鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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遅ればせながら、明けましておめでとうございます
本年もどうぞ宜しくお願い致します

※今回、初の妖精さん登場回となりますが、主人公は一般人なので姿形は見えません。結果、恐らくこんな解釈になると思いつつ仕上げましたのでご了承下さい。


蝕まれる司令部

 毎度、後藤田プロテクトクリーンで御座います。親父が店の車を運転中に、道路脇へ寄りすぎて側溝にタイヤを嵌めやがりました。ドライブシャフトも折れたので修理に出したら「今混んでるから時間掛かる」と言われて早3日。久々の原付に跨って営業中です。

 

「あー……腰いてぇ」

 

 バイクには背中を預ける物がないので体が痛くなる。あと何日これで回らないといけないのだろうか。糞親父め、そろそろ車もう1台買えるぐらいの金はウチに十分ある筈だぞ。軽でいいから1台増強してくれ。

 

「あと2軒あと2軒」

 

 とっとと済ませて今日はもう店仕舞いだ。帰って熱い風呂に入り、筋肉をよくほぐさないといけないだろう。

 

 

 数日後、車が午後に戻って来ると言う時に鎮守府から電話が入った。急ぎで来て欲しいとの事なので、取りあえず俺は原付をかっ飛ばす。

 

「後藤田プロテクトクリーンです、お世話になります」

 

「おや、原付とは珍しいですね。こちらいつものお願いします」

 

 正門で警備の人といつものやり取りを終え、敷地の中へと入って行った。来客用駐車場の脇に原付を停めると、麗しき大淀さんが出迎えに来てくれる。

 

「おはようございます、後藤田さん」

 

「おはようございます。今日はどうされましたか」

 

「少々面倒なお仕事になるかも知れません。取りあえずこちらへどうぞ」

 

 少々……ね。ここで起きた仕事で簡単な物は少ないと思うが、まぁ状況を見てから判断するとしよう。そして俺は大淀さんに連れられるまま、施設の中へ足を踏み入れた。

 

「……あの、ここって一般人は立ち入れないんじゃ」

 

「今日は特別に許可が下りました。まず見て貰わないと、私たちにも事態の度合いが分かりませんから」

 

 なんと今日は絶対に入れる事は無いと思っていた司令部施設に、お墨付きで入る事が出来るようだ。こういう時は周りをキョロキョロしない方がいいと何かの映画で見た気がする。前を歩く大淀さんの後姿だけを追いかけた。いや、別にやましい気持ちはこれっぽっちも……

 

「提督、後藤田さんをお連れしました」

 

「こんな所で申し訳ありません。今日は折り入って、是非にでも見て頂きたいものでして」

 

「何でしょうか」

 

「これなんですが……」

 

 しゃがみ込む提督さんの横で、俺も同様にしゃがんだ。そこには壁に埋め込まれた立派な木の支柱がある。提督さんはその根元を指差した。木が一部剥げ落ちており、中には何かが食い荒らしたような痕跡が残っている。

 

「……シロアリですね」

 

「なるほど、やはりそうですか」

 

「この建物は全て木造ですか?」

 

「一部を除いて、ほぼ木造です。となるとこれは厄介だな……」

 

 提督さんと大淀さんは2人して難しい顔をした。シロアリの痕跡が見られると言う事は、その建物は既に【末期症状】である事を意味する。

 

「道理で最近、あちこち建て付けが悪かった訳だ」

 

「如何致しましょう。司令部棟建て替えの話は昨年から論議されていましたが、ここの順番が回って来るのはもう少し後になります」

 

「仕方ない。上申して一刻も早く工事の順番を回して貰うよう手配するしか」

 

「建て替えに関してどうこう言える立場ではありませんが、対処療法で良ければ幾つか策があります。ただし、もう駆除が出来る段階でない事はご理解下さい」

 

 話し合いの場を応接室に移した俺たちは、入念なやり取りを進めた。結果として、向こう一週間程度の間だけ建物が持てばいいとの結論に達し、取りあえずその間だけ司令部棟を生かすための算段を始める事となった。

 

「では一度戻って準備を整えます。司令部棟の家財道具や私物は今からでも移動を始めた方が良いでしょう」

 

 警備の人に一旦戻る事を伝えた俺は、店に帰って諸々の準備を始めた。

 

「親父、車戻って来たらこのリストのヤツ積み込んで鎮守府まで来てくれ」

 

「お、またあそこで仕事か。結構結構」

 

 持てるだけの道具を持ち、また鎮守府へとんぼ返りする。予め伝えておいたので正門のやり取りはスルーだ。本当は良くないんだろうけど…

 

「お待たせしました。では作業の説明を致します」

 

「人手は有り余ってますので、存分にお使い下さい」

 

 そう言う提督さんの後ろには、駆逐艦軍団が勢ぞろいしていた。殆どが既に顔馴染みだが、知らない娘たちもチラホラと見受けられる。その大勢を前に話し出す俺も、少しはこの環境に慣れて来たのを実感していた。

 

「今から行うのは、司令部棟の基礎部分にシロアリの通り道、もしくは卵が産み付けられていないかの調査になります。発見次第、位置を確認してゴム手袋を装着の上で殺虫剤を撒いて下さい。後の処分に関してはこちらで行います」

 

 艦娘たちが一斉にバラける。茂みを分け入り、木々の隙間に入り込み、足元にある基礎部分をくまなく探していった。殺虫剤を撒く音があちこちから聴こえて来る。

 

