

 摘まんで手の中に収める。軍手の上で動いているのが分かった。しかし村雨嬢はフリーズしたまま。

 

「……再起動しない件について」

 

「よっぽどびっくりしたっぽい。情けない声聞いちゃったっぽ~い」

 

「お姉ちゃん……大丈夫?」

 

 隣に山風ちゃんが座り込む。しかし声は届いていないらしい。

 

「しゃーねぇ回収するぜ。夕姉そっち持ってくれ」

 

「OKっぽーい」

 

 2人に抱えられていく村雨嬢を尻目にカエルをちょっと遠くへ逃がした。んで作業を再開。

 

「えーと……ここだここだ」

 

 中途半端に円形状へ草を刈った所に戻って来る。さっき貰ったビニール袋に放置していたのを集め、刈って溜まったらまた集めるのを繰り返すだけの簡単なお仕事です。ただし肉体労働。

 

 何だかんだ、その後はトラブルもなく進行。休憩も入れ替わり立ち替わり。

 

「ふー……もうちょっとやったら休むか」

 

 刈る。溜まる。集める。いっぱい刈る。いっぱい溜まる。一気に集める。どれが効率的かと言われると何とも言い難いのだった。

 

「お疲れ様で~す。そろそろ休憩して下さいね」

 

 千歳さん登場。

 

「これを集めたら休みますよ」

 

「じゃあ手伝いますね」

 

 隣にしゃがんで草を集める。はて、視界の隅に大きな物体が見えます。しゃがんでるせいで膝に潰されてはち切れそうな……

 

「今日も暑くなるらしいですから、熱中症に気を付けて下さい」

 

「これで終わって風呂に入ってビールでもあれば最高ですね」

 

「あら、提督に言って下さればそんなの。たまにはお店来て下さいね」

 

「いやここでやると帰れなくなりますよ」

 

 何ですかこれ。繁華街の会話じゃあるまいし。

 

「この前いいお酒入ったんです。純米大吟醸ですよ。あと有名なクラフトビールも」

 

「千歳ー、飲み仲間を増やそうとするの止めるクマー」

 

 球磨さんの介入によって事無きを得た。でもなぁ、美味そうだなぁ……

 

 と言う所で昼が近付いて来た。午後も無事に進行する事を願います。

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