草刈りから暫くして注意喚起のポスターが出来た。まぁ前回のデータを使い回してレイアウトやら色を少し弄っただけなんですがね。
これを貼るための日時を提督さんに伝える。んで今日がその日。
「お疲れ様でーす」
「おはようございます。前の方にどうぞ」
毎度お馴染み許可証のスキャンも終了。取りあえず執務室に顔を出して十数部ばかり手渡しするため司令部棟へ。後は俺が出入り出来る場所に貼っていくだけだ。出入り出来ない所は提督さんにお願いしている。
執務室まで来た。ドアをノックします。
「はい」
お、加賀様の声。
「後藤田です。失礼します」
中に入る。しかし提督さんは居なかった。居るのは加賀様だけ。
「お疲れ様。提督は書類を出しに行っているだけよ。すぐ戻るから」
「分かりました」
取りあえずソファへ誘導されたので座ろうとした瞬間に提督さんが戻って来た。作ったポスターを渡してしまう。
「こちらが注意喚起のポスターです」
「ありがとうございます」
残りはあちこちに貼る。誰か先導になるかと思いきやそれはなかった。候補生の人たちは別の鎮守府で新たな教育を受けるため少し前に全員がここから移動したそうだ。
「そうすると前の状態に戻ったんですね」
「ご不便をお掛けしました。ですが、今度も同様の研修でここが選ばれる可能性はありますので、その際はまた色々と」
「承知しました。大丈夫です」
腕章やら何やらを身に着ける必要性がなくなったのは嬉しい。でも何か出て大捕り物でもする場合は手数をアテに出来なくなるがこればかりは仕方ない。
「ではこれらを貼りに行きますので」
「よろしくお願いします」
執務室を出て近場から始めた。それが終わると駆逐艦寮へ車を向ける。
1号棟前
「ここは……3枚か」
正面出入口に1枚。管理室の横に1枚。給湯室に1枚だ。ポスターを手に取って管理室を目指し歩き出す。
「お疲れーい」
「お疲れ様です」
深雪&薄雲が出て来た。あんまり見ない組み合わせな気がする。
「どうもー。管理室は誰か居る?」
「今日は…………誰だっけ?」
「レーベさんとマックスさんですね」
あー、長期出張中とか聞いた気がするけど戻って来てたのか。まぁもう顔見知りだし何も気にする必要はない。
「了解。因みにこれ、季節性の害虫に関する注意喚起のポスターね。今まで通りだけど何かあれば連絡下さい」
ポスターを見せて別れる。管理室に居た2人にもこれを見せて画鋲を借り、3カ所に貼り終わった。次は2号棟にも行かないといけない。
「2号棟、新しい娘たちがオリエンテーション中だわ。念のため一緒に行きましょう」
「誰か付き添いしてるよね」
「アクィラさんの筈よ」
1号棟から出て裏に向かう。タヌキの目撃情報はもうない。溜め糞も確認出来てない。ただ今度は違う野生動物を可愛いと言っていそうな気がするから定期的に話を聞いた方がいいかも知れない人だ。
「アクィラさんって事は……イタリアの娘たち?」
「ええ。4人ね」
「あ、ザラさんだ」
2号棟に入って右へ曲がる。小会議室の前にザラが居た。
「何してるんですか?」
「誰かに用かしら」
「え? あ、えっと、私は別に、あの、そういうのじゃなくて」
慌てふためくザラさんも中々可愛い。いや今は置いといて……
「……様子を見に来た?」
「はい。あの、アクィラさん、ちょっと抜けてると言いますか」
「のんびりはしてるわね」
「自由な感じだよね」
新しく来たイタリア駆逐艦へのオリエンテーションを買って出たらしい。何となく心配になって見に来たそうだ。
「でも、あと少しで終わりそうなんです」
「じゃあ待ちましょう。因みにこれ、季節性の害虫に関する注意喚起のポスターです。後で重巡寮にも張りますけどいつも通り何かあればご連絡を」
待つ事、数分。無事に終わったようだ。ゾロゾロと出て来る。
「終わりました?」
「終わったわよ~。どうしてザラがここに?」
「ん、その、何かあれば、サポート、しようかと」
「あら~、ありがとう」
口調がギクシャクしているも気にはしてないようだ。そしてアクィラさんの後ろから姿を現したどうにも薄着の艦娘たち。肌が微妙に焼けているらしい。
「お疲れ様です。因みにその後は何か見掛けたりしてませんか」
「タヌキさん以来は何も。少し残念ですけど。あ、みんな、ちょっと集まってね。今日居るメンバーとは全員会ったけどここには外部から出入りする人たちも存在するの。その1人がこの方よ」
後ろに居た4人が前に出て来る。これがイタリア駆逐艦か。見た目は日本の娘たちに比べて何となく幼く見えるがしかし……
「後藤田です。んーと……害虫害獣駆除のサービスを提供しています」
これで通じるだろうか。そもそもこの娘たちはどれほど日本語が出来るのか。
「マエストラーレ級駆逐艦、ネームシップのマエストラーレです、よろしくお願いします」
あ、何所となく予想してたけどやっぱりお姉ちゃんだったようですね。
「2番艦グレカーレ、チャーオ」
この漂う駆逐艦詐欺の雰囲気。考えなしに近付くのは止めた方がいいかもしれないです。
「3番艦のリベッチオでーす」
長女に似ている。ような気がする。でも大潮ちゃんタイプ?