「既にかなりの群が入り込んでいるでしょう。取りあえず、これ以上の新しい集団を形成しないようにします」

 

「また大仕事をお願いしてしまって恐縮です」

 

 スプレー音が段々と聴こえなくなった辺りで、基礎に蔓延る通路や卵の処分に向かった。金属製のヘラでガリガリと削ぎ落としていく。

 

「……腰が痛い」

 

 中腰での作業がとても辛い。座った方が楽なので、土の上に腰掛けて作業を続行する。黙々と処理をしている内に、ふと誰かの話し声が聴こえた。

 

「オ、アイツガゴトウダッテヤツダナ」

 

「ホウットケ、ドウセオレタチノコトナンテカンジトレナイサ」

 

 何とも言えない高音且つ電子音のような声だ。辺りを見回すが、近くには誰も居ない。

 

「ナンダオマエ、オレタチノコエガキコエルノカ」

 

「オーイ、ココダ、ミエルカ?」

 

 と言われても姿形を確認する事が出来ない。気のせいか何かだと思い直した俺は、作業に意識を戻していった。そんな俺の背後から忍び寄る影が1つ存在する。

 

「今お仕事中でしかも腰が痛いんだ。頼むから脅かさないでくれ」

 

「あーもー何で気付かれたかな!ってか後藤田さん空気読んでよ!」

 

 毎度お馴染みの白露ちゃんでした。そうは言われてもこれで驚かされたら恐らく腰が天に召されてしまうだろう。それだけは勘弁してくれ。

 

「自分だって何かしてる最中に驚かされたくないだろ?そういう事だよ」

 

 作業が一段落した俺は、どうしても悪戯を仕掛けたい白露ちゃんを牽制しつつ他の場所へ向かった。1時間ばかり掛けて基礎部分の通路と卵の除去作業が完了する。

 

「取りあえず、第1段階は終了しました。基礎への追加殺虫剤噴霧はまた皆でお願い出来ますか」

 

「分かりました。次はどうしましょう」

 

「中を探ります。どの辺が棲息範囲なのかを調べます」

 

 司令部棟の中へ戻り、支柱や床と壁の接合部分をくまなく調べ回った。シロアリは見つけ次第、発見した場所を見取り図に書き込んでいく。

 

「奴らが居る所は床を踏み抜いたり一部崩壊したりする危険があります。印をつけた所には近付かないようにして下さい」

 

 こうなると、司令部棟で安全な場所は少なそうだ。早めに物を運び出す必要性もあるが、大きな家財道具を移動中に何所か壊れる事も考えられる。何ともやり難い相手だ。

 

「……これはかなり危険な状態ですね」

 

 数時間後、見取り図に書き込んだ印は全体の80%に上った。これでは殆どの場所が危険である。

 

「大淀、取りあえずでも動かせる物を大至急で運び出そう。下手すると倒壊する恐れもある」

 

「分かりました。表に居る皆を呼び寄せます」

 

 その後、約2時間を費やしてある程度は物の運び出しが終わった。外に置いた棚や家具からパラパラとシロアリが顔を出したので、それらには殺虫剤を容赦なく掛けていく。

 

「ありがとうございました。後はこちらで処理しますので、今日はもう大丈夫です」

 

「余りお役に立てず申し訳ありません。もっと早い発見だったら、何とか出来たのですが」

 

「何れは建て替える予定でしたので、その前倒しだと思う事にします。他に何かやっておかないといけない事はありますか?」

 

「ある程度の段階は過ぎてしまったと思いますが、成長すると羽蟻になって外へ出ます。そこからあちこちへ飛んで別の集団を形成する恐れがありますので、取り壊しの直前まで建物とその周辺に殺虫剤を撒き続けて下さい」

 

「分かりました。そのように致します」

 

 今日はこれでお終いだ。結局、親父の出番は無かったので家に連絡を入れておく。撤収準備をしていると、後ろから近付く存在を察知した。

 

「だから勘弁してくれって」

 

「今度こそと思ったのに!」

 

 また白露ちゃんだった。と、ここで謎の声を思い出した俺は、質問を投げ掛ける。

 

「ちょっと質問いいかな」

 

「なーに」

 

「電子音声と言うか、妙に甲高い声をここで聴いた事ないかい?ここじゃあ皆の方が長いし、俺だけそれを聴くってのも変な話だからさ」

 

 それを言うと白露ちゃんの顔が引き攣った。汗がタラーっと落ちていく。

 

「……なに」

 

「私の口からは申し上げられません」

 

「どうして」

 

「言えません!」

 

 逃げられてしまった。まぁもしかすると幽霊的な存在かも知れないし、実はここではかなり有名な怪談話がある可能性も捨てきれ

 

「キョウハオワリカ、ゴクロウサン」

 

「スマンナ、モットハヤクミテモラエバヨカッタ」

 

 耳元でまたあの声が聴こえた。今度こそ聞き間違いじゃないが、余りにも急すぎてビックリした俺は、勢いそのまま原付を発進させて逃げ出した。

 

「あれ、今日は終わりですか」

 

「お疲れ様です!またその内に!」

 

 警備の人との別れもそこそこに俺は家路を急いだ。家では一切そんなのが聴こえないから、やはりあれは幽霊か何かの仕業なんだろう。次行く時は土地の神様へ十分にご挨拶を済ませてから仕事をする事を誓った。

 

(広樹です、ご無礼をお許し下さい。命だけはご勘弁を)

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