「あ~……4番艦のシロッコで~す」
眠そうっスね。望月&初雪と仲良くなれそう。
「何か出たりしたら……ってまだどれが危険なのかは分からないと思うんで、1号棟の娘たちに報せて下さい。そうすればこっちに連絡が来るから見に行きます」
新しい海外艦向けの資料も必要だろうか。特にこの2号棟で生活する娘たちはここでどんな虫や動物が出るかを知らない。1号棟の誰かが見に来てもいいけどその間に何所かへ逃げたり隙間に入られると営巣される危険性もある。
「また近い内に纏めた資料を持って来るんでそれも参考にして貰えれば」
「簡単な物でいいのなら私たちでも作れると思うわ」
「うん。管理室のパソコン、自分たち用の張り紙とか作るためのソフトが入ってるんだ」
「お、マジか。じゃあ取りあえずの物でいいから頼める?」
これはいい事を聞いたのでお願いしよう。2人は早速取り掛かるため1号棟に戻った。ついでだからイタリアの害虫について聞いて見る。
「ちょっと聞きたいんだけどイタリアにはどんな害虫が居るのかな」
「夏はzanzaraがとっても多いんです。日本もですか?」
「マエ姉よく刺されるよね~、痒いよね~」
このニュアンスは……蚊?
「……蚊ですか?」
後ろに居るイタリア艦2名を見ると頷いていた。ここでザラさんが「私の名前っぽい言葉がありますけど私はアドリア海に面した港町の名前が由来なので関係ありません」と早口で捲し立てた。気にしているのだろうか。
「ここ数年は夏場よりも涼しくなってから増える事があるらしいね。暑すぎると活動が鈍るんだって」
「じゃあ暑い時に何かやっておけば」
「うん。気温が下がってからが楽になるかも。他には何か居る?」
「やっぱあれよ、cimice marmorizzat」
「前に何所かの畑でオリーブが全部ダメになったって聞いたよー」
「……それは一体」
「クサガキカメムシです。こっちでもよく見掛けますけど、本国では深刻な被害を発生させたりも」
アクィラさんの口から意外な発言が飛び出した。思わず驚いてしまう。
「……お詳しいですね」
「食品関係の方たちが話しているのを聞いた事があるんです。農業方面で大きなダメージがあったとか」
ふむ、後で調べてみよう。そんな感じで今日は解散。レーベ&マックスが作ったのを見せて貰いOKを出す。ここに来て日が浅い娘たち向けの資料を作るため数日後に提督さんとの打ち合わせを組んだ。
そして打ち合わせ中、テーブルの上に置いた携帯が震え出す。番号を見ると鎮守府代表だった。
「……ここじゃないですよね」
「そうですね」
執務室には俺と提督さんと大淀さん&鹿島さん。2人ともキョトンとしている。それはそうだ。誰も電話なんかしていない。
「何所かの寮からかと思いますが」
「ちょっと失礼します」
「どうぞ」
表示をスライドさせて通話モードに。
「後藤田です」
「あー、草刈りの時に会った長波だよー。忙しかったら申し訳ないんだけど、ちょーっと見に来て欲しくてさぁ」
「何か出た?」
「イタリアの娘が外歩いてたら外壁に何か居るって騒いじゃってな。アタシも簡単な資料で確認したんけど普通のじゃないっぽくてさ」
おや2号棟からだろうか。ついにこの時が……
「形とか色は分かるかな」
「黒い。その上にテカってる。形は……丸を引き延ばしたようなって言えばいいのか」
丸を引き延ばした感じで黒くてしかもテカってる。Gの可能性が高い。
「了解。執務室に打ち合わせで来てるけど今から行くよ。10分も掛かんない筈だから」
「悪いねぇ。よろしく」
と言う事なので今日の打ち合わせは一旦お終い。時間に余裕があれば再開するけどそれは何が出たかによるっスね。
早歩きで2号棟に着いた。正面出入口には顔が青いマエストラーレと相変わらず眠そうなシロッコ。それに長波。後は1号棟から駆け付けたであろう綾波に涼風。
「何所に居る?」
「お疲れ様です。あっちの方に居ます。私も見たんですけど初めて見るタイプです」
「普通のとはちょっと違うよなぁ」
「あれが普通じゃないって言うんなら普通のがどんな感じなのか逆に気になるな」
長波はまだ普通のGを見た事がないようだ。そして綾波&涼風の証言が本当だとすると未知のGになる。
「マエ姉がお騒がせしてま~す」
「……ワタシチョウジョナノニ」
どうやら自身のイメージを崩してしまうような取り乱し方をしたらしい。詳しくは聞かないでおきましょう。ではお仕事をします。
「問題の黒いのは何所でしょう」
「こっちだぞ」
長波に連れられ正面から見て左の方に向かう。側面の外壁に回った所で止まった。
「あそこ。見えるか?」
指差す先を見つめる。居た。壁に張り付いている。近くまで行って正体を確かめよう。
「……え」
この特徴的な外見。黒光りした体。間違いない。ってか、この辺に棲息してるなんて思わなかったぞ。
(オオゴキブリ様じゃないですか)
ついに遭遇しました。自治体によっては絶滅危惧種に指定されている系のヤツです。ここはそうじゃないけど全国的な数は多くないと言われています。
「……悪いんだけど、綾波ちゃんと涼風ちゃんを呼んで来てくれるかな」
「1人じゃ手強いのか?」
「他にも居ないか探りたいんだ。その間はイタリア艦の娘たちに付き添ってて欲しい」
「了解だ。呼んで来る」
2人に来て貰い、事情を説明して道具を用意する。ゴム手袋と入れ物だけだけど。
「そんなGが居るの初めて知ったぞ」
「種類によっては環境次第で数が少なくなるのも居るそうですね」
「うん。こいつがそう。都市部の自然公園でも見掛けるらしいけど基本的には朽ち木が棲み処になるから、変に人の手が入りまくった人工林だと数が増えないんだ」
探した結果、2匹居ました。早々に森へ返しましょう。倉庫区画裏手にあるフェンスの通用口を開けて貰い大自然の中に入った。
「どの辺がいいかな。やっぱ倒木か朽ち木の方が」
朽ち木を探す。通用口から200mほど分け入った所で1つの朽ち木を見つけた。そこに入れ物からオオゴキブリを摘まんで木の上に置くとノシノシ歩いて隙間に消えて行く。この足の遅さもオオゴキブリの特徴だ。
「これでよしっと。資料にも追加しとかないとやられちまうな」
その事は後で考えるとして2号棟までさっさと戻る。終わった事を報告しまた同じのを見掛けたら手出ししないで欲しいと説明した。
「は~い、何にもしないでいいのね~」
「了解。ちと理解を得るのは難しそうだけど広めておくわ」
お姉ちゃんはまだ回復仕切っていないが仕方ない。1号棟の方は各艦の長女で集まりを開いて全体に周知するそうだ。
「さて執務室に戻りますか」
戻って来た所、大鯨さんが中に居ました。何か提督さんと話しているご様子。
「すいません、終わったので戻りました」
「あぁはい。ありがとうございます。大鯨、一先ず話を」
「はい」
大鯨さんが立ち上がる。随分と表情が硬い。
「何か出ました?」
「実は……寮の外にハチの巣があるのを見つけてしまいまして」
あ~~…………取りあえず伺いましょう。場合によっちゃ先輩方に丸投げでもいいか。